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2016.09.05

(短評)日ロ首脳会談

 9月2日、ウラジオストクで安倍首相とプーチン大統領が会談した。第1次安倍内閣から数えて14回目だった。11月、ペルーでAPEC首脳会議の際にも両首脳は会談する。さらに12月にはプーチン大統領が訪日し、15日に安倍首相の地元である山口県長門市で会談する。日ロ両国の首脳がこれほど密に会談するのは珍しい。領土問題を解決して平和条約を結ぶ機運が高まっているのは喜ばしいが、日ロ交渉は簡単でない。

 安倍首相は「新しいアプローチ」を強調しているが、その内容は明確でない。政府内には「総合的に進めることだ」という説明があるそうだが、それは珍しいことでない。2009年、メドヴェージェフ大統領は麻生首相に対し、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」の下で領土問題解決のための作業を行うべきことを強調した。もっとも、今回は日本側から「新しいアプローチ」を強調したようだが。

 日露双方とも経済協力を重視している。安倍首相は「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置した。前代未聞だ。平和条約交渉と経済協力を並行的に進めるのは良い考えだが、橋本首相や小渕首相もエリツィン大統領と同様の試みを行い、「共同経済活動委員会」の設置まで合意した。それとの比較で言えば、安倍首相とプーチン大統領との合意はほぼ同じ地点に戻ったに過ぎない。
 ともかく、経済協力が結果を出すにはかなりの時間がかかり、その間に、日ロ間の交渉とは直接関係ない事件が起こり、交渉がとん挫するのが怖い。これは今まで繰り返し起こったことだ。
 一つの問題は日本の首相がコロコロ代わることだ。ソ連邦の崩壊後ロシア連邦の大統領は3人しかいないが、同じ時期に日本では15人の首相が出た。平均在任期間は2年にもならない。安倍政権が安定していることはじっくりと交渉をしていくのに重要なことだ。

 プーチン大統領はロシア国内で高い支持を得ており、政治力があるので領土問題の解決への期待が日本では高い。しかし、そのような考えには首をかしげるところがある。とくに、プーチン大統領は、これまで先人が努力してきたことを無視しているのではないかと思わせるところがある。具体的には、たとえば1993年、エリツィン大統領と細川首相との間で「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題」について交渉するとの合意、いわゆる東京宣言を無視するような発言をすることだ。交渉を有利に導くためのテクニックかもしれないが、同大統領には油断できないところがある。

 米国との関係は、日ロ交渉を進めるうえで制約になると思っているならば大問題だと思う。ウクライナ問題で日本はお付き合いをさせられ、ロシアに制裁を科しているということは間違いだが、分からないでもない。
 しかし、米国には尖閣諸島を防衛するのに協力してもらい、また、北方領土問題についても日本の4島返還要求を支持してもらっているからだ。少なくとも、ソ連時代、4島返還要求において米国が日本を支持していることは重要なことであった。個人的には、その米国の支持がなければ日本の主張は成り立たなかったのではないかと思っている。
 
2016.08.27

米「核の先制不使用」構想

THE PAGEに8月27日、寄稿した一文。 

 「最近、米国のオバマ大統領が核兵器の先制不使用宣言を行うことを検討しているということが判明し、日本政府は米国政府に対し、そのような宣言を行うことについての懸念を伝えたという趣旨の報道が行われました。
 「核の先制不使用」とは、核兵器を相手国より先に使用しないとする政策です。相手国と言うのは、通常、紛争の相手国という意味です。

 オバマ大統領はさる5月末、米国の大統領として初めて被爆地、広島を訪問しました。その際の演説では、罪のない人々が犠牲になったことに触れつつ、「広島と長崎は道徳的に目覚めることの始まり」と述べ、「核のない世界」を追求していく考えを示しました。
核の先制不使用宣言は広島訪問を踏まえて検討されるようになったと思います。オバマ大統領は来る国連総会でその考えを表明することを考えていたようです。

 先制不使用宣言の構想に関し、米国のワシントン・ポスト紙は8月15日、「安倍晋三首相は、もしオバマ大統領が先制不使用宣言をすると北朝鮮などへの核抑止力が損なわれ、紛争の危険が増大するという考えを米国太平洋艦隊のハリス司令官に伝えた」という趣旨を報道しました。
 しかし、その後安倍首相は、ハリス司令官との間で「核先制不使用についてのやり取りはまったくなかった。どうしてこんな報道になるのかわからない」と記者団に述べ、ワシントン・ポスト紙の記事を真っ向から否定しました。
 なお、安倍首相が7月26日、ハリス司令官に会ったことは公表されており、その会談内容の発表には先制不使用宣言に関する言及は含まれていませんでした。
真相はどうだったのか、検証していけばさらに詳しい事情が見えてくるかもしれませんが、残念ながらこの種の会談においては必ずしも全貌が見えないままになることがあります。

 核兵器の先制不使用宣言は過去に若干の例があります。中国は1964年に初めて核実験を行った時からこの宣言を行い、その後一貫してこの方針を維持しています。ロシアも一時期先制不使用宣言をしていましたが、現在はそのような政策ではありません。いずれも防御的姿勢を強調するための宣伝でした。
 米国は、核についていつ、どのような状態で使用するかなど明確にしなことを基本方針としており、先制不使用の考えはとっていません。
 
しかし、先制不使用宣言にどれほどの意義があるか、多くの専門家、研究家の間では疑問視されています。たとえば、宣言をするのとしないのではどのくらい違うでしょうか。先制不使用は相手が核攻撃を開始しない限りこちらからは核攻撃しないということで、言葉の上では明確かもしれませんが、宣言でいう「開始」といっても簡単でありません。「開始」は「発射」と考えてよいでしょうが、核搭載ミサイルの発射か、発射命令か、発射準備かで発射時点は違ってきます。超高速度のミサイルにとってこの差は大きな違いです。また、実際に核戦争になったとしてもどの国も決して「先に核攻撃した」とは認めないでしょう。
米国が先制不使用宣言をすれば抑止力が低下するというのは物事を過度に単純化しており、思い込みに過ぎません。宣言をしてもしなくても重要なことは米国が核を使うかもしれないということであり、このことが変わらない限り、抑止力に変化はありません。先制不使用宣言をすると抑止力が低下するのであれば、中国の核抑止力は他の核保有国に比べて低くなりますが、そんなことはないでしょう。

日本は核兵器に世界で最も敏感な国です。核の先制不使用宣言をするべきでないということにこだわると、日本は核兵器の使用に最も積極的だと誤解されて伝えられる恐れがあり、核軍縮に積極的に取り組んでいる日本の立場は損なわれるでしょう。本来それは不正確な報道かもしれませんが、そのような危険は現実に起こっています。その観点からも先制不使用宣言を抑止力の低下に安易に結び付けるのは問題です。」

2016.08.19

(短評)核の先制不使用宣言

 最近(7月?)、米国のオバマ大統領が核兵器の先制不使用宣言を行うことを検討しているということが判明し、これに対し、日本政府は米国政府に対し、そのような宣言を行うことについての懸念を伝えたと報道されている。
 
 日本が核の先制不使用宣言について、懸念であれ、反対であれ、表明するのは問題であり、国益を害する恐れさえあると思う。
 形式的には、不使用宣言をすることによって従来と違った姿勢になる印象があるかもしれないが、実際には米国が核を使うかもしれないということが変わらない限り、抑止力に変化はないからだ。不使用宣言は姿勢だけのことである。
 もっと深刻な問題は、日本が核を使うことをもっとも強く主張していると、米国から第三国に言われる恐れがあることだ。大統領や外交の責任者である国務長官がそのようなことを言うとは思えないが、副大統領くらいなら言うかもしれない。最も信頼する同盟国が日本を貶めようとしてそのようなことを言うのではない。米国には、日本などと同様感受性、ガードが低い人がいるからであり、そのようなことを考えないのはあまりにも甘いと言わざるを得ない。
 日本はかつて、北朝鮮が生物兵器や化学兵器を使う可能性があるという議論に関連してそう言われたことがあったではないか。日本のイメージが損なわれたのではなかったか。
 さらに問題なのは、このような重要なことが政府の高官から簡単に米国に伝えられ、それが日本国の考えとみなされてしまう恐れがあることだ。核は日本にとってどの国よりも国民的関心が高い問題であり、核についての発言は国民的合意の範囲から離れないように注意してもらいたい。

 以上のことは国連核軍縮作業部会での対応にも当てはまる。

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