2月, 2014 - 平和外交研究所
2014.02.27
2月19日付の『人民日報』は①で引用した新華社電に続けて、習氏はさらに次の指摘をしたとしている。
「両岸はまだ統一されていないが、われわれが共に1つの国、1つの民族に属するということが変ったことはないし、変えることもできない。われわれは台湾同胞が自ら選択した社会制度と生活様式を尊重するし、大陸の発展のチャンスをまず台湾同胞と分かち合うことを望んでいる。両岸同胞は心を一つに協力して、両岸関係の平和的発展を促し続ける必要がある。両岸双方は「1992年の共通認識」を堅持し「台湾独立」に反対するとの共通の基礎を揺るぎないものにし、「1つの中国」の枠組みの維持という共通認識を深化する必要がある。両岸同胞は心を一つに連携し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を共にかなえる必要がある」。これは④で紹介したPRCの主張そのものであり、また「国家」は1つしかないという立場である。PRC自身が国家でないと認識していることはありえないだろうから、この立場は「台湾は国家でない」とみなしているのであろう。
李登輝総統の「国家と国家の関係」が成立するかは、台湾が「国家」であるか否かにかかっている。国家として認められる要件は、国民(「永久的住民」a permanent population)、明確な領域、その領域を統治する政府および他国と関係を取り結ぶ能力を備えていることであるというのが国際法の考えであり、台湾は最初の3つは備えているが、第4の要件については疑義がある。もっとも台湾が他国と関係を結べないのはPRCが各国に台湾と関係を結ぶことを受け入れないからであり、いわゆる「従属国」のように台湾がPRCとの間で支配・服従の関係に置かれることを承諾したわけではない。
台湾は日本や米国も含め、多くの国からいわゆる「承認」を受けていない。しかし、そうだからと言って「国家」でなくなったという結論には必ずしもならない。国際法上、他国から承認されていない「国家」はありうる。「未承認国家」が一つの例であり、これに承認を与えていない国家との関係でも一定程度の権利能力が認められる。
台湾に対する承認を取り消した各国が、台湾とPRCの関係をどう認識するかについてはいくつか異なるバージョンがあり、その1つは、「台湾がPRCの一部である」ことを認めることである。このような立場では台湾を「国家」と認識するのは困難になるだろう。
他の1つは、日本のように、台湾はその領土の一部であるというPRCの主張を「十分理解し、尊重する」である。これをどう解するか。「承認」と異なることは明らかである。PRCの主張に「異議を唱えない」、つまり、「積極的に肯定しないが、否定もしない」という意味のように思われる。このように解されるのであれば、台湾が国家か否かについても、肯定も否定もしないというのが日本の立場だということになる。
一方、日本と台湾の間には民間の関係しかないという形になっている。そのため、双方とも窓口を作って、必要な実務関係を処理している。しかし、台湾が住民に対して強制力を持ち、法律を作り、統治している実態があることにかんがみれば、台湾はいかなる意味でも国家でないとするには無理があるように思われる。
中台関係⑤
「台湾は国家か」2月19日付の『人民日報』は①で引用した新華社電に続けて、習氏はさらに次の指摘をしたとしている。
「両岸はまだ統一されていないが、われわれが共に1つの国、1つの民族に属するということが変ったことはないし、変えることもできない。われわれは台湾同胞が自ら選択した社会制度と生活様式を尊重するし、大陸の発展のチャンスをまず台湾同胞と分かち合うことを望んでいる。両岸同胞は心を一つに協力して、両岸関係の平和的発展を促し続ける必要がある。両岸双方は「1992年の共通認識」を堅持し「台湾独立」に反対するとの共通の基礎を揺るぎないものにし、「1つの中国」の枠組みの維持という共通認識を深化する必要がある。両岸同胞は心を一つに連携し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を共にかなえる必要がある」。これは④で紹介したPRCの主張そのものであり、また「国家」は1つしかないという立場である。PRC自身が国家でないと認識していることはありえないだろうから、この立場は「台湾は国家でない」とみなしているのであろう。
李登輝総統の「国家と国家の関係」が成立するかは、台湾が「国家」であるか否かにかかっている。国家として認められる要件は、国民(「永久的住民」a permanent population)、明確な領域、その領域を統治する政府および他国と関係を取り結ぶ能力を備えていることであるというのが国際法の考えであり、台湾は最初の3つは備えているが、第4の要件については疑義がある。もっとも台湾が他国と関係を結べないのはPRCが各国に台湾と関係を結ぶことを受け入れないからであり、いわゆる「従属国」のように台湾がPRCとの間で支配・服従の関係に置かれることを承諾したわけではない。
台湾は日本や米国も含め、多くの国からいわゆる「承認」を受けていない。しかし、そうだからと言って「国家」でなくなったという結論には必ずしもならない。国際法上、他国から承認されていない「国家」はありうる。「未承認国家」が一つの例であり、これに承認を与えていない国家との関係でも一定程度の権利能力が認められる。
台湾に対する承認を取り消した各国が、台湾とPRCの関係をどう認識するかについてはいくつか異なるバージョンがあり、その1つは、「台湾がPRCの一部である」ことを認めることである。このような立場では台湾を「国家」と認識するのは困難になるだろう。
他の1つは、日本のように、台湾はその領土の一部であるというPRCの主張を「十分理解し、尊重する」である。これをどう解するか。「承認」と異なることは明らかである。PRCの主張に「異議を唱えない」、つまり、「積極的に肯定しないが、否定もしない」という意味のように思われる。このように解されるのであれば、台湾が国家か否かについても、肯定も否定もしないというのが日本の立場だということになる。
一方、日本と台湾の間には民間の関係しかないという形になっている。そのため、双方とも窓口を作って、必要な実務関係を処理している。しかし、台湾が住民に対して強制力を持ち、法律を作り、統治している実態があることにかんがみれば、台湾はいかなる意味でも国家でないとするには無理があるように思われる。
2014.02.26
これまでの第9条の解釈では、「国際紛争」とは「すべての国際紛争」であり、したがって、日本が紛争の当事者でなくしてPKOに参加している場合武器を使用できないこととなっていた。政府の統一見解は、「隊員個人の生命・身体を守るための必要最小限の武器使用は、憲法の禁じる武力行使にはあたらない」という、きわめて限定的な場合しか武器使用を認めていなかった(いわゆるAタイプ)。
しかし、これでは狭すぎて、いちじるしく不適切であると指摘されてきた。私もその意見に賛成である。他国と協力して平和維持活動に参加している場合に、他国の部隊が何らかの理由で攻撃された場合に、日本の部隊として救援できる状況にあるにもかかわらず、憲法の解釈を理由に救援できないという態度を取ることが、著しく不適切だということである。
私は、このようにPKOに参加している場合はそもそも「国際紛争」を解決しようとしているのではないと思う。紛争の解決は休戦協定あるいは和平協定ですでに成立しており、国連はそれを確認してPKOを構成し、派遣する。したがって、PKOはそもそも「国際紛争」を解決するためでない。このように考えると憲法9条が想定している場合でないと立論できるのではないかと考えている。
しかし、そのような理論整理はまで確立しているとは言えない。それにはPKOについての考えを基本から整理する必要があるかもしれない。そこで、9条のいう「国際紛争」は「日本が当事国である国際紛争」であると解すれば、上述のような場合にも日本部隊が武力を行使できることになるので、これでもよいと考えるのである。
安保法制懇 9条の解釈
安保法制懇の北岡伸一座長代理が朝日新聞のインタビューに応じて、日本国憲法9条1項の「国際紛争」の解釈を変更することを同懇談会の報告書に盛り込む考えであると述べている。集団的自衛権の行使をできるよう解釈を変更することには問題があるが、こちらの変更には賛成である。私の整理では、9条1項の「国際紛争」の解釈は集団的自衛権の問題ではない。これまでの第9条の解釈では、「国際紛争」とは「すべての国際紛争」であり、したがって、日本が紛争の当事者でなくしてPKOに参加している場合武器を使用できないこととなっていた。政府の統一見解は、「隊員個人の生命・身体を守るための必要最小限の武器使用は、憲法の禁じる武力行使にはあたらない」という、きわめて限定的な場合しか武器使用を認めていなかった(いわゆるAタイプ)。
しかし、これでは狭すぎて、いちじるしく不適切であると指摘されてきた。私もその意見に賛成である。他国と協力して平和維持活動に参加している場合に、他国の部隊が何らかの理由で攻撃された場合に、日本の部隊として救援できる状況にあるにもかかわらず、憲法の解釈を理由に救援できないという態度を取ることが、著しく不適切だということである。
私は、このようにPKOに参加している場合はそもそも「国際紛争」を解決しようとしているのではないと思う。紛争の解決は休戦協定あるいは和平協定ですでに成立しており、国連はそれを確認してPKOを構成し、派遣する。したがって、PKOはそもそも「国際紛争」を解決するためでない。このように考えると憲法9条が想定している場合でないと立論できるのではないかと考えている。
しかし、そのような理論整理はまで確立しているとは言えない。それにはPKOについての考えを基本から整理する必要があるかもしれない。そこで、9条のいう「国際紛争」は「日本が当事国である国際紛争」であると解すれば、上述のような場合にも日本部隊が武力を行使できることになるので、これでもよいと考えるのである。
2014.02.25
PRCと台湾は、政府間ではなかったが、直接「1つの中国」について合意し合ったことがある。蒋経国総統の死後李登輝が新総統に就任し(1990年)、翌年、「国家統一綱領」を策定した。李登輝は台湾独立に走るのではないかと警戒していたPRCはこれでひとまず安心した。海協会(PRC側)と海基会(台湾側)の間でハイレベルの対話が行われ、PRCは「1つの中国」原則に合意するよう要求し、台湾側は「中国とは中華民国である」とする立場を譲らなかった。しかし、香港での協議において、「1つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈権を中台双方が留保する(いわゆる「一中各表」)という内容で合意が成立したそうである。ただし、これは台湾側のバージョンである。ほんとうのところはどうであったか。この合意は「九二共識」と呼ばれるもので、合意の存在は双方が認めているが、口頭で行われ、正式に発表されたこともないので、どうしても不明確さが残る。
PRC側は「1つの中国」で合意があったという解釈を堅持しており、台湾側の主張するような「一中各表」は一度も認めたことがない。
李登輝は総統在任中、「1つの中国」を認めるかどうかPRC側は注目し、警戒した。李登輝総統の発言については、二、三異なるバージョンがあるが、最も明確なのはドイツの新聞『ドイッチェ・ヴェレ』や米国の『フォーリン・アフェアーズ』に対して述べた「両岸の関係は「国家と国家の関係」、少なくとも「特殊な国家と国家の関係」であった」というものであった。
注意して見ていく必要があるが、李登輝総統は「中国は2つ」と言ったのではない。PRCと台湾の関係が「国家と国家の関係」であるとしてもそれは直ちに「中国は2つ」を意味するのではない。しかし、「中国は1つ」と言ったのでもなかった。鍵となるのは、台湾が「国家」であるか否かであり、「国家」であるならば李登輝総統の言っていることは正しいということになろう。
中台関係④
「PRCと台湾は「1つの中国」に合意しているか」PRCと台湾は、政府間ではなかったが、直接「1つの中国」について合意し合ったことがある。蒋経国総統の死後李登輝が新総統に就任し(1990年)、翌年、「国家統一綱領」を策定した。李登輝は台湾独立に走るのではないかと警戒していたPRCはこれでひとまず安心した。海協会(PRC側)と海基会(台湾側)の間でハイレベルの対話が行われ、PRCは「1つの中国」原則に合意するよう要求し、台湾側は「中国とは中華民国である」とする立場を譲らなかった。しかし、香港での協議において、「1つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈権を中台双方が留保する(いわゆる「一中各表」)という内容で合意が成立したそうである。ただし、これは台湾側のバージョンである。ほんとうのところはどうであったか。この合意は「九二共識」と呼ばれるもので、合意の存在は双方が認めているが、口頭で行われ、正式に発表されたこともないので、どうしても不明確さが残る。
PRC側は「1つの中国」で合意があったという解釈を堅持しており、台湾側の主張するような「一中各表」は一度も認めたことがない。
李登輝は総統在任中、「1つの中国」を認めるかどうかPRC側は注目し、警戒した。李登輝総統の発言については、二、三異なるバージョンがあるが、最も明確なのはドイツの新聞『ドイッチェ・ヴェレ』や米国の『フォーリン・アフェアーズ』に対して述べた「両岸の関係は「国家と国家の関係」、少なくとも「特殊な国家と国家の関係」であった」というものであった。
注意して見ていく必要があるが、李登輝総統は「中国は2つ」と言ったのではない。PRCと台湾の関係が「国家と国家の関係」であるとしてもそれは直ちに「中国は2つ」を意味するのではない。しかし、「中国は1つ」と言ったのでもなかった。鍵となるのは、台湾が「国家」であるか否かであり、「国家」であるならば李登輝総統の言っていることは正しいということになろう。
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