平和外交研究所

9月, 2025 - 平和外交研究所

2025.09.10

中国主催の対日戦勝記念式典

 2025年9月3日、中国は北京で対日戦勝80年記念式典を開催した。天安門広場のパレードでは中国軍の誇る最新兵器が次々に登場し、参加した26か国の首脳は習近平中国主席が威風堂々式典を主催するのを見守った。

 日本との戦争で連合国であった国が対日戦争勝利を祝うことにきまりはなく、各国とも自国の流儀で祝賀行事を行っている。特別の行事を行わない国も少なくない。米国では自国の戦争記念館で行事を行っている。2005年7月10日に他の旧連合国とともに行った第二次世界大戦終結60周年の記念行事は比較的大規模であった。

 中国は大々的に祝賀行事を行うが、中国については複雑な事情がある。80年前日本を降伏に導いた連合国において「中国」を代表していたのは「中華民国」であり、「中華人民共和国」ではなかった、「中華人民共和国」は1949年に誕生したのであり、日本が連合国に敗れ、降伏した時には存在していなかった。この道筋を厳格に順守するならば、対日戦勝80年記念の行事を行うのは「中華民国」ということになる可能性がある。

 しかし、現在は「中華人民共和国」が「中国」を代表することに疑義を抱く人は少ない。今次式典に集まった首脳のなかでも、そのような疑義を持つ人は皆無に近いだろう。日本も1972年9月に「中華人民共和国」との間のそれまでの不正常な状態を終了させており、それ以降、日本国政府は、「中華人民共和国」政府が「中国」の唯一の合法政府であることを承認している。米国も1972年の上海コミュニケで同様のことを承認している。つまり大多数の国は「中国」を代表するのは「中華人民共和国」であり、「中華人民共和国」が対日戦争勝利を記念するのは当然とみているのである。

 「台湾」すなわち「中華民国」の立場は違っている。「中華人民共和国」が「中国」を代表するようになった結果「中華民国」が消滅しておれば、どちらが「中国」を代表するかという問題はなくなっていただろうが、「中華民国」は今でも存在する。しかし、「中華民国」も「中国」を代表するとは主張しなくなっている。対日戦勝記念式典を主催することも、各国の代表を集めて開催することもなくなっている。

 台湾では「日本の統治からの解放記念日」(台湾光復節)として、10月25日に「台湾光復式典」を挙行しているが、北京の対日戦勝記念行事とは比較にならない小規模のものである。

 対日戦勝80年を記念する北京での式典に台湾から最大野党国民党の洪秀柱元主席が参加したことは、「中国」を代表するのは「中華人民共和国」か「中華民国」かという問題がなくなっていないことをあらためて想起させたと考える向きがあるようだが、「国民党」にはもはやそのような力はない。「国民党」は「中華人民共和国」と対抗するどころか、よしみを通じ、「中華人民共和国」をよりどころとするようになっている。

 対日戦勝記念は政治色が濃厚な問題であり、中国軍事パレードの狙いは「習近平氏の権力確立と国威発揚」にあるという見方もある。習近平主席は毛沢東氏を除けば、歴代のどの中国共産党総書記よりも、対日戦勝記念を大々的に開催することに熱心である。「中華人民共和国」が大々的に祝賀行事を行うのは政治的考慮があるからだ。

 トランプ米大統領は、今回の記念式典における習近平主席の演説が対日戦勝における米国の貢献に言及しなかったことに驚いたと語り、不満を示した。米国は「中華人民共和国」が対日戦勝を記念する行事を行うのに異議を唱えないだろうが、対日戦争を勝利に導くのに米国が他のどの連合国も及ばない大きな貢献を行ったことを無視されると黙っておれなくなるのだろう。その点で習近平主席は配慮が足りなかったのかもしれない。

 敗戦国である我が国は、各国が戦勝を記念するのを晴れがましい気持ちで見ることはできない。戦争についてわが国は、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して甚大な損害と苦痛を与えた。我が国はそのことを反省し、心からのお詫びの気持ちを抱いている。この認識と姿勢は日本人として忘れてはならない。戦勝国の側では対日戦勝記念を政治的に利用しようとする傾向があるなど、複雑な動きは収まっていないだけに、日本は日本の立場を揺るがせないようしっかりと対応していく必要がある。

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