平和外交研究所

10月, 2021 - 平和外交研究所

2021.10.29

台湾の国連専門機関などへの参加に関するブリンケン声明

 米国のブリンケン国務長官は10月26日、台湾の国連(UN)専門機関などへの参加を支持するよう各国に呼び掛ける声明を発表した。50年前の1971年10月25日、国連総会は台湾を追放し中国の代表権を認める決議を採択し、それ以来台湾はどの国際機関からも締め出された。だが、台湾が民主主義の下で著しい経済発展を遂げたこと、国際社会がグローバルな諸問題に直面するに至っている今日、台湾も問題解決に参加することが求められることなどにかんがみ、ブリンケン氏は台湾の国連専門機関などへの参加を支持するよう呼びかけたのであり、この声明は非常に時宜を得たものである。
 
 ブリンケン氏は、国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)関連の会議から台湾が排除される一方、新型コロナウイルスの世界的な大流行では台湾が早期介入によって被害をよく抑え「世界トップレベル」の対応を称賛されていることや、年間数千万人が台湾の空港を利用していることなども指摘した。その上で米国をはじめとする多くの国連加盟国が、台湾を大切なパートナーで信頼できる友人とみなしていると述べ、また「台湾の国連システムへの意味ある参加は、政治問題ではなく実務的な問題だ」と述べつつ、米国が国家承認しているのは中国だけである点を強調した。

 これに対し、在米中国大使館は声明後の報道官談話で、「中国は強烈な不満を示し、絶対に認めない」と猛反発した。また、「一つの中国」原則は「国際社会の普遍的な共通認識だ。米国が一方的に挑戦、曲解することは許さない」と非難し、台湾が国連などの国際組織の活動に参加するには「必ず『一つの中国』原則によって処理されなければならない」と強調した。

 しかし、ブリンケン氏は「一つの中国」原則を否定したのでなく、また米国が中国のみを国家承認している現状を変更しようとしているのでないことを明言している。ただ、台湾がどの国際機関からも締め出されている現状を放置するべきでなく、また台湾を無視することが国際社会にとって好ましくないと考えてこのような声明を行ったのである。

 日本としてもブリンケン声明を支持すべきである。日本と台湾の関係は「非政府間の実務関係」であることを明確に表明しており、国際機関などの活動に台湾が参加することを認めても、この日本の立場は何ら変わらない。台湾は国際的に大きな役割を果たしうること、実務的諸問題を台湾を交えて解決を図る必要があり、台湾と国際社会との直接のコミュニケーションを実現することは大きなメリットがあることは日本としても同じ考えである。

 台湾を国際社会から孤立した状態にしておくべきでないことは日米だけの考えでなく、ヨーロッパ諸国やオーストラリアなどにおいても共有されつつある。10月初め台湾を訪問したフランス元国防相のリシャール上院議員ら仏議員団、オーストラリアのアボット元首相はいずれも、国際社会における台湾の重要性を強調し、台湾の孤立状態に言及している。
 
 リシャール氏は仏上院で台湾友好議員連盟の代表を務め、5月に台湾が世界保健機関(WHO)などの国際組織に参画することを支持する初の上院決議を導くなど活発に動いている。
 
 ブリンケン声明に呼応する国がどのくらい出てくるか予測は困難だが、国際社会では台湾の孤立状態に疑問を感じている国が増加している。今後、G7サミットなどでも取り上げられる可能性がある。

 なお中国は、「一つの中国」原則は「国際社会の普遍的な共通認識だ」と主張するが、日本も米国も「一つの中国」原則を認めた事実はない。以下に、ニクソン大統領訪中に際して1972年2月、米中間で合意された上海コミュニケと日中国交正常化の共同声明(1972年9月)の該当部分抜粋を再掲しておく。米国も日本も「中国は一つ」であることを認めていないことを確認されたい。

上海コミュニケ
「中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、「一つの中国、一つの台湾」、「一つの中国、二つの政府」、「二つの中国」及び「台湾独立」を作り上げることを目的とし、あるいは「台湾の地位は未確定である」と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。
 米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。」

日中共同声明
「二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」

2021.10.15

台湾に対する中国の威圧的行動

 中国の台湾に対する威圧的姿勢が強くなっている。中国軍機による台湾の防空識別圏(ADIZ 西南域に集中)への侵入が9月に入ってから顕著に増加しており、10月4日には延べ56機が侵入した。台湾国防部が中国軍機の侵入数を発表し始めた2020年9月以降、1日の最多数であった。
 また、中国軍は台湾付近の海域で演習を繰り返しており、10月11日には台湾の対岸に位置する福建省の島で海岸上陸・攻撃の演習を行った。中国軍はこれ見よがしに演習の事実を公表し、映像も公開している。

 10月10日、辛亥革命110周年記念大会において、習近平主席は演説で「台湾問題は純粋な中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」、「(台湾の)統一という歴史的任務は必ず実現させなければならない」と訴えるなどいつにもまして強い姿勢を見せた。

 これまで中国は、米国が認めない武力行使は控えてきたが、今回頻繁に威圧的姿勢を見せるようになったので台湾の内外で緊張が高まり、中国はついに武力行使に踏み切るのではないかという見方も現れるに至った。だが、中国は基本的には台湾に対する揺さぶりを強めているものとみられる。もちろん圧力を受けた台湾が先に手を出すようなことがあれば中国にとっては武力行使の格好の口実となる。中国軍はそのような事態に発展する可能性も想定のうちに入れているだろうが、現在のところは武力行使に至らない範囲内で台湾に対する工作を強化しているものと推測される。

 習近平政権は来年で10年となるところ、反腐敗運動(権力闘争)、言論の封じ込め、香港の中国本土化などにおいては顕著な成果を上げたが、台湾の統一問題は何ら進展せず、むしろ後退気味である。米国のバイデン政権はアフガニスタンや環境問題などについて中国との協力が必要であり、また貿易上の利害も絡んでいるため中国との対立が過熱しないよう努めているが、台湾問題については従来よりもむしろ強気の姿勢になっている。特に、日米豪印戦略対話(クワッド)、米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)、英語圏5か国の機密情報共有枠組み(ファイブアイズ これはバイデン政権以前から)などは、中国を念頭に置いていることは明らかである。また英仏独など欧州諸国もインド太平洋地域での活動を活発化させており、中国を取り巻く国際情勢は中国にとって厳しさを増している。

 一方、台湾の蔡英文総統政権は、香港の中国本土化という中国のイメージを落とす出来事も手伝ったが、安定しており、あと2年で(2024年に)2期目が満了する。蔡英文総統は習近平主席の演説と同日の双十節において、「中国がわれわれに示した道を歩むことを誰からも強制されないよう、われわれは引き続き国防を強化し、自衛の決意を表明していく」、「これは、中国の示す道が、台湾の自由で民主的な生活や、台湾市民2300万人の主権につながらないためだ」と自信のほどを示した。

 台湾においては、さる9月末、国民党の党首選挙がおこなわれ、親米派で対中国でも穏健路線をとる元主席の朱立倫が党首に復活した。習近平主席は祝意を表したが、台湾の国民党は弱すぎる。台湾では中台統一を希望しない現状維持派が80・4%を占めている。国民党が今後台湾の世論を中国寄りに導けるとは到底考えられない。

 そんな中、中国では来年(2022年)共産党の全国大会が開催され、習近平氏が党の総書記を続けるか問われる。当然台湾との関係も問題になりうる。習氏は独裁者になりつつあると言われるが、決して盤石の地位を築いているわけではない。習氏としては、次期党大会までに台湾に対する工作を強めておく必要があると考え、台湾への圧力を強めているのではないか。
2021.10.06

習近平主席は公安部門に満足していない?

 中国共産党中央規律検査委員会は10月2日、傅政華・前司法相を重大な規律違反などの疑いで調査していると発表した。傅氏は公安畑が長く(「老公安」と呼ばれている)、公安次官を経て司法相を務めた人物であるが、事実上の失脚であり、いずれ正式にその処分が発表されることになる。

 中国の公安は日本の警察と公安を合わせたくらい強大な権限を持つ機関であるが、日本の警察とは異なり、国民生活を監視・コントロールするとともに権力闘争の手先ともなる。

 習近平主席は就任以来反腐敗運動を大々的に展開し、「虎(大物)もハエ(そうでない者)も叩く」として、胡錦濤政権下の政治局常務委員であり、2002-07年公安相を務めた周永康を追放した。習近平はそのほか、とくに2020年以降、公安関係者への追及を強め、元公安部次官の李東生、元天津市公安局長の武長順、元重慶市公安局長の何挺、元公安部共産党委員の夏崇源、元公安部次官の孫力軍、元重慶市公安局長の鄧恢林、元上海市公安局長の龔道安等の高官を罷免した。

 これらの人たちは、詳細は不明だが、いずれも周永康の人脈であったという。しかし、今回失脚した傅政華はそうではなく、習政権の下で2018年3月~20年4月司法相を務め、周永康の摘発に貢献し、習氏の権力基盤固めに功績があげた人物であった。

 この他、去る6月、国家安全部の董経緯次官が米国へ亡命し、米国の国防情報局の保護のもとにあるとの報道が流れた。新華社通信同月18日付で同氏が防諜会議を主宰したと報じ、火消しを図ったが、共和党全国委員会では亡命の事実を認めている。

 いずれにしても、習近平主席は昨年まで部下として活躍していた人物を切ったのである。習氏が公安関係部門の現状に不満であることは間違いない。

 習氏は側近の 陳一新 党中央政法委員会秘書長や王小洪公安部次官を重用する考えであり王氏は来年の党大会で公安相に昇格するとの見方が出ているというが、両者は本当に習近平の眼鏡にかなうか、今一つ明らかでない。

 習近平はもともと司法・公安関係の現状に不満であり、新たに党の機関として「中央国家安全委員会」を創設した。これは常設ではないが中国版NSC(国家安全保障会議)であり、習近平が主席を務める。従来は党の「中央政法委員会」が司法・公安を監督していたが、「中央国家安全委員会」はさらにその上に立つ最高意思決定機関である。

 公安関係の新体制は機能するか。習氏はかつて宣伝部門に対しても批判的になったことがあった。容易に進まないこともあるらしい。

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