平和外交研究所

4月, 2019 - 平和外交研究所

2019.04.26

金正恩委員長とプーチン大統領の首脳会談―6者協議は復活するか


 金正恩委員長は4月25日、ウラジオストクでプーチン大統領と会談した。北朝鮮の最高指導者がロシアを訪れるのは2011年の故金正日総書記以来、約8年ぶりであった。

 北朝鮮にとってロシアは中国とならぶ後ろ盾。北朝鮮が渇望する制裁の緩和について、中国同様支持する構えである。北朝鮮は中国からの輸入ができなくなった際、ロシアに頼ろうとしたこともあった。もちろん、現時点ではロシアも制裁決議に縛られているが、北朝鮮として歴史的にも、地理的にも密接な関係にあるロシアに向くのは自然なことである。

 現在の厳しい制裁決議が成立した時点では、中国もロシアも北朝鮮のあまりにも挑発的行動に批判的であった。その後、北朝鮮が米国との対話路線に転じるに伴い中国との関係は改善され、金委員長は中国をすでに4回訪問した。しかし、ロシアとの関係改善は進まなかった。

 今回の金委員長のロシア訪問により、ロシアは、北朝鮮の非核化問題についてやっと存在感を示すことができた。プーチン大統領は機嫌がよかったのであろう。金委員長との会談の前後、愛そうよくふるまった。首脳会談にしばしば遅参するプーチン大統領が金委員長より30分も早く会議場に到着して金氏を迎えたのは象徴的であった。

 金委員長とプーチン大統領は、北朝鮮の非核化については多国間協議の形で進めるべきであることを話し合ったようだ。しかし、プーチン大統領は会談後の(単独)記者会見で「時が来れば6者協議の再開が必要になる」と主張しており、それからすると両首脳は「6者協議の再開」に合意するには至らなかったと見られる。

 ロシア側には、6者協議の再開提案は、本来関係国の賛成を得やすいという読みがあったのだろう。
北朝鮮は現在6者協議に興味を示していないが、以前は賛成していた。北朝鮮にとって本来的に不都合があるわけではない。
 中国は同協議の最大のパトロンであり、北京で重要な国際会議が行われることは中国の中華思想をくすぐるのである。
 韓国は6者協議に常に前向きである。
 日本は米国との関係が微妙だが、拉致問題の解決を図るうえで6者協議は役立つ。

 しかし、米国は嫌うだろう。トランプ大統領としては北朝鮮をここまで引っ張ってきたのは自分であるという気持ちが強い。それにトランプ氏は、二国間の取引にたけており、各国の首脳と一緒になって協議するというスタイルは好まないからである。

 トランプ氏の考えをさておいても、6者協議は実現しないだろう。とくに米国にとって問題なのは、6者協議では各国とも妥協を求められ、その結果「段階的非核化」に落ち着く公算が大きいことである。いわゆるCVID(完全な、検証可能な、不可逆的な非核化)には以前のように合意が成立する可能性があるが、それは「包括的非核化」ではない。

 今回の金委員長の訪ロとプーチン大統領との会談をどのように評価すべきか。会談は成功し、北朝鮮が中ロ両国と構成する「北側の新陣営」は強化された。その中で北朝鮮は制裁の緩和実現のため中ロ両国に対し努力を求めるだろう。
 しかし、金委員長が今後ロシアとの関係を中国と同様に重視するか、疑問が残る。金委員長は列車でロシア領へ入った際、「訪ロはこれが最後ではなく、初めの一歩に過ぎない」と語っていたが、帰国は予定を前倒しして26日午後3時にウラジオストク駅を出発した。金氏は市内の劇場でバレエ鑑賞する可能性もあったそうだが、中止し(インタファクス通信)さっさと出発したのである。中国では時間を作って農業研究施設などをいつも視察している金委員長にとって、ウラジオストクにはとくに視察したい場所はなかったのであろうか。

2019.04.24

日朝首脳会談には戦略の転換が必要

日朝首脳会談の実現には、日本として小手先のジェスチャーでなく、戦略の転換が必要です。一文をザページに寄稿しました。
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2019.04.23

政府の北方領土問題に臨む姿勢は間違っている

 4月23日付の共同電は、河野太郎外相が同日の閣議で報告した2019年版外交青書では、18年版にはあった「北方四島は日本に帰属する」との表現がなくなり、「問題を解決して平和条約を締結」するとのみ言及したと伝えている。このようにした理由については、「ロシアに対する態度を一定程度軟化させることで、交渉を前進させる狙いがある」とコメントしているが、その通りであろう。

 しかし、北方領土問題について交渉態度を変更すべき客観的な状況の変化があったのではない。さる1月末の安倍首相とプーチン大統領との会談で日本側が期待するような結果を得られなかったが、交渉の失敗は双方の問題であり、日本だけが主張を変える理由にはならない。にもかかわらず日本側が一方的に交渉態度を変更し、ロシア側の主張に近づくのは、弱い姿勢を相手方に見せることなる。相手は日本側が「お情け頂戴」と言っていると誤解するのではないか。

 安倍首相は日本国民との関係でも一貫した姿勢を示すべきである。プーチン大統領との交渉後、1月30日の衆院本会議で、「北方領土は我が国が主権を有する島々だ」とした上で、ロシアとの平和条約交渉について「対象は4島の帰属の問題であるとの一貫した立場だ」と述べたではないか。

 「ザページ」に1月24日、「北方領土交渉 帰属問題の解決には米国の関与が必要」を寄稿した。その内容を以下に張り付けておく。

 「安倍首相は1月22日、モスクワにおいてプーチン大統領と平和条約・領土問題について会談しましたが、交渉を具体的に進展させることはできなかったようです。

 今回の交渉は、昨年11月14日の両首脳の合意から始まりましたが、これまでの先人たちの努力を最初から無視して交渉が始められたように思えます。安倍・プーチン両氏は、「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すと明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉の進展を図る」としましたが、日ロ両国間の最新かつ最重要の合意は、「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続する」という1993年の「東京宣言」でした。

 1956年宣言には歯舞・色丹島しか記載されていませんでしたが、その後、1973年の田中角栄首相とブレジネフ書記長との合意、1991年の海部俊樹首相・ゴルバチョフ書記長の合意を経て、1993年の細川護熙首相とエリツィン大統領による東京宣言で、「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島」の、いわゆる北方4島が明記され、しかも、その「帰属に関する問題解決する」ため交渉することになったのです。

 これは37年間にわたる日ロ両国の政治家や外交関係者らによる努力のたまものであり、重要な前進でした。1956年以降の交渉は少しも進展しなかったという人がいますが、事実に反します。

 にもかかわらず、安倍首相とプーチン大統領の両氏は2島しか記載されていない1956年日ソ共同宣言だけを基礎として交渉を進展させることにしたのです。先人たちが長年にわたって積み重ねてきた合意の一部だけを取り出す恣意的な扱いと言わざるをえません。

 私は今回のモスクワ交渉の結果、事態はさらに悪化したと思います。ロシア側は、「両国が合意可能な解決を目指す」と言いますが、「第2次世界大戦の結果、千島列島全島に対する主権を得た」という、日本としては認めることができないことを要求するようになったからです。

 第2次大戦の結果、日本の領土は大幅に削減されました。1945年8月の「ポツダム宣言」では本州、北海道、九州および四国は日本の領土であることがあらためて確認されましたが、「その他の島嶼」については、「どれが日本の領土として残るか、米英中ソの4か国が決定する」こととになり、日本はその方針を受け入れました。しかし、「千島列島」や「台湾」などについて、帰属は決定されませんでした。

 ポツダム宣言を受けて第2次大戦を法的に処理した「サンフランシスコ平和条約」は自由主義陣営と社会主義陣営による東西対立の影響を受け、「千島列島」や「台湾」の帰属を決定することはできず、日本はそれらを「放棄」するだけにとどまったのです。

 日本の戦前の領土を縮小したのはポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約の2つだけです。戦時中、米英ソの3国間ではドイツ降伏後のソ連の対日参戦などを盛り込んだ 「「ヤルタ協定」なども合意されましたが、それはあくまで連合国間の問題であり、日本はそれに拘束されません。

 日本は、今日でもポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約を忠実に守っており、「千島列島」については放棄したままです。ロシアは、現在の交渉において、「千島列島」は第2次大戦の結果としてロシアが獲得したことを認めよと主張していますが、「千島列島」を「放棄」した日本が、ロシアの主権を認めるのは同条約に違反することとなり、それはできません。法的に不可能なのです。また、このロシアの主張を裏付ける根拠は皆無であり、日本もその他の国もロシアが「千島列島」の領有権を得たと認めたことは一度もありません。

 ではそうすればよいでしょうか。ロシアが現在の主張を改め、国際法にしたがった理論構成の主張に変えるのが一つの方法ですが、ロシアが果たしてそのようなことに応じるか疑問です。

 もう一つの方法は、「第2次大戦の結果に基づいた解決方法をあらためて探求する」ことです。そのなかで米国の役割をあらたに明確化する必要があります。第2次大戦の処理においてもっとも影響力があったのは米国であり、実際ロシアに対して「千島列島」の「占領」を認めたのも、また、日本に対して、「千島列島」の放棄を求めつつ、ロシアへの帰属を認めなかったのも米国でした。

 日本としては、米国に、そこで止まらず最終的な帰属問題の解決まで協力を求めることは理屈の立つことです。

 もちろん、米国としても世界各地で起こる第三国間の領土紛争には関与しないという大方針があります。また、これまでの伝統的な米国政権の外交方針と一線を画すトランプ政権がどのようなポジションを取るか、予測困難な面もあります。しかし、「千島列島」の帰属の問題は米国による決定の結果です。現在の米国外交としては例外になるでしょうが、米国に関与を求めることは合理的です。

 一方、ロシアは米国との対決姿勢から、北方領土交渉に米国の協力を求めることはしたくないという気持ちが働くでしょうが、千島列島の帰属など日本に不可能なことを要求するより現実的ではないでしょうか。

 日ロ両国は、1956年宣言だけを交渉の基礎とするという不正常な状態を一刻も早く解消したうえ、あらためて日米ロ3国の立場を整理しなおし、その結果に従って米国の協力を求めるべきです。平和条約・北方領土問題については日ロ間で解決を図るという従来の方針とは大きく異なることになりますが、第2次大戦後の秩序を問題にすればするほど、二国間だけでは解決できなくなっていることは明らかです。

 なお、北方領土問題は経済協力などを含め、将来の利用を抜きには語れなくなっています。また、安全保障にかかわる問題も出てきています。米国の協力を得ることはこれらの点でも望ましくなっています。」

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