11月, 2014 - 平和外交研究所
2014.11.30
今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
台湾の市長選挙
台湾の市長選挙では台北市、台中市を含め国民党候補が相次いで落選するなど、国民党は惨敗を喫した。台北市は台湾の首都であり、政府はこれまであらゆる方法で支持層を固める努力を払ってきが、今回の選挙ではほとんど効果がなかったのである。今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
2014.11.27
北朝鮮では漁船の需要増に対し木造船を作って対応している。そうするほかないのであろう。長さ10メートル、幅2メートルの小型船であり、簡単なエンジンを取り付けただけで、無線機などを装備しておらず、この程度の船で日本とのEEZの境界線付近まで出かけるのは非常に危険だそうだ。
漁船は清津や元山を母港としており、多くは軍が保有している。清津には約3000隻の漁船がある。以前は個人所有であったものも軍に編入されているという。しかし漁業を行なうのは軍人ではなく漁民であり、軍に雇われる形になっている。彼らは毎年120万ウォン(闇レートで4万5千円程度)の上納金を納めればあとは自由に漁獲物を処分できる。各部屋にテレビがあるマンションタイプの住居にすんでいるというからかなりの実入りになるのであろう。
漁業は元々、軍が会社を作ってウニやカニを日本に売るなど外貨稼ぎの手段だったが、経済制裁のため収入がなくなり、そこへ張成沢が付け込んで利権を拡大した。その粛清後軍は利権を取り戻しているとも説明されている。
漁船が公海へ出ていくのをコントロールしているのは、軍傘下の「国境警備総局」である。
(11月27日付の朝日新聞記事を基に作成した)
北朝鮮のイカ釣り漁船急増
日本の排他的経済水域の境界線付近で操業する北朝鮮のイカ釣り漁船が急増している。2011年には15隻であったが、12年には80隻、13年には110隻、14年は11月までにすでに400隻(すべて概数)が確認されている。2014年に激増したのは金正恩第1書記が新年の辞で水産業の強化に力を入れるよう指示したためかもしれない。また漁船の数の増加に伴い日本のEEZ内に侵入するケースも増えている。北朝鮮では漁船の需要増に対し木造船を作って対応している。そうするほかないのであろう。長さ10メートル、幅2メートルの小型船であり、簡単なエンジンを取り付けただけで、無線機などを装備しておらず、この程度の船で日本とのEEZの境界線付近まで出かけるのは非常に危険だそうだ。
漁船は清津や元山を母港としており、多くは軍が保有している。清津には約3000隻の漁船がある。以前は個人所有であったものも軍に編入されているという。しかし漁業を行なうのは軍人ではなく漁民であり、軍に雇われる形になっている。彼らは毎年120万ウォン(闇レートで4万5千円程度)の上納金を納めればあとは自由に漁獲物を処分できる。各部屋にテレビがあるマンションタイプの住居にすんでいるというからかなりの実入りになるのであろう。
漁業は元々、軍が会社を作ってウニやカニを日本に売るなど外貨稼ぎの手段だったが、経済制裁のため収入がなくなり、そこへ張成沢が付け込んで利権を拡大した。その粛清後軍は利権を取り戻しているとも説明されている。
漁船が公海へ出ていくのをコントロールしているのは、軍傘下の「国境警備総局」である。
(11月27日付の朝日新聞記事を基に作成した)
2014.11.26
イランの核問題に関する協議はイランの前政権時代から断続的に行なわれており、その時の経緯を含めると延期の回数はもっと多くなる。それだけに今後、はたして予定通り進むか疑問を抱かれても仕方がない面はあるが、イランのロハニ大統領が2013年8月に就任し西側と協力する姿勢を取るようになってから核協議をめぐる雰囲気は大きく変化しており、また交渉は2回目の中断となったが、米国などはイランがため込んでいた核物質の処理が順調に進展していることを確認しており、言葉だけでなく実質的な内容も伴っているようである。
イランは、欧米諸国が課している制裁が解除されると経済的に大きな利益を回復することとなるので、イランの政権が合理的であれば制裁解除については強い関心を抱くのは当然である。今回の共同声明によると、6月末までは昨年11月に結んだ「第1段階の合意」を継続し、イランはウラン濃縮活動を制限し、その見返りとして、米欧はイランの凍結資産を毎月7億ドル(約827億円)解除することになっている。
しかるに、今回最終合意にこぎつけられなかったのはなぜか。イランも米国も相互の不信感が最終合意の妨げになっていることを指摘している。イランは、原子力エネルギーの平和利用はすべての国の権利であり、核兵器不拡散条約(NPT)でもそのことは明記されているが、米欧はそれを認めない、という立場である。これに対し米欧がイランに不信感を抱くのは、イランが平和利用に徹していることを確認する査察にこれまで何回も協力しなかったからである。一方、イランが米欧やIAEAの言うなりにならない背景には、1979年のイラン革命以来の米国、とくにCIAの地下工作などに起因する不信感がある。このように両国関係はこじれているので交渉は困難であり、それだけにロハニ大統領が協調路線で臨んでいることに米欧が大きな期待を抱くのは当然である。
さらに、過激派組織「イスラム国」との関係においてもイランは米欧にとって頼れる存在となりつつある。イランはシーア派が圧倒的に多数であり、スンニ派の「イスラム国」とは基本的な違いがあり、またイランの現政権は「イスラム国」の残忍な手法に反対して反「イスラム国」勢力に物的支援のみならず人的にも貢献している。このような状況が米国の対イラン政策に影響を与えると断定するのは過早かもしれないが、注目すべき状況になっていることは事実であろう。
日本の役割もある。すべての非核保有国は武器への転用がないか、IAEAが査察を行なうのであるが、1回調べれば分かるというわけにはいかない。日本は約30年間IAEAの査察に忠実に協力し、2014年になって初めて、日本には転用の危険がないという判断を下してもらった。それほど時間がかかることなのである。しかるにイランも含め、そのようなことには理解がなく、2~3年協力すれば十分だと思っている国が多い。専門家は分かっていても国全体の理解がないと長期間にわたる持続的協力は困難である。イランと協議している6カ国のうち5カ国は核保有国であり、独のみが非核保有国であるが、同国は脱原子力を決定しているので同じ状況にない。だから日本の経験が重要であり、イランに対しても同じ非核保有国として、かつIAEAからお墨付きを得た経験に基づきアドバイスが可能である。
イランの核協議延期
イランと米英独仏中ロの6カ国による核協議は11月24日までに終了させる予定であったが、再度延期され(ロハニ・イラン大統領の下では2回目)、4か月以内に大枠について「枠組み合意」し、6月末までに最終合意を達成することとなったという共同声明を発表した。イランの核問題に関する協議はイランの前政権時代から断続的に行なわれており、その時の経緯を含めると延期の回数はもっと多くなる。それだけに今後、はたして予定通り進むか疑問を抱かれても仕方がない面はあるが、イランのロハニ大統領が2013年8月に就任し西側と協力する姿勢を取るようになってから核協議をめぐる雰囲気は大きく変化しており、また交渉は2回目の中断となったが、米国などはイランがため込んでいた核物質の処理が順調に進展していることを確認しており、言葉だけでなく実質的な内容も伴っているようである。
イランは、欧米諸国が課している制裁が解除されると経済的に大きな利益を回復することとなるので、イランの政権が合理的であれば制裁解除については強い関心を抱くのは当然である。今回の共同声明によると、6月末までは昨年11月に結んだ「第1段階の合意」を継続し、イランはウラン濃縮活動を制限し、その見返りとして、米欧はイランの凍結資産を毎月7億ドル(約827億円)解除することになっている。
しかるに、今回最終合意にこぎつけられなかったのはなぜか。イランも米国も相互の不信感が最終合意の妨げになっていることを指摘している。イランは、原子力エネルギーの平和利用はすべての国の権利であり、核兵器不拡散条約(NPT)でもそのことは明記されているが、米欧はそれを認めない、という立場である。これに対し米欧がイランに不信感を抱くのは、イランが平和利用に徹していることを確認する査察にこれまで何回も協力しなかったからである。一方、イランが米欧やIAEAの言うなりにならない背景には、1979年のイラン革命以来の米国、とくにCIAの地下工作などに起因する不信感がある。このように両国関係はこじれているので交渉は困難であり、それだけにロハニ大統領が協調路線で臨んでいることに米欧が大きな期待を抱くのは当然である。
さらに、過激派組織「イスラム国」との関係においてもイランは米欧にとって頼れる存在となりつつある。イランはシーア派が圧倒的に多数であり、スンニ派の「イスラム国」とは基本的な違いがあり、またイランの現政権は「イスラム国」の残忍な手法に反対して反「イスラム国」勢力に物的支援のみならず人的にも貢献している。このような状況が米国の対イラン政策に影響を与えると断定するのは過早かもしれないが、注目すべき状況になっていることは事実であろう。
日本の役割もある。すべての非核保有国は武器への転用がないか、IAEAが査察を行なうのであるが、1回調べれば分かるというわけにはいかない。日本は約30年間IAEAの査察に忠実に協力し、2014年になって初めて、日本には転用の危険がないという判断を下してもらった。それほど時間がかかることなのである。しかるにイランも含め、そのようなことには理解がなく、2~3年協力すれば十分だと思っている国が多い。専門家は分かっていても国全体の理解がないと長期間にわたる持続的協力は困難である。イランと協議している6カ国のうち5カ国は核保有国であり、独のみが非核保有国であるが、同国は脱原子力を決定しているので同じ状況にない。だから日本の経験が重要であり、イランに対しても同じ非核保有国として、かつIAEAからお墨付きを得た経験に基づきアドバイスが可能である。
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