平和外交研究所

3月, 2024 - 平和外交研究所

2024.03.19

日朝関係は動くか2024年3月

 北朝鮮はミサイルの発射実験を続けている。3月18日午前には新たに6 発を発射した。この点は今までと変わっていないが、一方で、金正恩総書記は北朝鮮の国際的地位を押し上げようとしている。さる2月1日、当研究所のHPに「金正恩の近代的強国」と題する一文を掲載したが、いわばその続きが行われているようだ。

 岸田首相は2月9日の衆院予算委員会で、金正恩総書記との首脳会談の実現に向け「私自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要だ」と答弁し、また 首脳会談の実現に向け「さまざまなルートを通じて働き掛けを絶えず行っている。具体的な結果につながるよう最大限努力していきたい」と述べるなど意欲を示した。(その後、3月19日には、サッカーワールドカップアジア2次予選「日本対北朝鮮」のアウェーでの試合に合わせて外務省の北朝鮮担当の職員ら十数名が平壌入りすることが判明した。)

 岸田首相の発言に呼応する形で、金与正朝鮮労働党副部長は2月15日、個人的見解として談話を発表し、日本が政治的決断を下せば「岸田文雄首相が平壌を訪問する日が来る可能性もある」と述べた。また与正氏は「(岸田首相の発言が)過去の束縛から大胆に脱し、関係を進展させようとする真意から出たものであれば評価されない理由はない」、「拉致問題を障害物としなければ両国が近くなれない訳はない」と指摘したとも報道された。与正氏は本気で岸田首相の北朝鮮訪問を実現しようとしているのか、よくわからない面があるが、いずれにしても金正恩総書記の指示に従い発言したのであろう。

 岸田首相は金正恩総書記との首脳会談に前向きの姿勢を示しているが、拉致問題の解決は「首相自身が主体的に動き、金正恩総書記とトップ同士の関係を築けば可能」だと考えているのか。これまで解決しなかった拉致問題が、このような姿勢で臨めば解決できると考えているのか、客観的にはよくわからない。首相が表明していることは従来からの繰り返しにすぎないのかもしれない。

 金正恩総書記が北朝鮮の世界における地位を押し上げようとしているのが事実であれば、日本としては、北朝鮮が立派になりたいならば拉致問題を解決すべきであることを改めて要求できるはずである。しかし、少なくとも金与正氏の談話ではそれはできないことを明言している。そうであれば、北朝鮮の立場からすれば、日本側はできないことを求めていることになる。これまでの堂々めぐりと何ら変わらないことになる。

 それから1か月半しか経っていないが、その間に金正恩氏の姿勢を示す出来事がもう一つ起こった。

 2月28日、東京・国立競技場で行われたパリ五輪女子サッカーアジア最終予選で日本は2-1で北朝鮮を下し、パリ五輪(オリンピック)出場権を獲得した。
 試合後、北朝鮮のリ・ユイル監督は、報道陣から「(北朝鮮チームの)フェアプレーに感心した。トレーニングについて強い指導をしているのか」という趣旨の質問が飛ぶと、「まずスポーツ選手としてルールを尊重するということ、審判の判定を尊重するというのは非常に重要なことで、これはスポーツ選手のみならず、一般的にもルールを守ることは重要」とし「北朝鮮も日本も大変すばらしいフェアプレーをみせてくれた」と試合を振り返った。「常日頃からルールは守らなければいけないと指導してきた。選手たちは、幼い頃からフェアプレーを身につけるように、心がけるように指導している」とも述べたという。

 それから約2週間後の3月16日にウズベキスタンのタシケントで行われた女子サッカーアジアカップ決勝で、U-20北朝鮮女子代表は日本女子代表に2-1で逆転勝利を収め、2007年以来の大会制覇を果たした。試合終了後、北朝鮮の選手たちは日本選手とのハイタッチでの挨拶を終えたあと、キャプテンのMFチェイ・ウンヨンを先頭に日本のベンチへ足を運んで挨拶。その後、自陣のベンチに向かったが、日本の選手たちが北朝鮮ベンチへ挨拶していることを受け、チェイ・ウンヨンがチームメイトたちを統率して落ち着かせ、挨拶が終わるまで歓喜を爆発させるのを待つ場面があった。

 この2回にわたり北朝鮮側が示したことは、今まで見たことがないスポーツマンシップであった。たとえば、約半年前、杭州アジア大会の男子サッカー準々決勝で、北朝鮮の選手たちが1─2で日本に敗れた後に審判員に激しく詰め寄り、混乱状態となり、北朝鮮の監督が駆け寄って事態の収拾を図ったのと大違いであった。北朝鮮の選手たちは以前からラフな行動で知られていたが、2月と3月の女子サッカー試合では、フェアプレーに突然変わったのであった。

 金正恩総書記から事前に、フェアプレーで試合するよう指示が出ていたのは明らかであった。北朝鮮を立派な国家としたいという金正恩総書記の意図はますますはっきりしてきた感じである。

 もちろん、北朝鮮が本当に立派な国家になりたいのであれば、国連決議を順守し、危険な弾道ミサイルの実験はやめるなどが必要であるが、そのような姿勢は見えてこない。したがって、金正恩総書記の意図はそれだけ割り引いてみざるをえないが、その点はともかく、同書記の視点から物事を見ておくことも必要である。

 北朝鮮が新しい立場をとるからと言って拉致問題が解決するわけでないのはもちろんである。しかし、日本としても拉致問題をシングルイシューとする姿勢を貫くだけでは何ともならないのではないか。

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