7月, 2025 - 平和外交研究所
2025.07.12
BRICSは成長力が大きい新興経済国のグループであり、将来的に先進国に匹敵するポテンシャルを持っているとみられている。
また最近は単なる高成長国の集まりではなく、国際秩序に影響を与える“政治的連合”としての側面も強めており、G7への対抗軸として「BRICS首脳会議」を定期的に開催している。
BRICS拡大とほぼ同時期に、インドネシアではジョコ前大統領に代わってプラボウォ氏が新大統領に就任し、外交が転換する可能性が出てきた。
インドネシアは1945年の独立以来非同盟主義を掲げてきた。近年はASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主的存在となり、さらに最近は、「グローバルサウスの代表」という言葉も使われるようになっている。ジョコ前大統領はインドネシアの経済発展に力を注ぐ一方、BRICS加盟には終始慎重な姿勢を取り、BRICS側から誘いを受けてもなかなか首を縦に振らなかった。建国以来の基本方針である非同盟主義を貫いてきたのである。
ロシアによるウクライナ侵略が勃発したなかで開催された20カ国・地域(G20)は、インドネシアが有力な新興勢力であることを誇示するとともに、伝統的な外交方針を再確認する格好の機会となった。インドネシアはG20の議長国として、その成功のために奔走した。西側諸国によるロシア排除の要求は拒否した。ただし、ロシアの肩を持ったのではない。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ、G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫いた。
ジョコ氏は、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談した。またその足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し、両首脳にG20サミットへの出席を求めた。インドネシアの外交努力は成功し、11月、G20首脳会議はバリ島で無事開催された。西側諸国は、ロシア側(外相)の出席を理由にボイコットすることはしなかった。ゼレンスキー大統領はオンラインで参加して、演説を行った。また、実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着け、各国はインドネシアの努力を賞賛した。サミット終了後、レトノ外相は、「インドネシアは常に架け橋となってきた。その結果として各国から信頼を得ている」と胸を張った。
2023年になってもジョコ氏は活発な外交努力を続け、ケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカを歴訪した。各国首脳との会談でジョコ氏は、「バンドン精神こそ私がアフリカ訪問に携えてきたものである」と強調した。1955年、インドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議以来の非同盟運動がインドネシア外交の屋台骨であることを再確認したのである。
歴訪の最後に訪れた南アフリカでは、ジョコ氏はBRICS首脳会議に出席した。しかし、この首脳会議で主要な議題となっていたBRICS加盟国の拡大にジョコ氏は応じなかった。会議の前には、インドネシアは加盟に興味を示している国のひとつだとみなされていたが、実際には、ジョコ大統領は時期尚早として加盟申請を行わなかったのである。
一方、ジョコ氏はその任期中、建国100年の2045年までに先進国の仲間入りを果たすという目標を掲げ、先進国クラブとも称される経済協力開発機構(OECD)への加盟に熱心に取り組んだ。
インドネシアは2007年からOECDの主要パートナーとなっており、マクロ経済政策や税制、投資環境などに関して政策協議を行ってきた。最近それに勢いが加わり、2023年、インドネシアは「OECD加盟の方針」を発表し、OECD事務総長に加盟の希望を伝えた。関係閣僚はOECD加盟国を回って加盟申請への支援を要請した。
2024年2月、OECDはインドネシアとの加盟協議開始を正式に決定した。現在アジアからの加盟国は日本と韓国のみで、仮にインドネシアが加盟すれば、アジアでは3番目、東南アジアからは初となる。
OECDに加盟することはインドネシアの中立外交、橋渡し外交の原則と一致する。先進国クラブに足場を築くことができれば、グローバルサウスの利害を国際経済秩序に反映させるというインドネシアの狙いも実現することができる。それによって、国際社会におけるインドネシアの発言力は大きくなるし、グローバルサウスのなかにおけるインドネシアの立ち位置もますます高まることになる。ジョコ前大統領の下でインドネシア外交にはこのような展望が開けたのである。
残るはBRICSとの関係強化である。2024年10月20日に就任したプラボウォ新大統領は、翌年7月6-7日、ブラジルで開催されたBRICS首脳会議についに参加した。これはインドネシア外交の180度転換と言われた。また、プラボウォ氏は初の外遊先に最大の貿易相手国の中国を選んだ。
しかし、インドネシアは南シナ海において中国と対立している。領土問題に関してインドネシアは、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどと同様、中国の一方的な拡張行動の危険にさらされている。
2024年、インドネシアは米国と共催の形で多国間軍事演習「スーパー・ガルーダシールド」を開催し、これには日本の陸上自衛隊も参加した。ガルーダシールドは、2007年にインドネシア軍と米軍の二国間演習として始まったものであり、 2022年には多国間のイベントに発展し、この地域最大級の演習のひとつとなった。 スーパー・ガルーダシールドという名称は、複数のイベントと多国籍という特徴を反映している。
日本との関係ではプラボゥオ氏が大統領として日本を訪問するのは中国より後となる。しかし、プラボゥオ氏は日本との友好関係を重視していることをさまざまな機会に示している。2024年4月、当時のプラボゥオ国防大臣は来日して岸田文雄首相と会談し、安全保障分野などで協力を強化していくことを確認した。
今後のプラボゥオ政権について注目すべきは安定性であろう。
プラボゥオ氏は1951年生まれでジョコ氏より10歳年上である。健康不安も指摘されている。
過去の2度の大統領選(2014年と2019年)で、ジョコ氏と激しい選挙戦を展開しながら敗北した。ジョコ氏の強さを知っているプラボウォ氏は今回の選挙でジョコ氏の支持層をそっくり取り込むことに努めた。
また、プラボゥオ氏はジョコ政権の政策を継承することを前面に押し出した。ジョコ氏の長男であるギブランを副大統領候補に据えた。そんなこともあって、ジョコ氏は、次第にプラボウォを支援する姿勢を強めたという。
BRICSとの関係ではジョコ前大統領の慎重姿勢を転換することとなったが、先進国クラブのOECDから反西側のBRICSに乗り換えたのではなく、インドネシアの仲間を広げたとみるべきであろう。インドネシア政府関係者は「世界秩序が変化する中、特定の勢力だけに近づき、それ以外を遠ざけるのは得策とは言えない」といっている。
インドネシア外交の変化か
2025年7月6-7日、ブラジルで開催されたBRICS首脳会議にインドネシアからプラボウォ大統領が初めて参加した。BRICSは2023年まで、ロシア、ブラジル、中国、インドおよび南アフリカ5か国のグループであったが、24年からは参加国が増え、25年の首脳会議にはインドネシアを含め10か国が参加した。BRICSは成長力が大きい新興経済国のグループであり、将来的に先進国に匹敵するポテンシャルを持っているとみられている。
また最近は単なる高成長国の集まりではなく、国際秩序に影響を与える“政治的連合”としての側面も強めており、G7への対抗軸として「BRICS首脳会議」を定期的に開催している。
BRICS拡大とほぼ同時期に、インドネシアではジョコ前大統領に代わってプラボウォ氏が新大統領に就任し、外交が転換する可能性が出てきた。
インドネシアは1945年の独立以来非同盟主義を掲げてきた。近年はASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主的存在となり、さらに最近は、「グローバルサウスの代表」という言葉も使われるようになっている。ジョコ前大統領はインドネシアの経済発展に力を注ぐ一方、BRICS加盟には終始慎重な姿勢を取り、BRICS側から誘いを受けてもなかなか首を縦に振らなかった。建国以来の基本方針である非同盟主義を貫いてきたのである。
ロシアによるウクライナ侵略が勃発したなかで開催された20カ国・地域(G20)は、インドネシアが有力な新興勢力であることを誇示するとともに、伝統的な外交方針を再確認する格好の機会となった。インドネシアはG20の議長国として、その成功のために奔走した。西側諸国によるロシア排除の要求は拒否した。ただし、ロシアの肩を持ったのではない。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ、G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫いた。
ジョコ氏は、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談した。またその足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し、両首脳にG20サミットへの出席を求めた。インドネシアの外交努力は成功し、11月、G20首脳会議はバリ島で無事開催された。西側諸国は、ロシア側(外相)の出席を理由にボイコットすることはしなかった。ゼレンスキー大統領はオンラインで参加して、演説を行った。また、実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着け、各国はインドネシアの努力を賞賛した。サミット終了後、レトノ外相は、「インドネシアは常に架け橋となってきた。その結果として各国から信頼を得ている」と胸を張った。
2023年になってもジョコ氏は活発な外交努力を続け、ケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカを歴訪した。各国首脳との会談でジョコ氏は、「バンドン精神こそ私がアフリカ訪問に携えてきたものである」と強調した。1955年、インドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議以来の非同盟運動がインドネシア外交の屋台骨であることを再確認したのである。
歴訪の最後に訪れた南アフリカでは、ジョコ氏はBRICS首脳会議に出席した。しかし、この首脳会議で主要な議題となっていたBRICS加盟国の拡大にジョコ氏は応じなかった。会議の前には、インドネシアは加盟に興味を示している国のひとつだとみなされていたが、実際には、ジョコ大統領は時期尚早として加盟申請を行わなかったのである。
一方、ジョコ氏はその任期中、建国100年の2045年までに先進国の仲間入りを果たすという目標を掲げ、先進国クラブとも称される経済協力開発機構(OECD)への加盟に熱心に取り組んだ。
インドネシアは2007年からOECDの主要パートナーとなっており、マクロ経済政策や税制、投資環境などに関して政策協議を行ってきた。最近それに勢いが加わり、2023年、インドネシアは「OECD加盟の方針」を発表し、OECD事務総長に加盟の希望を伝えた。関係閣僚はOECD加盟国を回って加盟申請への支援を要請した。
2024年2月、OECDはインドネシアとの加盟協議開始を正式に決定した。現在アジアからの加盟国は日本と韓国のみで、仮にインドネシアが加盟すれば、アジアでは3番目、東南アジアからは初となる。
OECDに加盟することはインドネシアの中立外交、橋渡し外交の原則と一致する。先進国クラブに足場を築くことができれば、グローバルサウスの利害を国際経済秩序に反映させるというインドネシアの狙いも実現することができる。それによって、国際社会におけるインドネシアの発言力は大きくなるし、グローバルサウスのなかにおけるインドネシアの立ち位置もますます高まることになる。ジョコ前大統領の下でインドネシア外交にはこのような展望が開けたのである。
残るはBRICSとの関係強化である。2024年10月20日に就任したプラボウォ新大統領は、翌年7月6-7日、ブラジルで開催されたBRICS首脳会議についに参加した。これはインドネシア外交の180度転換と言われた。また、プラボウォ氏は初の外遊先に最大の貿易相手国の中国を選んだ。
しかし、インドネシアは南シナ海において中国と対立している。領土問題に関してインドネシアは、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどと同様、中国の一方的な拡張行動の危険にさらされている。
2024年、インドネシアは米国と共催の形で多国間軍事演習「スーパー・ガルーダシールド」を開催し、これには日本の陸上自衛隊も参加した。ガルーダシールドは、2007年にインドネシア軍と米軍の二国間演習として始まったものであり、 2022年には多国間のイベントに発展し、この地域最大級の演習のひとつとなった。 スーパー・ガルーダシールドという名称は、複数のイベントと多国籍という特徴を反映している。
日本との関係ではプラボゥオ氏が大統領として日本を訪問するのは中国より後となる。しかし、プラボゥオ氏は日本との友好関係を重視していることをさまざまな機会に示している。2024年4月、当時のプラボゥオ国防大臣は来日して岸田文雄首相と会談し、安全保障分野などで協力を強化していくことを確認した。
今後のプラボゥオ政権について注目すべきは安定性であろう。
プラボゥオ氏は1951年生まれでジョコ氏より10歳年上である。健康不安も指摘されている。
過去の2度の大統領選(2014年と2019年)で、ジョコ氏と激しい選挙戦を展開しながら敗北した。ジョコ氏の強さを知っているプラボウォ氏は今回の選挙でジョコ氏の支持層をそっくり取り込むことに努めた。
また、プラボゥオ氏はジョコ政権の政策を継承することを前面に押し出した。ジョコ氏の長男であるギブランを副大統領候補に据えた。そんなこともあって、ジョコ氏は、次第にプラボウォを支援する姿勢を強めたという。
BRICSとの関係ではジョコ前大統領の慎重姿勢を転換することとなったが、先進国クラブのOECDから反西側のBRICSに乗り換えたのではなく、インドネシアの仲間を広げたとみるべきであろう。インドネシア政府関係者は「世界秩序が変化する中、特定の勢力だけに近づき、それ以外を遠ざけるのは得策とは言えない」といっている。
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