平和外交研究所

11月, 2020 - 平和外交研究所

2020.11.27

王毅中国外相の尖閣諸島に関する発言

 11月24・25日、王毅中国外相が来日し、茂木外相と会談した。会談で話し合われたことにケチをつける気持ちは毛頭ないが、尖閣諸島についての共同記者会見でのやり取りは後味の悪いものとなった。

 同会見において茂木外相は「尖閣諸島周辺海域に関する日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めるとともに意思疎通を行っていくことを確認した」と語った。最近、尖閣諸島の接続水域内に中国の公船による侵入が顕著に増加していることを背景にした発言であった。
 
 一方、中国の王毅外相は「我々も釣魚島(尖閣諸島の中国名)の情勢を注視している」とし、「一部の真相が分からない日本漁船が釣魚島周辺に入っている。中国側としてはやむを得ず、必要な反応をしなければならない」と反論した。また王外相は「希望も持っている」とし、双方が事態を複雑にする行動を避けることや対話を通じた解決を呼びかけ、「双方の努力で東シナ海を平和、協力の海にしていきたい。両国の利益に合致するものだ」とも語った。

 日本の漁船の行動に問題があったとの認識を示しつつ、中国側の行動は日本の漁船に触発された受動的なものであったとの趣旨を述べた王氏の発言は非常に問題であったが、同時に巧妙に計算されたものであった。

 茂木氏は、その場で日本の漁船を擁護する発言を行うべきであった。具体的な表現に細心の注意が必要であることはもちろんである。特に、王氏は日本の漁船の何が問題であったかについて、「日本漁船が釣魚島周辺に入っている」と、肝心のところはぼやかしていた。かりに茂木外相が、「日本漁船が日本の領海に入るのは当たり前である」とでも言えば、王氏から、「私は領海の問題を避けて発言したのに、茂木外相は領海を問題にした」と逆襲されるかもしれない。そうなれば中国側の思うつぼである。
 中国で日本漁船が領海内に入ってくると言っているのは、海警局の関係者であり、非公式の発言である。
 
 つまり、日本側から日本の領海のことを言及しないよう注意しつつ、日本漁船を擁護する必要があるのだ。念のために付言しておくが、日本側が日本の領海について中国側に問題提起すべきでないのは、日本は、尖閣諸島は日本の領土であることになんら問題はないと認識しているし、実効支配しているからである。

 日本国内で王外相の発言を問題視する気持ちはよく分かる。日本共産党の志位委員長の怒りに満ちた、しかし鋭い発言を産経新聞が大きく報道するという驚天動地のことも起こっている。が、相手はズルしゃもであり、単純な反発は日本の国益にならない。

 ともかく、具体的には、日本側は「日本の漁船の行動に何ら問題はないと認識している」とし、かつ「中国側には国際法を順守するよう求める」とだけ表明するのがよい。
 この2点について中国側と議論するためでない。中国側が問題発言をするので、反論として述べておくのであり、いわゆる言いっぱなしでよい。もし中国側がさらに反発してきても、日本側としては同じことを繰り返すのがよい。

 今回の発言はともかく、今後も同様の事態が発生する恐れがある。それに備えて日本側は反論を用意しておくべきである。
2020.11.23

菅首相は韓国との関係を改善することができる

 文在寅大統領は対日関係を改善したい意向である。11月14日、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓のテレビ首脳会議で、「各国の首脳のみなさん、特に日本の菅義偉首相、お会いできてうれしいです」と菅氏だけ名前を挙げて呼びかけた。また、朴智元(パクチウォン)国家情報院長を日本に派遣し、菅首相に対し10日、「日韓新共同宣言」を提案したのもその表れであった。13日には韓日議員連盟の金振杓(キムジンピョ)会長が菅氏を表敬し、元徴用工問題を東京五輪が終わるまで凍結する提案をしたことも注目された。

 文大統領が日本との関係改善に積極的な姿勢をみせ始めたのは、大統領としての任期が2年を切った現在、北朝鮮を東京オリンピックの場に引き出し、南北朝鮮及び日米の首脳会談を実現することにより韓国の外交を立て直したいからであり、文大統領として最後の大仕事になると認識しているのであろう。

 菅新政権として文大統領の呼びかけだからと言って応じる必要はないが、これは菅新政権の外交全体に関係する問題となる。菅首相は安倍首相の外交方針を踏襲する考えを早々に表明したが、米国ではトランプ氏と考え方が非常に異なるバイデン氏が新大統領になることが明確になっている。菅首相の相手はバイデン大統領になるのであり、安倍首相とトランプ大統領の間で行ったような外交はできない。

 バイデン氏は、同盟国との関係を重視し、日韓両国に対しても協力関係を回復するよう求めてくるだろう。その原則はすでに表明している。日本が韓国との関係改善に積極的な姿勢をみせなければ、その影響は韓国及び北朝鮮以外の関係にも及んでくる。

 では、菅政権として具体的にどのように対応すべきか。徴用工問題では、どのように考えても日本側が韓国側に指摘している「国際法違反の状態を韓国側が正さなければならない」という原則は変えられない。また、この点では米国の理解も得やすい。

 一方、半導体素材の輸出規制強化については、韓国側は日本側からの指摘に従って輸出管理の改善措置を講じており、日本側の目的はすでに達成されている。また、安倍政権下で日本側が規制強化を行ったのは、韓国に慰安婦問題や徴用工問題で国際法に合致した行動を促す裏外交としての意味があったが、それが効果的でないことは明らかになっている。徴用工問題も輸出規制強化措置問題もゼロ回答では、バイデン新政権から理解を得られないだろう。これらの理由から、日本側は早急に輸出規制強化措置の撤廃を検討し始めるべきである。

安倍政権の下では、文大統領は韓国として対日関係改善に一定程度積極的な姿勢を示しつつも、日韓関係が悪化した原因は安倍首相の姿勢にあったとの考えであった。つまり、文政権も裏表を使い分けていたのであるが、その外交も今後は変わっていく。菅首相も安倍首相の外交方針を踏襲するだけでなく、新しい情勢に応じた外交に努めるべきである。
2020.11.19

南北朝鮮・日米4者会談構想

菅義偉首相は11月10日、来日中の韓国国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長と会談した。元徴用工問題や、韓国が持ち回りで議長国を務める予定だが、どうなるか分からない状況になっている日中韓首脳会議(サミット)に関する協議が行われたと説明されている。菅首相は元徴用工問題に関連し、「非常に厳しい状況にある日韓関係を健全に戻していくきっかけを韓国側がつくってほしい」と求めた。

その会談で、朴氏は「来年7月に東京オリンピックが開催される際、南北と米日首脳が会い、北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策について議論する」という文在寅(ムン・ジェイン)大統領の提案について説明したとも報道された。この点は公表されていないが、十分ありうることである。

東京オリンピックの際に南北朝鮮と米日首脳が会談するとの考えは、2018年の平昌オリンピックの場合と酷似している。平昌に金正恩委員長は来なかったが、韓国としては金正恩氏が東京に来なくても、代理の者が来れば4者で会談する目的の大半は達成されるとみているのだろう。オリンピックであれば、金正恩委員長が受け入れる公算が大きい。2018年の場合は、北朝鮮としてオリンピックに参加する意向があると金委員長自ら表明した。金委員長がスポーツに関心があることは周知と言ってよい。

南北朝鮮の関係は、3回の米朝首脳会談を経て現在最悪の状態にあり、4者会談が実現すれば、手詰まりの韓国外交として大きな得点になる。韓国としては、日米両国で新政権が成立するに際し、4者による首脳会談を提案し、その実現に向けて仲介の労を取ることが韓国の役割だと自認しているのであろう。

しかし、北朝鮮が韓国に対し厳しい姿勢を取っているのは、文大統領が北朝鮮に対する制裁の解除のため、金委員長が期待するほどには働いていないためである(北朝鮮側の見方に過ぎないが)。文大統領の姿勢は現在も変わっていないので、金委員長がオリンピックのえさに飛びついてくるか、可能性は極めて低い。

米日の新政権の出方も不透明だ。日本の菅首相は、安倍外交を継承していくので大きな変化はないとみられるが、米国のバイデン新大統領(未就任)の方針は未知数である。少なくともトランプ氏のような個人的な関心もなさそうである。いずれにしても、米国の新しい北朝鮮政策が固まるのは数か月先のこととなろう。

韓国は、トランプ大統領との関係を重視するあまり、世界貿易機関(WTO)の新事務局長選においてもトランプ政権に振り回されたが、ようやくバイデンが新大統領になることは確実とみて、その前提で行動を始めたのであろう。

韓国の国会議員でつくる韓日議員連盟の金振杓会長は、金正恩委員長が来年の東京五輪に出席する意向があるなら、正式に招待することも可能だと日本政府側が表明したことを明らかにしたと、18日付韓国紙、中央日報が報じた。金振杓氏は日本滞在中の11月13日、菅義偉首相を表敬したのだが、日本側が本当にそのような発言をしたのか、疑わしい。

いずれにしても、韓国は今後、東京オリンピックまで、4者会談の構想を実現するため、日本政府にも米国の新政権にも働きかけると思われる。

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