4月, 2014 - 平和外交研究所
2014.04.30
両国の海軍は、合同演習地域で偵察を行ない、共同行動計画を明確化し、防空、対潜水艦、封鎖、航渡(中国語)、補給などの訓練を行なう。体育・文化活動などもある。
ロシアからの参加者は海軍作戦訓練局長、海軍司令部の職員、太平洋艦隊の代表などが、中国からは解放軍総参謀部の代表および東海艦隊の専門家が参加する。
双方は20艘あまりの海上艦艇、潜水艦および補助艦を派遣する。ロシア側は、ミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、補助艦、遠洋タグボート各1艘が含まれている。ロシア海軍の編隊は対馬海峡を南下して上海に来航する予定である。
中ロ両国のこのような合同軍事演習は日本にとって不愉快なものである。
中ロ両国にはそれぞれ狙いがあるのであろう。中国としては、尖閣諸島に関し従来から続けている、嫌がらせを含む示威行動の一環であるが、オバマ米大統領の訪日に際して日米が安全保障面での同盟関係を強化し、日米安保条約が尖閣諸島に適用されることを大統領自らが確認したことを強く意識し、反発しているものと思われる。
ロシアが尖閣諸島付近での中国との合同演習に参加することとしたのは、中国からの働きかけに応じたものと推測されるが、ロシア海軍と日本の海上自衛隊はこれまでに防衛交流を積み重ね、また、捜索・救難の共同訓練なども行なってきており、さらにごく最近、外務・防衛閣僚級協議(いわゆる2+2)を立ち上げることに合意するなど友好協力関係を進めていただけに、今回の中国との合同演習は残念な出来事である。
ロシアは、ただ中国からの要望に応じただけではないのであろう。今回の決定の背景として、ウクライナ問題で惹起された米欧との緊張関係があり、日本もロシア非難に加わり、ビザの発給を制限し、また、岸田外相の訪ロを取りやめたことなどをロシア側は不快視している可能性がある。そのような問題が起こったのはロシアに原因があるが、それはロシアとして認めたくないのも不思議でない。今回の中ロ合同軍事演習は表面上日ロ関係とは結びつかないが、当然強く影響しているものと思われる。
4月30日の国防部網によれば、今回の合同演習は3回目であり、第1回は2012年4月末山東省青海卑近で、第2回目はウラジオストック付近で行われた由。
尖閣付近での中露合同軍事演習
中国とロシアの海軍は5月末から6月初めにかけ、尖閣諸島の西北の海域で初の合同軍事演習を行なうそうである。4月29日に「ロシアの声」が報道したのを30日の『環球時報』(人民日報傘下の大衆紙)が引用している。4月30日現在、最後の協議のためにロシア海軍の代表団が上海を訪問中である。両国の海軍は、合同演習地域で偵察を行ない、共同行動計画を明確化し、防空、対潜水艦、封鎖、航渡(中国語)、補給などの訓練を行なう。体育・文化活動などもある。
ロシアからの参加者は海軍作戦訓練局長、海軍司令部の職員、太平洋艦隊の代表などが、中国からは解放軍総参謀部の代表および東海艦隊の専門家が参加する。
双方は20艘あまりの海上艦艇、潜水艦および補助艦を派遣する。ロシア側は、ミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、補助艦、遠洋タグボート各1艘が含まれている。ロシア海軍の編隊は対馬海峡を南下して上海に来航する予定である。
中ロ両国のこのような合同軍事演習は日本にとって不愉快なものである。
中ロ両国にはそれぞれ狙いがあるのであろう。中国としては、尖閣諸島に関し従来から続けている、嫌がらせを含む示威行動の一環であるが、オバマ米大統領の訪日に際して日米が安全保障面での同盟関係を強化し、日米安保条約が尖閣諸島に適用されることを大統領自らが確認したことを強く意識し、反発しているものと思われる。
ロシアが尖閣諸島付近での中国との合同演習に参加することとしたのは、中国からの働きかけに応じたものと推測されるが、ロシア海軍と日本の海上自衛隊はこれまでに防衛交流を積み重ね、また、捜索・救難の共同訓練なども行なってきており、さらにごく最近、外務・防衛閣僚級協議(いわゆる2+2)を立ち上げることに合意するなど友好協力関係を進めていただけに、今回の中国との合同演習は残念な出来事である。
ロシアは、ただ中国からの要望に応じただけではないのであろう。今回の決定の背景として、ウクライナ問題で惹起された米欧との緊張関係があり、日本もロシア非難に加わり、ビザの発給を制限し、また、岸田外相の訪ロを取りやめたことなどをロシア側は不快視している可能性がある。そのような問題が起こったのはロシアに原因があるが、それはロシアとして認めたくないのも不思議でない。今回の中ロ合同軍事演習は表面上日ロ関係とは結びつかないが、当然強く影響しているものと思われる。
4月30日の国防部網によれば、今回の合同演習は3回目であり、第1回は2012年4月末山東省青海卑近で、第2回目はウラジオストック付近で行われた由。
2014.04.28
しかし、手放しで喜べるわけではない。オバマ大統領は尖閣諸島に関しこれ以外にも発言している。一つは、「尖閣諸島の最終的な主権の帰属について米国としての見解を表明するのでないが」と付言していることであり、もう一つは、オバマ大統領が日本側に対応を促していることである。この2点とも日本では十分伝えられていない。
順序は逆になるが、第2の点を先に見ていこう。オバマ大統領は、”As I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. ”と言っていた。これは非常に強いメッセージであるが、報道ではあまり注目されなかった。まったく報道していない新聞もあるようだ。
通訳に問題があったためかもしれない。共同記者会見の通訳はa profound mistakeを「正しくない」と訳したと言われている。4月27日付の『琉球新報』はこのことを指摘している。もっとも、通訳による実際の訳は「正しくない」ではなく、「非常に好ましくない過ち」であった可能性もある(官邸のホームページで録音が聞けるが、私にはそう聞こえる)が、いずれにしても、オバマ大統領が安倍総理に対応を強く促したことは伝わってこない。
『琉球新報』は、a profound mistakeを「重大な誤り」と正しく訳し、オバマ大統領は「同時に私(オバマ大統領)は安倍首相に直接言った。日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、事態がエスカレーションしていくのを看過し続けるのは重大な誤りだと」と述べたと報道した上、オバマ大統領は「首相に平和的解決を強く求めた」と解説している。細かい点については訳に異論があるかもしれないが、基本的にはこの説明が正しい。
オバマ大統領が安倍総理に促した対話と信頼醸成については、日本側に悩ましい事情がある。日本政府は、尖閣諸島について領土問題は存在しないという立場であり、したがって対話の必要もないという態度である。しかし、米国は、事態がエスカレートするのは何としても避けたいという気持ちであり、そのため、日本に対しても対話などの平和的方法で解決するよう求めている。日本側の、対話をする必要はない、しない、ということだけではそのような米側の期待にこたえることができない。
ではどうするかであるが、私は、日本が国際司法裁判所で解決を図る用意があることを米国はじめ関心を持つ諸国に対して説明し、中国もそうするよう説得を依頼するのがよいと考える。それも首脳レベルで直接話し合うのがよい。日本と中国の立場は違っており、国際司法裁判所には中国から提訴のための行動を起こす必要があるそうであるが、細かいこと、あまりに法技術的なことはあえて言わないこととする。日本はこれまで、中国が提訴するなら受けて立つとまでは言ってきたが、そのことは残念ながら知られていない。日本が積極的に国際司法裁判所での解決を求めていることを首脳レベルでも分かるくらい明確に態度表明したことはないのである。
オバマ大統領は日本の対応を強く促した後、We’re going to do everything we can to encourage that diplomatically、つまり、平和的解決のためには何でも協力すると言っている。米国は一般的に国際司法裁判所での解決を重視しており、あるとき中国の高官が不用意にハワイの法的地位を問題視するような発言をした際、ヒラリー・クリントン国務長官は「やれるものならやってみればよいでしょう。国際仲裁で決着をつけよう」と反撃したことがあった。国際仲裁と国際司法裁判は厳密には異なる手続きであるが、国際的に公平な解決を求めるという意味では同じことである。
日本として中国と直接対話する必要も意図もないという姿勢を貫くのは非生産的な非難合戦を避けるためにやむをえないかもしれないが、第三国が分かる形で日本として平和的方法で解決する用意があり、また、そのために積極的に行動しようとしていることを示すことが今後ますます必要とされる。
第1の点である、米国は第三国間の領土紛争に介入しないという基本方針については、米国は従来から一貫してそのことを主張しており、今回のオバマ大統領の発言も新しいものではない。
しかし、尖閣諸島に関する限り米国は特殊な立場にあり、通常の意味での第三国でない。尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約の「琉球諸島」に含まれることを確立したのは、日本でなく米国と同条約の他の締約国であり、その際主導的役割を果たしたのは米国であった。これは1953年のことであるが、現在もその状態が継続している(キヤノングローバル戦略研究所ホームページのコラム「尖閣諸島の法的地位」参照)。このことを米国にリマインドし、米国がその立場にふさわしい行動をとるよう求めるべきである。
オバマ大統領の尖閣諸島に関する発言
オバマ大統領は訪日中(4月23日から25日まで)、尖閣諸島についてどのような態度表明を行なうか注目されていたところ、24日の安倍総理との会談後の共同記者会見で、「日米安保条約第5条は尖閣諸島を含め、日本の施政下にあるすべての領域に適用される」と明言した。これは米国の高官がこれまで何回も繰り返してきたことであったが、大統領として明言した意義は大きい。しかし、手放しで喜べるわけではない。オバマ大統領は尖閣諸島に関しこれ以外にも発言している。一つは、「尖閣諸島の最終的な主権の帰属について米国としての見解を表明するのでないが」と付言していることであり、もう一つは、オバマ大統領が日本側に対応を促していることである。この2点とも日本では十分伝えられていない。
順序は逆になるが、第2の点を先に見ていこう。オバマ大統領は、”As I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. ”と言っていた。これは非常に強いメッセージであるが、報道ではあまり注目されなかった。まったく報道していない新聞もあるようだ。
通訳に問題があったためかもしれない。共同記者会見の通訳はa profound mistakeを「正しくない」と訳したと言われている。4月27日付の『琉球新報』はこのことを指摘している。もっとも、通訳による実際の訳は「正しくない」ではなく、「非常に好ましくない過ち」であった可能性もある(官邸のホームページで録音が聞けるが、私にはそう聞こえる)が、いずれにしても、オバマ大統領が安倍総理に対応を強く促したことは伝わってこない。
『琉球新報』は、a profound mistakeを「重大な誤り」と正しく訳し、オバマ大統領は「同時に私(オバマ大統領)は安倍首相に直接言った。日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、事態がエスカレーションしていくのを看過し続けるのは重大な誤りだと」と述べたと報道した上、オバマ大統領は「首相に平和的解決を強く求めた」と解説している。細かい点については訳に異論があるかもしれないが、基本的にはこの説明が正しい。
オバマ大統領が安倍総理に促した対話と信頼醸成については、日本側に悩ましい事情がある。日本政府は、尖閣諸島について領土問題は存在しないという立場であり、したがって対話の必要もないという態度である。しかし、米国は、事態がエスカレートするのは何としても避けたいという気持ちであり、そのため、日本に対しても対話などの平和的方法で解決するよう求めている。日本側の、対話をする必要はない、しない、ということだけではそのような米側の期待にこたえることができない。
ではどうするかであるが、私は、日本が国際司法裁判所で解決を図る用意があることを米国はじめ関心を持つ諸国に対して説明し、中国もそうするよう説得を依頼するのがよいと考える。それも首脳レベルで直接話し合うのがよい。日本と中国の立場は違っており、国際司法裁判所には中国から提訴のための行動を起こす必要があるそうであるが、細かいこと、あまりに法技術的なことはあえて言わないこととする。日本はこれまで、中国が提訴するなら受けて立つとまでは言ってきたが、そのことは残念ながら知られていない。日本が積極的に国際司法裁判所での解決を求めていることを首脳レベルでも分かるくらい明確に態度表明したことはないのである。
オバマ大統領は日本の対応を強く促した後、We’re going to do everything we can to encourage that diplomatically、つまり、平和的解決のためには何でも協力すると言っている。米国は一般的に国際司法裁判所での解決を重視しており、あるとき中国の高官が不用意にハワイの法的地位を問題視するような発言をした際、ヒラリー・クリントン国務長官は「やれるものならやってみればよいでしょう。国際仲裁で決着をつけよう」と反撃したことがあった。国際仲裁と国際司法裁判は厳密には異なる手続きであるが、国際的に公平な解決を求めるという意味では同じことである。
日本として中国と直接対話する必要も意図もないという姿勢を貫くのは非生産的な非難合戦を避けるためにやむをえないかもしれないが、第三国が分かる形で日本として平和的方法で解決する用意があり、また、そのために積極的に行動しようとしていることを示すことが今後ますます必要とされる。
第1の点である、米国は第三国間の領土紛争に介入しないという基本方針については、米国は従来から一貫してそのことを主張しており、今回のオバマ大統領の発言も新しいものではない。
しかし、尖閣諸島に関する限り米国は特殊な立場にあり、通常の意味での第三国でない。尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約の「琉球諸島」に含まれることを確立したのは、日本でなく米国と同条約の他の締約国であり、その際主導的役割を果たしたのは米国であった。これは1953年のことであるが、現在もその状態が継続している(キヤノングローバル戦略研究所ホームページのコラム「尖閣諸島の法的地位」参照)。このことを米国にリマインドし、米国がその立場にふさわしい行動をとるよう求めるべきである。
2014.04.26
「国連の平和維持活動(PKO)に参加する日本の部隊の武器使用はかなり制限されており、「隊員の生命などを防護する場合」は認められるが、「任務の遂行を実力で妨害する企てに対する抵抗の場合」は認められていない。前者のケースはA型、後者はB型と呼ばれることがある。この制限を分かりやすく言えば、日本の部隊は、自分たち隊員は助けるが、日本の部隊と同じPKOの中で活動している外国人、日本のNGOなどが生命の危険にさらされても、日本の部隊は、原則として、助けに行けない、日本の部隊ができるのは外国の部隊に対してこれらの人たちを助けてほしいと要請するだけである。
このようなことは誰が考えても公平でない。しかも日本の部隊は、おそらく他国と比べて装備も訓練も非常に優れており能力的には問題がないだけに、そのような制約が合理的か、国際的には疑問を持たれるであろう。自衛隊の海外での活動について日本の主要新聞にはさまざまな主義主張があるが、B型が認められるよう、あるいは少しでもそれに近づけるよう何とかしたいという気持ちがにじみ出ている論調が増えているように見受けられる。ただし、結論は憲法の制約から認められないというところで止まっている。
総理の下に設置されている「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」はB型を認めることができるか見直そうとしているそうであり、注目される。
日本の部隊が活動する場合に武力の行使が制限されるのは、二つの理由による。その一つは、日本国憲法は徹底した平和主義の観点から自衛隊が海外で武力を行使することを原則禁止していると解釈されているからであり、もう一つの理由は、平和維持活動で武力行使が認められるのは、攻撃に対して自衛する場合に限られると解されているからである(たとえば山本草二『国際法』)。
第一の憲法の関係では、9条1項は「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する」と規定しており、日本政府はこの「国際紛争」とは、「国家又は国家に準ずる組織の間で特定の問題について意見を異にし、互いに自己の意見を主張して譲らず、対立している状態」を言うと定義している(官邸ホームページ「国際的な平和活動における武器使用」)。
この定義に立ち、日本は第三国間の紛争において武力を行使できないのはもちろん、特定国内で政府と反乱軍の間で生じている紛争でも武力を行使できないと解されている。しかし、PKOは政府と反乱軍が和平に合意した後のことであり、後者の定義にあたらないのではないか。もしあたらなければ憲法の制約はPKOに及ばないことになる。
第二は、平和維持活動で武力行使が認められるのは、攻撃に対して自衛する場合に限られるという国際法の解釈は、武力行使を原則禁止にした国連憲章に起因している。すなわち、同憲章は、武力行使禁止の例外としていわゆる国連軍として行動をとる場合(第42条)と、国連加盟国が個別的または集団的に自衛権を行使する場合(第51条)をあげており、国連軍は成立しないので自衛権行使の場合だけを例外として武力行使を認めているように見える。しかし、例外はそれだけではないのではないか。同憲章2条4項は、「国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるもの」は武力行使が禁止されると規定しており、逆に言えば、国連の目的と両立する場合は武力行使が認められると解することが可能である。つまり、武力行使禁止の例外には第3のケースがあるということである。このことを認めれば、自衛権の行使でなくても武力行使ができることになる。
このようにPKOには自衛権の考えを持ちこむ必要がないばかりか、そうすることには問題がある。すなわち、自衛権を行使するのはいずれかの国が攻撃してきた場合であり、その場合攻撃する側と受ける側との間では「国際紛争」がある可能性が高い。攻撃以前の時点では敵味方ではなく平和な関係であったとしても、攻撃を仕掛けてきた場合はそこから「国際紛争」が始まることが多い。つまり「国際紛争」は自衛権の行使と同時、あるいはそれ以前から起こっており、自衛権が行使される場合、通常は「国際紛争」があるのである。
一方PKOは、それまで争っていた当事者間に和平が成立した場合のことであり、平和な状況の中で平和を乱そうとする妨害を防ぐのがPKOの目的である。したがって、PKOについて自衛権の考えを持ちこむのは、平和な状況の中での秩序維持について平和でない場合のルールを持ちこむのに等しく、適切でない。
もちろん、PKOでは武力行使が無制限に許されるのではない。各PKOに関する安保理決議を実行するのに必要な程度まで許されるということである。
このようにPKOの場合と自衛権を行使する場合を明確に区別すれば、前述したPKOに日本国憲法の制約が及ばないことが一層明確になるであろう。PKOは国連の監視下にある平和な状況の中での行動であり、日本の部隊が武力を行使しても侵略などに発展することはありえない。
以上、鍵となるのは、PKOを国連憲章2条4項の武力行使禁止の第3の例外とみなすことと、PKOは自衛権発動の事態とは基本的に異質な、平和な状況であることを認識することであり、私はこれらを肯定し、自衛権の発動でも、また日本国憲法で制限されている問題でもないPKO部隊は、国連決議の履行に必要な限りにおいて武力を行使できると考える。
PKOと武器使用
キヤノングローバル戦略研究所のホームページに掲載された一文「国連の平和維持活動(PKO)に参加する日本の部隊の武器使用はかなり制限されており、「隊員の生命などを防護する場合」は認められるが、「任務の遂行を実力で妨害する企てに対する抵抗の場合」は認められていない。前者のケースはA型、後者はB型と呼ばれることがある。この制限を分かりやすく言えば、日本の部隊は、自分たち隊員は助けるが、日本の部隊と同じPKOの中で活動している外国人、日本のNGOなどが生命の危険にさらされても、日本の部隊は、原則として、助けに行けない、日本の部隊ができるのは外国の部隊に対してこれらの人たちを助けてほしいと要請するだけである。
このようなことは誰が考えても公平でない。しかも日本の部隊は、おそらく他国と比べて装備も訓練も非常に優れており能力的には問題がないだけに、そのような制約が合理的か、国際的には疑問を持たれるであろう。自衛隊の海外での活動について日本の主要新聞にはさまざまな主義主張があるが、B型が認められるよう、あるいは少しでもそれに近づけるよう何とかしたいという気持ちがにじみ出ている論調が増えているように見受けられる。ただし、結論は憲法の制約から認められないというところで止まっている。
総理の下に設置されている「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」はB型を認めることができるか見直そうとしているそうであり、注目される。
日本の部隊が活動する場合に武力の行使が制限されるのは、二つの理由による。その一つは、日本国憲法は徹底した平和主義の観点から自衛隊が海外で武力を行使することを原則禁止していると解釈されているからであり、もう一つの理由は、平和維持活動で武力行使が認められるのは、攻撃に対して自衛する場合に限られると解されているからである(たとえば山本草二『国際法』)。
第一の憲法の関係では、9条1項は「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する」と規定しており、日本政府はこの「国際紛争」とは、「国家又は国家に準ずる組織の間で特定の問題について意見を異にし、互いに自己の意見を主張して譲らず、対立している状態」を言うと定義している(官邸ホームページ「国際的な平和活動における武器使用」)。
この定義に立ち、日本は第三国間の紛争において武力を行使できないのはもちろん、特定国内で政府と反乱軍の間で生じている紛争でも武力を行使できないと解されている。しかし、PKOは政府と反乱軍が和平に合意した後のことであり、後者の定義にあたらないのではないか。もしあたらなければ憲法の制約はPKOに及ばないことになる。
第二は、平和維持活動で武力行使が認められるのは、攻撃に対して自衛する場合に限られるという国際法の解釈は、武力行使を原則禁止にした国連憲章に起因している。すなわち、同憲章は、武力行使禁止の例外としていわゆる国連軍として行動をとる場合(第42条)と、国連加盟国が個別的または集団的に自衛権を行使する場合(第51条)をあげており、国連軍は成立しないので自衛権行使の場合だけを例外として武力行使を認めているように見える。しかし、例外はそれだけではないのではないか。同憲章2条4項は、「国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるもの」は武力行使が禁止されると規定しており、逆に言えば、国連の目的と両立する場合は武力行使が認められると解することが可能である。つまり、武力行使禁止の例外には第3のケースがあるということである。このことを認めれば、自衛権の行使でなくても武力行使ができることになる。
このようにPKOには自衛権の考えを持ちこむ必要がないばかりか、そうすることには問題がある。すなわち、自衛権を行使するのはいずれかの国が攻撃してきた場合であり、その場合攻撃する側と受ける側との間では「国際紛争」がある可能性が高い。攻撃以前の時点では敵味方ではなく平和な関係であったとしても、攻撃を仕掛けてきた場合はそこから「国際紛争」が始まることが多い。つまり「国際紛争」は自衛権の行使と同時、あるいはそれ以前から起こっており、自衛権が行使される場合、通常は「国際紛争」があるのである。
一方PKOは、それまで争っていた当事者間に和平が成立した場合のことであり、平和な状況の中で平和を乱そうとする妨害を防ぐのがPKOの目的である。したがって、PKOについて自衛権の考えを持ちこむのは、平和な状況の中での秩序維持について平和でない場合のルールを持ちこむのに等しく、適切でない。
もちろん、PKOでは武力行使が無制限に許されるのではない。各PKOに関する安保理決議を実行するのに必要な程度まで許されるということである。
このようにPKOの場合と自衛権を行使する場合を明確に区別すれば、前述したPKOに日本国憲法の制約が及ばないことが一層明確になるであろう。PKOは国連の監視下にある平和な状況の中での行動であり、日本の部隊が武力を行使しても侵略などに発展することはありえない。
以上、鍵となるのは、PKOを国連憲章2条4項の武力行使禁止の第3の例外とみなすことと、PKOは自衛権発動の事態とは基本的に異質な、平和な状況であることを認識することであり、私はこれらを肯定し、自衛権の発動でも、また日本国憲法で制限されている問題でもないPKO部隊は、国連決議の履行に必要な限りにおいて武力を行使できると考える。
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