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朝鮮半島

2022.04.14

尹錫悦氏の朴槿恵氏訪問などと日韓関係


 現在韓国の政界で起こっていることは理解に苦しむ。

 5月10日に次期韓国大統領に就任するのを前に、尹錫悦氏が朴槿恵前大統領を訪問し、謝罪した件である。尹錫悦氏は4月12日、2021年12月に特別赦免された朴槿恵前大統領の自宅(大邱)を訪れ、「面目がない。いつも申し訳なく思っていた」と謝罪した。謝罪の理由は尹氏が特別検察官の捜査チーム長として朴氏の疑惑を捜査・訴追し、結果、朴氏は国会では弾劾され、裁判では2件で計22年の懲役刑となり、収監されたことなのであろう。

 会談は約50分間。和やかな雰囲気で行われ、朴氏は「激務だろうが、良い大統領であってほしい」と尹氏を気遣った。

 尹氏は朴氏に、就任式の出席を要請した。また、尹氏は「朴氏の行った政策を継承し、広く知らせて、名誉を回復できるようにする」と強調し、朴氏は感謝の意を示したという。

 尹錫悦氏はなぜ謝罪したのか。朴槿恵氏に対し、してはならないことをしたかのような発言であるが、当時、検事として法に従い行動したのであり、そのことには疑義が呈せられていない。問題なかったわけである。

 朴氏との和解を演出して保守の結束をアピールする狙いだとする見方もある。しかし、そのためなら尹氏が朴槿恵氏の自宅を訪れ、会談することで十分だったはずである。謝罪することは必要でない。謝罪はどう考えても奇異な感じである。

 尹氏は会談後、記者団にも「人として、申し訳ないという気持ちを伝えた」と発言した。何が人として申し訳ないのか。この発言にも、尹氏は道徳的に反省すべきことをしてしまったような印象があり、奇妙である。

 検察官として法に基づき行った行為についても有罪と判断した、あるいは訴追したことについては謝罪するのが韓国の常識だというなら話は違ってくるが、万一そういうことであれば、それはそれで恐ろしいことである。日本人が韓国の裁判所で裁判されることもあろう。その場合に、法律に従うだけでなく、検察官は「人として申し訳ない」と思うほどのことを行うのか。

 朴槿恵氏の側も心得たものである。朴氏が感謝の意を表明したのは分かるとしても、「激務だろうが、良い大統領であってほしい」と尹氏を気遣ったことはどう理解すべきか。相手の尹氏は自分(朴氏)に対して「人として申し訳ない」というほどのことを行ったのだが、朴氏は鷹揚に、暖かく応じたことになる。それは立派な態度とみられるかもしれないが、過度に親切ではないか。

 現在、文在寅大統領の政権与党「共に民主党」側の大物や家族が血祭りに上げられている。検察改革を掲げて2019年9月に法相に任命され、当時検事総長だった尹氏と対立関係にあった曺国(チョ・グク)元法相の娘の大学院入学は取り消された。曺氏は「これでご満足いただけたか」と悲痛な叫びをフェイスブックに投稿し、「(娘にとって)人生を破壊する死刑宣告と何ら変わりません」とも訴えた。

 朴氏の友人で国政に関与した疑いで逮捕、起訴された崔順実(チェ・スンシル)氏の娘に不正入学疑惑が浮上した時、曺氏は崔氏を激しく批判したが、結局は自分と家族も同類だったのではないか。

 曺氏にはさらに、長男、実弟が嫌疑をかけられ、「曹国事態」と呼ばれる状況になっているという。

 退任を控えた文大統領には、不正な土地投機疑惑や市長選介入疑惑があるほか、妻の金正淑(キム・ジョンスク)氏には、衣装代を特殊活動費で購入した疑惑が持ち上がっている。「大統領府が『公費ではない』と主張するなら内訳を公開すべきだ」という声も日に日に強まっているという。

 今回の大統領選で尹氏に敗れた李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事の妻、金恵景(キム・ヘギョン)氏も捜査対象となっている。李氏が京畿道知事を務めていた当時、金氏が公務用クレジットカードを私的流用していたとして、4日に京畿南部警察庁が京畿道庁を家宅捜索している。当時の道職員に料理の配達など私的な雑用をさせていた疑いもあるという。

 李在明氏自身については、以前よりささやかれていた京畿道の土地開発を巡る不正、あるいは自身と反社会的勢力とのつながりとそれを利用して政治に介入していたことへ疑惑が向けられている。

 あるコメンテーターは、「尹氏の指示ではなく、権力に寄り添う姿勢をみせる検察などが積極的になっているのだろう。韓国独特の検察の体制に大きな問題があるが、今後、風(世論)を読んだ上で文氏や李氏を追い込むのではないか」とコメントしているが、これも気になる。

 尹錫悦氏は日本との関係改善に熱意を持っていると伝えられている。不肖私も日韓関係の改善を望む一人であるが、同氏の朴槿恵氏訪問と、文在寅大統領や曺国元法相、さらには李在明氏などに起こっていることからうかがわれる韓国の政治・司法事情は日本とあまりにもかけ離れている。日本は、慰安婦や元徴用工の問題に関しては条約や両国政府で合意したことを忠実に履行すべきだという立場であるが、韓国では、条約、両国間の合意、法律では問題は解決しないという立場に見える。尹錫悦氏が朴槿恵氏に対して誠意を示すことについて第三者としてとやかく言うつもりはないが、検事総長まで努めた人物であり、条約であれ、国内法であれ、法的に処理することの重要性をよく理解している大統領になることが期待される。

 日本でも最近、犯罪、あるいはその恐れが強いことが政治の世界の暗闇で行われ、権力の乱用が起こっている。そのことに目をつぶることは断じてできないが、2国間で合意したことを忠実に履行することは絶対的に必要である
2022.01.24

北朝鮮の外交展望

 北朝鮮の朝鮮中央通信は1月20日、朝鮮労働党中央委員会政治局会議が19日に開かれ、「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を、迅速に検討するよう当該部門に指示した」と報道した。北朝鮮は今月に入ってから5日、11日、14日、17日にミサイルの発射実験を行ったばかりであった。

 度重なるミサイルの発射実験や新たな核実験の示唆は、東アジアの平和と安全にとって大きな脅威となる。経済的に危機的な状況にある北朝鮮は、各国との関係を一層悪化させるようなことをなぜするのか、不可解である、というのが多くの国の見方であり、北朝鮮は危険な瀬戸際外交を行っていると非難される。だが、北朝鮮の考えを知る努力も必要であろう。北朝鮮としては以下のように見ているのではないかと思われる。

〇北朝鮮にとって米国との関係がどの国よりも重要であることは今後も変わらない。韓国とはいろいろな事情が絡んでおり、文在寅政権は北朝鮮に対して友好的姿勢をみせるが、北朝鮮として最も期待する制裁の解除には役立たない。韓国では3月9日に選挙が行われ、新大統領となるが、新政権は制裁解除に役立つかが最重要の問題である。

〇バイデン政権が成立以来の北朝鮮政策を維持する限り、新しい状況を作り出すことは困難である。バイデン大統領は、表舞台では北朝鮮のミサイル発射実験を非難しつつ、国務省の朝鮮問題専門家などに北朝鮮との交渉を進展させる道を非公式に探らせているが、その方法は官僚重視のボトムアップ型である。交渉を進展させるには米国としての政治的な意思を示すことが必要である。

〇バイデン政権は、成立以来中国に対して厳しい姿勢を取ってきたが、最近は、ロシアがウクライナにおいて事を起こす危険が高まっており、米国にとって、中国とロシアとの関係が最大の課題となっている。またその関係で米国内でもバイデン政権に対する批判が高まる可能性がある。これらの状況も米国が北朝鮮との関係においてイニシャチブを取るのに妨げになっている。

〇北朝鮮としては、中国及びロシアとの関係を損なわない範囲内で、米国に対し強い態度で臨むことが得策である。トランプ政権時代に踏み切ったミサイルと核の実験停止を解除する、あるいはそれを示唆することが北朝鮮の自由な行動の範囲を広めることになる。

〇中国との貿易は制裁により制約を受けているが、中国は米国と厳しく対立する結果、米国の言いなりにならなくなっている。北朝鮮との貿易にも柔軟に対応する可能性が出てきている。(注 中国からの援助物資を積んだ列車が数日前、2年ぶりに北朝鮮に入ったことが注目される。)


 一方、日本の岸田政権は、現在まで前政権の対北朝鮮姿勢を変えていないが、バイデン政権から新しい政策が取られる可能性はますます遠のいているだけに、日本としてどのような役割を果たすべきか、新たなマインドで検討すべきではないかと思われる。たとえば、北朝鮮がミサイルと核の実験を停止し続けることと引き換えに、毎年定期的に行われている、北朝鮮を標的とする米韓合同演習の在り方を日米韓で検討しなおす余地があるのではないか。
2022.01.21

佐渡島金山の世界遺産登録を断念すること

 日本政府は、「佐渡島の金山」を世界文化遺産として2023年登録に向け推薦することを断念する方針だという。地元の人たちにとっては残念なことだろうが、政府の方針は正しい。
 本件は2021年12月29日に当研究所HPですでに論じたことであるが、この際要点をあらためて確認しておきたい。特に、韓国が反対するからということが登録推薦を断念する理由であるとする報道が目に付くが、それだけでは最も大事な点が抜け落ちている。国際社会の意思を日本が無視したことになる恐れが大きいことが問題である。

 韓国が反対しても、日本側に理があると確信しているのであれば、その旨を、登録を決定する世界遺産委員会において主張すればよい。しかし、日本の主張が通るかいなか明確でなければ妥協の道を探るべきである。

 日本と韓国の間では類似の問題が長崎の軍艦島の登録について起こっている。詳しい経緯は下に引用する一文で述べているので繰り返さないが、要点は、2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が日本に来て関連施設を視察した結果、日本の対応は「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。日本側はこの決議を今日に至るも無視し続けているのである。

 日本側がもし今後も同様の態度で臨むならば、いつまでも日本は「決議違反」あるいは「決議無視」の非難を浴びることとなり、将来類似のケース、つまり「徴用工問題」が関係するケースにおいては、世界遺産委員会、ひいてはユネスコで理解は得られない状況が続くことになる。

 要は、世界遺産委員会において示された各国の意思を、日本が無視していることが問題である。このような事態は一刻も早く是正しなければならない。


2021.12.29 平和外交研究所ホームページ
佐渡金山遺跡の世界遺産登録問題
 我が国の文化審議会は2021年12月28日、2023年の世界文化遺産登録の候補として佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を選定すると答申した。ただしこの答申には、「日本政府は審議会の答申通りにユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦するかどうか、総合的に検討する」という趣旨の異例の注釈がつけられた。

 日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。

 旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。

 だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。

 しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。

 そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。

 佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。

 本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。

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