平和外交研究所

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朝鮮半島

2025.03.23

日朝国交正常化問題


以下は2025年3月21日、 INAF(東北亜未来構想研究所)の研究会で行った美根慶樹の講演を若干手直ししたものである。

日朝間で最近若干のやり取りがあった。金正恩総書記は2024年1月5日、岸田文雄首相に能登半島地震見舞いの電報を送り、その中で岸田首相を「閣下」という敬称で呼んだ。2月と3月、日本とのサッカーの試合で北朝鮮チームはフェアプレーに徹した振る舞いを見せ、報道陣から試合ぶりを称賛する発言が飛び出すほどであった。以前、北朝鮮のチームは勝つことにこだわるあまりラフプレーになることが多かったが、この時のプレーはがらりと変わったのである。北朝鮮が日本との関係に意を用いていることは明らかであった。 

岸田首相は2月9日、 衆議院予算委員会で「北朝鮮との関係については大胆に現状を変えていかなければならない。日本政府は様々なルートで接触を試みている」との趣旨を発言した。

これに対し金与正朝鮮労働党副部長は2月15日、「日本側が拉致問題を障害物にしなければ、両国が近づけない理由はない。岸田文雄首相による平壌訪問もあり得る」との見解を示した。

しかし、日本側は拉致問題を終わったことにはできないと応じ、これに対し金与正氏は「日本側とのいかなる接触も交渉も無視し、拒否する」との談話を発表するに至った。岸田首相は3月26日、金与正氏の談話について「コメント一つひとつについて何か申し上げることは控える」と発言し、今回のやり取りは終わった。

日本側が北朝鮮に対する方針を変えなかったことは明らかであった。「北朝鮮との関係については大胆に現状を変えていかなければならない」との岸田氏の発言は、言葉としては今後の変化を予兆するものであったが、実が伴わないものであった。またかという感じであった。岸田首相は好んでこのようなことを述べたのでない。日本の政治状況の中では現状を変えることはできないのである。

一方北朝鮮は、最近、特に目立ってきたのは2023年からであったが、内政、外交両面で変化の様相を見せている。

これまで全国津々浦々に掲げられ、あるいは設置されていた金日成や金正日の肖像や銅像が公の場から撤去されている。

金日成主席が生まれた1912年を元年とする「主体年号」の使用はやめ(2024年以来?)西暦のみを用いている。金日成の誕生日は「太陽節」と呼ばれていたが、今は「4・15」あるいは「4月の名節」と表記するようになっている。これらは画期的な変化である。

金正恩はこれまで祖父の金日成と父の金正日の権威の下に北朝鮮を率いてきたが、最近自らの体制を強化し、また自信を強めている。「金正恩主義」とか「太陽・金正恩将軍」とか「親しいオボイ(親愛なる父の意)」などの呼称が多くなっている。

外交面ではロシアとの関係が目立ってよくなり、北朝鮮の立場が向上している。金正恩総書記は23年9月訪ロし、前回(4年前)とは比較にならないくらい歓迎された。ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地の視察にはプーチン大統領が金総書記に同行し、北朝鮮が熱望していたミサイル技術の提供を約した。

プーチン大統領も2024年6月、24年ぶりに北朝鮮を訪問。金正恩総書記と19日、「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。その第4条は「露朝のいずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」というものであり、一部には冷戦が復活したとの観測を呼んだ。

このような北朝鮮の内外の大変化が日本との関係にどのような影響を及ぼすか。日本に対しては、北朝鮮は相変わらず拉致問題は解決済みとのシングルイシューであることは前述したとおりである。

一方日本は政治状況が変わらない限り、真に新しい機軸を打ち出すことはできない。かといって何もできないとは思わない。遺骨問題については、いくつか問題が未解決のまま残っており、日本政府が決断すれば突破口は開けてくるのではないか。経済面では制裁はともかく、日本政府はかつて人道的な食糧援助を行ったこともある。つまり状況次第では日本として再度考慮することもありうる。

2014年の拉致問題に関する「特別調査」の結果について、日本と北朝鮮の立場が違ったままになっている。北朝鮮は特別調査の結果を日本側に伝えたと主張しているが、日本側は受け取っていないという。調査結果の説明は本来事務的な問題であり、一刻も早く解消すべきである。

ざんねんながら、拉致問題についてはやはり米国頼みになるだろう。前トランプ政権(トランプ1)の際の経験があるが、同様には考えられない。トランプ氏は以前と同じくらい北朝鮮問題に熱意を傾けるか。傾けるとしても、非核化を目標にできないのではないか。また、トランプ氏は安倍首相に二枚舌を使っていた。今回は米朝会談が開かれるにしてもそのようなことを許してはならない。それに現在のトランプ氏はあまりにも予測不能である。そのように考えると、トランプ2においては日本にとって状況は不利であるといわざるを得ない。

日本としては日本の政治状況が大事か、それとも真の解決が大事か、あらためて問われている。
2025.01.22

最近の韓国政情

1月19日、尹錫悦大統領が逮捕された。韓国の大統領の地位は不安定である。特に疑問な点を挙げてみた。

〇第1の疑問 「韓国の国家秩序は乱れた」
 尹錫悦大統領は12月3日、非常戒厳を突然宣布した。だが、それからわずか6時間後、国会から解除要求決議を突きつけられ、解除に追い込まれた。

 尹氏は非常戒厳を宣布する際、野党が過半数を握る国会において、政府の官僚や検事らへの弾劾訴追の発議が相次いでおり、司法業務や行政府までまひさせていると主張。最大野党の「共に民主党」が予算までも政争の手段に利用していると批判し、国家機関を乱すことで内乱を画策する「明白な反国家行為」だと述べた。

 大統領の周りには大統領が執務を滞りなく遂行できるよう必要な機構と人員が配置されているはずであり、国情を判断して大統領にアドバイスし、必要な場合実力を使ってでも大統領を擁護する。もちろん大統領が常に正しいわけではなく、弾劾によって大統領を否定しなければならないこともある。いずれにしてもそのような国家機能が正しく機能しないと国政はいたずらに乱れる。

 今回、尹大統領側は非常戒厳を宣布すれば事態はどうなるか、詳しく検討したはずであるが、6時間で撤回を迫られたのは大統領側に判断ミスがあったのであろう。だが、大統領を批判する側も必要な手順を踏み、国家の秩序を揺るがせないよう慎むべきであったのではないか。これが今回の政変についての第一の、かつ最大の疑問である。

〇弾劾決議・弾劾審判
 12月14日、尹錫悦大統領に対する国会の弾劾決議案(2回目)は議員300人全員が出席し、賛成204票、反対85票、無効8票、棄権3票という結果となって成立した。これにより、尹大統領の職務は停止された。

 憲法裁判所は12月16日、尹氏の罷免の可否を判断する弾劾審判を開始した。非常戒厳が憲法の定める要件を満たしているかが判断され、6か月以内に弾劾の妥当性を判断する。6人以上の裁判官が弾劾に賛成すれば、大統領は罷免される。

(注 韓国では大統領が弾劾されたことはこれまで何回もあった。ただし、最終的に大統領を罷免されたケース、刑事訴追を受けたケース、退任後訴追されたケースなども併せてみていかないと大統領の地位の安定性ははっきりしない。この考えでみれば、韓国の大統領で問題にならなかった例はほとんどいないといっても過言でない。)

〇尹氏の拘束
 弾劾決議が合法か、弾劾裁判が進行中だが、合同捜査本部は1月15日、尹大統領を拘束した。尹氏が宣布(宣告)した非常戒厳令は内乱罪であるというのが理由であった。

 これに対し尹氏は、戒厳令は内乱に当たらない、憲法は大統領の不訴追特権を定めており、在職中に刑事上の訴追を受けない、合同捜査本部による拘束は違法であり、韓国の法秩序は崩壊していると主張した。
 後に、憲法審判において検察役を務める国会の訴追団野党側が内乱罪の訴追を取り下げ、尹氏による「非常戒厳」宣言の違憲・違法性に立証を絞ると表明したので内乱罪の問題は解消した。しかし、尹氏側は内乱罪が成立しないなら訴追をすべて却下すべきだと反発した。

〇尹氏の逮捕
 内乱容疑で拘束された韓国の尹錫悦大統領について、合同捜査本部に加わる高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)は17日、逮捕状を請求し、ソウル西部地裁は19日未明に逮捕状を発付した。

 尹氏の支持者らはこれに反発して同地裁の敷地内に乱入し、暴動に発展した。

 韓国の制度は日本と異なり、容疑者の身柄を拘束し、そのうえで逮捕するという2段階に分かれているが、尹大統領に対する弾劾の可否が審判中であるのに、拘束や逮捕が行われるのは不可解である。他の国では大統領の行動に不満があっても、拘束や逮捕には慎重だろう。韓国の2段階拘束制と大統領の拘束・逮捕も疑問である。

〇尹氏の起訴
 韓国の検察は1月26日、尹大統領を内乱罪で起訴した。現職の大統領が起訴されたのは初めて。罷免(ひめん)の可否を判断する弾劾(だんがい)審判が憲法裁判所で始まっているが、並行して刑事責任も問われることになる。

〇支持率
 一方、尹大統領の支持率は年末から急速に回復しはじめた。12月7日に7%程度まで落ちていた尹錫悦大統領の支持率は、1月4日には40%を超えた。与党・国民の力の支持率も上昇しており、野党・共に民主党の支持率とほぼ同じ40%強まで回復、17日には共に民主党を5カ月ぶりに上回るという調査結果まで出た。尹大統領拘束・逮捕は過早であったと国民が思い直し始めたと思いたいが、実情は謎である。
 韓国内の大手マスコミや新聞社ではほとんど報道していないという。世論調査についても問題があるともいわれている。韓国内の報道機関や世論調査機関を民主党と左派勢力が掌握していることは周知であり、自分たちに有利なデータばかりを公表しているともいわれているが、これらも疑問である。
2025.01.04

韓国の政治不安定

 韓国の政情が危機的状況に陥っている。12月3日の夜、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言したが、4日未明に国会から同宣言の解除を求められ、宣布から約6時間後に解除に追い込まれた。それ以来さまざまな動きが起こっているが、年が明けても一向に収束せず、むしろ悪化している感がある。

 尹大統領を内乱容疑などで捜査している合同捜査本部は1月3日、尹大統領に対する拘束令状を執行するため公邸の敷地内に入ったが、大統領の警護員らに阻まれ、この日の執行を断念した。合同捜査本部は再度の執行など今後の対応について検討するといっている。

 事態の展開はあまりにも急速で、また劇的であり、この時点で韓国の政治を見通すのは困難であるが、早期に政情が正常化するとも思えないので、思い切って現在の政治状況、特に韓国の政治がわかりにくい点に絞って考察を試みることとしたい。

 韓国の大統領は、日本のように内閣を議院が信任して選出する議院内閣制方式でなく、直接選挙でえらばれる。米国などとその点では類似している。しかし、この方式に韓国人が満足しているかというと、そうでもないらしい。直接選挙だと大統領の権限があまりにも強くなりすぎるという理由で、むしろ日本のような議院内閣制を取り入れるべきだという意見も少なくないらしい。

 今回韓国で起こっていることは、そのような心配は杞憂であることをあらためて露呈した。直接選挙でえらばれるが、大統領の権限は弱すぎる。尹大統領が実際に身柄を拘束されるか、今日4日の時点ではわからないが、かりに拘束されるとなると、大統領の権限には脆弱なところがあることが明らかになる。かりに、尹大統領が逮捕されないで押し通すことができても、韓国の大統領が検察や警察から法令違反を問われることがある限り、また、そのような法令違反の追求が違法でない限り、大統領の権限は弱いといわざるを得ない。第三者の無責任発言になるかもしれないが、大統領はもっと強い権限を持ち、いわゆる不逮捕特権を認められるべきではないか。不適切な行為をしても逮捕されないことを認めている例は各国にあり、日本も国会議員の不逮捕特権を認めている。韓国大統領の権限はこれら諸国と比べても弱すぎる。

 さらに不可解なのは、大統領側の「非常戒厳」宣言も、また大統領を批判している側もともに韓国の民主主義が損なわれることを理由にしていることである。

 大統領側は、行政府がまひし、国政運営がままならない状況に立ち至っている、野党は予算をも政争の手段として利用していると主張している。一方野党側は尹氏の「独善的」な政治手法を批判し、尹氏は韓国の民主主義を傷つけた、市民から政治の自由や報道の自由を奪おうとしたなどとしている。国民の多数はこのような野党の声に賛同しているらしい。

 詳しい事情はわからないので、我々第三者としてはどちらが民主政治を損なっているか安易に判断することは控えなければならないが、その前提に立っても大統領を拘束するのに国家機関が動き出したこと、またそのような動きを多数の国民が同調していることは問題であり、そういう事態が続けば韓国の政治の不安定性はなかなか是正されないのではないか。

 第二次大戦が終了して以降、朝鮮は独立達成のため内戦まで経験せざるをえなかった。それも乗り越え、韓国は民主的な国家に成長した。韓国が民主化して以降の大統領は、金泳三、金大中、廬武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅、それに尹錫悦となったが、尹氏はすでに職務停止処分を受けている。その代行のハン・ドクス(韓悳洙)首相も弾劾され、さらにその代代行のチェ・サンモク(崔相穆)副首相兼企画財政相が代行している。韓国政治の不安定性は解消されていない

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