平和外交研究所

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朝鮮半島

2025.01.04

韓国の政治不安定

 韓国の政情が危機的状況に陥っている。12月3日の夜、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言したが、4日未明に国会から同宣言の解除を求められ、宣布から約6時間後に解除に追い込まれた。それ以来さまざまな動きが起こっているが、年が明けても一向に収束せず、むしろ悪化している感がある。

 尹大統領を内乱容疑などで捜査している合同捜査本部は1月3日、尹大統領に対する拘束令状を執行するため公邸の敷地内に入ったが、大統領の警護員らに阻まれ、この日の執行を断念した。合同捜査本部は再度の執行など今後の対応について検討するといっている。

 事態の展開はあまりにも急速で、また劇的であり、この時点で韓国の政治を見通すのは困難であるが、早期に政情が正常化するとも思えないので、思い切って現在の政治状況、特に韓国の政治がわかりにくい点に絞って考察を試みることとしたい。

 韓国の大統領は、日本のように内閣を議院が信任して選出する議院内閣制方式でなく、直接選挙でえらばれる。米国などとその点では類似している。しかし、この方式に韓国人が満足しているかというと、そうでもないらしい。直接選挙だと大統領の権限があまりにも強くなりすぎるという理由で、むしろ日本のような議院内閣制を取り入れるべきだという意見も少なくないらしい。

 今回韓国で起こっていることは、そのような心配は杞憂であることをあらためて露呈した。直接選挙でえらばれるが、大統領の権限は弱すぎる。尹大統領が実際に身柄を拘束されるか、今日4日の時点ではわからないが、かりに拘束されるとなると、大統領の権限には脆弱なところがあることが明らかになる。かりに、尹大統領が逮捕されないで押し通すことができても、韓国の大統領が検察や警察から法令違反を問われることがある限り、また、そのような法令違反の追求が違法でない限り、大統領の権限は弱いといわざるを得ない。第三者の無責任発言になるかもしれないが、大統領はもっと強い権限を持ち、いわゆる不逮捕特権を認められるべきではないか。不適切な行為をしても逮捕されないことを認めている例は各国にあり、日本も国会議員の不逮捕特権を認めている。韓国大統領の権限はこれら諸国と比べても弱すぎる。

 さらに不可解なのは、大統領側の「非常戒厳」宣言も、また大統領を批判している側もともに韓国の民主主義が損なわれることを理由にしていることである。

 大統領側は、行政府がまひし、国政運営がままならない状況に立ち至っている、野党は予算をも政争の手段として利用していると主張している。一方野党側は尹氏の「独善的」な政治手法を批判し、尹氏は韓国の民主主義を傷つけた、市民から政治の自由や報道の自由を奪おうとしたなどとしている。国民の多数はこのような野党の声に賛同しているらしい。

 詳しい事情はわからないので、我々第三者としてはどちらが民主政治を損なっているか安易に判断することは控えなければならないが、その前提に立っても大統領を拘束するのに国家機関が動き出したこと、またそのような動きを多数の国民が同調していることは問題であり、そういう事態が続けば韓国の政治の不安定性はなかなか是正されないのではないか。

 第二次大戦が終了して以降、朝鮮は独立達成のため内戦まで経験せざるをえなかった。それも乗り越え、韓国は民主的な国家に成長した。韓国が民主化して以降の大統領は、金泳三、金大中、廬武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅、それに尹錫悦となったが、尹氏はすでに職務停止処分を受けている。その代行のハン・ドクス(韓悳洙)首相も弾劾され、さらにその代代行のチェ・サンモク(崔相穆)副首相兼企画財政相が代行している。韓国政治の不安定性は解消されていない
2024.04.01

日朝首脳会談は開催できない

 岸田首相はかねてから日朝関係を打開するために金正恩総書記と首脳会談を行いたいとの意向を表明してきた。2023年11月26日の「国民大集会」でも「様々なルートを通じ、働きかけを絶えず行い続けている。早期の首脳会談の実現に向け、働きかけを一層強めていく」と発言していた。そして2024年2月9日の国会の衆議院予算委員会においても同じ発言を行った。

 岸田発言に対して北朝鮮側は2月15日、金与正労働党副部長の談話で反応してきた。「解決済みの拉致問題を障害物としなければ」と条件付きであったが、「日本が政治的決断を下せば、両国はいくらでも新しい未来を共に開いていくことができる」、「首相が平壌を訪問する日が来る可能性もある」、「岸田首相の発言は、肯定的なものとして、評価されないはずがない」などと語った。

 翌16日、林官房長官は記者会見で「金与正談話は留意している。拉致問題を解決済みとすることについてはまったく受け入れられない」と表明。

 すると金与正氏は1か月後の3月25日、「これ以上解決すべきことも、知るよしもない拉致問題に依然として没頭するなら首相の構想が人気取りにすぎないという評判を避けられなくなるであろう」、「自分が願うからといって、決心したからといってわが国家の指導部に会うことができ、また会ってくれるのではないということを首相は知るべきである」と再度の談話を発表。
  
 崔善姫(チェソンヒ)外相も4日後の29日、「朝日対話は我々の関心事ではなく、日本のいかなる接触の試みも容認しない」、拉致問題について「解決してあげられるものがないばかりか、努力する義務もない。またそうする意思も全くない」との談話を発表し、日朝間の交渉を改めて拒否した。
 
 また、北朝鮮の李竜男(リリョンナム)駐中国大使は同日、北京の日本大使館の関係者が28日、北朝鮮の大使館員に電子メールで接触を提案してきたと表明した(朝鮮中央通信)。

 北朝鮮側は、岸田首相が試みてきた首脳会談の働きかけには応じない、本件については日本側とこれ以上話さないとの態度をとったのだが、今後日本側としてはどのように北朝鮮との関係を考えていくべきか。

 首脳会談を何回呼び掛けても同じことの繰り返しになるだけであり、いたずらに状況を悪化させてしまう危険さえあるだろう。

 カギはやはり拉致問題である。日本政府は今後も「拉致被害者を全員日本へ帰国させよ」の姿勢をあくまで堅持していくだろう。しかし日本政府は、拉致問題に関して為すべきことを全て実行しているのではない。

 横田めぐみさんの「遺骨」について疑問が残ったままになっている。日本政府は北朝鮮から引き渡された「遺骨」は横田めぐみさんのものではないと発表したが、この発表に対しては深刻な疑問が呈されており、それに対し日本政府は疑問を解く努力をしていない。この問題の解明には警察の協力が不可欠だが、政府は警察に解明を命じていない。一部警察官僚の言いなりになっているとの見方さえある。

 拉致問題の解決は、「遺骨」問題を通じて日朝両国が前進できるかにかかっている。もちろん横田めぐみさんのご家族次第であるが、この「遺骨」問題を突破口として関係者があらためて検討を行い、日朝関係が前進することを望んでいる。
2024.03.19

日朝関係は動くか2024年3月

 北朝鮮はミサイルの発射実験を続けている。3月18日午前には新たに6 発を発射した。この点は今までと変わっていないが、一方で、金正恩総書記は北朝鮮の国際的地位を押し上げようとしている。さる2月1日、当研究所のHPに「金正恩の近代的強国」と題する一文を掲載したが、いわばその続きが行われているようだ。

 岸田首相は2月9日の衆院予算委員会で、金正恩総書記との首脳会談の実現に向け「私自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要だ」と答弁し、また 首脳会談の実現に向け「さまざまなルートを通じて働き掛けを絶えず行っている。具体的な結果につながるよう最大限努力していきたい」と述べるなど意欲を示した。(その後、3月19日には、サッカーワールドカップアジア2次予選「日本対北朝鮮」のアウェーでの試合に合わせて外務省の北朝鮮担当の職員ら十数名が平壌入りすることが判明した。)

 岸田首相の発言に呼応する形で、金与正朝鮮労働党副部長は2月15日、個人的見解として談話を発表し、日本が政治的決断を下せば「岸田文雄首相が平壌を訪問する日が来る可能性もある」と述べた。また与正氏は「(岸田首相の発言が)過去の束縛から大胆に脱し、関係を進展させようとする真意から出たものであれば評価されない理由はない」、「拉致問題を障害物としなければ両国が近くなれない訳はない」と指摘したとも報道された。与正氏は本気で岸田首相の北朝鮮訪問を実現しようとしているのか、よくわからない面があるが、いずれにしても金正恩総書記の指示に従い発言したのであろう。

 岸田首相は金正恩総書記との首脳会談に前向きの姿勢を示しているが、拉致問題の解決は「首相自身が主体的に動き、金正恩総書記とトップ同士の関係を築けば可能」だと考えているのか。これまで解決しなかった拉致問題が、このような姿勢で臨めば解決できると考えているのか、客観的にはよくわからない。首相が表明していることは従来からの繰り返しにすぎないのかもしれない。

 金正恩総書記が北朝鮮の世界における地位を押し上げようとしているのが事実であれば、日本としては、北朝鮮が立派になりたいならば拉致問題を解決すべきであることを改めて要求できるはずである。しかし、少なくとも金与正氏の談話ではそれはできないことを明言している。そうであれば、北朝鮮の立場からすれば、日本側はできないことを求めていることになる。これまでの堂々めぐりと何ら変わらないことになる。

 それから1か月半しか経っていないが、その間に金正恩氏の姿勢を示す出来事がもう一つ起こった。

 2月28日、東京・国立競技場で行われたパリ五輪女子サッカーアジア最終予選で日本は2-1で北朝鮮を下し、パリ五輪(オリンピック)出場権を獲得した。
 試合後、北朝鮮のリ・ユイル監督は、報道陣から「(北朝鮮チームの)フェアプレーに感心した。トレーニングについて強い指導をしているのか」という趣旨の質問が飛ぶと、「まずスポーツ選手としてルールを尊重するということ、審判の判定を尊重するというのは非常に重要なことで、これはスポーツ選手のみならず、一般的にもルールを守ることは重要」とし「北朝鮮も日本も大変すばらしいフェアプレーをみせてくれた」と試合を振り返った。「常日頃からルールは守らなければいけないと指導してきた。選手たちは、幼い頃からフェアプレーを身につけるように、心がけるように指導している」とも述べたという。

 それから約2週間後の3月16日にウズベキスタンのタシケントで行われた女子サッカーアジアカップ決勝で、U-20北朝鮮女子代表は日本女子代表に2-1で逆転勝利を収め、2007年以来の大会制覇を果たした。試合終了後、北朝鮮の選手たちは日本選手とのハイタッチでの挨拶を終えたあと、キャプテンのMFチェイ・ウンヨンを先頭に日本のベンチへ足を運んで挨拶。その後、自陣のベンチに向かったが、日本の選手たちが北朝鮮ベンチへ挨拶していることを受け、チェイ・ウンヨンがチームメイトたちを統率して落ち着かせ、挨拶が終わるまで歓喜を爆発させるのを待つ場面があった。

 この2回にわたり北朝鮮側が示したことは、今まで見たことがないスポーツマンシップであった。たとえば、約半年前、杭州アジア大会の男子サッカー準々決勝で、北朝鮮の選手たちが1─2で日本に敗れた後に審判員に激しく詰め寄り、混乱状態となり、北朝鮮の監督が駆け寄って事態の収拾を図ったのと大違いであった。北朝鮮の選手たちは以前からラフな行動で知られていたが、2月と3月の女子サッカー試合では、フェアプレーに突然変わったのであった。

 金正恩総書記から事前に、フェアプレーで試合するよう指示が出ていたのは明らかであった。北朝鮮を立派な国家としたいという金正恩総書記の意図はますますはっきりしてきた感じである。

 もちろん、北朝鮮が本当に立派な国家になりたいのであれば、国連決議を順守し、危険な弾道ミサイルの実験はやめるなどが必要であるが、そのような姿勢は見えてこない。したがって、金正恩総書記の意図はそれだけ割り引いてみざるをえないが、その点はともかく、同書記の視点から物事を見ておくことも必要である。

 北朝鮮が新しい立場をとるからと言って拉致問題が解決するわけでないのはもちろんである。しかし、日本としても拉致問題をシングルイシューとする姿勢を貫くだけでは何ともならないのではないか。

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