平和外交研究所

11月, 2023 - 平和外交研究所

2023.11.23

日本と諸外国(米国以外)の安全保障協力

日本は最近各国と安全保障面での協力を強化している。岸田首相はフィリピンおよびマレーシアを歴訪し、マルコス・フィリピン大統領とは、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練をする際の入国手続きなどを簡略化する「円滑化協定」の締結に向け、正式交渉入りで合意。日本が「同志国」の軍隊に防衛装備品などを無償で提供するため2023年度に創設した「政府安全保障能力強化支援(OSA)」でも、フィリピンに6億円分を初適用することで合意した。

アンワル・マレイシア首相とは海上保安機関間の共同訓練の実施、日本によるOSAの実施に向けた調整を加速化させることを確認しあった。

11月15日には米サンフランシスコでAPEC首脳会議の傍ら、タイの新任のセター首相と会談し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため協力していきたい」と話し合った。間接的ではあるが、安全保障面での協力も含まれている。

12月には東京で日本とASEANの特別首脳会議が開かれる。それに先立って11月15日、日本とASEANの防衛相会合がインドネシアで開かれた。
 
東南アジア以外の諸国とも安全保障協力が進んでいる。韓国では尹錫悦大統領が2022年5月に就任し、日本との関係を改善する意欲を示し、尹大統領は2023年3月来日し、岸田首相と会談した。日韓両国の関係は戦後最悪の状態になったといわれていたが、正常な軌道に戻り始めた。

日韓の関係は安全保障面でも顕著に改善した。文在寅前大統領時代は日本の自衛隊と韓国軍の関係も悪化し、日本の護衛艦が自衛艦旗の「旭日旗」を掲げて韓国の港に入港することが妨げられ、また、両国間の防衛協力にとって欠かせない軍事情報保全協定(GSOMIA)が運用されない状態に置かれていたが、いずれも正常化された。

航空面でも協力が進んでいる。さる10月、日韓は米国とともに日韓両国の防空識別圏(ADIZ)が重なる空域で初の合同空中訓練を行った。

安全保障面で日韓の関係が改善したことには米国が強く促した結果であった。日韓両国はともに米国と同盟関係にあるが、日韓の関係が疎遠な状態では米国の東アジアにおける安全保障戦略が円滑に機能しなかった。

豪州は日米印の3か国とともに4か国戦略対話(Quadクアッド)を形成する重要な一角を占めている。クアッドはワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術などの幅広い分野の協力であり、直接安全保障にかかわる仕組みでないが、日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけている。日本の防衛省は航空自衛隊の戦闘機をオーストラリア空軍基地に一定期間派遣する「ローテーション展開」の検討に入っており、早ければ来年度にも段階的に始める方針だ。ただし法的根拠が乏しく、事実上の海外配備との指摘もある。

豪州は南シナ海に面してはいないが、近接しており、その安全を確保するうえで米国および東南アジア諸国とともに重要な役割を担える立場にある。

インドや欧州諸国はロシアや中国とも関係が深いが、日本との協力関係は着実に進んでいる。英国、ドイツ、フランス、イタリアは艦船や航空機を日本に派遣し、自衛隊との共同訓練を行っている。

以上のようにアジア太平洋の安全保障はさまざまな形で進展し、すでに複雑な状況になっている。わが外務省は「我が国は、日米同盟の強化に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている」と説明している。

本稿では細かいところまで立ち入った議論はできないが、このようにアジア太平洋の安全保障協力が進展してきたのはこの地域で問題が多くなっているからである。中国が歴史的根拠なく、また国際仲裁裁判の判決を無視して南シナ海のほぼ全域を自国領とし、その主張に基づく地図を作製・配布し、他国の行動に制約を加えようとしているのは最たる例である。

一方、日本として考えておくべきことがある。日本は2015年に一連の安保法制を行い、集団的自衛権の行使を認めるという憲法上極めて疑わしいことまで敢行した。その問題は解消されていない。各国と協力してアジア太平洋の安全保障体制を強化するのは当然であるが、協力が拡大すれば集団的自衛権の行使が広がる危険がある。

日本は安保法制により、「他国に対する武力攻撃」であっても「我が国と密接な関係にある国」であり、この攻撃により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」であれば自衛隊は武力を行使できると定めた(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)。こうして憲法解釈を拡大し、集団的自衛権を行使できる場合を定めたのである。

アジア太平洋の安全が脅かされる事態が増大している今日、各国と協力することは必要であるが、自衛隊の海外における武力行使についてこの要件で認める、あるいは縛りをかけることは適切かという問題である。

最後に念のために付言しておくが、憲法の改正をよくないことと頭から否定すべきでないと思う。憲法は必要に応じて改正すべきである。日本の現状に照らせば、極端に聞こえるかもしれないが、集団的自衛権行使の可否も、改めて、真正面から検討すべきである。国会では憲法改正の理由として自衛隊を国防軍と正式に認めるべきだからと議論されることがあるが、それはしょせん自衛隊の名称の問題でないか。憲法で定めるべきはもっと根本的な、各国との安全保障面での協力のありかたである。
2023.11.16

EEZ内へのブイ設置

日本の排他的経済水域(EEZ)内(尖閣諸島の北西約80キロ)に中国当局が勝手に設置したブイの扱いが問題になっている。日本政府は中国政府に対し撤去を求めているが、中国は応じない。大きく見て、法的問題と政治的問題がある。

上川外相は、「国連海洋法条約には(沿岸国である日本が撤去できることを示す)明文規定がない。個別具体的な状況に応じた検討が必要で、(撤去の)可否を一概に答えるのは困難だ」と述べ、外交的に問題を解決する姿勢を示した。

この説明には若干問題がある。上川外相は、中国が日本の了解を得ないまま勝手に設置した海上ブイを日本が除去することは海洋法条約で許されないと答弁していると取る人が少なくないだろうが、同条約で許されるか否かは解釈次第である。

国連海洋法条約には次の規定がある。

第六十条 排他的経済水域における人工島、施設及び構築物
1 沿岸国は、排他的経済水域において、次のものを建設し並びにそれらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する。
 (a)人工島
 (b)第五十六条に規定する目的その他の経済的な目的のための施設及び構築物
 (c)排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物
2 沿岸国は、1に規定する人工島、施設及び構築物に対して、通関上、財政上、保健上、安全上及び出入国管理上の法令に関する管轄権を念む排他的管轄権を有する。
3 1に規定する人工島、施設又は構築物の建設については、適当な通報を行わなければならず、また、その存在について注意を喚起するための恒常的な措置を維持しなければならない。放棄され又は利用されなくなった施設又は構築物は、権限のある国際機関がその除去に関して定める一般的に受け入れられている国際的基準を考慮して、航行の安全を確保するために除去する。その除去に当たっては、漁業、海洋環境の保護並びに他の国の権利及び義務に対しても妥当な考慮を払う。完全に除去されなかった施設又は構築物の水深、位置及び規模については、適当に公表する。
4 沿岸国は、必要な場合には、1に規定する人工島、施設及び構築物の周囲に適当な安全水域を設定することができるものとし、また、当該安全水域において、航行の安全並びに人工島、施設及び構築物の安全を確保するために適当な措置をとることができる。
5 沿岸国は、適用のある国際的基準を考慮して安全水域の幅を決定する。安全水域は、人工島、施設又は構築物の性質及び機能と合理的な関連を有するようなものとし、また、その幅は、一般的に受け入れられている国際的基準によって承認され又は権限のある国際機関によって勧告される場合を除くほか、当該人工島、施設又は構築物の外縁のいずれの点から測定した距離についても五百メートルを超えるものであってはならない。安全水域の範囲に関しては、適当な通報を行う。
6 すべての船舶は、4の安全水域を尊重しなければならず、また、人工島、施設、構築物及び安全水域の近傍における航行に関して一般的に受け入れられている国際的基準を遵守する。
7 人工島、施設及び構築物並びにそれらの周囲の安全水域は、国際航行に不可欠な認められた航路帯の使用の妨げとなるような場所に設けてはならない。
8 人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。

海上ブイの撤去はどのように規定されているか、一つの解釈を示してみたい。
・海上ブイは「排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物(56条1(c))にあたる。
・沿岸国は「それらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する」
・したがって日本は海上ブイを規制する権利を有する。

国連海洋法には「海上ブイ」という言葉は出てこないが、沿岸国である日本は規制する権利を持つということである。撤去してよいと条約には書いてないので撤去できないと考える人がいれば、それは違うといわざるを得ない。条約では日本ができることをいちいち書かない。一般的な表現で示されることはよくある。

逆の方向から見ておくと、日本が海上ブイを撤去すると国連海洋法に違反するか。これも直接的には書いてないが、違反しない。「権利」であることは前述した。上川外務大臣の答弁は、日本が撤去すると海洋法違反になると断定しているわけでないが、そのような意味合いで説明した感じがする。

以上が法的解釈だが、実際にブイを撤去したほうがよいかというと、そうは思わない。法的立場は明確にしつつも、政治的考慮を加えることは、これまたいくらもあることであり、海上ブイについては「沿岸国の権利の行使を妨げ得る」という条件にあたるか。自明でないかぎり実力行使には慎重でなければならない。

わが国会では、海上ブイに強い不快感を抱いていることを示す発言が行われている。心情的にはそれもわかるが、実力行使はしないほうがよいと考える。日中間では日本産水産物の輸入規制の方がはるかに深刻である。もちろん、海上ブイも危険になることはありうるが、今のところそのようなものでないと認識されている。

国会の一部には、「ブイは日本の主権、尊厳、国益を侵すものだ。海のゴミとして考えれば、撤去はできる。要は、総理に覚悟があるか、ということだ」というような意見があるが、そのような粗雑な論理は百害あって一利なし、である。

 結論としては、外交交渉で撤去を求めるのが妥当であろう。

 そして、どうしてもらちが明かない場合、国際海洋裁判所に訴え出るべきである。裁判が成立するには両当事者の同意が必要であり、中国が応じるか疑問だが、訴え出ることに意味がある。
2023.11.11

辺野古の基地建設まで暫定措置が必要

2019年2月25日、本研究所は普天間飛行場の辺野古移設問題について新飛行場建設のための埋め立てを強行することは考え直すべきだとの論旨を発表した。その理由として挙げた5点は基本的には現在も変わらないが、その後に重要な情勢変化もあったので、あらためて考えをまとめてみた。

橋本龍太郎首相の下で米軍普天間基地を移設する検討が始まったのが1996年。翌97年に名護市辺野古付近に移設する方針が固まったが、沖縄県民の多くは辺野古新基地の建設に一貫して反対している。沖縄県民の是非を問う投票が2019年2月24日に行われ、その結果、「反対」が72・15%と圧倒的多数が反対していることが示された。それ以来数年が経過するが、沖縄県民の反対は変わらない。

普天間基地は在日米軍のなかで重要な役割を担っている。日本としては新基地の建設を急がなければならない。県民が強く反対している沖縄県と国は対立しつつも、法的手続きに従い建設は始められた。

その後、埋め立て予定海域に軟弱地盤があることが判明し、地盤を強化する改良工事が必要になった。工事の方法は元の計画から変更しなければならないが、それには沖縄県知事の許可が必要である。防衛省は2020年4月、変更を県に申請したが、沖縄県は工事の変更を承認しないので国は県に対して裁判を起こした。2023年9月4日、最高裁判所は「県に許可を求める国の指示は適法だ」と判断し、沖縄県の敗訴が確定した。  

 この判決を受けて軟弱地盤に対応する工事が再開されることになるが、国も県もあらためて検討すべき問題が出てきている。

元来、普天間基地は早ければ2022年度に返還とされており、検討が始まってからすでに20数年が経過している。軟弱地盤に対応するため、防衛局によればさらに12年待たなければならないのだが、あまりに長すぎる。当初の計画と比べれば絶望的だという声も上がっているくらいである。検討が始まったときに生まれた子は今や30歳を優に超えている。住所も変わっているかもしれない。ともかく、住民の安全を確保するため暫定措置が必要である。

米軍がどのように考えるかは重要な問題であるが、暫定措置に反対するとは思えない。米軍にとって周辺の住民の安全が確保されることは願ってもないことだろう。

在沖縄米軍幹部はさる11月7日、辺野古に建設する代替施設の課題を挙げ、「純粋に軍事的な観点からはここ(普天間)にいたほうがいい」と述べた。

普天間の滑走路は約2700メートルだが、辺野古で建設が進む代替施設の2本の滑走路はいずれも約1800メートル。幹部は「より短い滑走路は、この地域で運用する米軍の能力に大きな影響を与える」と述べ、「おそらく嘉手納基地で補完するのではないか」とも語った。要するに、米軍としては辺野古への移転が実現しなくても任務の遂行に支障はないどころか、普天間の方がベターだという考えである。

また、日米両政府の合意では、長い滑走路が必要な場合、民間施設の使用が普天間返還の条件の一つとされたが、民間空港については何も決まっていないという。要するに、辺野古へ移転しても長い滑走路が必要な場合、日本側は民間空港の使用を米軍に認めなければならないが、そちらについては何も決まってないのである。

さらに、普天間は西海岸に近い高台にあるため「レーダーやセンサーを使うのに好都合である」という。一方、東海岸に面する辺野古は「大きな山に覆い隠されて、西や北の方向が見えにくい」と指摘されている。

この幹部はさらに、軟弱地盤の、米軍の運用への影響を問われ、「もし(問題を)軽減できなければ、影響があるかもしれない」と話したという。辺野古には致命的な欠陥が残るかもしれないとみていることを示唆する発言ではないか。

一方、この幹部は、日米間のDPRI(防衛政策見直し協議)の専門家の見解として、辺野古の代替施設の完成時期は2037年以降になるとの見通しを示した。滑走路だけでなく、格納庫などの建物の建設も考慮した見方だという。

このような状況を勘案すると、辺野古の新基地が完成するまで暫定措置を実施することは不可欠である。そのようなことに政府・防衛省・外務省などは同意しがたいかもしれない。それはよくわかる。辺野古移転は日米両国間の合意であり、簡単に変更できるものでない。

また、かりに暫定措置を講じるとすれば追加費用の問題も出てくる。しかし、移設工事費用は、軟弱地盤への対応のため3500億円程度から9300億円に膨れ上がることになるが、それは国として呑み込むのであろう。そのことを思えば、住民の安全確保のための暫定措置に伴う追加費用は安いものではないか。

普天間住民の移転も暫定措置の一つである。普天間飛行場の周辺には約1万2000世帯が居住している(2019年時点)。その移転を無理じいすることはできないが、移転を希望する住民に国として支援することは十分考えられる。ただし、住民移転案は以前にも出たことがあるが、あまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の考えなどさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移設より住民移転のほうが負担は少ない。政治的立場の違いを超えて合意を形成できる案だと考える。
 
以上のような状況を考慮すれば、辺野古への移転を考え直すのが望ましいが、それができない場合でも暫定措置は不可欠だと考える。

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