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2020.01.31

トランプ大統領の中東和平提案

 中東で巨象がまた暴れはじめた。アフリカ象でなくアメリカ象だ。今度は今までに輪をかけて凶暴である。米国も含め国際社会が努力してきたこと(安保理決議242及び338など)をけちらし、米国の歴代政権が仲介者としてのバランス外交に腐心し、公平であろうとしてきた姿勢をかなぐり捨てた。

 国際問題を論じるのにたとえ話など不謹慎かもしれないが、言葉で表現するより雄弁に問題の本質を表せると思った次第である。

 一部アラブ諸国はこの荒れ狂う巨象に乗っている。パレスチナをめぐる中東和平問題において、従来は、イスラエルの存在を認めないアラブ諸国と、イスラエルの安全は守らなければならないとする米欧諸国が対立する構図になっていた(エジプトとヨルダンは例外的にイスラエルを認めた)。しかし、トランプ氏の和平提案については、アラブ諸国でもアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーンは支持する姿勢を取った。サウジアラビアは、「包括的な和平案をつくったトランプ政権の努力に感謝する」と表明する一方、サルマン国王がパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話会談を行う配慮も見せた。エジプトは和平案に理解を示し、米国とパレスチナの対話の再開を求めた。

 一方、パレスチナ自治政府はもちろん、イランやトルコなどはトランプ提案に激しく批判的である。

 アラブ諸国を束ねるアラブ連盟(21カ国・1機構)は今週末に緊急会合を開き、アッバス氏も出席する見通しだが、パレスチナに寄り添った強い対応に出る可能性は低いとみられている。

 中東諸国が真っ二つに割れているのである。かなりの数のアラブ諸国がトランプ提案を支持していること自体驚きだが、彼らは将来もそのような姿勢を続けることができるか。

 米国では今年の11月3日に大統領選挙が行われる。トランプ氏が再選されるかよくわからないが、仮に再選されても、将来米国を率いる政権がトランプ氏の提案を維持するとはとても思えない。米国がトランプ以前に戻った場合に、今トランプ政権を支持しているアラブ諸国はどのような姿勢を取るか。アラブ世界もいつまでも同じわけではないだろうが、イスラエルを承認することはきわめて困難なことである。長年の歴史をみると、イスラエルの主張だけを柱として中東和平が実現するとは到底思えない。

 日本の立場については、巨象が荒れ狂っている現在、EUと意思疎通をよくして共通の対処ができればよいが、それは実際的には困難なのであろう。かといって、トランプ大統領に盲目的に従うことは避けなければならない。日本は、イスラエルを認める国も認めない国も含め、中東諸国との友好関係を維持することは、今後も絶対的に必要である。
2020.01.29

ロヒンギャ問題で苦悩するミャンマー

ザページに「解決遠いロヒンギャ問題 窮地のミャンマーに接近する中国」を寄稿しました。
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2020.01.05

スレイマニ司令官の殺害

 イランの精鋭部隊・革命防衛隊の実力者ソレイマニ司令官が3日、イラクの首都バグダッドの国際空港から車で移動してまもなく、米軍による空爆で殺害された。米国防総省が殺害を認める声明を出し、イラン側も死亡を認めた。爆撃は無人機によるものであったと報道されている。これに対し、イランは米国に報復すると強く反発した。

イラクは数カ月前から不穏な情勢にあり、米国人の死傷が相次いでいた。ソレイマニ司令官の殺害後情勢がさらに険悪化する中で、米国はイラク国内の米国市民に対して直ちに国外退避するよう警告を発した。また、3500人の部隊を増派する方針だという。

 米軍によるソレイマニ司令官殺害の方法について、二つの疑問がある。一つは、米軍は同司令官を捕獲する努力を行ったか否かである。状況証拠から見るとそれは疑わしい。しかし、米軍は同司令官の行動を非常に正確に把握しており、捕獲は可能だったのではないか。少なくとも捕獲を試みるべきだったのではないか。

 同様の問題は、2013年、ウサマ・ビン・ラーディン殺害の時にも起こった。米軍はパキスタンに潜伏中のビン・ラーディンを襲い、殺害したのだが、捕獲を試みたか疑問であった。今回は米軍の支配力が強い状況下で行われた爆撃であり、その時より捕獲は容易でなかったか。

 実際には、ビン・ラーディンやスレイマニに対して正しい手続きでその罪を償わせることなど絵空事だったかもしれない。しかし、戦争ではなかっ。戦争ならば何をかいわんやであるが、そうではなかったのであり、スレイマニ司令官の殺害が正当化されるか疑問の余地がある。

 もう一つの疑問は、無人機による攻撃が適切であったかである。人が攻撃したのであればよかったということではないのはもちろんだが、無人機による攻撃ははるかに危険である。攻撃する側は、まったくといってよいほど危険にさらされないからであり、そのため、攻撃に歯止めがかかりにくい。また、攻撃された側がやはり無人機で報復するとそれだけ危険な状況になる。
 
 もちろん、今回の攻撃については方法の是非だけでなく、全体的に判断しなければならない。スレイマニ司令官の殺害は戦争に発展するという見方も現れている。トランプ大統領は「戦争を止めるための行動だ」と訴えているが、はたしてその主張は受け入れられるか。

 米国としては、今回の攻撃はテロや米国人に対する襲撃を防ぐために必要であったことを主張しているが、これは広島と長崎に原爆を投下した際の理由づけ、すなわち「米軍兵士の損害を防ぐため原爆を投下した」との言い訳と実質的には同じでないか。

 さらに、トランプ大統領のイスラエル寄りの姿勢とイランの核合意を一方的に破棄したこととも無関係といえない。そのような主張が通るのは、トランプ大統領とその支持者だけではないか。

日本は、ソレイマニ司令官の殺害については沈黙しつつ、自衛隊をオマーン湾に派遣しようとしている。しかし、米国とイランの対立が一段と激化した現在、そのような方針を維持すべきか、あらためて基本的な問題にまでさかのぼって検討すべきではないか。

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