平和外交研究所

7月, 2022 - 平和外交研究所

2022.07.25

安倍元総理の国葬問題

政府は7月22日の閣議で、安倍晋三元首相の国葬を9月27日、日本武道館で行うと決定した。必要な経費約1億円は国の予算で賄うという。

戦後、国葬が行われたのは吉田茂元総理大臣のみで、その他は内閣・自民党の合同葬がほとんどであった。

安倍元総理の葬儀を国葬とすることについて世論は賛成と反対に割れており、世論調査としては賛成が多数のものも、また一部には反対が多数のものもある。

私は、戦後最長の期間にわたって日本を導いてきた安倍元総理の葬儀を盛大かつ厳粛に行うべきだと考えるが、国葬には以下の理由で反対である。

第1に、安倍氏は統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」と改名しているが、通称による)と、その「友好団体」に昨年9月ビデオメッセージを送る関係であった。
 統一教会が違法な活動により、多数の人の人権を蹂躙し、多額の献金を強要したことは日本の裁判所でも認定されている。また、教会活動により多くの家庭を破壊したことも明らかになっており、非常に危険な団体である。
 政治家は統一教会活動に関与してはならず、政治家と統一教会の癒着あるいはその他の関係を徹底的に調査し、関係を断ち切らなければならない。国葬とすることはその妨げとなる。

第2に、安倍氏は先の戦争について保守的な考えを持っており、日本が近隣諸国に侵略したとは認めていなかった。いわゆる「A級戦犯」を合祀している靖国神社への参拝は総理の現役時代は控えていたが、合祀を否定したためでなく、中国や韓国から批判されるのを避けるという政治的理由のためであった。

靖国神社参拝問題は非常に複雑であり、これまた国論は割れている。質問の仕方いかんでは、総理などの参拝は問題ないとする意見が多数となる可能性もあるが、ここではこれ以上論じない。ただし、日本は近隣諸国を侵略したという認識を放棄すると、米国を含め多数の国から批判されるのは不可避である。これは政治思想に従って処理できる問題でなく日本の指導者は客観的な状況認識が必要である。

第3に、安倍首相は2015年、一連の安保法制を制定し、日本国憲法が従来認めていないと解されてきた集団的自衛権の行使を認めるという解釈変更を行った。これも国論を分かつ結果となった。

第4に、安倍氏は広島及び長崎における原爆犠牲者の追悼行事は認めつつ、一方で核兵器の使用を制限する恐れのあるイニシャチブについては反対の意向を示してきた。
 そのことは米国でも知られており、2021年8月9日、米政府が核兵器の「先制不使用」や「唯一の目的」を宣言することに反対しないよう日本政府に求める書簡が、米国の元政府高官や科学者から菅義偉首相や日本の主要政党の党首あてに送られてきた。これは日本が「核軍縮」に実は反対であることを示唆する由々しきことであった。

第5に、安倍氏は北方4島を犠牲にしてプーチン大統領と合意しようとした。安倍氏は、自分が総理である間に北方領土問題を解決しなければならないという気持ちが強すぎた。
 安倍氏は、北方領土問題の解決のため心血を注いできた先人の努力を無視、あるいは軽視した。1973年の田中総理とブレジネフ書記長との合意、1991年の海部総理とゴルバチョフ書記長の合意、1993年の細川総理とエリツィン大統領との東京宣言など極めて重要な合意を無視した。
 北方領土問題は長年の間に、一貫しないもろもろの状況が加わってきたが、日本とロシアのどちらに理由と正義があるかという原則に従って解決を図るべきであった。
 北方領土問題はいつまた交渉の機会が出てくるか不明であるが、日本の利益を軽く見てはならないのは当然である。
2022.07.02

ロシアによるサハリン2の「接収」

 ロシアのプーチン大統領は6月30日、ロシア極東サハリンの液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡させる措置を取った。表向きそうは言わないが、ウクライナ侵攻に関する対ロ制裁への対抗措置であることは間違いない。

 この事業に日本からは三井物産と三菱商事がそれぞれ12・5%、10%、英石油大手のシェルが27・5%出資しているが、新会社はすべての権利と義務、従業員を無償で引き継ぐ。日本企業が新会社の株式を取得できる可能性もあるそうだが、ロシア側の条件通りに取得を申請し、承認を受ける必要がある。株式を取得しなかった場合は、売却資金を得られる仕組みだが、ロシア国内の口座に実質的に「凍結」されるうえ、減額される恐れもある。これらを勘案すると日本の企業が補償を受ける可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

 シェルはロシアのウクライナ侵攻後にいち早く撤退を決め、売却交渉を中国企業としているという。

 関係企業にとっての損失と同時に、日本国についても甚大な影響が及ぶ恐れがある。日本は輸入するLNG全体の8・8%(2021年)をロシアに依存しており、その大半を占めているサハリン2からの供給がなくなるからである。今夏、日本は電力需給がひっ迫気味であるうえに、この問題が生じるわけであり、状況はますます悪化しそうだ。

 ただし、新会社としても獲得したLNGをどこかに売却しなければならず、日本にも輸出を継続する可能性もないではないが、売却条件はロシア政府が完全に握っており、これまでのようにはいかないだろう。

 ロシア政府は今回の措置を取った理由として、関係する外国企業や外国人の契約違反により、住民生活への脅威が発生したことなどをあげているが、だれもそんなことは信じない。かりにそういう問題が本当にあったとしても、関係の法規と国際慣習に従って解決を図るべきものであり、一方的に接収することは認められない。

 日本としては今後もロシアとの友好関係を維持し、また信頼関係の構築に努めるべきは当然だが、ロシアに依存する関係は解消していかなければならない。
2022.07.01

驚きの日本女子バレーボールチーム

 日本の女子バレーボールチームは6月19日、中国チームと対戦し、3対1、つまりとられたのは1セットだけで、3セットをとり勝利を収めた。中国チームはリオ五輪で金メダルを獲得。現在の世界ランキングはネーションズリーグ開始前で3位であり、常に世界のトップクラスである。日本は6位であった。平均身長は、日本チームは約175センチだが、中国チームは日本より10センチ以上高い。しかし、日本はそんな高さの差などモノともせず圧勝したのだ。

 日本の女子バレーが金メダルを獲得して「東洋の魔女」と名をはせたのは1964年の東京オリンピックのこと。最近十数年は芳しくない状況が続いていた。2012年のロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した時はそれでもちょっとしたニュースになったが、その後はまたランクが下がり、2016年のリオ五輪では準々決勝で敗退。2021年開催の東京五輪では25年ぶりの1次予選敗退となってしまった。そうなると選手には申し訳ないが、テレビをみることもなくなってしまった。

 ところが、今回のネーションズリーグがはじまるや、日本チームは第1戦から勝ち続けた。私があれっと思い始めたのは4戦目で強豪米国に勝った後であり、第8戦目では中国を下して8戦全勝となった時には、「いったいどうなったのだ」と、うれしさのあまり唖然としてしまった。

 この日本チームを率いているのは真鍋政義監督である。その下でチームが世界の強豪チームを撃破しているのは誠に喜ばしい。また中田前監督のご尽力にも敬意を表したい。十数人もの選手から成るチームがある日突然強くなることはありえない。今日の全日本女子チームは中田監督の下ではぐくまれ、鍛えられたのだと思う。

 真鍋監督は手ごたえ以上の自信を感じているようである。当然である。それに、私は今回、真鍋氏がユーモアのセンスを持ちあわせていることに気づいた。試合後の会見の際などに全日本女子チームの元選手に冗談を飛ばして笑わせている。それも辛しのきいた冗談だ。これからもおおおいに楽しませていただきたいものである。

 真鍋氏はリオ五輪後に監督を辞任し、その後、出身地の姫路で「ヴィットリーナ姫路」という女子バレーチームを立ち上げ、取締役球団オーナーとして選手の育成に尽力してきた。全日本のセッターとして大活躍した竹下佳江氏もヴィクトリーナ姫路の監督を経て現在も役員を務める傍ら全日本のアドバイザーを兼ねている。私は真鍋監督と同じ姫路出身である。20歳年長であり、真鍋氏にも竹下氏にもお目にかかったことはないが、両氏を通じて東京と姫路の関係がさらに発展すればよいなと期待している。

 本稿は、実は、以上では終われない。選手の個人名を出すのは礼儀に反するかもしれないが、あえて名前を出して述べることとしたい。古賀紗理那選手であり、今でこそ「主将でエース」と尊敬されているが、今日に至る道は平たんでなかった。古賀は十代のころから嘱望されていたのだが、約1年前までは、そう言っては失礼千万だろうが、パッとしなかった。2016年真鍋監督が発表したリオデジャネイロ五輪の12人の代表メンバーの中に古賀紗理那の名前はなかった。代表落ちは大変なショックであり、目標としてきたものを逃したことは言葉では表せなかったという。当然であろう。昨年の東京五輪では初戦のケニア戦で右足を負傷し、抱かれて退場し、その後2試合を欠場。東京オリンピックでは、日本チームは25年ぶりの1次予選敗退となってしまった。これがわずか1年前のことである。

 ところが、2022年に入るや状況はがぜん違ってきた。前述したように日本チームは宿敵の米国や中国のチームを次々に撃破した。古賀選手はその中心であり、後方からのバックアタック、側方からのクロスを面白いように決めた。中国には2メートルを超す選手がいる。ちょうど20センチ高いのだが、古賀選手はその高さをものともせず、強烈なスパイクで打ち抜いた。

 日本チーム全体が一大変化を遂げたのだが、なかでも古賀選手は大化けして我々の(私の?)前に現れた。どうしてそんなことが可能であったのか。若いころから将来を嘱望されていただけに立ちはだかった茨はいたかったはずである。本当によくやったと思う。同氏は私の孫の世代だが、あらためて敬意を表したい。

 日本のメディアではバレーボールの試合がすべて報道されるわけではないが、You tubeが補っている。映像技術の発達により細かい動作までカメラは追ってくれる。相手が勢いよく日本側のコートに打ち込んできてもボールはなかなか下に落ちない。文字通り指一本で拾い上げ、そして何倍も強いボールを相手側に打ち込む。ノリのよい外国の報道は日本チームの超人的なプレーに大興奮である。

 今後日本チームは6月30日からカナダで4戦し、その後ファイナルラウンドへ進む。今の勢いを続けられれば優勝も夢でないという。楽しみである。カナダでの第一戦ではオランダチームに惜敗したが、力は互角であった。今後も勝ち進んでいくと信じている。

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