10月, 2020 - 平和外交研究所
2020.10.30
タイミング的には、第13次5カ年計画は今年で終了するので新しい計画を策定する時期になっており、その意味では第14次計画の確定は予定通りであった。しかし新計画には重要な背景があった。中国は過去1年間、コロナ禍と戦い、世界で最も効果的に感染拡大を抑制した国の一つであり、ダメージを受けた経済も予想以上に回復しつつあることと、米国との対立は今後も長期にわたって続くと見通されることである。
習近平政権は成立して以来、7%前後の成長を持続していく「新常態」(new normal)を目指す方針を表明していた。しかし、その後の経済成長は下降傾向になり、「新常態」に代わる新しい目標設定が必要になっていた。
今次会議で固められた新計画では、「今世紀半ばまでに、1人当たりのGDP(国内総生産)を中堅先進国の水準に引き上げること」、「核心的な技術分野で躍進し、先端のイノベーション型国家の仲間入りをすること」、「中間所得層の大幅拡大」、「文化強国、教育強国、人材強国などを目ざし、文化や価値観などで世界をひきつけるソフトパワーを強化すること」などが目標として掲げられた。
中国では去る5月頃から、「双循環」を習近平政権の新しい発展モデルとする議論が生まれていた。「双循環」とは「国内循環」と「国際循環」の2つの循環を指す。その主旨は、米国への依存を減らすことを目標とするが、完全に米国から離れることはできないので、14億人という超巨大な市場を活用し、自己完結性を高めることであった。しかし、政府は具体的な説明を現在までできていなかっただけに、この問題がどのように扱われるか注目されていたが、今次会議のコミュニケはこの問題には深入りしなかった。米国との関係にはまだ不確定要因があるのだろう。
一方人事については、習近平総書記の後継者(候補)がまだ決まっていないという異例の状況が続いているので、今次会議で何らかの進展があるか注目されていたが、何も出てこなかった。後継者問題は先送りになったとみられる。
そんなことから、習氏は任期が満了する2022年以降も総書記を退かず、また、それどころか、かつて毛沢東らが務めた「党主席」となる可能性があると取りざたされている。だが、そのような状況になっていくと現体制はどうなるか。現在でも、習近平氏に対する批判は水面下でかなりの勢力となっており、習近平氏の地位が高くなりすぎると、共産党内でのバランスが崩れる恐れがある。そんな中でカギとなるのは経済成長であるが、かつてのような高度成長を継続することは困難になる一方、米国との関係は厳しさを増している。米国との関係を切り離す「デカプリング」が進めば、中国経済の持続的成長は望めなくなるという見方が大勢である。「双循環」はまだ研究者による議論の段階にあり、現実的な選択肢になるのはかなり先のことだと考えられる。
中国共産党5中全会
10月26日から開かれていた中国共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)が29日閉幕した。2021~25年に適用される新たな中期経済計画「第14次5カ年計画」の内容が固められた。正式の採択は来年春の全国人民代表大会(全人代、国会に相当する)で行われるのであろう。タイミング的には、第13次5カ年計画は今年で終了するので新しい計画を策定する時期になっており、その意味では第14次計画の確定は予定通りであった。しかし新計画には重要な背景があった。中国は過去1年間、コロナ禍と戦い、世界で最も効果的に感染拡大を抑制した国の一つであり、ダメージを受けた経済も予想以上に回復しつつあることと、米国との対立は今後も長期にわたって続くと見通されることである。
習近平政権は成立して以来、7%前後の成長を持続していく「新常態」(new normal)を目指す方針を表明していた。しかし、その後の経済成長は下降傾向になり、「新常態」に代わる新しい目標設定が必要になっていた。
今次会議で固められた新計画では、「今世紀半ばまでに、1人当たりのGDP(国内総生産)を中堅先進国の水準に引き上げること」、「核心的な技術分野で躍進し、先端のイノベーション型国家の仲間入りをすること」、「中間所得層の大幅拡大」、「文化強国、教育強国、人材強国などを目ざし、文化や価値観などで世界をひきつけるソフトパワーを強化すること」などが目標として掲げられた。
中国では去る5月頃から、「双循環」を習近平政権の新しい発展モデルとする議論が生まれていた。「双循環」とは「国内循環」と「国際循環」の2つの循環を指す。その主旨は、米国への依存を減らすことを目標とするが、完全に米国から離れることはできないので、14億人という超巨大な市場を活用し、自己完結性を高めることであった。しかし、政府は具体的な説明を現在までできていなかっただけに、この問題がどのように扱われるか注目されていたが、今次会議のコミュニケはこの問題には深入りしなかった。米国との関係にはまだ不確定要因があるのだろう。
一方人事については、習近平総書記の後継者(候補)がまだ決まっていないという異例の状況が続いているので、今次会議で何らかの進展があるか注目されていたが、何も出てこなかった。後継者問題は先送りになったとみられる。
そんなことから、習氏は任期が満了する2022年以降も総書記を退かず、また、それどころか、かつて毛沢東らが務めた「党主席」となる可能性があると取りざたされている。だが、そのような状況になっていくと現体制はどうなるか。現在でも、習近平氏に対する批判は水面下でかなりの勢力となっており、習近平氏の地位が高くなりすぎると、共産党内でのバランスが崩れる恐れがある。そんな中でカギとなるのは経済成長であるが、かつてのような高度成長を継続することは困難になる一方、米国との関係は厳しさを増している。米国との関係を切り離す「デカプリング」が進めば、中国経済の持続的成長は望めなくなるという見方が大勢である。「双循環」はまだ研究者による議論の段階にあり、現実的な選択肢になるのはかなり先のことだと考えられる。
2020.10.24
〇米中双方はコロナ禍をめぐってさる1月末以来、激しく非難しあってきた。中国はコロナ禍への対処に成功し、新規感染は3月初め以来ゼロとなっている。また感染源問題についてはWHOのもとで各国が協力して調査することになったのだが、米国はそのような経緯を無視し、コロナウイルスの感染源は武漢だとし、中国の対応を一方的に非難し続けてきた。去る9月末の安保理テレビ首脳会議の際にも、中国は各国が協調すべきだと強調したが、米国は激しく中国を非難した。すると中国側では感情的な反発が起こった。コロナ禍は米中両国が争う舞台になった。
〇中国には、米国の大統領選挙結果を待つという姿勢は見られない。米国内の選挙キャンペーンでは、対中国政策が主要な争点の一つとなっているが、中国は大統領選の帰趨にはかまわず米国への反発を強めている。そんなことにかまっておられないと考えるほど切迫している問題なのかもしれない。
〇コロナ禍以外にも問題がある。中国は、安全保障を理由に輸出規制を厳しくする「輸出管理法」を制定しようとしており、すでに草案ができている。予定通りに運べば、同法は12月1日に施行される。
これによれば、中国から特定の材料や技術を輸出する際、事前に輸出先や使い道を政府へ申請し、許可を得なければならなくなる。規制の対象には中国国内にある外資企業が含まれるほか、中国国外であっても法に違反した場合には組織や個人の法的責任が追及される。
この規制は、米国が華為技術(ファーウェイ)に対する、米国の技術に関連する半導体製品の供給を全面的に禁止するなどの措置を取ったことに対抗するものである。規制内容もよく似ている。日本の企業は米中双方の規制の影響を受けることになる。
〇香港に関して、中国は6月、「香港国家安全維持法」を制定し、同地での民主化活動を強権的に抑え込んだ。香港の現状を返還から50年間変えないとする国際約束を反故にし、各国の懸念や批判を振り切り、強引に制定したものである。この措置によって、中国は国際法や国際約束を尊重する姿勢が薄弱であることをあらためて示す結果となった。米国は対抗措置として、防衛装備品や軍事転用可能な先端技術の対香港輸出を規制した。米議会上院も「香港国家安全維持法」に関与した中国当局者らに制裁を科す法案を可決した。
〇中国は新疆自治区や内蒙古自治区においても少数民族の言語使用を抑制するなど中国化を進めている。米国は新疆問題に強い関心を持ち、新疆の綿を使ったアパレル製品は「強制労働で生産された」として一部の輸入を禁止している。
〇台湾では2020年1月、蔡英文総統が再選されて以来、中国は台湾への働きかけを強化してきた。台湾の統一は習近平政権が2012年に成立して以来、まったくと言ってよいほど進展しなかった問題である。現在も台湾と外交関係を維持している国々を台湾から引きはがし、国際機関では台湾を締め出している。
しかし、蔡英文総統はひるむことなく、中国が望めば対話に応じるなど対等の姿勢を維持している。また、台湾はコロナ禍への対応において国際社会から称賛され、一部の国からは台湾との交流を深めていこうとする動きが出てきた。これは蔡英文政権にとって力強い後押しとなった。
5月のWHO総会にはコロナ対策の関係もあり、西側諸国は台湾の参加を支持する表明を行った。結果は変わらず、台湾の参加は認められなかったが、台湾に声援を送ることはできた。一方、中国の強権的な対応には批判が高まった。
米国はコロナ禍問題を契機に台湾との公式の交流をレベルアップし、アザール厚生長官やキース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が訪台し、蔡英文総統と会談した。米閣僚の台湾訪問は6年ぶりで、1979年の台湾断交以来、最高位の閣僚の訪問であった。クラック次官は国務省として最高位の訪台であった。
米国は台湾に対し武器を供与している。最近も大型誘導魚雷(5月)、M1A2エイブラムス戦車(7月)、無人機MQ―9B「リーパー」や対艦ミサイルなど7種類の兵器システムを売却する予定だと報道された。
米国の艦船による台湾海峡通過は定期的に行われており、2020年には3月、6月、10月に行われた。
中国はこのような米国の動きに毎回激しく反発した。中国の軍機は、台湾との境界線を越える飛行を毎月のように重ねている。6月には、台湾への上陸作戦が始まった場合、主力部隊となる第73集団軍の水陸両用戦車が、海上から実弾演習や上陸訓練を実施した。9月にも台湾海峡付近で実践演習を行った。
〇南シナ海について、ベトナム政府は4月3日、南シナ海のパラセル(西沙)諸島海域で2日、中国海警局の公船の体当たりを受けたベトナム漁船が沈没したと発表した。
アメリカ国防総省は8月27日、声明を発表し「中国が南シナ海の軍事化と近隣諸国への干渉をやめることを期待してことし7月に警告を発して状況を見守ってきたが、中国は弾道ミサイルを発射し、軍事活動を活発化させる道を選んだ」と非難した。
一方、中国軍の報道官も同日、「アメリカ軍の駆逐艦『マスティン』が、西沙諸島の中国の領海に無断で侵入し、『南部戦区』の海軍と空軍が警告を発して追い払った」との談話を発表した。
〇尖閣諸島についての状況は、2012年夏の国有化以来毎月5~10隻(延べ)の中国艦船が日本の領海に侵入するというパターンが続いている。一時的に頻度が多くなったりすることがあり、さる10月15日には、中国海警局の船2隻が日本の領海に侵入し、日本の漁船に接近する動きを見せた。
〇豪州は中国と長らく貿易を柱に良好な関係が続けてきたが、対中攻勢を強める米国と足並みをそろえるようになり、中国は反発した。対立は経済分野から人権や報道の自由、安全保障にも広がり、両国関係は「過去最悪」と言われる状態に陥った。中国が「香港国家安全維持法」を施行すると、豪州は香港との犯罪人引き渡し条約を停止した。
〇チェコの上院議長は8月、台湾を訪問。9月には、ソマリランドが台北市に代表機関の事務所を開いた。中国がこれまで経済協力を餌に引き付けてきた開発途上国の中に、一部であるが、疑問を呈したり、中国とは一線を画したりする行動が出てきたのである。
中国は、台湾との関係を強化しようとする動きに対して、強く反発し、脅しともとれる非難を浴びせた。王毅外相はチェコに「深刻な代償を払わせる」などと述べて、対抗措置を示唆した。これに対し、ドイツのマース外相は1日、王外相との共同会見の場で、「われわれは国際的なパートナーに敬意をもって接する。相手にも同じことを期待する。脅迫はふさわしくない」といさめた。また、中国との貿易取引を一方的に取り消すのは中国の常とう手段であり、豪州に対しては牛肉と大麦の輸入に制限をかけ(5月)、豪州産ワインにダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして調査を始めた(8月)。さらに、石炭輸入にも支障が生じているという。露骨な制裁であり、また、脅迫には各国から反発を受けている。このような中国の行動が中国の利益になるか、疑問である。
〇10月末、中国は国防法の改正案を作成した。1か月後に施行されることになっている。問題は国家動員を発動する要件として、従来の「中華人民共和国の主権、統一、領土保全、安全が脅かされた時」に「発展利益」を追加した。これでは「中国の利益増大が脅かされた場合」国家動員をかけられることになる。つまり、全国民をそのために強制的に駆り出すことが可能になるのである。そんなことで国家動員をかけられるのは、近隣国としてたまらない。このような改正は、自己の利益を擁護するためには、国際慣習に違背してでもあらゆる手段を取ることを意味しており、中国はますます国際性を失っていくのではないかと危惧される。
〇総括
中国の強硬な外交姿勢は、自信を深めた結果と見るべきか、それとも思い通りにはいかないのでフラストレーションが募ったためとみるべきか。現段階ではどちらともいえない。即断は禁物だが、これまでは経済力、資金力を活用して各国を味方につけつつ、場合によっては「中国にたてつく国には代償を払わせる」といわんばかりの強圧的な方法で、影響力を拡大してきたが、今後はそのような方法は困難になるのではないかと思われる。
朝鮮戦争(1950~53年)に中国が参戦して70年となるのを前にした10月23日、北京の人民大会堂で記念大会が開かれ、習近平(シーチンピン)国家主席は演説で、「いかに国家が強大であっても、世界の潮流に逆らえば、必ずさんざんな目に遭う」、「中国人民はやっかいごとを起こさないが、恐れない」、「いかに発展を遂げようと、我々は強権に反抗する気骨を磨かなくてはならない」などと述べた。習主席は米国に照準を当てていたのであろうが、演説の半分は中国自身に向けられるべきだったのではないか。
ますます強気の中国外交
中国の強気の外交姿勢が目立っている。米国と覇権争いをしているといっても過言でない。もっとも中国と米国はどちらが先に手を出したかははっきりしない。この状況に至った過程は複雑であり、簡単には決められないが、中国の姿勢には危うさを覚える。〇米中双方はコロナ禍をめぐってさる1月末以来、激しく非難しあってきた。中国はコロナ禍への対処に成功し、新規感染は3月初め以来ゼロとなっている。また感染源問題についてはWHOのもとで各国が協力して調査することになったのだが、米国はそのような経緯を無視し、コロナウイルスの感染源は武漢だとし、中国の対応を一方的に非難し続けてきた。去る9月末の安保理テレビ首脳会議の際にも、中国は各国が協調すべきだと強調したが、米国は激しく中国を非難した。すると中国側では感情的な反発が起こった。コロナ禍は米中両国が争う舞台になった。
〇中国には、米国の大統領選挙結果を待つという姿勢は見られない。米国内の選挙キャンペーンでは、対中国政策が主要な争点の一つとなっているが、中国は大統領選の帰趨にはかまわず米国への反発を強めている。そんなことにかまっておられないと考えるほど切迫している問題なのかもしれない。
〇コロナ禍以外にも問題がある。中国は、安全保障を理由に輸出規制を厳しくする「輸出管理法」を制定しようとしており、すでに草案ができている。予定通りに運べば、同法は12月1日に施行される。
これによれば、中国から特定の材料や技術を輸出する際、事前に輸出先や使い道を政府へ申請し、許可を得なければならなくなる。規制の対象には中国国内にある外資企業が含まれるほか、中国国外であっても法に違反した場合には組織や個人の法的責任が追及される。
この規制は、米国が華為技術(ファーウェイ)に対する、米国の技術に関連する半導体製品の供給を全面的に禁止するなどの措置を取ったことに対抗するものである。規制内容もよく似ている。日本の企業は米中双方の規制の影響を受けることになる。
〇香港に関して、中国は6月、「香港国家安全維持法」を制定し、同地での民主化活動を強権的に抑え込んだ。香港の現状を返還から50年間変えないとする国際約束を反故にし、各国の懸念や批判を振り切り、強引に制定したものである。この措置によって、中国は国際法や国際約束を尊重する姿勢が薄弱であることをあらためて示す結果となった。米国は対抗措置として、防衛装備品や軍事転用可能な先端技術の対香港輸出を規制した。米議会上院も「香港国家安全維持法」に関与した中国当局者らに制裁を科す法案を可決した。
〇中国は新疆自治区や内蒙古自治区においても少数民族の言語使用を抑制するなど中国化を進めている。米国は新疆問題に強い関心を持ち、新疆の綿を使ったアパレル製品は「強制労働で生産された」として一部の輸入を禁止している。
〇台湾では2020年1月、蔡英文総統が再選されて以来、中国は台湾への働きかけを強化してきた。台湾の統一は習近平政権が2012年に成立して以来、まったくと言ってよいほど進展しなかった問題である。現在も台湾と外交関係を維持している国々を台湾から引きはがし、国際機関では台湾を締め出している。
しかし、蔡英文総統はひるむことなく、中国が望めば対話に応じるなど対等の姿勢を維持している。また、台湾はコロナ禍への対応において国際社会から称賛され、一部の国からは台湾との交流を深めていこうとする動きが出てきた。これは蔡英文政権にとって力強い後押しとなった。
5月のWHO総会にはコロナ対策の関係もあり、西側諸国は台湾の参加を支持する表明を行った。結果は変わらず、台湾の参加は認められなかったが、台湾に声援を送ることはできた。一方、中国の強権的な対応には批判が高まった。
米国はコロナ禍問題を契機に台湾との公式の交流をレベルアップし、アザール厚生長官やキース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が訪台し、蔡英文総統と会談した。米閣僚の台湾訪問は6年ぶりで、1979年の台湾断交以来、最高位の閣僚の訪問であった。クラック次官は国務省として最高位の訪台であった。
米国は台湾に対し武器を供与している。最近も大型誘導魚雷(5月)、M1A2エイブラムス戦車(7月)、無人機MQ―9B「リーパー」や対艦ミサイルなど7種類の兵器システムを売却する予定だと報道された。
米国の艦船による台湾海峡通過は定期的に行われており、2020年には3月、6月、10月に行われた。
中国はこのような米国の動きに毎回激しく反発した。中国の軍機は、台湾との境界線を越える飛行を毎月のように重ねている。6月には、台湾への上陸作戦が始まった場合、主力部隊となる第73集団軍の水陸両用戦車が、海上から実弾演習や上陸訓練を実施した。9月にも台湾海峡付近で実践演習を行った。
〇南シナ海について、ベトナム政府は4月3日、南シナ海のパラセル(西沙)諸島海域で2日、中国海警局の公船の体当たりを受けたベトナム漁船が沈没したと発表した。
アメリカ国防総省は8月27日、声明を発表し「中国が南シナ海の軍事化と近隣諸国への干渉をやめることを期待してことし7月に警告を発して状況を見守ってきたが、中国は弾道ミサイルを発射し、軍事活動を活発化させる道を選んだ」と非難した。
一方、中国軍の報道官も同日、「アメリカ軍の駆逐艦『マスティン』が、西沙諸島の中国の領海に無断で侵入し、『南部戦区』の海軍と空軍が警告を発して追い払った」との談話を発表した。
〇尖閣諸島についての状況は、2012年夏の国有化以来毎月5~10隻(延べ)の中国艦船が日本の領海に侵入するというパターンが続いている。一時的に頻度が多くなったりすることがあり、さる10月15日には、中国海警局の船2隻が日本の領海に侵入し、日本の漁船に接近する動きを見せた。
〇豪州は中国と長らく貿易を柱に良好な関係が続けてきたが、対中攻勢を強める米国と足並みをそろえるようになり、中国は反発した。対立は経済分野から人権や報道の自由、安全保障にも広がり、両国関係は「過去最悪」と言われる状態に陥った。中国が「香港国家安全維持法」を施行すると、豪州は香港との犯罪人引き渡し条約を停止した。
〇チェコの上院議長は8月、台湾を訪問。9月には、ソマリランドが台北市に代表機関の事務所を開いた。中国がこれまで経済協力を餌に引き付けてきた開発途上国の中に、一部であるが、疑問を呈したり、中国とは一線を画したりする行動が出てきたのである。
中国は、台湾との関係を強化しようとする動きに対して、強く反発し、脅しともとれる非難を浴びせた。王毅外相はチェコに「深刻な代償を払わせる」などと述べて、対抗措置を示唆した。これに対し、ドイツのマース外相は1日、王外相との共同会見の場で、「われわれは国際的なパートナーに敬意をもって接する。相手にも同じことを期待する。脅迫はふさわしくない」といさめた。また、中国との貿易取引を一方的に取り消すのは中国の常とう手段であり、豪州に対しては牛肉と大麦の輸入に制限をかけ(5月)、豪州産ワインにダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして調査を始めた(8月)。さらに、石炭輸入にも支障が生じているという。露骨な制裁であり、また、脅迫には各国から反発を受けている。このような中国の行動が中国の利益になるか、疑問である。
〇10月末、中国は国防法の改正案を作成した。1か月後に施行されることになっている。問題は国家動員を発動する要件として、従来の「中華人民共和国の主権、統一、領土保全、安全が脅かされた時」に「発展利益」を追加した。これでは「中国の利益増大が脅かされた場合」国家動員をかけられることになる。つまり、全国民をそのために強制的に駆り出すことが可能になるのである。そんなことで国家動員をかけられるのは、近隣国としてたまらない。このような改正は、自己の利益を擁護するためには、国際慣習に違背してでもあらゆる手段を取ることを意味しており、中国はますます国際性を失っていくのではないかと危惧される。
〇総括
中国の強硬な外交姿勢は、自信を深めた結果と見るべきか、それとも思い通りにはいかないのでフラストレーションが募ったためとみるべきか。現段階ではどちらともいえない。即断は禁物だが、これまでは経済力、資金力を活用して各国を味方につけつつ、場合によっては「中国にたてつく国には代償を払わせる」といわんばかりの強圧的な方法で、影響力を拡大してきたが、今後はそのような方法は困難になるのではないかと思われる。
朝鮮戦争(1950~53年)に中国が参戦して70年となるのを前にした10月23日、北京の人民大会堂で記念大会が開かれ、習近平(シーチンピン)国家主席は演説で、「いかに国家が強大であっても、世界の潮流に逆らえば、必ずさんざんな目に遭う」、「中国人民はやっかいごとを起こさないが、恐れない」、「いかに発展を遂げようと、我々は強権に反抗する気骨を磨かなくてはならない」などと述べた。習主席は米国に照準を当てていたのであろうが、演説の半分は中国自身に向けられるべきだったのではないか。
2020.10.21
この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。
日本の原子力政策に米国は協力しつつも懸念を抱いている。原子力発電により核爆弾の原料となるプルトニウムが作り出されるからである。日本は2019年末現在、約45.5トンのプルトニウムを国内外に保有している(2020年8月21日内閣府原子力政策担当室「我が国のプルトニウム管理状況」)。これは原爆6千発を製造するのに足りる量である。
日本政府は、このプルトニウムは兵器目的でなく、原発の燃料として使用する計画(いわゆる「核燃料サイクル」)であり、国際社会に対し「利用目的のないプルトニウムは持たない」と説明している。
日本は、この計画のため、「高速増殖炉」(「もんじゅ」)を建設し、1994年から稼働し始めたが、すぐに事故続きとなり運転できなくなってしまった。「高速増殖炉」は、現在原発に使われている「軽水炉」と違って、冷却が極めて困難なことなど技術的なハードルがあまりに高いためである。稼働できなくなった「もんじゅ」はそれでも二十数年間維持されたが、維持費は1日に5500万円もかかった。結局、手に負えなくなった政府は2016年に廃炉を決定した。
しかし、廃炉を完了するのは一大作業である。「もんじゅ」から、使用済みの燃料、ナトリウム、建物、機械類など合わせて、約2万6700トンの廃棄物が出ると見込まれており、これを処理しなければならないが、いつ、どこで、どのように処理するか全くめどはたっていない。地元の福井県は県外に搬出するように求めているが、現在までのところどこにも搬出できない状態が続いている。搬出先は廃炉から5年以内に決めることになっているが、見通しは立っていない。
「もんじゅ」は廃炉となったが、「核燃料サイクル」が廃止されたのではない。現在、政府は「高速増殖炉」に代わるプルトニウム使用の原子炉(単に「高速炉」と呼ばれている)の建設を検討中である。
しかし、それは一体可能か、重大な疑義がある。「核燃料サイクル」はもともと1970年代の初頭に実用化すると予定されていたが、実際には「もんじゅ」に象徴されるように問題が続発し、予定は次々に延長され、2005年には2050年ごろに実用化するとの新たな予定が立てられた。この経緯だけを見ても「核燃料サイクル」がいかに非現実的であるか明らかであろう。
国際的に見れば日本の特異な状況がいっそう浮かび上がる。米国など原子力先進国といわれる国々では1940年代から、発電用の燃料確保のために「高速増殖炉」の開発を始めていた。しかし、事故が続出し、実用化に見合うだけの経済性は見込めないと判断し、80~90年代に次々に「高速増殖炉」の開発を放棄してしまった。フランスは遅れたが、それでも1998年に「高速増殖炉SPX-1(スーパーフェニックス-1)」の廃炉を決定した。
そしてフランスはSPX-1に続く原子炉としてSPX-2の建設を検討し始め、研究開発費の削減や開発リスクの低減を考えて英国やドイツと協力してヨーロッパ統一の原子炉(欧州統合実証炉)の建設設計を始めたが、結局これも「SPX-1のトラブルの影響と、世界的な「高速増殖炉」の低調な建設意欲の中で計画は打ち切られた」(日本原子力研究開発機構の資料「フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)」)。
つまり、フランスの有名な「高速炉スーパーフェニックス」は、いったん完成された第1号機はすでに廃炉が進められており、未完成の新型第2号機の開発も事実上とん挫しているのである。
各国が開発を継続できないと判断している中で、日本だけが「核燃料サイクル」を維持して「高速炉」を開発しようとしているのだが、それは可能なこととは思えない。日本は、主要原発国の一つであるが、原子力利用の点では決して最先進国でない。原発後進国と言われたこともあった。それが現実である。
また、日本は使用済み燃料を再処理して軽水炉でもプルトニウムを消費できるようにしようとしているが、この方法でも放射性廃棄物の処分が事実上できないという壁をクリアできない。このように見るのが正しければ、日本が内外で保有する約45.5トンのプルトニウムを減少させることはできないと判断すべきである。
しかるに現在、日本は「核燃料サイクル」の実現に向け新たな一歩をふみだそうとしている。日本の原子力規制委員会は10月7日、使用済みの核燃料から取り出したプルトニウムを加工して新しい燃料を作る国内初の「六ヶ所再処理工場」について、新しい規制基準に適合しているとの判断を下した。事実上の合格だという。
この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。
経費的にも大問題であり、今まで「10兆円の巨費を投じても実現のめどが立っていない」とも言われている。「もんじゅ」の建設費が5900億円、稼働していないが年間に200億円弱の経費が掛かっており、「六ヶ所再処理工場」は建設が完了した付随の施設だけで2兆1千億円かかっており、維持費として年間1100億円費やされていることにかんがみれば、この数字は決して誇張とは思われない。ちなみに、この費用は基本的には電気料金などの形で国民が負担している。
これはこれまでかかった費用であり、今後「核燃料サイクル」をあくまで進めていこうとすれば、この数倍の費用が必要となるだろう。
プルトニウムの大量保有と「核燃料サイクル」の問題は日本の中だけにとどまらない。、結局は日本と日本人の信頼性に関わってくる。「核燃料サイクル」は、「六ケ所再処理工場」の稼働に向け動き出す前に抜本的な見直しが必要である。
原子力政策とプルトニウム問題
日本の原子力規制委員会は2020年10月7日、使用済みの核燃料から取り出したプルトニウムを加工して新しい燃料を作る国内初の「六ヶ所再処理工場」について、新しい規制基準に適合しているとの判断を下した。事実上の合格だという。この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。
日本の原子力政策に米国は協力しつつも懸念を抱いている。原子力発電により核爆弾の原料となるプルトニウムが作り出されるからである。日本は2019年末現在、約45.5トンのプルトニウムを国内外に保有している(2020年8月21日内閣府原子力政策担当室「我が国のプルトニウム管理状況」)。これは原爆6千発を製造するのに足りる量である。
日本政府は、このプルトニウムは兵器目的でなく、原発の燃料として使用する計画(いわゆる「核燃料サイクル」)であり、国際社会に対し「利用目的のないプルトニウムは持たない」と説明している。
日本は、この計画のため、「高速増殖炉」(「もんじゅ」)を建設し、1994年から稼働し始めたが、すぐに事故続きとなり運転できなくなってしまった。「高速増殖炉」は、現在原発に使われている「軽水炉」と違って、冷却が極めて困難なことなど技術的なハードルがあまりに高いためである。稼働できなくなった「もんじゅ」はそれでも二十数年間維持されたが、維持費は1日に5500万円もかかった。結局、手に負えなくなった政府は2016年に廃炉を決定した。
しかし、廃炉を完了するのは一大作業である。「もんじゅ」から、使用済みの燃料、ナトリウム、建物、機械類など合わせて、約2万6700トンの廃棄物が出ると見込まれており、これを処理しなければならないが、いつ、どこで、どのように処理するか全くめどはたっていない。地元の福井県は県外に搬出するように求めているが、現在までのところどこにも搬出できない状態が続いている。搬出先は廃炉から5年以内に決めることになっているが、見通しは立っていない。
「もんじゅ」は廃炉となったが、「核燃料サイクル」が廃止されたのではない。現在、政府は「高速増殖炉」に代わるプルトニウム使用の原子炉(単に「高速炉」と呼ばれている)の建設を検討中である。
しかし、それは一体可能か、重大な疑義がある。「核燃料サイクル」はもともと1970年代の初頭に実用化すると予定されていたが、実際には「もんじゅ」に象徴されるように問題が続発し、予定は次々に延長され、2005年には2050年ごろに実用化するとの新たな予定が立てられた。この経緯だけを見ても「核燃料サイクル」がいかに非現実的であるか明らかであろう。
国際的に見れば日本の特異な状況がいっそう浮かび上がる。米国など原子力先進国といわれる国々では1940年代から、発電用の燃料確保のために「高速増殖炉」の開発を始めていた。しかし、事故が続出し、実用化に見合うだけの経済性は見込めないと判断し、80~90年代に次々に「高速増殖炉」の開発を放棄してしまった。フランスは遅れたが、それでも1998年に「高速増殖炉SPX-1(スーパーフェニックス-1)」の廃炉を決定した。
そしてフランスはSPX-1に続く原子炉としてSPX-2の建設を検討し始め、研究開発費の削減や開発リスクの低減を考えて英国やドイツと協力してヨーロッパ統一の原子炉(欧州統合実証炉)の建設設計を始めたが、結局これも「SPX-1のトラブルの影響と、世界的な「高速増殖炉」の低調な建設意欲の中で計画は打ち切られた」(日本原子力研究開発機構の資料「フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)」)。
つまり、フランスの有名な「高速炉スーパーフェニックス」は、いったん完成された第1号機はすでに廃炉が進められており、未完成の新型第2号機の開発も事実上とん挫しているのである。
各国が開発を継続できないと判断している中で、日本だけが「核燃料サイクル」を維持して「高速炉」を開発しようとしているのだが、それは可能なこととは思えない。日本は、主要原発国の一つであるが、原子力利用の点では決して最先進国でない。原発後進国と言われたこともあった。それが現実である。
また、日本は使用済み燃料を再処理して軽水炉でもプルトニウムを消費できるようにしようとしているが、この方法でも放射性廃棄物の処分が事実上できないという壁をクリアできない。このように見るのが正しければ、日本が内外で保有する約45.5トンのプルトニウムを減少させることはできないと判断すべきである。
しかるに現在、日本は「核燃料サイクル」の実現に向け新たな一歩をふみだそうとしている。日本の原子力規制委員会は10月7日、使用済みの核燃料から取り出したプルトニウムを加工して新しい燃料を作る国内初の「六ヶ所再処理工場」について、新しい規制基準に適合しているとの判断を下した。事実上の合格だという。
この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。
経費的にも大問題であり、今まで「10兆円の巨費を投じても実現のめどが立っていない」とも言われている。「もんじゅ」の建設費が5900億円、稼働していないが年間に200億円弱の経費が掛かっており、「六ヶ所再処理工場」は建設が完了した付随の施設だけで2兆1千億円かかっており、維持費として年間1100億円費やされていることにかんがみれば、この数字は決して誇張とは思われない。ちなみに、この費用は基本的には電気料金などの形で国民が負担している。
これはこれまでかかった費用であり、今後「核燃料サイクル」をあくまで進めていこうとすれば、この数倍の費用が必要となるだろう。
プルトニウムの大量保有と「核燃料サイクル」の問題は日本の中だけにとどまらない。、結局は日本と日本人の信頼性に関わってくる。「核燃料サイクル」は、「六ケ所再処理工場」の稼働に向け動き出す前に抜本的な見直しが必要である。
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