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2021.08.08

東京オリンピックとコロナ感染の拡大問題

 東京オリンピックは本8日、閉幕する。まだ完全に終了したわけではないが、すでにメディアでは東京オリンピックをどう評価するかについて議論が始まっている。

 オリンピックとコロナ感染拡大は関連しているか、どのように関連しているかはきわめて重要な問題であるが、感染拡大にはコロナ株の変異、人の流れ・移動、医療体制、経済状況など複雑な要因が絡んでおり、オリンピックの影響はその一部の問題である。しかし、イベントの自粛が各方面に求められている中でオリンピックという超大型のイベントが開催されることは適切か、オリンピックの開催によりコロナ感染の急拡大への警戒が緩むことはなかったかなど、我々の生活に照らしても疑問に思わざるを得ない問題は確かに存在する。

 菅首相は8月6日、広島での記者会見で感染者数の増加とオリンピック開催の関係を質問され、「東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えておらず、オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」と述べた。

 しかし、この説明はわれわれを悩ましている全国的なコロナ感染の急増問題に答えていない。首相として、オリンピックは感染拡大の原因でないと確信しているのであれば、そのように表明すべきでなかったか。日本全体についての見解を述べずに、「東京の繁華街」という一部の説明のみを行うのは、首相自身が弱みを感じている、つまり、全国的には「感染拡大には関係ない」と考えていないからではないか。「東京の繫華街」に絞った説明が必要ならば東京都知事に任せておけばよい。

 東京オリンピックが大過なく実行され、日本人選手が素晴らしい成績をあげたことについて大多数の日本人は喜んでいる。開催前には反対しておきながら、オリンピックを喜ぶのは一貫した態度でないという意見があるが、それは違う。オリンピックを喜ばない日本人などいない。これまでも、また今後も。しかし、コロナ感染拡大について日本人は重大な懸念を抱いており、そのため、パンデミックの中でオリンピックを強行することに反対、あるいは再延期すべきだと主張していたのである。

 オリンピックをなぜパンデミックの中で開催しなければならなかったのか、これは根本的な問題であり、それに対してろくろく説明しないまま開催を強行したのは日本政府と東京都、それに国際オリンピック委員会(IOC)の責任である。説明の努力もせず、国民の意見に耳を傾けずに政府の権力をかさに開催に突っ走ることは、これまでも、また今後も許されない。

 オリンピックの開催については、大きな感染拡大を惹起した形跡はないことをもって問題はなかったとすることはできない。オリンピック組織委員会は解散するが、いくつかの重要記録がある。海外からのオリンピック関係者の感染状況、規則(プレーブックなど)違反の事実を示す記録、財務記録など重要データは公表されなければならない。長野オリンピックの財務記録が廃棄されるという暴挙があったことを我々は忘れることができない。

 これらは技術的、手続き的性格の問題であるが、東京オリンピックの価値に関わることである。菅首相は「海外から入国する選手や大会関係者については水際対策、入国後の検査や行動管理を徹底しており、感染が判明しても別行動としてしっかり管理している」と述べたが、必要なのはそのような総論的説明だけでなく、具体的にそれを担保することであり、またそのためには技術的問題をきちんと記録に残し、検証に耐えうるものとしておくことである。
2021.07.16

日本のコロナ禍は深刻でないと考えるか、欧米諸国は

 新型コロナの感染者数がまたもや急上昇し始め、東京都では7月14日から1千人を超え、8月中旬には2千数百人に達する可能性があるという予測も出ている中で、「日本は欧米諸国に比べ感染者数も死亡数も非常に少ない。日本の状況は欧米諸国に比べ深刻度ははるかに低い」という欧米の見解が紹介されることがある。さらに、「日本人は騒ぎすぎではないか」というニュアンスが込められていることさえある。

 統計をみると、7月15日の時点で、米国がもっとも被害が大きく、これまでに3395万人が感染し、61万人が死亡。ヨーロッパの国としてフランスを例にとると、感染者数は588万人、死亡数は11万人である。一方、日本は感染者数が83万人、死亡数が1万人である。これは米ジョンズ・ホプキンス大の集計から取った数字だと報道されている。四捨五入のために実数とは若干異なっており、日本の死亡数は実際は約1.5万人である。また各国の統計が正確か、取り方はそろっているか、コロナ禍の初期では風邪やインフルエンザとして統計処理された数字が混じっていたか、など困難の問題はあるが、ここではそれらに目をつぶるほかない。

 たしかに欧米の感染被害は日本よりはるかに多く、一言でいえば数倍から数十倍の多さである。単純にこの数字によれば、日本の深刻度は低いということになりかねない。しかし、コロナ禍がいかに国民を苦しめているかは数字だけで測れない。各国の国情は同じでない。

 日本では、丁寧に社会を作り、運営している。衛生、安全などにかかわる重要な分野では、日本人は安全で気持ちよく過ごせるよう生活環境を整え、生活している。米国でもヨーロッパでも、さほど危険だと思われない状況であっても、日本人としては防護柵を設けなければ安心できないということがよくある。

 医療中でも重要であり、日本ではすべての人が医療を受けられるよう優れた制度が作られており、それが不安定化しそうになると日本人は神経質に反応する。しかし、行き過ぎになることも起きている。病床がないからと言って病人を廊下に寝かせるということは絶対できないので、救急患者を受け入れないことも生じている。法律の問題もあるが、それはあってはならないことであるが、現実に起こっている。

 医療の面では日本人の我慢できる範囲は非常に狭い。かつて、修正主義者は、日本人は我慢強い、だから改革ができないと日本人を批判したが、これは一面しか見ない議論であり、日本人は人一倍我慢することもあれば、他の民族より我慢しないこともある。なぜそうなるかは長い歴史と文化によることであり、いいとか悪いとか簡単に言うべきでない。

 ともかく、日本にはそのような安全のバランスともいうべき状況がある。それが崩れると日本の社会全体が不安定化し、危機に陥る。そうなれば社会問題、ひいては国家的問題となる。

 日本の方法だけが優れているとか主張する気持ちはない。だが、各国の事情は尊重されるべきであり、数字に表れないことにも注意が必要である。

 テレビのワイドショーなどを見ていると、日本の数字が欧米より低いことはかなり多くの人が知っているようだが、日本は欧米に対してどのように日本の事情を説明し、理解を求めるべきか、この点を論じ、あるいは主張しようとする例はほとんど見られない。残念である。
2021.06.29

オリンピックの水際対策は解決困難でないか。

 東京五輪・パラリンピックの開催による新型コロナウイルス感染拡大の危険はますます増大している。

 開催が賭けであること、危険を冒さなければならない理由はいまだ何も示されていないこと、細かい規則を定めている「プレーブック」は完ぺきに実行することはできない危険が大きいことなどはすでに指摘したが、新たに水際対策の欠陥が露呈してきた。

 東京五輪・パラリンピックに参加するため日本にすでに入国した選手や関係者の中に、新型コロナウイルスに感染していた人がまじっていることである。6月に入国したウガンダ選手団の2人、またそれより以前に入国したフランス1人(2月)、エジプト1人(4月)、スリランカ1人(5月)、ガーナ1人(6月)である。フランスは東京大会関係者、エジプトはコーチ、スリランカはスタッフ、ガーナはサッカー選手だという。

 日本政府は外国人の入国を原則として認めていないが、「特段の事情」がある人、例えば帰国日本人は次の条件の下に認めている。
 〇日本への出国前72時間以内の検査で「陰性」であった証明書の提出。
 〇日本への入国後14日間、自宅などでの「待機」。
 〇コロナ感染の危険が高いと疑われる場合、入国後3日~数日間の「隔離」。

 東京五輪・パラリンピックで「特例入国」する選手や大会関係者については、14日間の「待機」を免除しているが、日本入国時にウイルス検査を行い、陽性者は隔離し、陰性者は入国させている。

 しかし、この仕組みが機能していないことをウガンダの選手などは実証した。日本の水際対策は「ザル」だと言う人もいる。

 水際対策が機能しない理由はさまざまだが、例えば、空港での検査が抗原検査という簡易検査であり、感染を発見できないことが一つの理由とされている。

 どのような理由があっても、日本へのウイルスの持ち込みは防止しなければならない。それができなければ、選手たちを大会期間中無菌状態にしておくための、いわゆるバブルにもウイルスが持ち込まれることになる。

 現在組織委員会で対策が検討中だというが、真に有効な対策を講じることは可能か。疑問は増大するばかりである。

 根本的な問題は検査体制があまりにも弱いことである。今後日本に到着する五輪・パラリンピック関係者の数は、大会組織委員会は約9万4000人と見込まれている。最近は6万8000人くらいだという数字も出てきている。昨年の延期決定以前には20万人規模とされていたので、半減以下になっているが、それでも検査体制と対比してあまりにも多い。
 空港での検査を抗原検査という簡易検査にせざるを得ないのはそのためであり、もし正規のPCR検査にすると空港は検査待ちの五輪・パラリンピック関係者であふれかえることになろう。

 詳しくは述べないが、濃厚接触者の判断をどの機関が行うかという問題もある。ウガンダ選手団の場合、うち1人が検疫で新型コロナウイルス陽性となったにもかかわらず、同行者は事前合宿地の大阪府内に移動してから調査を受け、成田到着から3日後に全員が濃厚接触者と判定された。これではウイルスを保持している可能性が高い人が日本国内に散ってから、判断されることになる。だが、国は「滞在先の保健所が対応する」と言い、自治体は「政府の空港検疫で留め置くべきだ」と、足並みはそろっていない。濃厚接触者の判断を空港で行うことになれば、前述した空港での混乱はさらにひどい状況になる。

 菅首相は6月28日、羽田空港を視察し、水際対策を徹底するよう指示した。それに対し検査の責任者が現場でどのような説明を行ったか不明であるが、推測するに、「徹底するよう努めます」という趣旨の応答ではなかったか。要するに、首相が現場を視察して水際対策の徹底を指示したのはよかったが、そこで問題点の解決にめどがついたとは到底思われない。

 水際対策については、徹底すればするほど諸外国との矛盾も出てくるだろう。インドなどは不公平な措置であってはならないという声が上がっている。諸外国でのワクチン接種、ウイルス検査、証明状況はまちまちであり、日本側からどんなに細かい要望や指示を出しても対応は国によって異なる。

 感染者を入国させないという大方針を実現するには、日本側で徹底した検査をするほかない。しかし、数万人の検査を短い時間内に行うことは困難である。そのように考えれば、新型コロナウイルスのパンデミックが収まらない状況下で五輪・パラリンピックという一大祭典を行うことが賢明かという問題に帰らざるを得ない。日本政府は万難を排してこの大会の中止または延期を決断すべきである。よくそれには遅すぎるというというが、危険を避けるのが日本にとってのみならず、世界にとっての優先課題である。

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