平和外交研究所

5月, 2015 - 平和外交研究所

2015.05.29

(短文)中国の原子力発電は慎重に進めるべしー中国人研究者

 中国社会科学院の何祚庥は、英ガーディアン紙とのインタビューで、次のように述べている。
 「中国の原発建設はあまりにも早すぎる、汚職や管理の不備などが原因で安全性について問題が発生している。原発の建設停止をさらに延長し、管理運営上の経験を十分参考にして建設の再開を検討すべきである。」
 「中国には原発について2つの意見がある。1つは、安全より発展の重視であり、もう1つはそれと全く反対である。」
 中国は2011年の福島事故以来、原発の新設を停止してきたが、2015年3月に2基の建設再開を許可した。
(以上5月27日付香港紙『明報』)

 なお、2014年現在、中国の原発は、稼働中のものが18基、建設中が31基であり、これらが完成すると、日本の原発とほぼ同数となる。さらに、2030年にはその数倍に激増すると予測されている。

2015.05.28

NPT再検討会議 日本はなすべきことがある

NPT再検討会議は決裂したが、日本は「核の非人道性」に関する国際会議をホストすべきである。
以下は、共同通信のOPED(署名入り論評)として配布され、中国新聞や信濃毎日新聞に掲載された。

「4月27日から5月22日まで国連本部で開催された核不拡散条約(NPT)の再検討会議の主要議題は核軍縮、つまり核兵器の廃絶であったが、議論は進まなかった。核軍縮以外の不拡散問題、核兵器禁止条約、中東非核兵器地帯を設置する構想などについても進展はなかった。そして、今次会議の議論をまとめた「最終文書」さえ採択できず、「会議は決裂した」と言われる状態で終了した。
6年前、オバマ大統領が登場し、プラハで行った演説で核兵器のない世界の実現を呼びかけ、世界に強いインパクトを与えたときと比べると何とも情けない有様である。ウクライナ問題を契機にロシアが核のパワーを誇示するなど、国際情勢が悪化したことも今回の再検討会議に暗い影を落としていた。
決裂したと言っても、実はNPTの再検討会議としては驚くにあたらない。過去の再検討会議でも毎回、核軍縮の進捗状況が検討されたが、積極的な結論が得られたことはなかったと言って過言でない。そもそも、核保有国は自分たちのペースでは核軍縮を進めるが、NPTの再検討会議でせっつかれるのは好まない。
今後、日本は「核の非人道性」についてなすべきことがある。どの兵器も人を殺傷するために作られており、その意味では兵器はすべて非人道的であるが、核兵器は他の兵器とは比較にならない破壊力で戦闘員(兵士)のみならず、非戦闘員である市民をも無差別に殺傷するので、とくに「非人道的」なのである。日本人にとってこれは説明などいらない常識だが、そう思わない国が先進国の中にもあるので、「核の非人道性」を確立しなければならない。
過去2年来、このための会議が有志国によって開催され、その会議に参加する国の数が回を重ねるたびに増加し、もっとも最近のウィーン会議には160近い国が参加した。今次再検討会議では、オーストリアが参加国を代表して「核の非人道性」を強調し、核軍縮の緊急性を訴えた。
一方、日本は、「世界の政治指導者や若者らに被爆地・広島、長崎を訪問すること」を促す提案を行なった。これに対し中国が強硬に反対したため、この提案は最終文書案に盛り込まれず、代わりに「核兵器の被害を受けた人々や地域の経験を、交流を通じて直接共有することなどの重要性」を指摘するにとどまった。会議が決裂する前にすでに妥協を余儀なくされていたのである。
 しかし、日本は、あらためて、「核の非人道性」に関する会議を被爆地で開催する提案を行うべきである。過去3回開かれたこの会議では、日本はけん引力にはならず、この会議を主導的に開催することに躊躇があるかもしれないが、世界の指導者に被爆地を訪問することを呼びかけたからには、有志国の指導者を被爆地で迎えることに支障はないはずである。会議後恒例の議長声明を出さなくてもかまわない。世界の指導者が被爆地で「核の非人道性」を体感することはどんなに雄弁な議長声明にも勝る。
この会議はNPTの会議でなく、有志国の会議なので被爆地訪問を厭う国を強制することにはならない。米国と英国は参加する可能性がある。オバマ大統領が被爆地を訪問することに積極的な関心を抱いていることは周知のことである。
 
2015.05.27

(短文)ラブロフ外相・北方領土・国連憲章107条

 ラブロフ・ロシア外相は、5月23日、ロシア政府系情報サイト「ロシアNOW」とのインタビューで、「ロシアは常に日本に「第二次世界大戦の結果を認めますか」と聞いていますが、「全般的にはそうですが、この問題についてはそうではありません」という答えが返ってきます。それならば、なぜ日本は国連憲章を批准したのでしょうか。第107条には、戦勝国の行ったことすべてが神聖不可侵と書かれています。文字通りでなくとも、法的な意味は「一切触れない」ということです。国連憲章に立ち戻れば、日本はいかなる反論もできないですし、ロシアは日本が第二次世界大戦の結果に疑義を示す唯一の国で、他の国はそのようなことをしていないと言うことができるのです。」と語ったと報道された。

 この発言の要点を箇条書きにした上、それぞれにコメントすると、
○「日本は第二次世界大戦の結果の一部に疑義を示し、認めようとしない。」
 コメント①
日本は第二次大戦の結果を受け入れ、ポツダム宣言を受け入れ、サンフランシスコ平和条約で連合国との戦争の結果を法的に終了させた。ロシア(当時はソ連)は自らの意思でこの条約に参加しなかった。戦争の結果に基づく連合国と日本との法的処理に異議を唱えたのはソ連であった。
コメント②
ソ連は日本との中立条約に違反して対日参戦した。日本はこの条約違反を認めないが、そのことはさておいて、ソ連と戦争状態にあったことは認め、1956年の日ソ共同宣言第1項で戦争状態を終了させた。
○「国連憲章に立ち戻れば、日本はいかなる反論もできない。」
 コメント③
 ロシアはソ連時代から日本との平和条約交渉において、国連憲章107条を援用することがあった(1989年の交渉)。ラブロフ外相の発言はその時の議論にならったものであろう。
 コメント④
 しかし、国連憲章107条は、「この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。」と書いてある。ラブロフ外相の解釈はこれと違っている。

 なお、直接言及しなかったが、ラブロフ外相は北方領土問題を意識して発言したのであろう。コメント①で述べた「ソ連が自らの意思で平和条約に参加しなかった」ため、ソ連が他の連合国とともに千島列島の法的処理を行なう機会を逸したことは歴史の常識である。

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