2月, 2018 - 平和外交研究所
2018.02.26
厳密にいえば、現憲法で禁止されているのは連続の3選であり、ロシアのプーチン大統領のように、国家主席を2期務めた後、いったん他人に譲れば、その後、再び国家主席に選出されること、つまり3選は可能であったが、今般、「連続3選の禁止」も撤廃することとしたのである。これにより、習近平体主席としては、姑息な方法は使わずに、10年を超して、つまり第2期目以降も最高指導者であり続けることが可能となる。
経緯的には、昨年秋の第19回中国共産党大会で党の指導体制が決定された際、習近平主席の後継者を選ばなかったときから習近平体制の長期化の動きが始まっていたのだが、なぜ、このような改正をするのか。
中国は急速に発展しているが、一言でいえば、まだ「小康状態にある」というのが中国の基本認識であり、習近平総書記は、2020年に「小康社会の全面的実現」を掲げている。「小康状態」とはまだ先進国になりきっていない状態と考えてよい。
習近平主席が第1期目に直面した問題は内外ともにあまりにも多かった。習氏は従来の官僚主義的な党政の在り方に不満で、横断的に問題を扱う「小組」を多数作って強い権限を与え、また、言論統制と腐敗取り締まりの2本の鞭を駆使しながら、諸改革を進めてきた。この結果、国務院の地位は低下した。共産党も習氏から見れば官僚主義的であり、とくに中央宣伝部や地方の党委員会のあり方には強く不満であったようだ。
習近平政権は第1期目の5年間、改革の成果を上げた。失脚に追い込んだ「虎」、つまり、大物も少なくなかった。しかし、問題の根は深く、習近平主席のもとで権力をふるっていた、現職の房峰輝総参謀長や、言論取り締まりのかなめである「インターネット安全情報化小組」を牛耳り、「インターネットの皇帝」と呼ばれてきた魯煒宣伝部副部長も失脚した。
全体的に、中国の諸改革は今後も強力に進めていかなければならないという認識であろう。また、その背景には、鄧小平亡き後中国は発展したが、党と政の機構が官僚主義化したことへの批判があった。たとえば、かつては共産党幹部の養成機関であった共産主義青年団(共青団)に対して習氏は厳しく批判的であり、予算を削減している。また、習氏は、共青団出身であった胡錦濤前主席の統治に対しても批判的である。
このような状況において、習近平氏自身と支持者たちは、過去30年近い間に形成されてきた統治機構を改革するとともに、最高指導者の在り方にも手を加え、強い指導者である習氏を既定の10年より長く国家主席とするのがよいとの判断に立ち至ったものと思われる。
しかし、習近平氏は毛沢東や鄧小平のような特別の人物でない。経験も比較にならない。習氏が言えばだれもが賛成するわけではない。実際、3選禁止の撤廃には習近平体制の絶対化を許すとして批判的な意見もあったという。当然である。
習近平主席が3選可能になると、次のような問題が発生する危険がある。
第1に、毛沢東に対する批判であった「個人崇拝」に陥ることである。最近中国のテレビで、習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と形容する論評が流れたという。毛沢東は「偉大な領袖」であり、習近平はそこまでいわれているのではないが、近づきつつあると見られているのだ。
第2に、習氏自身、口やかましく「法治」の重要性を説いてきたが、主席の3選を認めるために憲法改正をするのであれば、結局法の支配は軽視していることになる。中国では環境問題はじめ生活の全分野で多数の法律が作られており、日本などの企業でもそれを順守するのに苦労しているのは事実であれが、共産党が支配する中国では肝心のところでは「法治」はあり得ない。今回の憲法改正問題はそのような中国をあらためて象徴していると思われる。
大きく見れば、中国は今後もさらに強大な国家となるよう邁進していく。そのために、共産党独裁の甲冑に身を固めた官僚支配を継続する。民主化や言論の自由は引き続き厳しく規制する。そして腐敗にまみれた支配層の既得権益を召し上げ、その浄化を図る。全国を通じ、中央と地方の指導者の入れ替えを大胆に断行する。
これらの方策には、一定の長所もあるが、今後経済成長はスローダウンし、政治問題の隠れ蓑にはなりえない。中国は憲法改正の意図に反して、今後かえって不安定化するのではないか。
習近平中国主席の3選
中国は憲法を改正して国家主席の3選を可能にした。3月5日から始まる全国人民代表大会(全人代 日本の国会に近い)を準備している共産党の二中全会(第2回中央委員会全体会議)においてその趣旨の憲法改正案が承認された。厳密にいえば、現憲法で禁止されているのは連続の3選であり、ロシアのプーチン大統領のように、国家主席を2期務めた後、いったん他人に譲れば、その後、再び国家主席に選出されること、つまり3選は可能であったが、今般、「連続3選の禁止」も撤廃することとしたのである。これにより、習近平体主席としては、姑息な方法は使わずに、10年を超して、つまり第2期目以降も最高指導者であり続けることが可能となる。
経緯的には、昨年秋の第19回中国共産党大会で党の指導体制が決定された際、習近平主席の後継者を選ばなかったときから習近平体制の長期化の動きが始まっていたのだが、なぜ、このような改正をするのか。
中国は急速に発展しているが、一言でいえば、まだ「小康状態にある」というのが中国の基本認識であり、習近平総書記は、2020年に「小康社会の全面的実現」を掲げている。「小康状態」とはまだ先進国になりきっていない状態と考えてよい。
習近平主席が第1期目に直面した問題は内外ともにあまりにも多かった。習氏は従来の官僚主義的な党政の在り方に不満で、横断的に問題を扱う「小組」を多数作って強い権限を与え、また、言論統制と腐敗取り締まりの2本の鞭を駆使しながら、諸改革を進めてきた。この結果、国務院の地位は低下した。共産党も習氏から見れば官僚主義的であり、とくに中央宣伝部や地方の党委員会のあり方には強く不満であったようだ。
習近平政権は第1期目の5年間、改革の成果を上げた。失脚に追い込んだ「虎」、つまり、大物も少なくなかった。しかし、問題の根は深く、習近平主席のもとで権力をふるっていた、現職の房峰輝総参謀長や、言論取り締まりのかなめである「インターネット安全情報化小組」を牛耳り、「インターネットの皇帝」と呼ばれてきた魯煒宣伝部副部長も失脚した。
全体的に、中国の諸改革は今後も強力に進めていかなければならないという認識であろう。また、その背景には、鄧小平亡き後中国は発展したが、党と政の機構が官僚主義化したことへの批判があった。たとえば、かつては共産党幹部の養成機関であった共産主義青年団(共青団)に対して習氏は厳しく批判的であり、予算を削減している。また、習氏は、共青団出身であった胡錦濤前主席の統治に対しても批判的である。
このような状況において、習近平氏自身と支持者たちは、過去30年近い間に形成されてきた統治機構を改革するとともに、最高指導者の在り方にも手を加え、強い指導者である習氏を既定の10年より長く国家主席とするのがよいとの判断に立ち至ったものと思われる。
しかし、習近平氏は毛沢東や鄧小平のような特別の人物でない。経験も比較にならない。習氏が言えばだれもが賛成するわけではない。実際、3選禁止の撤廃には習近平体制の絶対化を許すとして批判的な意見もあったという。当然である。
習近平主席が3選可能になると、次のような問題が発生する危険がある。
第1に、毛沢東に対する批判であった「個人崇拝」に陥ることである。最近中国のテレビで、習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と形容する論評が流れたという。毛沢東は「偉大な領袖」であり、習近平はそこまでいわれているのではないが、近づきつつあると見られているのだ。
第2に、習氏自身、口やかましく「法治」の重要性を説いてきたが、主席の3選を認めるために憲法改正をするのであれば、結局法の支配は軽視していることになる。中国では環境問題はじめ生活の全分野で多数の法律が作られており、日本などの企業でもそれを順守するのに苦労しているのは事実であれが、共産党が支配する中国では肝心のところでは「法治」はあり得ない。今回の憲法改正問題はそのような中国をあらためて象徴していると思われる。
大きく見れば、中国は今後もさらに強大な国家となるよう邁進していく。そのために、共産党独裁の甲冑に身を固めた官僚支配を継続する。民主化や言論の自由は引き続き厳しく規制する。そして腐敗にまみれた支配層の既得権益を召し上げ、その浄化を図る。全国を通じ、中央と地方の指導者の入れ替えを大胆に断行する。
これらの方策には、一定の長所もあるが、今後経済成長はスローダウンし、政治問題の隠れ蓑にはなりえない。中国は憲法改正の意図に反して、今後かえって不安定化するのではないか。
2018.02.22
米朝のハイレベル、しかもナンバー2どうしとも言われるレベルの会談は実現しなかったが、会談が合意されていたことの意義は米朝両国にとっても、また、日本にとっても大きい。
米国では、北朝鮮に対する圧力を強化することについて異論はないが、対話についてはトランプ大統領自身さまざまな発言をし、時には金正恩委員長との会談に前向きであることを示唆していた。それはあくまで米側の発言に過ぎなかったが、今回は両国間の「合意」であった点が違っている。かつて、米国は北朝鮮と合意したことはあったが、元大統領(クリントン氏とカーター氏)の訪朝などに関してであり、現役のナンバー2どうしの会談が合意されたことはなかった。
トランプ政権が北朝鮮との対話に向けて一歩踏み出したことは明らかである。これまでペンス副大統領は対話に後ろ向きであると見られてきたが、今後、北朝鮮との対話についてトランプ政権全体がより積極的になる可能性があると考えておくべきであろう。ペンス氏は今回のアジア訪問中、毎日トランプ大統領と連絡を取っていたと説明するなど、政権の一体性に気を使っていた。
なお、ペンス副大統領は帰国後「対話と会談は異なる」などと述べて従来の方針に変わりはないことを強調しているが、「対話」であれ「会談」であれ内容次第であり、この言い訳には大した意味はない。
今回の会談をキャンセルしたのは北朝鮮であり、その理由として北朝鮮側が挙げたのは、ペンス氏がアジア訪問中に、北朝鮮に対し厳しい追加制裁を科すことを表明したり、脱北者と面会したりしたことなどだそうだ。このほか、ペンス副大統領は、北朝鮮に長く抑留され、釈放後死亡した米人学生の家族を同伴させるなど、訪問の初めから北朝鮮に強い姿勢を見せていた。
ペンス氏は、米国は従来からの強い姿勢は変えない範囲内であれば北朝鮮代表と会ってもよいとみていた可能性はある。北朝鮮に対して考えを軟化したと取られたくなかったということである。
しかし、このことは両刃の剣であり、米側が強い姿勢を見せるのに北朝鮮が会談に応じることは北朝鮮として弱みを見せることになるので、キャンセルしたのではないか。
ようするに、米朝は実際に会談になる前から一種の突っ張り合いをしているのである。米朝の接触はこれからも行われるだろうが、そこから先へ進めるかは、この突っ張り合いをどのようにして超えられるかにかかっている。
日本にとっての意味合いは、第一に、「北朝鮮と対話をすべきでない」という姿勢を続けることは、米国との連携も危うくなることである。日本としては、米国が北朝鮮と接触しようとする場合も米国を助け、協力すべきである。
第二に、北朝鮮に関して日本政府からは建前の話しか聞こえてこないが、実質的に北朝鮮との関係を進め日朝間の懸案を解決する必要性がさらにいっそう高まっていることである。
ペンス副大統領と金与正氏との会談取り消し
平昌オリンピックのために訪韓したペンス米副大統領は北朝鮮の金与正氏(金正恩委員長の実妹)と会談することが合意されていたが、会談開始の2時間前に北朝鮮側がキャンセルを申し出たため実現しなかった。米国務省の報道官によって発表されたことである。会談場所は韓国大統領府(青瓦台)、会談の日時は10日午後に予定されていた。米朝のハイレベル、しかもナンバー2どうしとも言われるレベルの会談は実現しなかったが、会談が合意されていたことの意義は米朝両国にとっても、また、日本にとっても大きい。
米国では、北朝鮮に対する圧力を強化することについて異論はないが、対話についてはトランプ大統領自身さまざまな発言をし、時には金正恩委員長との会談に前向きであることを示唆していた。それはあくまで米側の発言に過ぎなかったが、今回は両国間の「合意」であった点が違っている。かつて、米国は北朝鮮と合意したことはあったが、元大統領(クリントン氏とカーター氏)の訪朝などに関してであり、現役のナンバー2どうしの会談が合意されたことはなかった。
トランプ政権が北朝鮮との対話に向けて一歩踏み出したことは明らかである。これまでペンス副大統領は対話に後ろ向きであると見られてきたが、今後、北朝鮮との対話についてトランプ政権全体がより積極的になる可能性があると考えておくべきであろう。ペンス氏は今回のアジア訪問中、毎日トランプ大統領と連絡を取っていたと説明するなど、政権の一体性に気を使っていた。
なお、ペンス副大統領は帰国後「対話と会談は異なる」などと述べて従来の方針に変わりはないことを強調しているが、「対話」であれ「会談」であれ内容次第であり、この言い訳には大した意味はない。
今回の会談をキャンセルしたのは北朝鮮であり、その理由として北朝鮮側が挙げたのは、ペンス氏がアジア訪問中に、北朝鮮に対し厳しい追加制裁を科すことを表明したり、脱北者と面会したりしたことなどだそうだ。このほか、ペンス副大統領は、北朝鮮に長く抑留され、釈放後死亡した米人学生の家族を同伴させるなど、訪問の初めから北朝鮮に強い姿勢を見せていた。
ペンス氏は、米国は従来からの強い姿勢は変えない範囲内であれば北朝鮮代表と会ってもよいとみていた可能性はある。北朝鮮に対して考えを軟化したと取られたくなかったということである。
しかし、このことは両刃の剣であり、米側が強い姿勢を見せるのに北朝鮮が会談に応じることは北朝鮮として弱みを見せることになるので、キャンセルしたのではないか。
ようするに、米朝は実際に会談になる前から一種の突っ張り合いをしているのである。米朝の接触はこれからも行われるだろうが、そこから先へ進めるかは、この突っ張り合いをどのようにして超えられるかにかかっている。
日本にとっての意味合いは、第一に、「北朝鮮と対話をすべきでない」という姿勢を続けることは、米国との連携も危うくなることである。日本としては、米国が北朝鮮と接触しようとする場合も米国を助け、協力すべきである。
第二に、北朝鮮に関して日本政府からは建前の話しか聞こえてこないが、実質的に北朝鮮との関係を進め日朝間の懸案を解決する必要性がさらにいっそう高まっていることである。
2018.02.21
この問題は、バチカンが中国共産党の要求にどこまで妥協するかということもさることながら、中国の台湾に対する締め付け強化の点でも注目される。
教皇フランシスコは就任以来中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。両者の間の最大問題は司教の任命権であり、バチカンは司教の任命に外国政府が介入することを認めないという立場である一方、中国は政府のコントロール下にない宗教活動は認めないという立場である。両者の間で成立した妥協はどのような内容か。バチカンは中国政府の同意を条件として司教を任命することになったとも、中国政府が任命する司教をバチカンが認めることになったとも言われている。後者は、バチカンが認めない中国の「愛国教会」がバチカンの許可を得ないで任命している司教のことである。
今回の合意について、バチカン内部の賛成派は、中国内に約1000万人いると推定されているカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりはましだとの考えだという。
これに対し反対派は、合意内容はカトリックの伝統と原則に反しているとして厳しく批判している。
今回合意が成立した背景には、中国で2月1日に施行された宗教に関する新条例がある。これは、習近平政権が、国内での民主派の取り締まりや言論統制の強化とともに、宗教政策においても中国共産党の支配を強化するため、2017年9月、旧「宗教事務条例」を修正したものである。新条例は、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、監督の強化を図っている。推測だが、中国はこの条例を背に、一定のアメを与えてバチカンを説得したのだろう。
バチカンと国交がある台湾は当然このような動きを非常に警戒している。バチカンが中国と外交関係を結ぶことになれば、台湾とは断交となる。その場合、バチカンは台湾がマルタ騎士団と外交関係を結ぶことで打撃を最小限にとどめようという考えだという。
マルタ騎士団は十字軍時代から存続している修道会であり、現在は領土を失っているが、sovereign entity(主権を持つ主体)として国際的に承認されており、90カ国以上の国と外交関係を持っている。しかし、何といっても、実態は特殊な主権主体であり、わずかに事務局がローマにあるに過ぎない。
マルタ騎士団にバチカンの代理をさせるのは一つの工夫かもしれないが、台湾としては簡単に認められないだろう。バチカンは台湾との文化関係を処理する機構を設置する考えだとも言われている。日本の「日本台湾交流協会」のような機構なのであろう。
バチカンと台湾との関係では影響が最小限にとどめられるようバチカンが努力しても、バチカンの姿勢は中南米諸国に影響を及ぼす。そうなると中南米との関係が重要な台湾にとっては大きな打撃となる。
米国はバチカンと中国の決定には異を唱えない方針だという。基本的な方針としてはそれは当然だ。
これとは本来無関係であるが、米議会では台湾との交流を促進する「台湾旅行法」(Taiwan Travel Act)案が1月に米連邦議会の下院で承認され、上院でも2月7日に外交委員会で承認された。中国は反発しているが、上院も承認する可能性は高い。大統領の署名が必要だが、台湾にとっては一つの前向きの進展となる。
中国とバチカンの妥協―台湾への締め付け強化
バチカンと中国が司教の任命に関して原則合意に達し、細部の詰めに入っていると報道されている。最終合意が成立すると中国とバチカンが国交を結ぶのは時間の問題になるとも言われている。この問題は、バチカンが中国共産党の要求にどこまで妥協するかということもさることながら、中国の台湾に対する締め付け強化の点でも注目される。
教皇フランシスコは就任以来中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。両者の間の最大問題は司教の任命権であり、バチカンは司教の任命に外国政府が介入することを認めないという立場である一方、中国は政府のコントロール下にない宗教活動は認めないという立場である。両者の間で成立した妥協はどのような内容か。バチカンは中国政府の同意を条件として司教を任命することになったとも、中国政府が任命する司教をバチカンが認めることになったとも言われている。後者は、バチカンが認めない中国の「愛国教会」がバチカンの許可を得ないで任命している司教のことである。
今回の合意について、バチカン内部の賛成派は、中国内に約1000万人いると推定されているカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりはましだとの考えだという。
これに対し反対派は、合意内容はカトリックの伝統と原則に反しているとして厳しく批判している。
今回合意が成立した背景には、中国で2月1日に施行された宗教に関する新条例がある。これは、習近平政権が、国内での民主派の取り締まりや言論統制の強化とともに、宗教政策においても中国共産党の支配を強化するため、2017年9月、旧「宗教事務条例」を修正したものである。新条例は、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、監督の強化を図っている。推測だが、中国はこの条例を背に、一定のアメを与えてバチカンを説得したのだろう。
バチカンと国交がある台湾は当然このような動きを非常に警戒している。バチカンが中国と外交関係を結ぶことになれば、台湾とは断交となる。その場合、バチカンは台湾がマルタ騎士団と外交関係を結ぶことで打撃を最小限にとどめようという考えだという。
マルタ騎士団は十字軍時代から存続している修道会であり、現在は領土を失っているが、sovereign entity(主権を持つ主体)として国際的に承認されており、90カ国以上の国と外交関係を持っている。しかし、何といっても、実態は特殊な主権主体であり、わずかに事務局がローマにあるに過ぎない。
マルタ騎士団にバチカンの代理をさせるのは一つの工夫かもしれないが、台湾としては簡単に認められないだろう。バチカンは台湾との文化関係を処理する機構を設置する考えだとも言われている。日本の「日本台湾交流協会」のような機構なのであろう。
バチカンと台湾との関係では影響が最小限にとどめられるようバチカンが努力しても、バチカンの姿勢は中南米諸国に影響を及ぼす。そうなると中南米との関係が重要な台湾にとっては大きな打撃となる。
米国はバチカンと中国の決定には異を唱えない方針だという。基本的な方針としてはそれは当然だ。
これとは本来無関係であるが、米議会では台湾との交流を促進する「台湾旅行法」(Taiwan Travel Act)案が1月に米連邦議会の下院で承認され、上院でも2月7日に外交委員会で承認された。中国は反発しているが、上院も承認する可能性は高い。大統領の署名が必要だが、台湾にとっては一つの前向きの進展となる。
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