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2024.06.22

沖縄戦で戦い、犠牲となった方々を悼む

 この季節になると戦争に関連する歴史があいついでよみがえってくる。外国に関係することが多いのは当然だが、国内の問題も少なくない。日本国民として悔しいと感じることが多いが、元気づけられることもある。戦争は複雑で、何が悪かったなどと簡単には言えないが、日本が取った行動について言い訳がましく弁護したり、都合の悪いことは隠そうとするのはもってのほかだ。ごまかしからは日本の将来は開けてこない。

 当研究所は毎年6月23日に、沖縄戦で戦い、犠牲となった若者を悼む以下のような一文をホームページに掲載してきた(1995年6月23日、読売新聞に寄稿したもの)。沖縄は戦争において大きな犠牲を強いられ、しかもその傷跡は今もなお癒えていないからである。
 
「1945年6月23日は沖縄で「組織的戦闘が終了」した日。戦って命を落とされた方々を悼んで一言申し上げる。

 戦死者に対する鎮魂の問題については、戦争と個人の関係をよく整理する必要がある。

 個人の行動を評価する場合には、「戦争の犠牲」とか[殉国]などのように、戦争や国家へ貢献したかどうか、あるいは戦争や国家が個人にどんな意義をもったか、などから評価されることが多い。しかし、そのような評価の仕方は疑問である。

 歴史的には、個人の行動に焦点を当てた評価もあった。例えば「敵ながらあっぱれ」という考えは、その戦争とは明確に区別して、個人の行動を評価している。
 
 では、太平洋戦争末期に十五万人の民間人死者が出た沖縄戦はどうか。中でも、悲運として広く知られるひめゆり学徒隊の行動は、自分たちを守るという強い精神力に支えられたもので、何らかの見返りを期待したのでもなく、条件つきでもなかった。ひめゆり学徒隊の人たちは、自分自身も、家族も故郷も、祖国も、守るべき対象として一緒に観念していたのではないか。「犠牲者」とか[殉国者]と言うより、人間として極めて優れた行動をとったと評価されるべき場合だったと思う。

 軍人についても同じことで、「防御ならよいが攻撃は不可」とは考えない。軍人の、刻々の状況に応じた攻撃は、何ら恥ずべきことではない。それは任務である。

 戦争全体の性格、すなわち侵略的(攻撃的)か、防御的かは全く別問題である。戦争全体が侵略的であるかないかを問わず、個人の防御的な行動もあれば、攻撃的な行動もある。
 
 さらに、局部的な戦争と戦争全体との関係もやはり区別して評価すべきである。たとえば、沖縄戦はどの角度から見ても防御であった。まさか日本側が米軍に対して攻撃した戦争と思っている人はいないだろう。わが国は、太平洋戦争において、侵略を行なってしまったが、防御のために沖縄戦と、侵略を行なってしまったこととの間に何ら矛盾はない。

 したがって、軍人の行動を称賛すると、戦争を美化することになるといった考えは誤りであると言わざるを得ない。その行動が、敵に対する攻撃であっても同じことである。もちろん、攻撃すべてが積極的に評価できると言っているのではない。

 もう一つの問題は、軍人の行動を「祖国を守るために奮闘した」との趣旨で顕彰することである。この種の顕彰文には、自分自身を守るという自然な感情が、少なくとも隠れた形になっており、個人の行動の評価は行われていない。
 
 顕彰文を例に出して、「軍人が祖国を防衛したことのみを強調するのは、あたかも戦争全体が防御的だったという印象を与え、戦争全体の侵略性を歪曲する」という趣旨の評論が一部にあるが、賛成できない。個人の行動の評価と戦争全体の評価を連動させているからである。

 戦争美化と逆であるが、わが国が行った戦争を侵略であったと言うと、戦死者は「犬死に」したことになるという考えがある。これも個人と戦争全体の評価を連動させている誤った考えである。
 
 また、戦死者は平等に弔うべきだという考えがあるが、弔いだけならいい。当然死者は皆丁重に弔うべきだ。しかし、弔いの名分の下に、死者の生前の業績に対する顕彰の要素が混入してくれば問題である。

 もしそのように扱うことになれば、間違った個人の行動を客観的に評価することができなくなるのではないか。そうなれば、侵略という結果をもたらした戦争指導の誤りも、弔いとともに顕彰することになりはしないか。それでは、戦争への責任をウヤムヤにするという内外の批判に、到底耐え得ないだろう。

 個人の行動を中心に評価することは洋の東西を問わず認められている、と私は信じている。ある一つの戦争を戦う二つの国民が、ともに人間として立派に行動したということは十分ありうることである。片方が攻撃、他方が防御となることが多いだろうが、双方とも人間として高く評価しうる行動をとったということは何ら不思議でない。

 個人と戦争全体、国家との関係をこのように整理した上で、戦争という極限状況の中で、あくまで人間として、力の限り、立派に生きた人たちに、日本人、外国人の区別なく、崇高なる敬意を捧げたい。」
2023.12.16

EUとウクライナ・モルドヴァとの加盟交渉

 EU加盟国は12月14日の首脳会議で、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉を正式に開始すると決定し、またジョージアを正式な加盟候補国とした。ウクライナとモルドヴァは2022年2月、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後にEUへの加盟申請を行い、2023年6月、加盟候補国として承認されていた。ジョージアも同時期に申請していたが、この時は加盟候補国にならなかった。

 欧州理事会のミシェル議長の報道官は、この決定は全会一致で決まったと説明した。ウクライナの加盟交渉開始にハンガリーは反対していたが、拒否権は発動しなかった。採決にあたってオルバン・ハンガリー首相は一時的に会議場から退出したのである。ハンガリー以外の26カ国はこの行動を評価した。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ。動機を与え、活力を与え、強さを与える勝利だ」と述べた。

 アメリカのサリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、EUの「歴史的な」動きを歓迎。ウクライナとモルドヴァの「EUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟の願望を実現するための重要な一歩」だと述べた。

 ただし、EU首脳会議は数時間後、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援について採決を行ったが、これにはハンガリーが拒否権を発動したため、否決された。

 日本政府はEUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定を評価し、歓迎すべきである。

 G7はロシアによる侵略を受けているウクライナを支援している。さる3月に行われた広島サミットにおいて、G7首脳は声明を発表し、冒頭で「我々G7首脳は、ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領の選択により始められたウクライナという主権国家に対する軍事侵略及び戦争に敢然と抵抗しているウクライナ国民及び同国政府を支持し続けることを引き続き決意している」、末尾で「我々は、引き続きウクライナ国民及び同国政府を支持する。我々は、第三国に対するものを含め、我々の措置の影響を引き続き評価し、また、ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うために更なる措置をとる用意がある」と表明した。
EUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定は「ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うための更なる措置」である。

 日本国政府は、日本国としても、またG7議長国としてもこの決定を評価・歓迎すべきである。


(The following was translated automatically)
On January 14 , EU member states decided to officially start accession negotiations for Ukraine and Moldova , and also made Georgia an official candidate for membership. Ukraine and Moldova applied to join the EU in February 2022 , immediately after Russia launched a full-scale invasion of Ukraine, and were approved as candidate countries in June 2023 . Georgia also applied at the same time , but was not given the status of a candidate for membership.
A spokesperson for European Council President Michel said the decision was taken unanimously. Hungary opposed the start of Ukraine’s accession negotiations, but did not exercise its veto. During the vote, Hungarian Prime Minister Orban temporarily left the conference room. 26 countries other than Hungary appreciated this action.
“This is a victory for Ukraine. This is a victory for Europe. A victory that motivates, energizes and strengthens,” Ukrainian President Volodymyr Zelenskiy said.
U.S. National Security Advisor Sullivan also welcomed the EU’s “historic” move. He said it was an “important step towards realizing Ukraine and Moldova’s aspirations to join the EU and the North Atlantic Treaty Organization (NATO).”
However, a few hours later , the EU summit voted on 50 billion euros (approximately 7.8 trillion yen) in military aid to Ukraine, but this was rejected after Hungary exercised its veto.
The Japanese government should evaluate and welcome the EU ‘s decision to negotiate accession with Ukraine and Moldova .
The G -7 supports Ukraine, which is being invaded by Russia. At the Hiroshima Summit held in March, the G7 leaders issued a statement that began by saying, “We, the G7 leaders, dare to stand against the military invasion and war against the sovereign nation of Ukraine, which was initiated by the choice of Russian President Vladimir Putin.” “We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance,” at the end, “We continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance. We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in their resistance. We will continue to assess the impact of our actions and stand ready to take further steps to hold President Putin and his regime accountable for the attack on Ukraine .”
The EU’s decision to negotiate membership with Ukraine and Moldova is “a further step to hold President Putin and his regime accountable for the attacks on Ukraine.”
The Government of Japan, both as Japan and as the G7 Presidency , should evaluate and welcome this decision.
2023.11.23

日本と諸外国(米国以外)の安全保障協力

日本は最近各国と安全保障面での協力を強化している。岸田首相はフィリピンおよびマレーシアを歴訪し、マルコス・フィリピン大統領とは、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練をする際の入国手続きなどを簡略化する「円滑化協定」の締結に向け、正式交渉入りで合意。日本が「同志国」の軍隊に防衛装備品などを無償で提供するため2023年度に創設した「政府安全保障能力強化支援(OSA)」でも、フィリピンに6億円分を初適用することで合意した。

アンワル・マレイシア首相とは海上保安機関間の共同訓練の実施、日本によるOSAの実施に向けた調整を加速化させることを確認しあった。

11月15日には米サンフランシスコでAPEC首脳会議の傍ら、タイの新任のセター首相と会談し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため協力していきたい」と話し合った。間接的ではあるが、安全保障面での協力も含まれている。

12月には東京で日本とASEANの特別首脳会議が開かれる。それに先立って11月15日、日本とASEANの防衛相会合がインドネシアで開かれた。
 
東南アジア以外の諸国とも安全保障協力が進んでいる。韓国では尹錫悦大統領が2022年5月に就任し、日本との関係を改善する意欲を示し、尹大統領は2023年3月来日し、岸田首相と会談した。日韓両国の関係は戦後最悪の状態になったといわれていたが、正常な軌道に戻り始めた。

日韓の関係は安全保障面でも顕著に改善した。文在寅前大統領時代は日本の自衛隊と韓国軍の関係も悪化し、日本の護衛艦が自衛艦旗の「旭日旗」を掲げて韓国の港に入港することが妨げられ、また、両国間の防衛協力にとって欠かせない軍事情報保全協定(GSOMIA)が運用されない状態に置かれていたが、いずれも正常化された。

航空面でも協力が進んでいる。さる10月、日韓は米国とともに日韓両国の防空識別圏(ADIZ)が重なる空域で初の合同空中訓練を行った。

安全保障面で日韓の関係が改善したことには米国が強く促した結果であった。日韓両国はともに米国と同盟関係にあるが、日韓の関係が疎遠な状態では米国の東アジアにおける安全保障戦略が円滑に機能しなかった。

豪州は日米印の3か国とともに4か国戦略対話(Quadクアッド)を形成する重要な一角を占めている。クアッドはワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術などの幅広い分野の協力であり、直接安全保障にかかわる仕組みでないが、日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけている。日本の防衛省は航空自衛隊の戦闘機をオーストラリア空軍基地に一定期間派遣する「ローテーション展開」の検討に入っており、早ければ来年度にも段階的に始める方針だ。ただし法的根拠が乏しく、事実上の海外配備との指摘もある。

豪州は南シナ海に面してはいないが、近接しており、その安全を確保するうえで米国および東南アジア諸国とともに重要な役割を担える立場にある。

インドや欧州諸国はロシアや中国とも関係が深いが、日本との協力関係は着実に進んでいる。英国、ドイツ、フランス、イタリアは艦船や航空機を日本に派遣し、自衛隊との共同訓練を行っている。

以上のようにアジア太平洋の安全保障はさまざまな形で進展し、すでに複雑な状況になっている。わが外務省は「我が国は、日米同盟の強化に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている」と説明している。

本稿では細かいところまで立ち入った議論はできないが、このようにアジア太平洋の安全保障協力が進展してきたのはこの地域で問題が多くなっているからである。中国が歴史的根拠なく、また国際仲裁裁判の判決を無視して南シナ海のほぼ全域を自国領とし、その主張に基づく地図を作製・配布し、他国の行動に制約を加えようとしているのは最たる例である。

一方、日本として考えておくべきことがある。日本は2015年に一連の安保法制を行い、集団的自衛権の行使を認めるという憲法上極めて疑わしいことまで敢行した。その問題は解消されていない。各国と協力してアジア太平洋の安全保障体制を強化するのは当然であるが、協力が拡大すれば集団的自衛権の行使が広がる危険がある。

日本は安保法制により、「他国に対する武力攻撃」であっても「我が国と密接な関係にある国」であり、この攻撃により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」であれば自衛隊は武力を行使できると定めた(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)。こうして憲法解釈を拡大し、集団的自衛権を行使できる場合を定めたのである。

アジア太平洋の安全が脅かされる事態が増大している今日、各国と協力することは必要であるが、自衛隊の海外における武力行使についてこの要件で認める、あるいは縛りをかけることは適切かという問題である。

最後に念のために付言しておくが、憲法の改正をよくないことと頭から否定すべきでないと思う。憲法は必要に応じて改正すべきである。日本の現状に照らせば、極端に聞こえるかもしれないが、集団的自衛権行使の可否も、改めて、真正面から検討すべきである。国会では憲法改正の理由として自衛隊を国防軍と正式に認めるべきだからと議論されることがあるが、それはしょせん自衛隊の名称の問題でないか。憲法で定めるべきはもっと根本的な、各国との安全保障面での協力のありかたである。

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