平和外交研究所

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2025.03.07

ウクライナ支援と仏・NATOの核戦略

 フランスのマクロン大統領は5日のテレビ演説でロシアのウクライナ侵攻に言及し、「米国が立場を変えてウクライナへの支援を減らし、疑問を生んでいる」と指摘し、「欧州の未来はワシントンにもモスクワにも決められるべきではない」と述べた。そのうえで、「フランスの核抑止力で欧州の同盟国を防衛する戦略的議論を始めると決めた」と表明した。

 これまでNATOにおいては、米国の核兵器配備を共同で運用する「核共有」を行っており、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5カ国に、米国の戦術核爆弾B61が約100発配備されているという。

 フランスは伝統的に米国に追随せず、この核共有に加わらず、独自の戦略を貫いてきたが、今回マクロン大統領が欧州の同盟国と核抑止力を共同でに検討する姿勢を表明したのは二つの理由がある。

 ひとつは、ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻するにともない、必要ならば核兵器の使用を辞さないと繰り返し恫喝的な表明を行ったことであり、二つ目はトランプ米大統領が欧州を防衛しないこともありうると述べたことである。

 トランプ氏はかねてから欧州が防衛のため必要な支出を怠ってきたと不満を表明してきた経緯があった。今回の発言は3月6日、ホワイトハウスで記者団から、NATO諸国が国防費を払わなければ、米国は防衛しないという政策をとるのか」と質問を受けたのに対し、 トランプ氏が「それは常識だ。彼らが支払わなければ、私は防衛しない」との趣旨を述べたものである。

 欧州諸国はこれらの状況に危機感を高め、3月6日、ブラッセルでEU特別首脳会議を開催。EU特別首脳会議はウクライナ支援を確認するとともに、約8千億ユーロ、日本円にして127兆円規模の「欧州再軍備計画」に合意した。また、加盟国のミサイルや弾薬など防衛分野への投資を促進するため、約1500億ユーロを融資する新たな枠組みも創設。加盟国による装備の共同調達を後押しして欧州の防衛産業基盤を強化し、各国部隊の相互運用性の改善を図ることも合意した。。

 今回の合意は欧州諸国として思い切った措置であり、フォンデアライエン欧州委員長は記者団に「われわれは再軍備の時代に突入した。欧州の安全を自らの手で守るため、防衛費を大幅に増額する用意がある」と強調している。

 なお、トランプ氏は日米安全保障条約についても「米国は日本を防衛しなければならないが、日本は米国を防衛する必要はない。いったい誰がそうした条約を結んだのだ」などと不満を表明していた。日本は欧州諸国のような措置を取るには至ってないが、米国やロシアとの関係では欧州と平行した状況にある。トランプ大統領の発言に過剰に反応すべきでないのはもちろんだが、米国を信頼できなくなるとその影響は甚大である。

2025.02.01

国連女性差別撤廃委員会への拠出停止

国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は昨年10月、8年ぶりとなる日本への勧告の中で、男系男子の皇位継承を定めた皇室典範の規定は条約の目的や趣旨と相いれないとして、改正を勧告した。政府はこれに抗議し、さらに同委員会に日本の拠出金は使わせないと決め、国連側に伝えた。この発表は本年1月29日に行われた。

日本は国連中心主義を外交の原則として掲げており、今回の措置はこの原則に反する暴挙である。国連には日本政府の考えと相いれないことは、残念ながら存在する。一方、国連があるために日本が助かっていることはいくつもある。このようなことは日本だけでなく、他の国にもある。どの国も利害得失を呑み込んで国連と協力しており、長い目で見れば、そのように柔軟に対応することが国益を守ることになる。

日本政府の主張を聞き入れず、また抗議にも耳を傾けないからといって、実力行使に出ることは許されない。日本政府があくまで主張を貫く必要があると考えるなら、説得を続けるべきであり、そうするしかない。国連や他国から見れば、日本の拠出金停止は強引な方法と映っているのではないか。

今回の措置により、日本政府は女性差別をなくす取り組みに積極的でないとみられる懸念を抱く向きもあるが、実態はもっと厳しい。日本は女性差別の撤廃に積極的だとは思われていない。だから、女性差別撤廃のため、これまで多くの日本人が尽力してきた。女性差別撤廃委員会の議長として国際的に貢献したこともあった。今回の措置はそのような努力に水を差すことになる。

世界を相手に、日本の主張を聞け、そうしないと実力行使も辞さないということがどれほど危険で、国益を害することであるか、第二次大戦で苦しんで、苦しみぬいて経験したはずである。二度とカネの力で国際組織に圧力をかけるようなふるまいをしてはならない。

2024.10.19

北朝鮮が最近挑発的行動を強めている 2024年秋

 北朝鮮は2024年10月15日、韓国とつながる京義線と東海線の南北連結道路と鉄道を爆破し通行不能にした。

 その1週間前には最高人民会議(国会に相当)を開いて憲法を改定した。その内容は公表されていないが、「統一」という表現を削除し、領土に関する条項を新設した可能性がある。2024年1月に行われた最高人民会議において、金正恩総書記は「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言し、また、北朝鮮憲法から「和解や統一の相手であり同族だという既成概念を完全に消し去る」ことが必要だと主張していた。また2023年末の朝鮮労働党中央委員会総会では、「韓国とは同族関係でなく、敵対的な国家関係」だと述べていた。

 韓国との統一は建国以来北朝鮮の国家目標であり、金正恩総書記の爆弾発言は直ちに信用されなかったが、今回の最高人民会議での憲法改定は金総書記が本気であることを示唆している。

 さらに金総書記は、韓国を「第一の敵対国」「不変の主敵」として教育することなども求めている。詳しくは不明であるが、これらについても北朝鮮はすでに決定したか、その方向に向かって進みつつある。

 北朝鮮の韓国に対する姿勢が著しく挑発的になったのは、北朝鮮内部の変化も深くかかわっている。

 金日成は北朝鮮建国の父であり、「偉大なる首領様」と尊称されるなど、その権威は絶大であった。ところが、2019年頃から変化が表れた。労働新聞の2019年3月の記事は孫の金正恩が書簡で「もし偉大さを強調するなどといって、首領(最高指導者)の革命活動や風貌を神格化すれば、真実を隠すことにつながる」との考えを表したことを伝えた(朝日新聞2020年5月22日)。労働新聞のこの報道は金日成の立場に変化が生じていることを示す最初の兆候であった。さらに2020年5月20日付の同新聞は「縮地法の秘訣」と題した記事で、抗日パルチザン時代の縮地法について霊的な技術を言ったものではないとして金日成・金正日時代の解釈とは異なる見解を伝えた。「縮地」とは道教の思想で、この術を使えば地中に隠れたり、あるいは、地面自体を縮めることで距離を接近させ、瞬間移動を行うことができるという教えであり、金日成と金正日はこれを使えると北朝鮮では言ってきた。

 そして、金日成の肖像や銅像が公の場から撤去され始めた。これは以前の常識からすればありえないことである。北朝鮮の指導者は金日成から始まり、次はその子の金正日、さらにその次は金正日の子の金正恩と続いてきた。金正日は父の金日成に付き従って指導者となったが、映画鑑賞などが趣味の好き者であり、その権威は金日成には到底及ばなかった。さらに金正恩は年若くして指導者となり、経験は乏しい。北朝鮮を率いていけるか、疑問に思われていた。

 金正恩はこの常識を覆し始めた。金日成の偶像崇拝をやめた(完全にはやめていない可能性もある)のに続いて、金日成の生誕年である1912年を元年とする「主体年号」の使用もやめてしまった。2024年10月13日付からは西暦だけを公に使用するようになった。11日夜に北朝鮮外務省が出した「重大声明」では主体年号も明記されていたが、12日夜の金与正(キム・ヨジョン)党副部長の談話発表以後は西暦だけが記されていた。

 金総書記が自信をつけたのは2つの理由があると思う。1つは世界にとってはなはだ遺憾なことだが、核兵器および弾道ミサイルの開発・配備である。

 北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルを開発・配備し、米国を攻撃することも可能になっていると自負している。このような軍事力は金正日のもとで開発をはじめ、金正恩の時代になって完成させたものである。これに比べると金日成時代には韓国と戦争したが、中国の助けがなければ負けていた。金日成時代にはそれでも強がりを言っていたが、核もミサイルもまだ保有していなかったのは明らかであり、北朝鮮の軍事力は米国などに敵うものでなかった、というのが金正恩総書記の考えであろう。

 他の1つの理由はロシアとの関係で自信を深めたことである。ウクライナ侵攻がきっかけとなり、北朝鮮はロシアから弾薬などの提供を求められ、これに応じた。ウクライナでは北朝鮮製兵器の残骸が各処に転がっているという。
金正恩総書記は2023年9月ロシアの極東地域を訪問し、4年前の訪問時とは比較にならない熱烈な歓迎を受けた。当初、それは表面的なことにすぎないと高をくくる見方が多かったが、北朝鮮は兵器および兵員を提供し、ロシアは北朝鮮への依存を強めているのは事実のようである。ロシアがウクライナとの関係で劣勢にあるのかどうか、それは知らないが、ウクライナ戦争は北朝鮮の立場を一気に高めたのである。

 ゼレンスキー・ウクライナ大統領は10月中旬、ベルギーでEU・ヨーロッパ連合の首脳会議に出席したあとの記者会見で、1万人規模の北朝鮮兵がロシアで訓練されていることを把握していると述べた。すでに数千の北朝鮮兵がロシアとウクライナの国境付近に配備されているとも、また一部の北朝鮮兵は脱走しているともいわれている。

 これらの出来事とほぼ同時期、プーチン大統領は、さる6月19日に北朝鮮と締結した新条約「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准のためにロシア国会に提出した。その第4条は、露朝いずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、「遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」としている。冷戦時代の軍事同盟の復活を意味するものであるといわれている。

 金正恩総書記がロシアとの関係で自信をつけていることは明らかである。北朝鮮が韓国を相手にしないという態度を取り始めたことも自信の表れであろう。北朝鮮の立場からすれば、いまや軍事面で世界的な影響力を持ち始めている北朝鮮として、韓国との関係にいつまでもかかずらわっていたくない。北朝鮮は核保有国である。その実態にふさわしいのは分裂国家という半人前でなく、独立した強国であると考えているのではないか。

 1年前と比べ、北朝鮮の行動は一層過激になっているが、目指すべき方向は変わっておらず、北朝鮮の力を認めてくれるロシアとの関係を最重要視しつつ、金日成の権威にとらわれない金正恩のリーダーシップを確立すること、韓国との統一問題にかかずらわない独立国家を樹立することであり、その半ばは達成している、ないし達成しつつあるとみなしているのではないか。

 一方、中国とはこれまでの関係を維持するにとどめるのではないかと推測される。韓国メディアなどでは、金正恩総書記が中国を「宿敵」と呼んだなどと報道されているが、北朝鮮と中国の関係は複雑である。今後の推移を見届ける必要があろう。

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