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2025.07.12

インドネシア外交の変化か

 2025年7月6-7日、ブラジルで開催されたBRICS首脳会議にインドネシアからプラボウォ大統領が初めて参加した。BRICSは2023年まで、ロシア、ブラジル、中国、インドおよび南アフリカ5か国のグループであったが、24年からは参加国が増え、25年の首脳会議にはインドネシアを含め10か国が参加した。

 BRICSは成長力が大きい新興経済国のグループであり、将来的に先進国に匹敵するポテンシャルを持っているとみられている。 
 また最近は単なる高成長国の集まりではなく、国際秩序に影響を与える“政治的連合”としての側面も強めており、G7への対抗軸として「BRICS首脳会議」を定期的に開催している。 

 BRICS拡大とほぼ同時期に、インドネシアではジョコ前大統領に代わってプラボウォ氏が新大統領に就任し、外交が転換する可能性が出てきた。

 インドネシアは1945年の独立以来非同盟主義を掲げてきた。近年はASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主的存在となり、さらに最近は、「グローバルサウスの代表」という言葉も使われるようになっている。ジョコ前大統領はインドネシアの経済発展に力を注ぐ一方、BRICS加盟には終始慎重な姿勢を取り、BRICS側から誘いを受けてもなかなか首を縦に振らなかった。建国以来の基本方針である非同盟主義を貫いてきたのである。

 ロシアによるウクライナ侵略が勃発したなかで開催された20カ国・地域(G20)は、インドネシアが有力な新興勢力であることを誇示するとともに、伝統的な外交方針を再確認する格好の機会となった。インドネシアはG20の議長国として、その成功のために奔走した。西側諸国によるロシア排除の要求は拒否した。ただし、ロシアの肩を持ったのではない。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ、G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫いた。

 ジョコ氏は、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談した。またその足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し、両首脳にG20サミットへの出席を求めた。インドネシアの外交努力は成功し、11月、G20首脳会議はバリ島で無事開催された。西側諸国は、ロシア側(外相)の出席を理由にボイコットすることはしなかった。ゼレンスキー大統領はオンラインで参加して、演説を行った。また、実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着け、各国はインドネシアの努力を賞賛した。サミット終了後、レトノ外相は、「インドネシアは常に架け橋となってきた。その結果として各国から信頼を得ている」と胸を張った。

 2023年になってもジョコ氏は活発な外交努力を続け、ケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカを歴訪した。各国首脳との会談でジョコ氏は、「バンドン精神こそ私がアフリカ訪問に携えてきたものである」と強調した。1955年、インドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議以来の非同盟運動がインドネシア外交の屋台骨であることを再確認したのである。

 歴訪の最後に訪れた南アフリカでは、ジョコ氏はBRICS首脳会議に出席した。しかし、この首脳会議で主要な議題となっていたBRICS加盟国の拡大にジョコ氏は応じなかった。会議の前には、インドネシアは加盟に興味を示している国のひとつだとみなされていたが、実際には、ジョコ大統領は時期尚早として加盟申請を行わなかったのである。

 一方、ジョコ氏はその任期中、建国100年の2045年までに先進国の仲間入りを果たすという目標を掲げ、先進国クラブとも称される経済協力開発機構(OECD)への加盟に熱心に取り組んだ。
インドネシアは2007年からOECDの主要パートナーとなっており、マクロ経済政策や税制、投資環境などに関して政策協議を行ってきた。最近それに勢いが加わり、2023年、インドネシアは「OECD加盟の方針」を発表し、OECD事務総長に加盟の希望を伝えた。関係閣僚はOECD加盟国を回って加盟申請への支援を要請した。

 2024年2月、OECDはインドネシアとの加盟協議開始を正式に決定した。現在アジアからの加盟国は日本と韓国のみで、仮にインドネシアが加盟すれば、アジアでは3番目、東南アジアからは初となる。

 OECDに加盟することはインドネシアの中立外交、橋渡し外交の原則と一致する。先進国クラブに足場を築くことができれば、グローバルサウスの利害を国際経済秩序に反映させるというインドネシアの狙いも実現することができる。それによって、国際社会におけるインドネシアの発言力は大きくなるし、グローバルサウスのなかにおけるインドネシアの立ち位置もますます高まることになる。ジョコ前大統領の下でインドネシア外交にはこのような展望が開けたのである。

 残るはBRICSとの関係強化である。2024年10月20日に就任したプラボウォ新大統領は、翌年7月6-7日、ブラジルで開催されたBRICS首脳会議についに参加した。これはインドネシア外交の180度転換と言われた。また、プラボウォ氏は初の外遊先に最大の貿易相手国の中国を選んだ。

 しかし、インドネシアは南シナ海において中国と対立している。領土問題に関してインドネシアは、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどと同様、中国の一方的な拡張行動の危険にさらされている。

 2024年、インドネシアは米国と共催の形で多国間軍事演習「スーパー・ガルーダシールド」を開催し、これには日本の陸上自衛隊も参加した。ガルーダシールドは、2007年にインドネシア軍と米軍の二国間演習として始まったものであり、 2022年には多国間のイベントに発展し、この地域最大級の演習のひとつとなった。 スーパー・ガルーダシールドという名称は、複数のイベントと多国籍という特徴を反映している。

 日本との関係ではプラボゥオ氏が大統領として日本を訪問するのは中国より後となる。しかし、プラボゥオ氏は日本との友好関係を重視していることをさまざまな機会に示している。2024年4月、当時のプラボゥオ国防大臣は来日して岸田文雄首相と会談し、安全保障分野などで協力を強化していくことを確認した。

 今後のプラボゥオ政権について注目すべきは安定性であろう。

 プラボゥオ氏は1951年生まれでジョコ氏より10歳年上である。健康不安も指摘されている。

 過去の2度の大統領選(2014年と2019年)で、ジョコ氏と激しい選挙戦を展開しながら敗北した。ジョコ氏の強さを知っているプラボウォ氏は今回の選挙でジョコ氏の支持層をそっくり取り込むことに努めた。

 また、プラボゥオ氏はジョコ政権の政策を継承することを前面に押し出した。ジョコ氏の長男であるギブランを副大統領候補に据えた。そんなこともあって、ジョコ氏は、次第にプラボウォを支援する姿勢を強めたという。

 BRICSとの関係ではジョコ前大統領の慎重姿勢を転換することとなったが、先進国クラブのOECDから反西側のBRICSに乗り換えたのではなく、インドネシアの仲間を広げたとみるべきであろう。インドネシア政府関係者は「世界秩序が変化する中、特定の勢力だけに近づき、それ以外を遠ざけるのは得策とは言えない」といっている。

2025.03.07

ウクライナ支援と仏・NATOの核戦略

 フランスのマクロン大統領は5日のテレビ演説でロシアのウクライナ侵攻に言及し、「米国が立場を変えてウクライナへの支援を減らし、疑問を生んでいる」と指摘し、「欧州の未来はワシントンにもモスクワにも決められるべきではない」と述べた。そのうえで、「フランスの核抑止力で欧州の同盟国を防衛する戦略的議論を始めると決めた」と表明した。

 これまでNATOにおいては、米国の核兵器配備を共同で運用する「核共有」を行っており、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5カ国に、米国の戦術核爆弾B61が約100発配備されているという。

 フランスは伝統的に米国に追随せず、この核共有に加わらず、独自の戦略を貫いてきたが、今回マクロン大統領が欧州の同盟国と核抑止力を共同でに検討する姿勢を表明したのは二つの理由がある。

 ひとつは、ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻するにともない、必要ならば核兵器の使用を辞さないと繰り返し恫喝的な表明を行ったことであり、二つ目はトランプ米大統領が欧州を防衛しないこともありうると述べたことである。

 トランプ氏はかねてから欧州が防衛のため必要な支出を怠ってきたと不満を表明してきた経緯があった。今回の発言は3月6日、ホワイトハウスで記者団から、NATO諸国が国防費を払わなければ、米国は防衛しないという政策をとるのか」と質問を受けたのに対し、 トランプ氏が「それは常識だ。彼らが支払わなければ、私は防衛しない」との趣旨を述べたものである。

 欧州諸国はこれらの状況に危機感を高め、3月6日、ブラッセルでEU特別首脳会議を開催。EU特別首脳会議はウクライナ支援を確認するとともに、約8千億ユーロ、日本円にして127兆円規模の「欧州再軍備計画」に合意した。また、加盟国のミサイルや弾薬など防衛分野への投資を促進するため、約1500億ユーロを融資する新たな枠組みも創設。加盟国による装備の共同調達を後押しして欧州の防衛産業基盤を強化し、各国部隊の相互運用性の改善を図ることも合意した。。

 今回の合意は欧州諸国として思い切った措置であり、フォンデアライエン欧州委員長は記者団に「われわれは再軍備の時代に突入した。欧州の安全を自らの手で守るため、防衛費を大幅に増額する用意がある」と強調している。

 なお、トランプ氏は日米安全保障条約についても「米国は日本を防衛しなければならないが、日本は米国を防衛する必要はない。いったい誰がそうした条約を結んだのだ」などと不満を表明していた。日本は欧州諸国のような措置を取るには至ってないが、米国やロシアとの関係では欧州と平行した状況にある。トランプ大統領の発言に過剰に反応すべきでないのはもちろんだが、米国を信頼できなくなるとその影響は甚大である。

2025.02.01

国連女性差別撤廃委員会への拠出停止

国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は昨年10月、8年ぶりとなる日本への勧告の中で、男系男子の皇位継承を定めた皇室典範の規定は条約の目的や趣旨と相いれないとして、改正を勧告した。政府はこれに抗議し、さらに同委員会に日本の拠出金は使わせないと決め、国連側に伝えた。この発表は本年1月29日に行われた。

日本は国連中心主義を外交の原則として掲げており、今回の措置はこの原則に反する暴挙である。国連には日本政府の考えと相いれないことは、残念ながら存在する。一方、国連があるために日本が助かっていることはいくつもある。このようなことは日本だけでなく、他の国にもある。どの国も利害得失を呑み込んで国連と協力しており、長い目で見れば、そのように柔軟に対応することが国益を守ることになる。

日本政府の主張を聞き入れず、また抗議にも耳を傾けないからといって、実力行使に出ることは許されない。日本政府があくまで主張を貫く必要があると考えるなら、説得を続けるべきであり、そうするしかない。国連や他国から見れば、日本の拠出金停止は強引な方法と映っているのではないか。

今回の措置により、日本政府は女性差別をなくす取り組みに積極的でないとみられる懸念を抱く向きもあるが、実態はもっと厳しい。日本は女性差別の撤廃に積極的だとは思われていない。だから、女性差別撤廃のため、これまで多くの日本人が尽力してきた。女性差別撤廃委員会の議長として国際的に貢献したこともあった。今回の措置はそのような努力に水を差すことになる。

世界を相手に、日本の主張を聞け、そうしないと実力行使も辞さないということがどれほど危険で、国益を害することであるか、第二次大戦で苦しんで、苦しみぬいて経験したはずである。二度とカネの力で国際組織に圧力をかけるようなふるまいをしてはならない。

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