12月, 2021 - 平和外交研究所
2021.12.29
日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。
旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。
だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。
しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。
そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。
佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。
本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。
佐渡金山遺跡の世界遺産登録問題
我が国の文化審議会は2021年12月28日、2023年の世界文化遺産登録の候補として佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を選定すると答申した。ただしこの答申には、「日本政府は審議会の答申通りにユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦するかどうか、総合的に検討する」という趣旨の異例の注釈がつけられた。日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。
旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。
だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。
しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。
そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。
佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。
本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。
2021.12.27
被爆地・広島県出身の岸田首相は核軍縮に熱意を抱いている。さる12月9日には、核軍縮を話し合うオンラインでの国際会議において、「NPT再検討会議で『核兵器のない世界』に向けた実質的な前進となる合意文書の採択を目指して、全力で取り組む」と訴えた。
ニューヨークへ行った際には首都ワシントンにも足を延ばしてバイデン大統領と会談を行う考えであったが、それもできなくなり、あらためて1月17日召集予定の通常国会までに訪米すべく米側と調整中だという。しかしバイデン大統領は内外の難問に追われ多忙であり、岸田氏の訪米が実現するか、状況は相当厳しいと言われている。4年8カ月の外相経験を誇る岸田氏は12月9日の衆院本会議の代表質問で、日米首脳会談を岸田外交のスタートにしたい考えを示したが、まだ動き出せないわけである。
岸田氏としては訪米の日程を一刻も早く固めたいところであろうが、かりに訪米がさらに先送りになっても焦る必要はない。1年たっても決まらなければ深刻に受け止めなければならないが、そんなことにはならない。ワシントンの桜をバイデン大統領と連れ立って鑑賞するくらいのタイミングとなってもよいのではないか。
日米の首脳が会談すれば中国、ロシアとの関係など両国にとっての難問について話し合うことになるのは当然だ。台湾を含む太平洋の安全を維持することは日米両国にとって共通の重要課題であるが、同時に、岸田首相としては核問題について明確な考えを示してもらいたい。
我が国は前政権時代、核の先制不使用宣言などについて米国以上にかたくなな姿勢を取った結果、「日本は核軍縮に熱心でない」とささやかれた。日本がこのようにみられたことは国際的に大きなマイナスであった。
核軍縮について日本としてどのような姿勢で臨むかは岸田政権のカラーを決めることになる。当面の課題として2022年3月にウィーンで開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会議がある。
ドイツはこれにオブザーバー参加する方針を明らかにしており、ショルツ新政権の連立合意書にはその方針が盛り込まれている。
日本としては、核の抑止力を損なうことなくオブザーバー参加することが可能である。日本としても米国の核政策を尊重するのは当然だが、米国以上に核を振り回すべきでないし、核軍縮を求める諸国を敵視したり、非難するべきでない。岸田首相とバイデン大統領が話し合いを深め、共同で核兵器禁止条約についての考えを公表できれば両国にとって利益となるのではないか。
核問題に関する岸田政権の外交姿勢
ニューヨークで来年1月4日から開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議に岸田文雄首相が出席して演説する方向で検討されていたが、アメリカで新型コロナのオミクロン株が急速に広がっていることなどから、会議への出席は見送られることとなった。被爆地・広島県出身の岸田首相は核軍縮に熱意を抱いている。さる12月9日には、核軍縮を話し合うオンラインでの国際会議において、「NPT再検討会議で『核兵器のない世界』に向けた実質的な前進となる合意文書の採択を目指して、全力で取り組む」と訴えた。
ニューヨークへ行った際には首都ワシントンにも足を延ばしてバイデン大統領と会談を行う考えであったが、それもできなくなり、あらためて1月17日召集予定の通常国会までに訪米すべく米側と調整中だという。しかしバイデン大統領は内外の難問に追われ多忙であり、岸田氏の訪米が実現するか、状況は相当厳しいと言われている。4年8カ月の外相経験を誇る岸田氏は12月9日の衆院本会議の代表質問で、日米首脳会談を岸田外交のスタートにしたい考えを示したが、まだ動き出せないわけである。
岸田氏としては訪米の日程を一刻も早く固めたいところであろうが、かりに訪米がさらに先送りになっても焦る必要はない。1年たっても決まらなければ深刻に受け止めなければならないが、そんなことにはならない。ワシントンの桜をバイデン大統領と連れ立って鑑賞するくらいのタイミングとなってもよいのではないか。
日米の首脳が会談すれば中国、ロシアとの関係など両国にとっての難問について話し合うことになるのは当然だ。台湾を含む太平洋の安全を維持することは日米両国にとって共通の重要課題であるが、同時に、岸田首相としては核問題について明確な考えを示してもらいたい。
我が国は前政権時代、核の先制不使用宣言などについて米国以上にかたくなな姿勢を取った結果、「日本は核軍縮に熱心でない」とささやかれた。日本がこのようにみられたことは国際的に大きなマイナスであった。
核軍縮について日本としてどのような姿勢で臨むかは岸田政権のカラーを決めることになる。当面の課題として2022年3月にウィーンで開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会議がある。
ドイツはこれにオブザーバー参加する方針を明らかにしており、ショルツ新政権の連立合意書にはその方針が盛り込まれている。
日本としては、核の抑止力を損なうことなくオブザーバー参加することが可能である。日本としても米国の核政策を尊重するのは当然だが、米国以上に核を振り回すべきでないし、核軍縮を求める諸国を敵視したり、非難するべきでない。岸田首相とバイデン大統領が話し合いを深め、共同で核兵器禁止条約についての考えを公表できれば両国にとって利益となるのではないか。
2021.12.22
当然台湾側は反発し、台湾外交部は21日、韓国駐台北代表部(大使館に相当)の代理代表を呼んで抗議した。そして翌日の定例会見で経緯を説明し、会議直前での突然の、一方的なキャンセルは「礼儀を欠いている」とした。
韓国側がこのようなキャンセルを行ったのは、中国からタン氏の講演を中止するよう圧力がかかったためであることはほぼ間違いない。
韓国の現政権が中国を刺激しないように努めていることは今に始まったことでない。文在寅政権は2017年5月の成立早々から、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題に反発した中国による対韓報復の撤廃が課題であり、文氏の努力でいちおうの調整が行われ、文氏は同年末国賓として中国を訪問した。しかし、文大統領に対する中国側の扱いはあまり友好的でなく、韓国内では不満の声が上がった経緯がある。
2021年になってからも、韓国が中国から圧力を受けていることを示唆する出来事が起こっている。
3月にはクアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議がオンラインで開催され、参加4か国は『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け連帯を強化することで合意した。
その際、韓国内ではクアッドは対中軍事協力でない、この4か国協力の枠組みに韓国が参加しなくてもよいのか、と疑問の声も上がった(尹永寛/元外交部長官・ソウル大学名誉教授、中央日報2021年5月9日)。にもかかわらず韓国はクアッドに背を向けたのだが、そのようになったのは中国から参加しないようくぎを刺されたためであったと思われる。
9月、英国空母クイーン・エリザベスが米第7艦隊の母港横須賀港に入港した。同艦はそれに先立って釜山に入港予定であったが、これは取り消され、韓英海軍は8月31日、東海南部海上で人道主義支援と災害救助中心の訓練など、縮小した交流活動だけを実施した。クイーン・エリザベスは同時期に横須賀港に入港した米国、オランダ、カナダ、それに日本の海上自衛隊の艦船と共に、7日まで「パシフィッククラウン21-3」という名の多国籍共同訓練を行った。
1週間後、中国の 王毅外相が訪韓し、鄭義溶韓国外相と会談した。この会談で表向きは中韓の協力面が強調されたが、王毅外相は参加しなかった韓国を称賛するとともに今後についてもさらにくぎを押したと推測される。
さらに文在寅大統領は12月13日、中国の人権問題を理由とした北京冬季五輪への「外交的ボイコット」について、「韓国政府は検討していない」と表明した。
そしてタン氏に対する講演の一方的なキャンセルとなったのである。その理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と韓国側が挙げたのはかなり露骨な中国重視の表明であった。
タン氏が講演したからと言って中国の安全保障にはいささかの関係もないだろう。そんな問題についてまで韓国が中国の言いなりになっている、ならざるをえないのは遺憾なことである。韓国では来年3月9日に大統領選挙が行われる。どの候補が有力か、予断を許さないが、新大統領になると中国との関係に変化は起こるのだろうか。日本にも大いに関係してくる問題である。
タン台湾デジタル担当相の講演を韓国側は突然キャンセル
12月16日、韓国で予定されていたオンライン「グローバル政策会議」において講演を依頼されていた台湾のオードリー・タン・デジタル担当相に対し、韓国側は講演当日の午前7時50分になって突然メールでキャンセルの申し出を行った。理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と挙げていたという。この会議は、韓国の文在寅大統領の指示で設けられた「第四次工業革命委員会」が主催したものであった。当然台湾側は反発し、台湾外交部は21日、韓国駐台北代表部(大使館に相当)の代理代表を呼んで抗議した。そして翌日の定例会見で経緯を説明し、会議直前での突然の、一方的なキャンセルは「礼儀を欠いている」とした。
韓国側がこのようなキャンセルを行ったのは、中国からタン氏の講演を中止するよう圧力がかかったためであることはほぼ間違いない。
韓国の現政権が中国を刺激しないように努めていることは今に始まったことでない。文在寅政権は2017年5月の成立早々から、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題に反発した中国による対韓報復の撤廃が課題であり、文氏の努力でいちおうの調整が行われ、文氏は同年末国賓として中国を訪問した。しかし、文大統領に対する中国側の扱いはあまり友好的でなく、韓国内では不満の声が上がった経緯がある。
2021年になってからも、韓国が中国から圧力を受けていることを示唆する出来事が起こっている。
3月にはクアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議がオンラインで開催され、参加4か国は『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け連帯を強化することで合意した。
その際、韓国内ではクアッドは対中軍事協力でない、この4か国協力の枠組みに韓国が参加しなくてもよいのか、と疑問の声も上がった(尹永寛/元外交部長官・ソウル大学名誉教授、中央日報2021年5月9日)。にもかかわらず韓国はクアッドに背を向けたのだが、そのようになったのは中国から参加しないようくぎを刺されたためであったと思われる。
9月、英国空母クイーン・エリザベスが米第7艦隊の母港横須賀港に入港した。同艦はそれに先立って釜山に入港予定であったが、これは取り消され、韓英海軍は8月31日、東海南部海上で人道主義支援と災害救助中心の訓練など、縮小した交流活動だけを実施した。クイーン・エリザベスは同時期に横須賀港に入港した米国、オランダ、カナダ、それに日本の海上自衛隊の艦船と共に、7日まで「パシフィッククラウン21-3」という名の多国籍共同訓練を行った。
1週間後、中国の 王毅外相が訪韓し、鄭義溶韓国外相と会談した。この会談で表向きは中韓の協力面が強調されたが、王毅外相は参加しなかった韓国を称賛するとともに今後についてもさらにくぎを押したと推測される。
さらに文在寅大統領は12月13日、中国の人権問題を理由とした北京冬季五輪への「外交的ボイコット」について、「韓国政府は検討していない」と表明した。
そしてタン氏に対する講演の一方的なキャンセルとなったのである。その理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と韓国側が挙げたのはかなり露骨な中国重視の表明であった。
タン氏が講演したからと言って中国の安全保障にはいささかの関係もないだろう。そんな問題についてまで韓国が中国の言いなりになっている、ならざるをえないのは遺憾なことである。韓国では来年3月9日に大統領選挙が行われる。どの候補が有力か、予断を許さないが、新大統領になると中国との関係に変化は起こるのだろうか。日本にも大いに関係してくる問題である。
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