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2016.12.17

日露首脳会談の結果をどう見るか 北方領土問題進展に何が必要か

タイトルの件でTHE PAGEに以下の一文を寄稿しました。

「ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は12月15日、来日して山口県長門市で安倍晋三首相と会談し、翌日には東京に移動して会談を続行しました。実質的には約1日という短い日本滞在でしたが、両首脳はかなり長い時間会談しました。
 今回の訪問の成果は事前に予想された範囲内でした。具体的には共同経済活動に関する話し合いに多くの時間が使われ、両国間で数十に上る合意が達成されました。これが今次訪問の最大の成果であり、今後の日露関係発展に資することが期待されます。
 北方四島で共同経済活動を行う場合の主権問題、具体的には参加している企業の納税や紛争が生じた場合によるべき法律について、ロシア側はロシアの法律が適用されると主張していますが、それでは日本の法的立場が害されるので受け入れられません。この点については、今後、双方の立場を害さない「特別の制度」を作るため交渉することになりました。しかし、これがそもそも可能か、可能だとしてもいったいどのようなものか、現段階では何とも言えません。
 そのほか、北方四島の旧島民の墓参など人的交流を容易にすることについてもプーチン大統領は理解を示し、「アクセスを確保する」と表明しました。旧島民がプーチン大統領にあて、安倍首相から手渡された手紙は印象深かったようです。

 しかし、日露間の最大の懸案である領土問題を処理して平和条約を結ぶことについては、両首脳は解決の必要性を認識しあっただけで、具体的な進展はありませんでした。このような結果はプーチン大統領が訪日する前から予想されていたことであり、そのことをもって今回の首脳会談を成功とか失敗とか決めつけるべきでありませんが、領土問題を前進させることはやはり困難であることをあらためて印象付けた首脳会談でした。
 領土問題はなぜこのようなことになったのか、また今後どうすべきでしょうか。
 ロシア側は秋以降厳しい姿勢を見せるようになった印象がありますが、実は、プーチン大統領は2000年に大統領に初めて就任した当初、日本に対しては前任者のエリツィン大統領時代に達成した東京宣言などの成果を認めていましたが、ロシア国内では歯舞、色丹の2島のことしか考えていないという趣旨の発言をしていました。さらに、いったん首相に退いたのち大統領に復帰した2012年頃からは、一方で、双方が妥協する「引き分け方式」が望ましいとしつつ、1956年の日ソ共同宣言以外何も合意されていないと言わんばかりの発言をするようになりました。
 それは明らかに事実と異なります。エリツィン大統領はもっと積極的、意欲的であり、1993年の東京宣言や98年の川奈会談において北方四島の帰属が解決すべき問題であることが双方で確認されました。プーチン氏が言っていることはそれと比べるとかなり後退しており、ソ連時代の指導者であったゴルバチョフ大統領でさえもっと意欲的でした。
 プーチン大統領は、両国間の関係が経済面での協力によって進展し、信頼関係が築き上げられてはじめて領土問題が前進することが可能になるという趣旨の発言を繰り返しています。それはそれで分からないではありませんが、日露関係はさまざまな問題の影響を受けます。その中には、ウクライナ問題のように日本は直接かかわっていない問題ですが、ロシアによって引き起こされ、欧米がロシアに制裁を科した問題もあります。したがって、経済協力だけでなく政治問題も含め総合的に見ていく必要があるのです。

 今後、日本としてはどのように北方領土問題を進展させていくべきでしょうか。カギとなるのはやはり米国です。日米と日露の関係は1950年代に日ソ交渉を始めた時から密接に関連しあっており、たとえば日本は交渉の節目ごとに米国に説明し、米国の考えと齟齬がないことを確かめていました。プーチン大統領が安倍首相との会談後の記者会見で指摘した、ロシアと米国との間の安全保障問題が北方領土に関係していることもその一例です。要するに、米国の対露政策により日露関係は影響を受けるのです。
 トランプ次期大統領は対露政策を改善する可能性がありますが、両国間にはロシアによるサイバー攻撃など敵対的な問題も残っており、全体として米露関係の去就は不透明です。日本としては米露関係の輪郭がはっきりするのを待って、あらためて対露制裁問題を含めロシアとの交渉戦略をたてるべきでしょう。具体的には1月20日に新政権が発足した後一定の期間が必要でしょうから、来年の春頃になると思います。

2016.12.14

(短文)プーチン大統領の訪日と北方領土問題

 明15日からプーチン大統領が訪日する。日本で非常に注目されているが、北方領土問題については、プーチン大統領に期待するのは的外れだ、日本は米ロ関係が明確になるのを待ち、あらためて対ロ戦略を構築すべきだ、という趣旨の一文を東洋経済オンラインに寄稿した。「プーチン来日でも進展困難な「北方領土問題」」とのタイトルになっている。
2016.12.08

(短評)安倍首相の真珠湾訪問

 安倍首相が真珠湾を訪問するのはよいことだと思う。日米関係をさらに前進させ、また、米国内に今も残る日本との戦争の記憶を薄め、わだかまりを解くのに資するからだ。
 しかし、本件については単純に片づけられない面がある。
 第1に、真珠湾訪問の発表は唐突だったと言われているが、準備はその前から進められてきたはずだ。真珠湾攻撃の12月8日(米国時間は7日)より前に発表したいと米側が希望していたことや、安倍首相がペルーでの立ち話で真珠湾を訪問することをオバマ大統領に伝えたこともそれまでに話が進んでいたことを裏付けている。初めてであれば、そのように大事なことを立ち話で伝えることはしない。
 第2に、オバマ大統領の広島訪問の際、日本の首相も真珠湾を訪問するのがよいという意見が一部にあったが、その時は、広島と真珠湾を並べるべきでないと思った。広島は原爆の投下地であり、犠牲になったのは即死およびそれに近い死者だけで14万人であり、その大多数は市民であった。
 一方、真珠湾で犠牲になった人は軍人が主であった。これほど異なる対象を並べてみるのはおかしいと思ったのだ。
しかし、両方とも戦争の犠牲であり、片方は慰霊の対象だが他方はそうでないとするのがはたして適切か。真珠湾攻撃は、米側においてどのような人為的操作があったにせよ、日本の責任であり、かつ、今でも米国人が重視しているかぎり、日本の首相が犠牲者を追悼するのはよいことだと思う。
 第3に、真珠湾を訪問するなら、他の場所、他の国も訪問すべきだという議論がある。その気持ちは分からないではないが、この種のことについては「平等」な扱いにあまり重きを置くべきでない。慰霊訪問の条件が整ったところから実行していくのがよく、その結果一種の不平等が生じてもやむを得ないと思う。
 中国では、安倍首相が真珠湾を訪問するなら南京にも来るべきだという意見が出ているが、それも条件が整えば検討すべきだ。しかし、今の日中関係を見るとそのような条件は、残念ながらなさそうだ。日中関係は日本が悪くしたのではない。日中両方に責任がある。

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