平和外交研究所

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2016.11.28

(短評)ドゥテルテ大統領の真意

 仲裁裁判の対象となった南シナ海のスカボロー礁を禁漁区とする構想が出ている。最初にこの構想を提案したのはフィリピンのドゥテルテ大統領で、11月19日APEC首脳会議が開かれたリマでの習近平中国主席との会談で提案した。禁漁となるのは環礁の内側だけで、その外側では漁業は行えるという構想だそうだ。
 この提案に対する習近平主席の反応について報道は一致していない。前向きの反応であったというものもあるが、どうも明確な意思表示はなかったらしい。今後中国がどのような態度を取るか注目されるが、当分の間はとくに反応しない可能性もある。フィリピン側が一方的に提案したに過ぎないとも言われている。

 ドゥテルテ大統領の考えは興味深いが、まだこちらにははっきり伝わっていない部分があるためか、若干疑問がある。11月中旬の訪中でドゥテルテ大統領は習近平主席と南シナ海の問題を平和的な方法で解決することに合意した。この会談の結果としてフィリピンの漁船が同礁で中国側の妨害を受けることなく操業することが可能となったと伝えられていた。
 ではなぜ、同礁を禁漁区とする提案をしたのか。もし環境保護が目的であれば、なぜ訪中の際の会談でなく、今回のリマ会談で提案したのか。
 フィリピンの漁業者の立場からすれば、スカボロー礁での漁業を再開できるようにしておいて、その後でなぜ禁漁区を設ける提案をしたのか。いったん喜ばせておいて、あとで水をかけるようなことになったのではないか。事実、ドゥテルテ提案に対してはフィリピン内部で困惑、ないし批判の声が上がっている。
 ドゥテルテ大統領は、フィリピン紙の報道では、仲裁判決はフィリピンにとって有利なものであり、また中国もそのことは分かっていると発言している。同大統領が仲裁判決をどのように見ているかがよくわかる。いざというときにだけ持ち出すのが最も効果的だという考えだ。
 ドゥテルテ大統領は、中国も受け入れやすい構想として今回の禁漁区設置提案をした可能性がある。

2016.11.21

(短評)トランプ新政権はアジアインフラ投資銀行に加盟する?

 11月15日、新華社は中国外交部の耿爽(Geng Shuang)スポークスマンが同日、米国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加するのはよいことだと述べたと伝えた。
 次期大統領のトランプ氏の安全保障担当の補佐人であるジェームズ・ウールゼイ氏が、米国がAIIBに参加しないのは戦略的な誤りだと発言したことに関してのコメントだった。

 トランプ新政権がはたしてAIIBに参加するか、なお疑問が残る。AIIBにおいては中国の出資額・議決権がダントツに多く、出資比率は中国が約30%であり、2位のインド(8%台)、3位のロシア(6%台)を大きく引き離している。各国の議決権は出資比率に基づいて算出され、中国が約4分の1を確保している。同銀行において重要事項を決定するには75%の賛成が必要なので、中国がノーと言えば他の国がすべて賛成しても成立しない。つまり、中国だけが拒否権を持つということだ。米国が参加してもこれに比べマイナーな加盟国となるほかない。このことは、AIIBの準備過程で話題になり、仮定の問題として考えられたことがあり、それ以来AIIBは変わっていない。米国がそのような地位に甘んじるとは思えない。
 米国は日本とともにアジア開発銀行の主要メンバーであり、さらにAIIBに加わる意義は何か、という点でも疑問だ。
 さらに、AIIBは中国の「一帯一路」構想、すなわち陸上および海上の新シルクロード建設構想の実現を目的としている。この構想は国際的に決定されたものでなく、中国の国家構想だ。これに米国が参加するようでは、トランプ氏が力説した「偉大な米国」の復活など夢物語であろう。

2016.11.20

トランプ氏と安倍首相が会談

11月18日に、「ザ・ページ」に掲載された一文です。

「安倍晋三首相はニューヨークで11月17日、次期大統領となるドナルド・トランプ氏と会談しました。会談がこんなに早く、選挙から10日もたたないうちに実現するのは異例と言われますが、新政権設立準備に多忙なトランプ氏側が安倍首相との会談を重視していることの表れとみてよいでしょう。
 会談後、安倍首相は会談が温かい雰囲気の中で行われたことを明らかにしつつ、「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と述べました。首脳同士の信頼関係は両国にとって極めて重要です。安倍首相は「同盟関係は信頼がないと機能しない」とも言っています。
 安倍首相とトランプ氏は今回の会談前から意思疎通を始めており、選挙から2日後に安倍首相はトランプ氏に電話で祝意を述べました。その際、トランプ氏は「安倍首相の業績を高く評価している。今後数年間、ともに働くことを楽しみにしている」と語りました。また、日米関係の重要性にも言及しました。
 トランプ氏が安倍首相のことを高く評価していることはこれ以前にも伝えられたことがあります。トランプ氏は強烈な個性の持ち主ですが、安倍首相と個人的にウマが合うとも言われています。首相自身も「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」と周囲に漏らしたことがあるそうです。

 オバマ大統領が口にしていることですが、大統領となるとその責任がいかに大きいか、あらためて実感するそうです。トランプ氏はこれまで日本について言いたい放題に発言してきた感がありますが、新しい大統領としての立場で安倍首相と会った際にはこれまでとまた違った印象だったと思われます。
 会談で安倍首相とトランプ氏は「胸襟を開いて率直に話ができた」と安倍首相が述べています。具体的内容についてはトランプ氏が就任以前であり、非公式な会談だったので説明はされませんが、今後の日米関係にとって今回の会談は重要な一歩となったでしょう。

 日米間の緊急課題の一つは、トランプ氏が繰り返し述べてきた、米国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱です。また、トランプ氏は日米の経済関係についての不満も以前述べていました。しかし、米国はかりにTPPから離脱するとしても、貿易面で不満があるかぎり何らかの形で日本などと交渉せざるをえないはずです。また、トランプ氏はマイナス面ばかり強調しましたが、両国は今後、これら経済問題について早急に意思疎通をよくし、必要な調整を行わなければなりません。新政権は新たな交渉の提案をしてくる可能性もあります。

 安全保障面での問題は両国が緊急に対応措置を講じるようなことでありませんが、トランプ氏が述べてきたことはより深刻な内容を含んでいます。とくに、「米国は日本を守る義務があるのに、日本は米国を守らないのは不公平だ。日本は支払うべきものを払っていない」と日米安保条約の在り方に不満を述べたこと、日本の核武装を容認していると解される発言をしたことなどです。核武装問題については、トランプ氏はそのような考えでないと否定していますが、いずれにしても、トランプ氏は安全保障をめぐる状況をよく理解しているとは思えません。特に懸念されるのは、在日米軍は日米安保条約だけの問題でなく、日本のみならず東アジア、さらにはより広い地域での米軍の行動にとって必要なことです。これは新政権が打ち出す世界戦略や東アジア戦略に関係することであり、トランプ氏には、この複雑な、しかし、世界の平和にとって重要なことをあらゆる方法で説明し理解してもらわなければなりません。
 米国で新政権が成立する場合、各国と政治・安全保障・経済の各方面で話し合うべきことが出てくるのは当然ですが、トランプ新政権の場合はとくに多いかもしれません。それだけに、米国と各国の双方が努力し、足りないところを補っていくことが必要です。
非常に個性が強く、「偉大な米国」を取り戻すとアピールしたトランプ氏を米国民が選んだことは、欧州で移民・難民拒否の姿勢が強まっていることとあいまって世界の秩序が大きく変わりつつあること、とくにこれまでのグローバル化から国家主義、保護主義の重視に戻る変化を示唆しているという見方もあります。このような観点からも今後の状況変化に注目していく必要があると思います。」

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