平和外交研究所

ブログ

オピニオン

2016.11.20

トランプ氏と安倍首相が会談

11月18日に、「ザ・ページ」に掲載された一文です。

「安倍晋三首相はニューヨークで11月17日、次期大統領となるドナルド・トランプ氏と会談しました。会談がこんなに早く、選挙から10日もたたないうちに実現するのは異例と言われますが、新政権設立準備に多忙なトランプ氏側が安倍首相との会談を重視していることの表れとみてよいでしょう。
 会談後、安倍首相は会談が温かい雰囲気の中で行われたことを明らかにしつつ、「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と述べました。首脳同士の信頼関係は両国にとって極めて重要です。安倍首相は「同盟関係は信頼がないと機能しない」とも言っています。
 安倍首相とトランプ氏は今回の会談前から意思疎通を始めており、選挙から2日後に安倍首相はトランプ氏に電話で祝意を述べました。その際、トランプ氏は「安倍首相の業績を高く評価している。今後数年間、ともに働くことを楽しみにしている」と語りました。また、日米関係の重要性にも言及しました。
 トランプ氏が安倍首相のことを高く評価していることはこれ以前にも伝えられたことがあります。トランプ氏は強烈な個性の持ち主ですが、安倍首相と個人的にウマが合うとも言われています。首相自身も「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」と周囲に漏らしたことがあるそうです。

 オバマ大統領が口にしていることですが、大統領となるとその責任がいかに大きいか、あらためて実感するそうです。トランプ氏はこれまで日本について言いたい放題に発言してきた感がありますが、新しい大統領としての立場で安倍首相と会った際にはこれまでとまた違った印象だったと思われます。
 会談で安倍首相とトランプ氏は「胸襟を開いて率直に話ができた」と安倍首相が述べています。具体的内容についてはトランプ氏が就任以前であり、非公式な会談だったので説明はされませんが、今後の日米関係にとって今回の会談は重要な一歩となったでしょう。

 日米間の緊急課題の一つは、トランプ氏が繰り返し述べてきた、米国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱です。また、トランプ氏は日米の経済関係についての不満も以前述べていました。しかし、米国はかりにTPPから離脱するとしても、貿易面で不満があるかぎり何らかの形で日本などと交渉せざるをえないはずです。また、トランプ氏はマイナス面ばかり強調しましたが、両国は今後、これら経済問題について早急に意思疎通をよくし、必要な調整を行わなければなりません。新政権は新たな交渉の提案をしてくる可能性もあります。

 安全保障面での問題は両国が緊急に対応措置を講じるようなことでありませんが、トランプ氏が述べてきたことはより深刻な内容を含んでいます。とくに、「米国は日本を守る義務があるのに、日本は米国を守らないのは不公平だ。日本は支払うべきものを払っていない」と日米安保条約の在り方に不満を述べたこと、日本の核武装を容認していると解される発言をしたことなどです。核武装問題については、トランプ氏はそのような考えでないと否定していますが、いずれにしても、トランプ氏は安全保障をめぐる状況をよく理解しているとは思えません。特に懸念されるのは、在日米軍は日米安保条約だけの問題でなく、日本のみならず東アジア、さらにはより広い地域での米軍の行動にとって必要なことです。これは新政権が打ち出す世界戦略や東アジア戦略に関係することであり、トランプ氏には、この複雑な、しかし、世界の平和にとって重要なことをあらゆる方法で説明し理解してもらわなければなりません。
 米国で新政権が成立する場合、各国と政治・安全保障・経済の各方面で話し合うべきことが出てくるのは当然ですが、トランプ新政権の場合はとくに多いかもしれません。それだけに、米国と各国の双方が努力し、足りないところを補っていくことが必要です。
非常に個性が強く、「偉大な米国」を取り戻すとアピールしたトランプ氏を米国民が選んだことは、欧州で移民・難民拒否の姿勢が強まっていることとあいまって世界の秩序が大きく変わりつつあること、とくにこれまでのグローバル化から国家主義、保護主義の重視に戻る変化を示唆しているという見方もあります。このような観点からも今後の状況変化に注目していく必要があると思います。」
2016.11.18

「駆けつけ警護」に関する理論構成を改めるべきだ

 政府は11月15日、国連のPKO活動に参加している自衛隊にいわゆる「駆けつけ警護」の任務を付与することを決定した。これにより我が国の国際貢献は一歩前進したが、まだ大きな問題が残っている。
 確認というか、おさらいを兼ねて基本的な問題から始めると、もともと自衛隊が海外へ派遣されること自体認めるべきでないという考えであった。いわゆる「海外派兵」として問題視されたことである。
 しかし、湾岸戦争を契機に我が国の国際貢献、とくに人的貢献の面で強化が必要となり、PKO法を制定して国連のPKOに参加し始めた。
 その場合も自衛隊員が武器を使用することは憲法に違反する恐れがあると考えられ、武器使用を「隊員自身の生命を守るためなど必要最小限の場合にのみ」認めてきた。いわゆる「PKO五原則」である。
 しかしそれではどうしても不都合なことがある。第1は、かりに日本のNGOが同じ場所で活動していて攻撃されても自衛隊の部隊は助けに行けないことだった。同じ日本人であり、しかも自衛隊には救助する能力があるのに駆けつけて救助しないのはあまりに不当である。
 第2に、これは国会などでは取り上げられることが少ないが、PKOに参加している部隊は国連事務総長(実質的には国連安保理)の指揮下にあり、日本のPKO部隊も国連の指揮に従わなければならない。したがって、国連ではPKO部隊に武器を使用することを求めることがあるが、日本は「日本の自衛」の場合しか武器の使用を認めないので、国連から与えられている任務を遂行することが困難になることがある。
 実際には、日本はPKO部隊を派遣するに際して、PKO協力法に基づき日本としてできないことをあらかじめ示し、その条件の下で派遣してきた。それは可能だったが、日本の部隊も国連の指揮下にあることと日本の「自衛」のためということは本来調和しにくいことであった。
 次に、安保法制の改正に伴い日本の自衛隊も邦人や他国のPKO部隊を助けること、いわゆる「駆けつけ警護」が可能となったが、その場合も「自衛のため」という考えは維持された。しかし、五原則ははっきりと武器の使用を隊員自身の生命を守るためなど必要最小限の場合に限定しているので、国会での答弁は苦しくなる。それが現在の時点の状況だ。 
 
 しかし、PKO部隊の派遣を「自衛のため」とみなす必要性はあるのか。自衛隊の成立経緯からすれば、いったん決めたことを変更するのは困難だろうが、出発点に立ち返って考えてみると、PKOは国際社会のために行うことであり、「自衛」でないのは明らかだ。
 PKOは日本国憲法も国連憲章も想定していなかったことだが、「和平あるいは停戦」が成立した後に設置されるものであり、今や国連の主要機能の一つとなっている。あらためて憲法第9条に照らしてみれば、「国際紛争」はすでに終わっているので武器使用は禁止されていないと解釈できる。少なくとも自然に読めばそういう結論になるだろう。つまり、PKOの場合は「自衛」という理由によって武器使用を正当化する必要性はないのだ。
 にもかかわらず、日本政府がPKOを「自衛」の範囲で考えてきたのは、武器使用が認められるのは「自衛」の場合のみだという考えがあまりに強かったためであり、またそれしか理論構成がなかったのだと思う。
 しかし、経緯はともかく、PKOへの日本の関与が今後深まることが予想される中で、日本国憲法の下では「自衛」以外に「PKO」の場合も武器の使用ができるとすなおに再解釈することを提案したい。
 こうすれば、PKO部隊は国連決議に従い、「任務として」、必要に応じ武器を使用することになる。もちろん武器使用を控えることも任務の内だ。

 なお、憲法との関係では、「国際貢献」だからという理由で武器使用を認めるべきだと言うのではない。同じ「国際貢献」であっても国際平和支援法が想定する「国際平和共同対処事態」は「停戦」ないし「和平」を前提としておらず、「戦闘が継続中」の事態であり、そのなかで自衛隊員が武器を使用すれば憲法違反になる恐れがある。国際平和支援法はそうならない範囲での協力を定めたが、議論は収まっていない。いずれにしても、同じ「国際貢献」でもPKOの場合と「国際平和共同対処事態」の場合とでは憲法との関係がまったく異なっており、明確に区別しておかなければならない。

2016.11.11

憲法改正の論点④ 自衛隊/国防軍の統制

 自民党憲法改正案は我が国が「国防軍」を保持すると規定している(同案第9条の2)。「自衛隊」は現憲法では言及されておらず、解釈として認められているに過ぎない。また、現憲法第9条第2項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」とあるが、これに相当する規定は改正案にはない。

改正案第9条の2
 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

自民党改正案第66条第2項が主たる規定。
「内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない。」

さらに第72条第3項
「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。」

疑問と問題点 
 自衛隊の統制については、現憲法には2つの問題点がある。
第1は、「自衛隊は軍隊でない」という建前にこだわる結果、自衛隊を統制する必要性が明確に認識されていないことだ。つまり、軍隊は統制しなければならないが、自衛隊についてはそのような必要性がないと思われている。自衛隊はそれが必要になるような状況にはなりえないと想定されているからだ。
自民党改正案は国防軍を持つこととしているので、この「自衛隊」の中途半端な性格は問題にならなくなる。

第2は、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」(66条2項)といういわゆる文民統制だ。首相や防衛相が健全に判断するので軍の暴走を止めることができるという考えだが、実際にはとてもそれでは統制できないと思う。たとえば、作戦Aで成功しなかった軍が作戦Bを必要と主張するが、政治的あるいは外交的な理由から作戦Bは実行すべきでないと判断される場合、防衛相が作戦Bを不許可とするのは困難だ。理論的はもちろんできるとしても、実際には軍はよく検討し、理由を考え防衛相に上げてくるだろうから説得力がある。一方、政治的、外交的判断は妥協の結果として出てくるものであり、したがって理論的根拠は弱いことが多い。軍の考えと政治的・外交的判断を単純に比べてみるとおそらく軍の考えのほうが理屈にかなっているように見えるだろう。
しかし、そこで軍の主張を容れると軍の統制は成り立たない。つまり、軍のほうが合理的であっても政治的、外交的判断を優先させなければならないことがあるのだ。このことは一見不合理に見えても、軍は軍の世界で物事を組み立て、判断しているにすぎないので、全体的判断にはなりえないのであり、またそうしてはならない。
歴史的にいくらも例がある。満州(現東北地方)を防衛するのに長城を超えて華北に入り作戦をしなければならないという主張もあった。この時、日本政府は無力であり、軍の行動を後付けで承認するほかなかった。
陸軍の主張が認められないことを理由に陸軍大臣が閣議をボイコットしたので政府はやむなくその主張を認めたこともあった。
しかも、軍の主張は過去の作戦で多数の兵士が犠牲になったという歴史によって裏付けられ、強化されている。政府が軍の主張する理由に同調しないと、「兵士を無駄死にさせたことになる」などということになる。
このように困難な統制は首相や防衛相が軍人でないことだけで担保されるものでない。しかし、自民党の改正案も現憲法の単純な考えから脱却しておらず、トップに立つ首相や防衛相がいる限り、問題は起こらないという考えに立っている。
 
ではどうすればよいかだが、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という原則を明記すべきだ。この原則といわゆる文民統制(シビリアンコントロール)との違いは、このような原則を立てれば、それはすべての軍人がまもるべき規則となり、またそれを教育することになる。今のシビリアンコントロールだけでは首相や防衛相だけがその原則を守ることになっている。つまり、この原則は万人に対して当てはまるが、シビリアンコントロールはトップだけが責任を持っているに過ぎない。

防衛省の元次官であった守屋武昌氏は、先般成立した安保法制の改正において背広組の職権が削られ、制服組の権限が飛躍的に拡大したことを指摘し、「大戦の惨禍の上に築かれた文民統制の仕組みが取り払われてしまった」と述べている(朝日新聞2016年9月1日付)。その中で守屋氏は「軍事的合理性で押してくる制服組に要求はとてもシビア」と述べている。制服組の主張は説得力があるということだ。
守屋氏の言う文民統制の仕組みとはいわゆる内局(背広組)優位の原則であるが、私が防衛庁(当時)に出向していたとき、内局の幹部にあることを相談したところ「自衛隊が反対するから」という理由で断られたことがある。この短いやり取りだけで判断するのはやや問題であるが、その時は文民優位の仕組みは生きているのか疑問に思った。
自主防衛の範囲が拡大することは決して忌むべきことでない。自衛隊を防衛軍とすることには賛成だ。しかし、軍の統制を見直すことは絶対的に必要であり、「軍は政府の判断に従う」という原則を明確に掲げるべきだと思う。


アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.