平和外交研究所

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2017.08.15

「終戦の日」に考える平和と軍縮 北朝鮮の脅威が増す中で

8月15日、次の一文をザページに寄稿しました。

「8月15日で先の大戦が終結してから72年目。平和の尊さを反芻し、より良き将来を構築する決意を新たにしたい思いです。
 しかし、現実の状況は容易でありません。とくに、わが国周辺では北朝鮮が核・ミサイルの開発を進め、挑戦的な実験を繰り返しています。最近の報道では北朝鮮は60発の核兵器を保有しているといいます。また、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験はすでに2回実行しました。米国本土を直接攻撃する能力を取得しつつあるのです。
 トランプ米大統領は8月8日、「これ以上、米国への威嚇行為を行わないことが北朝鮮にとっての最善策だ。世界が見たことがない炎と怒りを受けることになる」と発言し、また翌日には、「米核戦力はかつてないほど強力だ。使わないことを望む」とツイートしました。その後も強い言葉で警告を発しています。
 もっとも、北朝鮮と対話する用意があることも述べています。
 一方、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍は8日付声明で、米軍の重要な軍事拠点であるグアム島を、ミサイル「火星12」で「包囲射撃する作戦を慎重に検討中」と威嚇しました。日本も仮想標的となり、朝鮮中央通信は9日、「日本列島を瞬時に焦土化できる能力を備えた」と豪語しました。

 しかし、こんな時こそ冷静に対処することが必要です。日本では、自民党の安全保障調査会が8日、北朝鮮のミサイル発射に備えた国民保護のあり方に関する提言を安倍晋三首相に提出しました。その中には、国外の敵基地を攻撃する能力を日本が保有すべきことが含まれています。この敵基地攻撃能力の議論は「専守防衛」を掲げてきた従来の日本の方針から逸脱するのでは、との議論もあります。日本が有事の場合に備えることはもちろん必要ですが、勢い余って攻撃的にならないよう注意が必要です。
 米朝間の激しい非難合戦はたしかに憂慮されますが、「売り言葉に買い言葉」的なところがあり、その分差し引かなければなりません。そのうえで、冷静に状況を分析し、当面の緊張を緩和させ、北朝鮮の安全確保と朝鮮半島の非核化という最終目標に向かって進まなければなりません。

 トランプ政権は成立以来、中露両国との協力を重視する姿勢を見せています。ただし、ロシアの関係ではいわゆる「ロシア疑惑」の問題があり、また中国との間では、南シナ海における国際法違反の行動の問題があり、関係改善は一直線に進展していません。
 また、トランプ政権は、オバマ政権が軍縮を重視していたのと対照的に、軍事力を重視する姿勢を見せています。
トランプ大統領は、就任前、核兵器の使用を認めることを示唆する発言を行っており、過激派組織ISが米国を攻撃してくれば、「核で反撃する」と発言したこともありました。さらに、日本が核武装するのを容認するかのような発言をしたこともありました。
 トランプ政権は現在、「核体制見直し(NPR)」を進めており、年内に結論が出る予定です。オバマ前政権以来、7年ぶりの見直しで、報告が早まる可能性もあるそうです。これは新政権としての基本政策になるものであり、その内容が注目されます。トランプ氏の個人的な考えが強く反映されると軍備拡張競争を惹起する危険もあります。

 軍縮を進めるには不利な状況になっています。しかし、軍縮は一時の勢い、あるいは個人的な好みによって左右されてはなりません。米露の二大軍事国家も中長期的には核軍縮を進めなければならない考えであり、1972年のSALTⅠ(第一次戦略兵器制限交渉)以来、戦略兵器の削減交渉を重ねてきており、もっとも最近の合意は2010年の「新START(
新戦略兵器削減条約)でした。また、1987年には中距離の核戦力(INF)を全廃する条約を締結しました。
 問題は、核軍縮の進め方、速度であり、それらについては核保有国と非保有国では考えが違っています。非保有国の中にも意見の違いがありますが、オーストリア、ノルウェー、メキシコなどの急進派は数年前から「核の非人道性」を確立する運動をはじめ、これには核保有国も徐々に参加し始めていました。
 さらに、核軍縮急進派は核兵器の禁止に転じ、さる7月7日、国連で「核兵器禁止条約」が採択されました。
 日本の立場は微妙です。今年の「原爆の日」に長崎市長が「平和宣言」で条約への参加を求めたように、唯一の被爆国として日本は核軍縮の先頭に立つべきだという強い期待感がある一方、米国の核の傘の下にあり、その抑止力を弱めるようなことはできません。日本はそのため、米国の核の傘の下にある他の諸国と同様、この条約交渉にも参加しませんでした(ただし、オランダだけは交渉に参加)が、はたしてそのような姿勢は適切だったか。反省の余地があります。
 ともかく、核軍縮問題は禁止条約で終わったわけではありません。河野外相は10日、中満国連事務次長・軍縮担当上級代表に対し、「我が国として,現実的かつ実践的な措置を積み重ねることを通じ,実際の核兵器の削減に向けて核兵器国と非核兵器国との協力関係を再構築すべく取り組んで行く」と述べました。日本は、国際社会でのコンセンサス形成のため最大限努力していくべきです。
2017.08.10

内閣改造②シビリアン・コントロール

 南スーダンへの自衛隊PKO部隊の派遣は憲法の文民統制(シビリアン・コントロール)についてあらためて考える機会になった。
 問題は、派遣部隊が作成していた日報の開示が求められたのに対し、防衛省は調査の結果として、すでに破棄したと答えたことからはじまった。しかし、さらにある自民党議員によって再調査が求められた結果、日報が統合幕僚監部に残っていることが判明した(12月末)。このことが稲田防衛相に報告されたのは、翌年の1月末であった。
 さらにその後、日報は派遣部隊の親元である陸上自衛隊にも残っていたことが判明した。そうなると、防衛省の最初の「破棄した」との説明と矛盾してくる、虚偽の回答をしたと追及される恐れもあった。発見された日報の取り扱いに苦慮した防衛省では、2月15日、稲田防衛相、岡部陸上幕僚長、事務方トップの黒江事務次官らが出席して対応を協議し、「不公表」とすることに決定した。しかし、後日、その経緯も外部に漏出した。
 この間、稲田防衛相は国会で答弁の矛盾、事実関係の説明の不明確さ、防衛省内の把握の不十分さを指摘された。これに対し稲田氏は、自身が指示して徹底的に調査し、日報を公表させたとし、「シビリアン・コントロールは効いていた」と強調した(3月17日の記者会見)が、国民の納得を得ることはできなかった。
 
 問題点は、大きく言って二つある。稲田氏の防衛相としての言動が適切であったかという問題と、現憲法が定めるシビリアン・コントロールは適切かという問題である。前者については、今後国会などにおいて解明がすすむことを期待したい。本稿では後者の制度問題を取り上げる。

 まず、日本国憲法の下では、そもそも「シビリアン・コントロール」を論じる余地はあるのか、という疑問がある。憲法9条によれば、日本には「軍」はないので、シビリアン・コントロールの必要もないとも考えられるからである。しかし、日本は自衛のために武装した自衛隊を持っているので、やはり、シビリアン・コントロールの必要があるだろう。
 具体的には、シビリアン・コントロールは、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」という規定(66条2項)によって確保されていると解されている。しかし、これでシビリアン・コントロールが十分とは言えないと思う。
 現憲法では、旧憲法下のように陸軍が強引に内閣を倒すことは不可能になっている。この点では改善しているのだが、次のような問題が残っている。

 第1に、防衛相に就任する人はつねに能力があるとは限らない。自衛隊を適切に監督できる人もいれば、できない人もいる。防衛相は、例えば、政治資金規正法違反の理由で刑事罰を受けるかもしれない。また、自衛隊を政治目的に濫用するかもしれない。
 自衛隊から見ても心底から仕えたい防衛相もいれば、信頼できないとみなす人もいる。これらは通常、表で語られないことであるが、現実には問題になりうることが今回の事件で露呈された。要するに、文民がトップであってもそれだけでは安心できないのである。内閣の構成員が文民でなければならないのは、シビリアン・コントロールの必要条件であるが、十分条件ではないのだ。

 第2に、自衛隊の主張には説得力があり、防衛相がそれを承認しないとするのは困難なことである。たとえば、自衛隊が作戦Aで成功しなかったので作戦Bが必要と主張するケースを考えてみる。政府は諸外国との関係など総合的な考慮から作戦Bを実行すべきでないと判断しても、防衛相ははたして作戦Bを不許可とできるか。理論的にはもちろんできるはずだが、実際には自衛隊は現場をよく知っており、よく考えて防衛相に上げてくるだろうからその主張には説得力がある。
 また、かつての帝国軍隊の場合は、作戦を途中で変更すると、それまでの犠牲を「無駄にするのか」という議論が使われた。
 一方、政府の判断は多かれ少なかれ妥協が含まれており、したがって説得力は弱い。自衛隊の考えのほうが理屈にかなっているように見えることがありうる。
 しかし、それでも自衛隊の主張を退け、政府の判断に従わせなければならないことがある。これがシビリアン・コントロールであるが、単に上に立つ政府が自衛隊を押さえつけるということでなく、長い目で見ると妥協をした政府のほうが正しかったことが分かってくるのである。これは裁判の証明のようなことでないが、歴史の教訓である。
 日本の憲法規定は米国に習ったものであるが、実は、日米のシビリアン・コントロールは異なっているところがある。米国ではシビリアン・コントロールはよく効いているように見えるが、実際にはシビリアン・コントロールは簡単でなく、あらゆる手段で確保に努めなければならないと認識されている。
 これに比べると、日本のシビリアン・コントロールは、憲法の規定はあるが、自衛隊の海外での武力行使は今までは皆無であり、したがってまた、シビリアン・コントロールが本当に必要になる事態には立ち至ったことがなかった。つまり経験が乏しいので、シビリアン・コントロールの議論は机上の空論に陥るのである。旧憲法下では問題とすべき事例が多数あったが、旧軍のことは現在の自衛隊とはほぼ完全に切り離されており、参照すべき前例とは認識されていない。

 今後どうすればよいかだが、憲法を改正して自衛隊を正規の防衛軍にするなら、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という原則を明記すべきだ。つまり、文民によるコントロールは人の面からの規制であり、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という原則はルールの問題であり、両方が必要である。そして、この二つの原則の下でシビリアン・コントロールが必要な諸事項、とくに、政治にかかわってくる問題について自衛隊がどこまで研究したり、主張したりできるかを法律で規定すべきである。かつて、自衛隊員が有事の場合の対応に関する法制上の欠陥について研究したことが問題視されたことがあったが、一概に否定されるべきことでなかった。それは一定程度まで、つまり、シビリアン・コントロールに反しない限度内では認められてしかるべきことであった。
 さらに、制度面の措置とともに、戦前の軍による暴走とそれをコントロールできなかった政治の欠陥などを含め歴史を徹底的に見つめなおし、その結果を政府と自衛隊の在り方に反映させ、自衛隊が政府に反旗を翻すようなことはあり得ないようにする努力が必要である。


2017.07.29

混迷するトランプ政権

 ショーン・スパイサー報道官の辞任によりトランプ政権の混迷はさらに激しくなった。スパイサー氏は、マイケル・ドゥブケ氏が辞任して以来ホワイトハウスの広報部長も兼任していたが、後任の広報部長には7月21日、アンソニー・スカラムーチ氏が任命された。
 トランプ大統領はメディアを攻撃し、激しく対立するので報道官はメディアからの反撃の盾になる。一般論として、メディアと報道官の間には協力関係の中にも一定の緊張関係があるが、トランプ大統領のようにメディアを激しく攻撃することはかつてなかったことであり、ホワイトハウスの報道官を務めるのは並大抵のことでない。スパイサー氏の後任にはサラ・ハッカビー・サンダース副報道官が昇格するが、どのくらい持つか。失礼なことを言うようだが、トランプ政権の場合には疑問視されても仕方がないだろう。

 ロシア疑惑については、ロバート・モラー特別検察官による調査が継続中である。トランプ大統領は、この問題の扱いが不満でFBIのジェームズ・コミー長官を解任した後、クリストファー・レイ氏を新長官に指名したが、FBIは今後も特別検察官に全面的に協力することが義務付けられており、新体制になってもトランプ大統領の思い通りにはならないだろう。
 一方、政権内にあってトランプ大統領を擁護することを期待されていたセッションズ司法長官だが、ロシア疑惑にはかかわらないことを早々と宣言してしまった。セッションズ長官は大統領選挙キャンペーンにおいて重要な役割を果たし、当選後の祝賀式典ではトランプ大統領の家族とともに壇上に立つくらい功績を認められていたのだが、肝心のロシア疑惑ではお手伝いしないと宣言したのだ。トランプ氏は7月19日、自身が宿敵とみなすニューヨークタイムズ紙に、「セッションズ司法長官がロシア疑惑に関する調査から外れると知っていたら、司法長官に指名しなかった」と語っている。トランプ氏らしいが、きわめて不適切な発言であり、この発言を支持する米国人はどのくらいいるだろうか。トランプ氏はセッションズ長官の解任を検討しているとも報道されている。
 時間的には前後するが、マイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は新政権成立以前からロシアと接触していたため辞任に追い込まれ、調査の対象となっている。
政権内にあってトランプ氏を補佐している女婿のジャレッド・クシュナー氏も、また、政権外でトランプ氏の不動産業を引き継いでいる長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏も調査の対象となっている。ロシア疑惑の関係ではまだ明確になっていないことも多々あるようだが、以上判明していることだけを見ても、トランプ政権のロシア疑惑は深刻な状況にある。

 7月初め、ドイツでG20が開催された際、トランプ大統領はプーチン大統領と約2時間会談し、ウクライナ、サイバー攻撃、北朝鮮、シリアなどについて話し合い、予定を約1時間以上超過した。プーチン大統領はトランプ氏の後で会談する予定であった安倍首相をそれだけ待たせたので「謝罪する」と述べていたそうである。詳細は不明だが、実際謝罪したのだろう。
 このことだけでも異例であったが、トランプ大統領はさらにメルケル首相主催の夕食会の席でも途中からプーチン大統領の席に移動して話しこんだ。
 しかるに、ホワイトハウスはこの件について当初発表せず、10日以上も経った18日になってようやく明らかにし、両大統領は「短い会話」を交わしたとする声明を出したが、トランプ大統領が宿敵とみなすCNNは、「あるホワイトハウス高官が語ったところによると、夕食会での会話は1時間近く続いた」と報道した。
 しかも、この時米側のロシア語通訳はおらずロシア側の通訳だけであったので、米国内ではそのような形で話し合ったことも批判された。2国間の会議では、発言はその国の通訳が訳して伝えるのが常識である。正確なコミュニケーションのためにはそうすることが必要だからだ。
 また、米側では会談の記録も作成できなかった。首脳だけの会談の場合通訳のメモは正確な記録を作成するための貴重な資料である。後に、両首脳の発言内容が問題になる場合、ロシア側は記録に基づいて発言内容を主張できるが、米側はできない。これも深刻な問題である。
 
 共和党支持者の間では72%がトランプ大統領を支持しているという調査もあるようだが、米国民全体ではトランプ大統領の支持率はすでに40%をきるところまで急落している。米連邦議会においては、共和党議員はまだトランプ大統領を支持しているが、明年には連邦議会の選挙(いわゆる中間選挙)があるので共和党にとっても懸念材料は増えているわけだ。
 下院は7月25日、ロシアなどへの制裁強化法案を圧倒的多数で可決した。トランプ大統領が望んでも制裁を緩和するには議会の同意が必要とされている。つまり、議会の共和党議員はトランプ大統領を支持しつつも、ロシアとの関係では民主党議員と同様強い態度を取ることに迷いはないのだ。
 
 スカラムーチ広報部長は就任早々、プリーバス大統領首席補佐官とバノン首席戦略官兼上級顧問の両氏を汚い言葉で非難し始め(ロイター)、プリーバス首席補佐官は解任された。セッションズ司法長官はどうなるか未定だが、近日中に結論が下されるかもしれない。
 おりしも、トランプ米政権と与党共和党の指導部は7月27日、国境税の導入を見送ることを決定した。同税は、海外で生産した製品を米国に輸入して販売する企業の税負担を重くすることが目的であり、まさにトランプ氏の主張であり、下院共和党の指導部が導入を訴えてきたものだ。
 翌日、上院は、医療保険制度改革法(オバマケア)について、撤廃の範囲を絞り込んだ「スキニー・リピール(ちょっとだけの廃案)」と呼ばれる廃止法案を否決した。一部共和党議員が法案に反対したためである。
トランプ大統領をめぐる状況はますます混迷を深め、予測不可能になっている。
 
 そんななか、北朝鮮は28日深夜、またしてもICBMの発射実験を行った。この難しい問題に対して米国は賢明に、かつ有効に対処できるか。北朝鮮は最初のICBM実験の時から兆候があったが、米国の足元を見透かして大胆な行動に出ているのではないか。


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