その他
2018.01.18
まず、今回の会議はなぜカナダで開かれたのか。カナダはこれまで、北朝鮮の核・ミサイル問題では前面に立っておらず、現在中断されたままになっている6カ国協議にも入っていなかった。そのような状態は、どの国にとっても、おそらくカナダにとっても、ある時点までは自然であった。
しかし、北朝鮮の核搭載ミサイルの性能が向上し、米国に向かっているミサイルがカナダに落ちるかもしれないという恐怖心が生まれてくると、見守るだけでは政府として責任が果たせなくなったのだろう。
カナダは米国と北米航空宇宙防衛司令部(North American Aerospace Defense Command 略してNORAD)を構成している。冷戦時代、カナダの上空を超えて飛んでくるソ連のミサイルをいち早くキャッチするために作られた防衛メカニズムであり、早期警戒システムが機能しないと米国はもちろん、カナダも壊滅の危機にさらされる。
ソ連がロシアになってもNORADは維持されており、中国のミサイルにも対応するようになっているのだが、さらに北朝鮮も対象になってきたのである。数年前に北朝鮮が「人工衛星」と称するロケットを打ち上げたときはそのモニターをしていた。北朝鮮の核・ミサイルは米国だけでなくカナダにとってもそれほど脅威となってきたのである。
しかし、カナダの外交は、強面の米国と違ってソフトムードであり、リベラルだ。政権によっても外交姿勢は多少違うが、どの政権でもカナダが軍事力をちらつかせて目的を達成しようとすることはあり得ない。究極の安全保障については米国と運命共同体であるのはやむを得ないが、カナダとしての独自性はしっかりと主張する必要があるのだ。国連の平和維持活動をカナダの外相が提唱したのはそのような外交姿勢を象徴していた。米国は世界の安全保障に直接かかわっていくが、カナダは国連の機能強化を重視するのである。
カナダは、北朝鮮の非核化問題に関する米国の対応に強い懸念を抱いている。もし米国が北朝鮮に対する軍事行動を開始するならば、カナダとしても米朝間の戦争に巻き込まれないでいることは困難だ。しかし、カナダとしてはそんなことは何としてでも避けたい。そんな気持ちが募ってフリーランド外相はティラーソン国務長官と語り合って今回の会議をホストし、平和的解決を重視する国際世論を盛り上げようとしたのだろう。
しかし、フリーランド外相とティラーソン米国務長官が当初の目的を達成できたか疑わしい。
まず、朝鮮戦争で国連軍として戦った国を会議の参加国としたことが問題であった。フリーランドとティラーソン両氏としては、かつて北朝鮮と戦った諸国が今は平和的な解決を重視している姿勢を見せるのは「対話」重視に効果的だと思ったのだろうが、外交的センスにかける判断だった。
問題の一は、中国やロシアに、今次会議は冷戦時代に後戻りする手法だと攻撃させる口実を与えてしまったことである。
両国に対する今次会議への招待は円滑に行われなかった。会議開催の直前になってフリーランド外相は、両国が参加すると信じていると述べたが、両国は「招待されなかった」と明言していた。このような発言のずれが生じたのは、最初の時点では、両国への招待がフリーランド氏とティラーソン氏の頭になく、後で招待することにしたからではないか。大国扱いをしてもらいたい中ロ両国がそのような扱いを激しく嫌うことがすぐにわからないようでは困る。
両国とも北朝鮮との「対話」を重視している。いわば、「対話」派の大物である。「対話」の国際的雰囲気を高めるのが目的ならば、最も重視してしかるべき国々であるのに怒らせてしまったのだ。
米国内からも、フリーランド・ティラーソン両氏のイニシャチブに待ったがかかった。マティス国防長官の飛び入りであり、圧力の重要性をリマインドした。ティラーソン氏は会議で、「北朝鮮が我々の決意や結束にくさびを打ち込むことは許さない」などと発言しているが、どうもポイントがはっきりしない発言である。今次会議をめぐりティラーソン氏は手腕を問われることになった。
日本は中ロより重視され、早い段階から参加を求められた。しかし、日本政府としては、「対話」派の国々を結集することなどしたくない。むしろそれを警戒していたとも言われている。しかも、朝鮮戦争で戦った国々のことなど、日本は米国以外興味がない。
それでも会議に出席はしたが、河野外相は会議の内外で、「圧力」に集中することが必要だと説いて回ったと思う。
その努力もあって、今次会議の報道では、特に日本の報道だが、会議は「圧力」強化、あるいは重視が結論となったという趣旨が強く出た。また、河野外相は、「(会合では)対話ムード、融和ムードは一切なかった」と言い切った。
「対話」重視で盛り上がろうとした今次会議は、当初の目的に照らすと、成功と言えない結果に終わったのは明らかだ。会合後にティラーソン氏と並んで会見したフリーランド外相は「外交的解決が可能であり、不可欠だと信じている。それが今日の会合の結果だ」と頑張ったが、半分はやせ我慢でなかったか。
中国は、会議終了後、今回の会議の成果は「国際社会を分断させてしまったことだ」と皮肉たっぷりにコメントしている(新華社1月17日)。
しかし、今次会議の結果をもって、「対話」は今後重視されないとは言えない。
北朝鮮の核・ミサイル問題を解決するのに「対話」しないでよい、すべきでないと断言できるのは何カ国あるか。カナダ政府の今次会議の公報は、「我々は交渉と外交による解決が本質的で、また、可能な方法であると信じている」と述べている。これはフリーランド氏個人の考えでなく、カナダ政府の立場である。
各国とも、日本が「北朝鮮と今、対話すべきでない」と言うと正面切って反論しないだろうが、納得しているのではない。下手をすると、日本だけが「反対話」派の先頭に立つ恐れがある。
米国も「反対話」派だと日本政府は強調しているように聞こえる。が、トランプ大統領の本心はわからない。トランプ氏は、ティラーソン氏らが「対話」を重視する発言をすることは嫌うが、自分と金正恩委員長との対話の可能性については昨年の春からかぞえて、5回、平気で言及している。10日、文在寅大統領と電話会談した際には、「適切な時期と環境の下で北朝鮮と対話することにはオープンだ」と述べていた。
米国は複雑だ。トランプ氏は相手が違うと別のことも発言する。自分の立場を重視する政治的発言もする。米政権内にはさまざまな考えがあるが、基本は「圧力と対話」であり、「圧力」一本やりの日本とは異なっている。
北朝鮮問題に関するバンクーバー閣僚級会議
1月16日、カナダのバンクーバーで開かれた北朝鮮の核・ミサイルに関する閣僚会合は不思議な会議であった。まず、今回の会議はなぜカナダで開かれたのか。カナダはこれまで、北朝鮮の核・ミサイル問題では前面に立っておらず、現在中断されたままになっている6カ国協議にも入っていなかった。そのような状態は、どの国にとっても、おそらくカナダにとっても、ある時点までは自然であった。
しかし、北朝鮮の核搭載ミサイルの性能が向上し、米国に向かっているミサイルがカナダに落ちるかもしれないという恐怖心が生まれてくると、見守るだけでは政府として責任が果たせなくなったのだろう。
カナダは米国と北米航空宇宙防衛司令部(North American Aerospace Defense Command 略してNORAD)を構成している。冷戦時代、カナダの上空を超えて飛んでくるソ連のミサイルをいち早くキャッチするために作られた防衛メカニズムであり、早期警戒システムが機能しないと米国はもちろん、カナダも壊滅の危機にさらされる。
ソ連がロシアになってもNORADは維持されており、中国のミサイルにも対応するようになっているのだが、さらに北朝鮮も対象になってきたのである。数年前に北朝鮮が「人工衛星」と称するロケットを打ち上げたときはそのモニターをしていた。北朝鮮の核・ミサイルは米国だけでなくカナダにとってもそれほど脅威となってきたのである。
しかし、カナダの外交は、強面の米国と違ってソフトムードであり、リベラルだ。政権によっても外交姿勢は多少違うが、どの政権でもカナダが軍事力をちらつかせて目的を達成しようとすることはあり得ない。究極の安全保障については米国と運命共同体であるのはやむを得ないが、カナダとしての独自性はしっかりと主張する必要があるのだ。国連の平和維持活動をカナダの外相が提唱したのはそのような外交姿勢を象徴していた。米国は世界の安全保障に直接かかわっていくが、カナダは国連の機能強化を重視するのである。
カナダは、北朝鮮の非核化問題に関する米国の対応に強い懸念を抱いている。もし米国が北朝鮮に対する軍事行動を開始するならば、カナダとしても米朝間の戦争に巻き込まれないでいることは困難だ。しかし、カナダとしてはそんなことは何としてでも避けたい。そんな気持ちが募ってフリーランド外相はティラーソン国務長官と語り合って今回の会議をホストし、平和的解決を重視する国際世論を盛り上げようとしたのだろう。
しかし、フリーランド外相とティラーソン米国務長官が当初の目的を達成できたか疑わしい。
まず、朝鮮戦争で国連軍として戦った国を会議の参加国としたことが問題であった。フリーランドとティラーソン両氏としては、かつて北朝鮮と戦った諸国が今は平和的な解決を重視している姿勢を見せるのは「対話」重視に効果的だと思ったのだろうが、外交的センスにかける判断だった。
問題の一は、中国やロシアに、今次会議は冷戦時代に後戻りする手法だと攻撃させる口実を与えてしまったことである。
両国に対する今次会議への招待は円滑に行われなかった。会議開催の直前になってフリーランド外相は、両国が参加すると信じていると述べたが、両国は「招待されなかった」と明言していた。このような発言のずれが生じたのは、最初の時点では、両国への招待がフリーランド氏とティラーソン氏の頭になく、後で招待することにしたからではないか。大国扱いをしてもらいたい中ロ両国がそのような扱いを激しく嫌うことがすぐにわからないようでは困る。
両国とも北朝鮮との「対話」を重視している。いわば、「対話」派の大物である。「対話」の国際的雰囲気を高めるのが目的ならば、最も重視してしかるべき国々であるのに怒らせてしまったのだ。
米国内からも、フリーランド・ティラーソン両氏のイニシャチブに待ったがかかった。マティス国防長官の飛び入りであり、圧力の重要性をリマインドした。ティラーソン氏は会議で、「北朝鮮が我々の決意や結束にくさびを打ち込むことは許さない」などと発言しているが、どうもポイントがはっきりしない発言である。今次会議をめぐりティラーソン氏は手腕を問われることになった。
日本は中ロより重視され、早い段階から参加を求められた。しかし、日本政府としては、「対話」派の国々を結集することなどしたくない。むしろそれを警戒していたとも言われている。しかも、朝鮮戦争で戦った国々のことなど、日本は米国以外興味がない。
それでも会議に出席はしたが、河野外相は会議の内外で、「圧力」に集中することが必要だと説いて回ったと思う。
その努力もあって、今次会議の報道では、特に日本の報道だが、会議は「圧力」強化、あるいは重視が結論となったという趣旨が強く出た。また、河野外相は、「(会合では)対話ムード、融和ムードは一切なかった」と言い切った。
「対話」重視で盛り上がろうとした今次会議は、当初の目的に照らすと、成功と言えない結果に終わったのは明らかだ。会合後にティラーソン氏と並んで会見したフリーランド外相は「外交的解決が可能であり、不可欠だと信じている。それが今日の会合の結果だ」と頑張ったが、半分はやせ我慢でなかったか。
中国は、会議終了後、今回の会議の成果は「国際社会を分断させてしまったことだ」と皮肉たっぷりにコメントしている(新華社1月17日)。
しかし、今次会議の結果をもって、「対話」は今後重視されないとは言えない。
北朝鮮の核・ミサイル問題を解決するのに「対話」しないでよい、すべきでないと断言できるのは何カ国あるか。カナダ政府の今次会議の公報は、「我々は交渉と外交による解決が本質的で、また、可能な方法であると信じている」と述べている。これはフリーランド氏個人の考えでなく、カナダ政府の立場である。
各国とも、日本が「北朝鮮と今、対話すべきでない」と言うと正面切って反論しないだろうが、納得しているのではない。下手をすると、日本だけが「反対話」派の先頭に立つ恐れがある。
米国も「反対話」派だと日本政府は強調しているように聞こえる。が、トランプ大統領の本心はわからない。トランプ氏は、ティラーソン氏らが「対話」を重視する発言をすることは嫌うが、自分と金正恩委員長との対話の可能性については昨年の春からかぞえて、5回、平気で言及している。10日、文在寅大統領と電話会談した際には、「適切な時期と環境の下で北朝鮮と対話することにはオープンだ」と述べていた。
米国は複雑だ。トランプ氏は相手が違うと別のことも発言する。自分の立場を重視する政治的発言もする。米政権内にはさまざまな考えがあるが、基本は「圧力と対話」であり、「圧力」一本やりの日本とは異なっている。
2018.01.09
南北朝鮮間では、9日、ハイレベルの対話が行われ、平昌オリンピックへの北朝鮮の参加問題などが話し合われる。一般には非核化問題にも好影響を与えるかもしれないといった期待感が、どのくらい大きいかはともかく、広く持たれているようだが、南北対話から非核化問題が進むことはありえない。「南北対話」と「北朝鮮の非核化」は別の土俵で起こっていることであり、明確に区別して見ていく必要がある。したがって、また、米国の一部高官のように心配したり、韓国に警告したりする必要もない。
トランプ大統領の発言は非核化に直接かかわってくる。しかも、日本の外交にとって深刻な問題になりうる。
トランプ氏が、北朝鮮との対話について前向きの姿勢を大統領として語ったのは、今回で3回目である。最初は昨年4月末のCBSとのインタビューで、2回目はアジア歴訪中の11月、ベトナムでの記者会見であった。
要するに、トランプ氏は安倍首相に対しては「日本の立場を100%支持する」と言いつつ、他の場所では「対話」について前向きの姿勢を示しているのだ。しかも、今回は「対話は良いことだといつも思っている」と述べ、同氏の発言はその場限りのことでないことを明言した。
一方、安倍首相は「圧力」一本やりであり、「対話は時期尚早」である。しかもこの立場は一貫している。
トランプ氏のように発言がコロコロ変わるのは決して褒められることでないが、外交のためには幅のあるほうが有利だ。状況に応じて臨機応変に動けるからだ。
ともかく、トランプ氏は今後も北朝鮮の非核化問題に関する「対話」について発言するだろう。日米の立場は、日本政府の説明と違って、大事なところで違ってきつつあるのではないか。
トランプ大統領の「対話」発言ーその3
トランプ米大統領は1月6日、北朝鮮の金正恩委員長と直接対話をすることについて、「私は対話は良いことだといつも思っており、全く問題ない」と発言した。南北朝鮮間では、9日、ハイレベルの対話が行われ、平昌オリンピックへの北朝鮮の参加問題などが話し合われる。一般には非核化問題にも好影響を与えるかもしれないといった期待感が、どのくらい大きいかはともかく、広く持たれているようだが、南北対話から非核化問題が進むことはありえない。「南北対話」と「北朝鮮の非核化」は別の土俵で起こっていることであり、明確に区別して見ていく必要がある。したがって、また、米国の一部高官のように心配したり、韓国に警告したりする必要もない。
トランプ大統領の発言は非核化に直接かかわってくる。しかも、日本の外交にとって深刻な問題になりうる。
トランプ氏が、北朝鮮との対話について前向きの姿勢を大統領として語ったのは、今回で3回目である。最初は昨年4月末のCBSとのインタビューで、2回目はアジア歴訪中の11月、ベトナムでの記者会見であった。
要するに、トランプ氏は安倍首相に対しては「日本の立場を100%支持する」と言いつつ、他の場所では「対話」について前向きの姿勢を示しているのだ。しかも、今回は「対話は良いことだといつも思っている」と述べ、同氏の発言はその場限りのことでないことを明言した。
一方、安倍首相は「圧力」一本やりであり、「対話は時期尚早」である。しかもこの立場は一貫している。
トランプ氏のように発言がコロコロ変わるのは決して褒められることでないが、外交のためには幅のあるほうが有利だ。状況に応じて臨機応変に動けるからだ。
ともかく、トランプ氏は今後も北朝鮮の非核化問題に関する「対話」について発言するだろう。日米の立場は、日本政府の説明と違って、大事なところで違ってきつつあるのではないか。
2017.12.20
なお、『世界』の発売後に、ティラーソン米国務長官の、無条件で対話を始める用意があるとの発言がありました。河野外相が議長を務めた安保理の緊急会合ではその発言を修正し、対話については後退したと報道されましたが、同長官の考えは変わっていないと思います。
同長官がトランプ政権にいつまでとどまるか不透明になっているなかで、国務省のアジア太平洋担当の次官補(日本の局長にあたる)としてスーザン・ソーントン氏が指名されました。同氏は中国語もできるアジア通のキャリア外交官で、トランプ政権(の一部)からにらまれていました。同氏が就任すれば、3月以来空席になっていた重要ポストが埋まることになり、トランプ政権として一歩前進です。
北朝鮮問題をめぐる日米外交の不一致
雑誌『世界』の2018年1月号に「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を寄稿しました。内容は、北朝鮮問題に関する日米両国の外交は「完全に一致している」と言われているが、実際には違っていること、トランプ大統領は「圧力をかける」と言いつつ、対話についても幅のある考えであること、安倍首相には軍事行動に賛成しないでもらいたいことなどです。ご参考まで。なお、『世界』の発売後に、ティラーソン米国務長官の、無条件で対話を始める用意があるとの発言がありました。河野外相が議長を務めた安保理の緊急会合ではその発言を修正し、対話については後退したと報道されましたが、同長官の考えは変わっていないと思います。
同長官がトランプ政権にいつまでとどまるか不透明になっているなかで、国務省のアジア太平洋担当の次官補(日本の局長にあたる)としてスーザン・ソーントン氏が指名されました。同氏は中国語もできるアジア通のキャリア外交官で、トランプ政権(の一部)からにらまれていました。同氏が就任すれば、3月以来空席になっていた重要ポストが埋まることになり、トランプ政権として一歩前進です。
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