平和外交研究所

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2017.12.20

北朝鮮問題をめぐる日米外交の不一致

 雑誌『世界』の2018年1月号に「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を寄稿しました。内容は、北朝鮮問題に関する日米両国の外交は「完全に一致している」と言われているが、実際には違っていること、トランプ大統領は「圧力をかける」と言いつつ、対話についても幅のある考えであること、安倍首相には軍事行動に賛成しないでもらいたいことなどです。ご参考まで。

 なお、『世界』の発売後に、ティラーソン米国務長官の、無条件で対話を始める用意があるとの発言がありました。河野外相が議長を務めた安保理の緊急会合ではその発言を修正し、対話については後退したと報道されましたが、同長官の考えは変わっていないと思います。
 同長官がトランプ政権にいつまでとどまるか不透明になっているなかで、国務省のアジア太平洋担当の次官補(日本の局長にあたる)としてスーザン・ソーントン氏が指名されました。同氏は中国語もできるアジア通のキャリア外交官で、トランプ政権(の一部)からにらまれていました。同氏が就任すれば、3月以来空席になっていた重要ポストが埋まることになり、トランプ政権として一歩前進です。
2017.09.19

ミャンマーとロヒンギャ

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が、イスラム教徒のロヒンギャ問題で窮地に立たされている。ニューヨークでは国連総会の開催をひかえた9月18日、ロヒンギャ問題に関する閣僚レベルの非公式会合が開催され、スー・チー氏に暴力を止めさせるよう善処を求める意見が相次いだ。批判的な発言が多かったらしい。同女史はミャンマーの民主化のため軍政権下で抵抗を続け、ノーベル平和賞を受賞しているが、その返還を求める署名がネット上で集められている。同じノーベル平和賞受賞者のマララ氏は、スー・チー氏がロヒンギャ問題について黙していると非難した。

 ミャンマーには約100万人のロヒンギャがいるが、その地位は極めて不安定である。ミャンマー人からは差別的な待遇を受けており、不満から暴力行為に走る場合もあり、人権侵害問題が起こっている。ミャンマー国軍によるロヒンギャへの組織的迫害があるとも指摘されている。2015年春に数千人のロヒンギャ難民がどの国からも拒否され海上をさまよった事件は世界的に有名になった。オバマ大統領は2016年9月、訪米したスー・チー氏に対しロヒンギャ問題の解決を促した。
 ミャンマーには少数民族が多数存在し、全人口の3分の1を占めているが、これらはすべてミャンマー国籍を持つミャンマー人である。しかし、ロヒンギャはミャンマー国籍を持たず、この中に含まれていない。ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国内の少数民族と認めず、バングラデシュからの難民と位置付けており、「(不法移民の)ベンガル人」という呼称を用い続けているのである。
 
 スー・チー氏は手をこまねいていたわけではない。2016年8月には、アナン元国連総長を長とする特別諮問委員会を設置し、1年後の8月24日、同委員会は最終報告書を公表した。同報告は、ミャンマーが世界最多の無国籍者を抱えると指摘し、ミャンマー政府に国籍法を改正し、ロヒンギャが国籍を取得できる制度に改めるよう求めている。移動の自由も認めるよう勧告している。アナン委員長が、「実行の責任は政府にある」と述べたのに対し、スー・チー氏は「政府全体で勧告を推進する枠組みを作る」と答えたという。
 しかし、報告書公表の翌日には、ロヒンギャとみられる武装集団が警察施設などを襲撃した事件が起こり、治安当局が掃討作戦を行った。
 事態は急を要する。スー・チー氏は国連総会を欠席し、9月19日に同国で演説し、その中で国連の調査を受け入れる用意があることも示唆した。

 ミャンマーでは、かねてから民主化勢力、軍、少数民族(ロヒンギャは含まれない)が三つ巴状態にあった。軍事政権下では民主化勢力対軍の対立だけが目立っていたが、民主化が実現すると、少数民族問題の解決なくして真の民主化は実現しないことが明らかになり、国民の間の不満が高まった。
 アウン・サン・スー・チー国家顧問はさる3月30日、民主的な政権が生まれてからの1年を回顧してテレビ演説し、「国民の期待ほどには発展できなかった」と認め、さらに、「私の努力が十分でなく、もっと完璧にこなせる人がいるというなら身を引く」とまで述べていた。
そのような状況の中で、ロヒンギャ問題が悪化し、風雲急を告げる事態になってきた。政府としては、特別諮問委員会の勧告に従い必要な措置を実行していかなければならないが、不満を募らせているミャンマー国民のロヒンギャを見る目は冷たい。その背景には、さらに、国民の大部分が仏教徒であるという事情もある。
 しかし、スー・チー氏に代わりうる指導者はいそうもない。なんとしてでも同最高顧問の下で改革を進める必要がある。国際社会もスー・チー氏を支持し、また、必要な援助を提供する必要がある。
2017.08.21

日米地位協定

 江崎鉄磨沖縄北方担当相の発言があったので、ザページに以下の一文を寄稿した。日米地位協定の内容にはいくつか改善すべき点がある。沖縄の人々が被っている苦痛が少しでも緩和されるよう努めなければならないのは当然だが、沖縄の担当相が地位協定の改定を提起するからには事前によく勉強しておいてもらいたい、この問題は結局日米安保条約の問題だ。主張するなら、そこまで考えた上で発言してほしいと思いながら書いたものである。

「 日米地位協定とは、日米安全保障条約に基づき我が国に駐留する米軍が使用する施設・区域、すなわち基地と、米軍の我が国における地位に関する日米両国の合意です。これがないと米軍は日本で行動することが実際上困難になります。たとえば、基地をどこに置くか決まっていなければ米軍の居場所はありません。宿舎についても決めなければ米軍人とその家族が住むところがありません。米軍が人を雇うにも、米軍人ではないので日本側との合意が必要になります。基地で使用する電気、水などをどちらが負担するのかも決めなければなりません。地位協定は日米安保条約を機能させるのに必要な取り決めです。
 現在の日米地位協定は、1960年に現在の日米安全保障条約が締結された際結ばれました。それ以前には、旧日米安全保障条約に基づく行政協定がありました。行政協定が結ばれた1952年は日本が独立を回復した年であり、日本政府の発言力は限られており、行政協定は不平等性が強かったと見られていました。
地位協定は行政協定の内容をほぼそのまま承継したので問題があり、改正が必要だという意見がありますが、歴史的経緯には留意すべきでしょう。

米軍基地の運営や米軍人の行動についてはさまざまな問題が発生しています。いわゆる「基地問題」であり、全国の米軍専用施設面積の約75%にのぼる米軍基地が集中している沖縄はとくに大きな苦痛を強いられています。沖縄県は、米軍基地の沖縄への集中の是正、住民の安全確保などのため地位協定の見直しを求め、また、日本各地と連携して基地問題を解決するため「全国行動プラン」を実施し、全国知事会で協力を呼びかけています。
 
現実には、しかし、日米地位協定の改定は1回も実現していません。最近環境保護と米軍の「軍属(米軍に勤務する米国籍民間人など)」の範囲の縮小に関して追加の協定が結ばれましたが、いずれも「地位協定の補足協定」と位置付けられています。これらは実質的には協定の改定と言えるので、地位協定の改定が行われたことがないことにあまり大きな意味を持たせるのは適当でないでしょうが、地位協定の改定をしないことには歴代日本政府の弱い姿勢が象徴的に表れているという見方もあります。

 代表的な問題を二つ見ていきましょう。
 
第1に、米軍基地の提供・返還に関する手続き・要件を地位協定は具体的に規定していないことです。基地として使用する場所の範囲や使用期間、条件などが明記されていないのです。そのため、返還を求める場合もどうすればそれが可能か、どういう条件を満たせば可能かはっきりせず、常に政治的な交渉になってしまいます。
 
この問題についての日本政府・外務省の考えは公表されていません。地位協定は、行政協定で日本が提供した基地をそのまま継続して使用することとしている(2条1(b))ので、あらためて基地の提供について合意する必要はないという考えなのでしょう。その他の具体的な問題は日米双方の実務者から構成される合同委員会で対応策を協議し、合意していくという方針だと思われます。
 
第2に、地位協定は米軍・米軍人が日本の法令を順守すべきことを明記しています(第16条)が、実際にはそれが実行されていないことに強い不満があります。いわゆる裁判権の問題です。

公務内と公務外を分ける必要があり、公務内であれば日本の法令は原則として適用されません。

一方、公務外であれば日本の法令が適用されます、たとえば、米軍人が住民に暴行を加えた場合、日本の警察が現行犯逮捕等を行ったときには、それら被疑者の身柄は、米側ではなく、日本側が確保し続けます。

 しかし、被疑者は捕まる前に基地内に逃げ込むことがあり、その場合には、公訴が提起されるまで、米側が拘禁を行うこととされています。その間に被疑者が米国へ逃亡することもあります。1995年に沖縄で起こった米軍人による暴行事件の場合も控訴提起まで日本側に引き渡しされませんでした。後に日本で裁判にかけられ有罪が確定しましたが、極めて悪質で卑劣な行為であり、引き渡しが実現しないことは現地で大問題となりました。

 そのようなことでは住民の安全は確保できないので地位協定の改定を求める声が強くなります。

しかし、政府・外務省は、前述したように、協定の改定でなく、米軍への直接の要望や合同委員会で解決を図ろうとしています。
 
日米地位協定はNATO諸国、とくに同じ敗戦国であったドイツ(ボン補足協定)やイタリアの場合と比較して改定を求められることもありますが、米軍人が犯罪を犯した場合の扱いは、日本の場合とドイツやイタリアの場合と基本的には同じです。ただ、NATOの場合は条約上米国と欧州諸国が平等の地位に置かれているのと違い、日米安保条約は実質的には片務的であり、日本は米本土を守る義務を負っていないので、そもそも平等ではありません。
なお、ドイツのボン補足協定と日米地位協定を比べると、前者は原則として重大犯罪についてドイツの裁判権を認めており、その意味ではドイツは同国の主権を米軍にも及ぼしていますが、他方、ドイツはその裁判権をほとんどすべての場合放棄しています(日本外務省の説明)。本当の比較は協定条文だけでなく、実際の運用も含め慎重に行う必要があります。

日米安保体制は日本の安全保障の根幹であり、これを揺るがせることはできません。しかし、日本国民、沖縄の人々の安全を確保することもおろそかにできません。この両方の必要性を同時に満たすのは容易なことでありませんが、日本としては粘り強く交渉して米国の理解を求めていくことが必要です。」

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