平和外交研究所

オピニオン

2016.09.26

(短評)ICAOから台湾を締め出す?

 明27日に開催される国際民間航空機関(ICAO)の総会に台湾は招かれなかった。中国外交部の報道局長は「招かれないのは当然だ」と語っており、中国が台湾の出席に反対したので招待状が発出されなかったということなのだろう。現在ICAOの事務局長柳芳は中国人だ。
 その理由については、台湾の蔡英文政権が「一つの中国」という原則を認めないからだというのが中国の態度だ。中国と台湾の間では「一つの中国」を認めるか否かの論争がある。いわゆる「九二共識」の解釈であり、中国は、台湾側も「一つの中国」の原則を認めたと主張するのに対し、台湾は、国民党が中国に近い姿勢、民進党は、「九二共識」の解釈は中台それぞれにゆだねられている、との立場だ。
 蔡英文はこの論争には深入りせず、中国との関係については「現状維持」を唱えている。「現状維持」とは何か不明だ、状況が変化していく中で「現状維持」はありえない、などと批判されても深入りせず、「現状維持」をお墨付きのように繰り返している。そして、そのような原則問題よりも、少しずつコンセンサスを積み重ねていく「民主的プロセス」を重視し、台湾人は「民主と自由を必要としている」と強調している。
 中国は、蔡英文が「一つの中国」に関し逃げ回っていると見ているのだろうが、中国の言うようにしないかぎりICAOへの出席は認めないというのは、力づくで目的を達成しようとするパワーハラスメントに他ならない。中国と台湾の関係は日本が容喙すべきことでないが、巨大な国が弱小国を締め上げるのは世界にとっても問題だ。今回のことについて日本政府が「台湾の参加が認められることが望ましい」と表明したのは妥当だと思う。
 類似のことがさる5月のWHO(世界保健機構)の年次総会でも起こった。この時は蔡英文総統の就任直後であり、招待状が送られてきたが、それには例年と異なり、「一つの中国」の原則を強調する特記事項が、45年前に国連で採択された決議の引用とともに記されていた。国連での中国の代表を「中華民国」から「中華人民共和国」に変更した決議である。しかし、それ以降も蔡英文総統の態度は変わらないので今回は招待状を送らなかったのだろう。
 中国は何としてでも「一つの中国」原則を蔡英文に認めさせたいとあらゆる手段を講じているようだが、一つの問題は台湾人がそれにどのように反応するかだ。中国のパワーに震え上がって蔡英文に対する批判が強くなるか、それとも逆に中国のそのような振る舞いに反発するか。中国にやり方はどう見ても賢明と思えない。

2016.09.21

(短評)中国情勢-習近平主席の思惑

 習近平主席が激しい人事異動を行っていることは昨日書いたが、その他の面でも大胆な措置を講じており、同主席は現在の状況に強い不満を抱いていることがうかがわれる。
 習近平政権の2本の鞭である反腐敗運動と言論統制の強化のうち、前者は激しい人事異動を実現する手段になっている。
 言論統制が厳しいのは相変わらずだ。毛沢東のかつての秘書や趙紫陽の部下だった者など長老たちの意見を発表する場になっており、またそのため共産党からにらまれていた雑誌『炎黄春秋』は、さる7月に社長・編集者が罷免され、党の指導に従順な新しい体制に変更させられた。8月以降も雑誌は引き続き発行されているが、今後は党に対して注文を付けることはなくなるだろう。習近平は長老たちをも封じ込んでしまったのだ。
 一方、習近平は党の宣伝部についても不満を抱いているようだ。『炎黄春秋』の扱いも生ぬるいと見ていた可能性がある。党大会へ向け宣伝部についても手を加えていくのではないか。
 インターネットについても統制を厳しくしていこうとする姿勢が顕著だ。2014年5月に習近平はインターネット安全情報化指導小組を立ち上げ、自らその主任となって采配を振るっている。

 共産主義青年団(共青団)の改革も目立っている。反腐敗運動を担当する規律検査委員会が調査をした結果、「機関化、行政化、貴族化、娯楽化」などの弊があると指摘した。ようするに、幹部の養成機関として実績を上げてきた共青団だが、堕落しているということだ。今後は予算も大幅に減らすらしい。
 このような共青団に対する措置を見ても習近平主席は現在の中国の根幹を形成する諸機関に制度疲労が生じ、本来の機能を果たしていない、共産党体制を維持していくには大胆な外科手術が必要だと考えているのではないか。
 共青団については、李克強首相や胡錦濤前主席など共青団出身者との権力闘争だという見方もあるが、習近平はこれらと争うために共青団を改革しようとしているのでなく、改革の結果彼らの立場が弱くなっても構わないという考えではないか。

2016.09.20

最近の中国情勢-大規模な人事異動

 7月から8月にかけ、中国の指導者は河北省の避暑地、北戴河で過ごす。当研究所のHP8月16日付で説明したことだが、「北戴河は北京の東280キロにある海岸で避暑地として知られているが、ここで夏を過ごす中国の指導者は懸案について協議し、事実上の決定を下すこともある。正式でないのはもちろんであるが、非常に重要な話し合いも行われる。だから、中国に駐在の各国大使館、報道機関などは北戴河でどのような動きがあるか、懸命に情報収集を試みる」ということだ。
 避暑のシーズンが終わって約1か月が経過する間に、いくつかの出来事が現れた。来年は中国共産党第19回全国代表大会(十九全大会)が5年ぶりに開催され、おそらく習近平政権は第2期目に入ることになるのだろう。今起こっている出来事はそのための準備である。

 政治局常務委員、つまり中国のトップ7のうち習近平主席と李克強首相を除いて、5人は定年となるので引退する。そのあとにだれが選ばれるか、可能性については様々な見方があるが、はっきりしたことはまだ見えてこない。
 しかし、各省のトップクラス(中国共産党では政治局員(全25名)ないし中央委員にほぼ相当する)ではいくつか顕著な動きが出てきており、前回の党大会以降10人の中央委員が失脚した。その中には胡錦濤時代の令計画中央弁公庁主任や蒋潔敏国有資産監督管理委員会主任(中国石油天然気集団(CNPC)の前会長)などが含まれている。
 10番目となったのは天津市のナンバーワンである黄興国であり、さる9月10日に失脚した。同市は北京、上海などとならぶ4つの直轄市の1であり、黄興国がそのナンバーワンになったのは2014年12月であった。しかし、天津市党委員会の「書記」でなく「代理書記」という中途半端な処遇であり、その後今日に至るまで約620日間、その肩書は変わらなかった。これほど長期に臨時の地位が続くのは異例である。なぜそうなったのか。推測にすぎないが、同人は何らかの事情で完全な信頼を得るには至らなかったと考えるのが自然だろう。
 一方、黄興国はかつて習近平の下で働いたことがあり、習近平とは関係が深いとみられていた。2015年8月、天津で大爆発が起こったが、その事件の責任をとくに追及されることがなかったのは習近平との関係があったからだと言われている。
 そのような事情はあったが、黄興国は今回、汚職容疑であっさりと摘発されてしまった。時間はかかったが、習近平としても同人を切ることに同意したのだろう。習近平の同意なく直轄市のナンバーワンを失脚させることはありえない。

地方の人事で目立ったもう一つの出来事は、遼寧省での大規模な不正摘発である。同省には102人の全国人民代表会議代表がいた。人民代表会議(いわゆる全人代)とは議会のことである。そのうち45人はカネで票を買ったとして、資格をはく奪された。102人のうち8人は中央が指名した者なので、それを差し引いて計算すると48%が不正に代表になったわけである。この選出は遼寧省の人民代表大会代表619名によって行われたが、そのうち523人が不正を働いたので、不正者の比率は84%という途方もない数字になる(『多維新聞』9月14日付)。これらの者はすでに辞職したか解雇されているそうだ。
このような大規模不正は遼寧省だけのこととはとても思えない。他のところでも多かれ少なかれ起こっているのではないか。遼寧省の事件の背景には経済状況がよくないことがあるとも指摘されているが、不正とどんな関係があるのかよくわからない。経済状況が悪いのは他の東北三省、つまり黒竜江と吉林も大同小異だ。
ともかく、この摘発が習近平の同意のもとに行われたことは確実であり、習近平としては、黄興国のような地方の悪徳指導者を交代させるのと同時に、議会の関係者まで追及して体制を一新し、次期に備えようとしているのだろう。
重要な人事の決定は、これまでの例に鑑み、北戴河休暇のちょっとした伝統であり、今年もそうなったようだが、習近平政権は成立してから約4年、強い姿勢で国家の浄化に努めてきたが、道はまだ半ばなのかと思われる。

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