平和外交研究所

中国

2015.09.08

(短文)抗日戦争記念と江沢民の扱い

 これは、いわゆるチャイナ・ウォッチング、しかも今や時代遅れになりつつある分析手法かもしれないが、参考になる。

 抗日戦争70年記念パレードで、江沢民、胡錦濤、曾慶紅ら現役を退いているかつての国家指導者が天安門上に姿を現した。
 胡錦濤は前国家主席。江沢民はさらにその前の国家主席。曾慶紅は江沢民の側近とも言われ、胡錦濤の下で国家副主席を務めた。習近平政権の反腐敗運動により石油閥が検挙されるのに関連して、規律検査委員会の追及が曾慶紅にも、さらには江沢民にも及ぶのではないかと噂され、とくに江沢民については、その名や顔写真を掲載したポスターや看板などが撤去され注目されたこともあった。

『多維新聞』9月4日付によれば、「時局眼(時代の目といったところか)」というツイッターサイトが軍事パレードの報道について次のように解説している。 
 今回の記念パレードの報道ぶりは、2009年10月1日の国慶節パレードと比べはっきりとした違いがある。2009年の時は、江沢民(すでに引退していたので現在と同じ立場)と9人の政治局常務委員は赤色の見出しで報道され、江沢民は胡錦濤のすぐ後、常務委員より先に並べられていたが、今回、江沢民は普通の黒色の小さい字で、しかも政治局常務委員の後に並べられていた。
 中国の報道では、指導者の序列ははっきり決まっている 第18回党全国代表大会後規則が変わり、新旧の指導者が同時に公の場に出る場合、前指導者であっても序列を現指導者のすぐ後にはしないこととなった たとえば、2013年1月21日の楊白冰の葬儀の際、江沢民は第12番目であった。7人の政治局常務委員がまず並び、その次に当時なお国家的指導者として活動していた胡錦濤、呉邦国、温家宝、賈慶林が並び、江沢民はその次に置かれた。
 1月22日の新華社電によると、そのような規則変更が行われたのは、第18回党大会後、江沢民が、国家の指導者とともに公の場に出る際、自分を特別扱いせず、他の老幹部と同じにしてほしいと中共中央に要請し、認められたからである。
 9月4日の人民日報は、それを実行し、以前のように国家的指導者の名前をいちいち列挙することはやめ、もっとも重要なことに報道の重点を絞っていた。

 以上、『多維新聞』および「時局眼」は、中国の報道方針についての変更を解説しているが、その中から、江沢民は立派な指導者であり、また謙譲の徳を備えた人物だとみなされていることも読み取るべきなのだろう。つまり、江沢民についてはかつて何回か追及の噂が出ていたが、問題はないと中央が判断し、今回それを示したのだ。
2015.09.01

(短文)ジブチの米軍基地が中国の進出のあおりを受けて危ない

 ジブチにあるLemonnier基地は米国がアフリカに置いている最大の基地で、アルカイダや過激派組織ISに関する情報収集の一大拠点であり、同時に、イエメンやソマリアに飛ばしている無人機の基地である。約4500人の米軍兵士が常駐し、現在、14億ドルで改修工事中だ。
 この基地は契約上今後10年近く使用可能であるが、ジブチ政府は中国のジブチ進出を歓迎する一方、米国にはつれなくしており、米軍基地の機能が維持できるか危ぶまれる状況になっている。ジブチにおける米中の確執は南シナ海よりも激しい面がある。
 本稿は、本HP8月1日の「アフリカにおける米中の角逐」の続きであるが、内容は英紙『ザ・テレグラフ』7月21日付の評論に依拠している。今や本件は、欧米では広く報道されており、また、『多維新聞』8月24日付も同趣旨の報道を行なっている。

 ジブチのOmar Guelleh大統領は中国と1.85億ドルに上る経済協力協定を結んだ。同大統領が中国の接近を許した背景には、米議会で同大統領の専制政治に対する批判が強くなったことがある。Guelleh大統領は中国に傾倒し、米軍の別の基地Obock military baseを米軍から取り上げ、中国に使わせる意向だとも言われている。
 それだけではない。港湾を運営する業者は世界最大のDP Worldであったが、Guelleh大統領は同社との契約を今年初めに解除し、4億ドルで港湾設備の改善をオファーした中国の業者と新たな契約を結んだ。ジブチの米国からの独立性を高めるためである。これも米軍にとって厄介な問題となり、デリケートな作業を継続するためにはジブチ以外の他の場所を探すことが必要になっている。
 先月のジブチの独立記念日パレードでは中国製の対戦車ミサイルが登場した。同大統領は中国を「新しい友人」と呼び大事にしなければならないと強調している。

 Lemonnier基地は契約が最近更新されたばかりであり、あと10年は維持できるが、中国の基地が完成すると、米軍基地での情報収集が妨げられると米軍は憂慮している。Guelleh大統領は米軍の基地利用についても、兵員の出入りや基地からの攻撃部隊の出撃に制限を課す恐れが出てきた。そうなるとアルカイダやISに関する情報収集にますます大きな支障が出る。米国だけの問題でなく、西側諸国全体にとって影響は大きい。
 
 来年にはジブチの大統領選が予定されている。Guellehは1999年以来大統領職にあり、 法的には出馬できないはずであるが、どうなるか注目されている。米国の大使館は出馬阻止に努めている。
2015.08.22

(短評)安倍首相の訪中?


 安倍首相が近く訪中する可能性があると言われている。はっきりした説明は日本側からも中国側からもないので我々としては非常に分かりにくいが、この件については日中双方が非公式に相手の出方を探っているのではないかと思われる節がある。
 8月19日付の多維新聞(米国に本拠がある中国語新聞。本HPで何回も引用したことがある)は次のように記録している。

「7月10日、中国外交部の程国平次官は、習近平主席が安倍首相に「中国人民抗日戦争勝利70周年記念活動」に参加するよう招待したことを確認した。

7月11日、『朝日新聞』は、安倍首相は9月に訪中することを考慮している、期日は習近平主席が招待した9月3日でなく、9月だが他の日だと報道した。

8月5日、王毅外相は、安倍首相が9月に訪中するという話など聞いたことがないと言った。

8月18日、『毎日新聞』は単独で、安倍首相は9月3日午後、北京に到着する、そうすることにより午前中に行なわれる抗日戦争勝利観兵式を避ける、と報道した。

同日、日本の外務省報道官は、毎日新聞が報道したような事実はまったくない、と言明した。

8月19日、中国外交部のスポークスマン事務所(発言人弁公室)は、毎日新聞の報道に対して「安倍首相が9月に訪中するということは聞いていない」と述べた。」

多維新聞の記録は以上だが、これに次を加えておく。

8月20日、菅官房長官は、「安倍首相のことは、まだ何も決まっていない」と述べた。

 実際何が起こっているか。一つのシナリオは、習近平主席が抗日戦争勝利記念行事に出席するよう招待したのに対して、安倍首相は記念式典を外して訪中したいという意向を内々に伝え、それに対し中国側は、「安倍首相が記念式典に出席するか否かだけを聞きたい。他の日に、あるいは時間をずらせて訪中する話など聞きたくない」と応じているということである。

 しかし、日本側から中国側に対し9月訪中の可能性を探るのはやめたほうがよいと思う。9月3日の抗日戦争勝利記念を少し外して訪中することも含めてである。
 中国は、「第二次大戦で中国は世界的パワーであった。対日戦争勝利についてはもちろん、対独戦争勝利についても大きな役割を果たしたという評価を確立する」戦略をたて、記念行事を大々的に行おうとしている。観兵式もその一環だ。第二次大戦で共産党軍が世界的パワーであったか、一般にはなかなか受け入れられないだろうが、中国は最近そのような戦略を打ち立てたのだ(本HPでは5月11日に「対独勝利70周年記念式典と日本、ロシア、中国」、同月19日に「中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?」を掲げて論じている)。
 戦勝記念という意味ではロシアが5月に行なっている対独戦勝利記念と共通するが、中国の抗日戦争勝利記念にはそのような戦略があり、またその背景には大国化の願望があるので、むしろ和解とは逆の方向に強い力が働いていると思う。
 一般論として、日本が和解を重視していることを中国側に示すのはよいことだが、そのためには日本側でも実行しなければならないことがある。とくに、靖国神社参拝は、安倍首相としては強い思い入れがあるのだろうが、和解に役立たないことは客観的に認識すべきである。
 欧米主要国の指導者も9月3日の行事に出席しない。彼らは、日本との関係に配慮し、また、中国の戦略を警戒しているのではないか。
 なお、日中首脳会談を重視するのは評価できるが、それを実現する機会は国連総会など他にある。
 

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