平和外交研究所

オピニオン

2015.08.22

(短評)安倍首相の訪中?


 安倍首相が近く訪中する可能性があると言われている。はっきりした説明は日本側からも中国側からもないので我々としては非常に分かりにくいが、この件については日中双方が非公式に相手の出方を探っているのではないかと思われる節がある。
 8月19日付の多維新聞(米国に本拠がある中国語新聞。本HPで何回も引用したことがある)は次のように記録している。

「7月10日、中国外交部の程国平次官は、習近平主席が安倍首相に「中国人民抗日戦争勝利70周年記念活動」に参加するよう招待したことを確認した。

7月11日、『朝日新聞』は、安倍首相は9月に訪中することを考慮している、期日は習近平主席が招待した9月3日でなく、9月だが他の日だと報道した。

8月5日、王毅外相は、安倍首相が9月に訪中するという話など聞いたことがないと言った。

8月18日、『毎日新聞』は単独で、安倍首相は9月3日午後、北京に到着する、そうすることにより午前中に行なわれる抗日戦争勝利観兵式を避ける、と報道した。

同日、日本の外務省報道官は、毎日新聞が報道したような事実はまったくない、と言明した。

8月19日、中国外交部のスポークスマン事務所(発言人弁公室)は、毎日新聞の報道に対して「安倍首相が9月に訪中するということは聞いていない」と述べた。」

多維新聞の記録は以上だが、これに次を加えておく。

8月20日、菅官房長官は、「安倍首相のことは、まだ何も決まっていない」と述べた。

 実際何が起こっているか。一つのシナリオは、習近平主席が抗日戦争勝利記念行事に出席するよう招待したのに対して、安倍首相は記念式典を外して訪中したいという意向を内々に伝え、それに対し中国側は、「安倍首相が記念式典に出席するか否かだけを聞きたい。他の日に、あるいは時間をずらせて訪中する話など聞きたくない」と応じているということである。

 しかし、日本側から中国側に対し9月訪中の可能性を探るのはやめたほうがよいと思う。9月3日の抗日戦争勝利記念を少し外して訪中することも含めてである。
 中国は、「第二次大戦で中国は世界的パワーであった。対日戦争勝利についてはもちろん、対独戦争勝利についても大きな役割を果たしたという評価を確立する」戦略をたて、記念行事を大々的に行おうとしている。観兵式もその一環だ。第二次大戦で共産党軍が世界的パワーであったか、一般にはなかなか受け入れられないだろうが、中国は最近そのような戦略を打ち立てたのだ(本HPでは5月11日に「対独勝利70周年記念式典と日本、ロシア、中国」、同月19日に「中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?」を掲げて論じている)。
 戦勝記念という意味ではロシアが5月に行なっている対独戦勝利記念と共通するが、中国の抗日戦争勝利記念にはそのような戦略があり、またその背景には大国化の願望があるので、むしろ和解とは逆の方向に強い力が働いていると思う。
 一般論として、日本が和解を重視していることを中国側に示すのはよいことだが、そのためには日本側でも実行しなければならないことがある。とくに、靖国神社参拝は、安倍首相としては強い思い入れがあるのだろうが、和解に役立たないことは客観的に認識すべきである。
 欧米主要国の指導者も9月3日の行事に出席しない。彼らは、日本との関係に配慮し、また、中国の戦略を警戒しているのではないか。
 なお、日中首脳会談を重視するのは評価できるが、それを実現する機会は国連総会など他にある。
 
2015.08.04

(短評)中国の反腐敗運動は峠を越したか

 7月下旬、中国は元党中央弁公庁主任(我が国の官房長官と与党の幹事長を兼ねたような役職)の令計画および中央軍事委員会副主席であった郭伯雄について、ともに党籍剥奪の上起訴するという処分を決定した。令計画は胡錦濤前主席のナンバーワン側近であり、郭伯雄は制服組のトップであった。
 習近平主席と反腐敗運動の遂行責任者の王岐山は現在も反腐敗運動の手綱を緩めていないようにも見えるが、両人の失脚は実質的には昨年すでに決定していたので、今回の処分決定をもって習近平政権が依然として反腐敗運動に力を入れているという結論を導くことは困難である。
6月24日、当研究所のHPに掲載した「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」で紹介したように、大物については周永康と徐才厚(郭伯雄と並んで前中央軍事委員会副主任。両名についてはすでに判決が下っている)、それに今回の令計画と郭伯雄の処分によりヤマは越したという見方も成り立つ。
 反腐敗運動は、言論統制の強化とともに習近平政権の2大方針であり、現在も軍、国営企業、地方では追及の手が緩められておらず、全体的にかなりの規模の摘発が続いているので今後も注目が必要であるが、何清漣が指摘するように大物に対する追及は事実上終了しているのかもしれない。
 王岐山は、7月31日、党中央・政府各部門および専門家を集めて座談会を開催し、「政治浄化および党規律処分に関する規則」の修正について議論した。これに先立って、7月初めには陝西省でも同様の座談会を開催し、同じ問題について議論している。また、規則の修正は最近言い出したことでなく、昨年の18期4中全会の後から何回か提起している問題である。
 王岐山は党規律と国家の法律は区別しなければならないと主張している。規律検査委員会がなすべきことは党規律にしたがって問題を正すことであり、法律に従って処分するのは司法当局の任務である。両方行なうことはそもそも規律検査委員会の能力を超えている。
 実際には党規違反と法律違反が重なっている場合が多いだろうが、規律検査委員会は党規違反問題の処理がすみ次第司法当局に引き渡すべきである(香港『大公報』8月4日付)。
 王岐山がこのような座談会を開いているのは、直接的には、何でも自分でやりたがる傾向がある規律検査委員会にブレーキをかけるためだろうが、その裏には、規律検査の本来の任務についても抑制しようとする意図があるのか、気になることである。

2015.08.01

(短文)アフリカにおける米中の角逐

 オバマ大統領のアフリカ政策について欧米のメディアにはかなり辛口のコメントをしているものがあり、英フィナンシャル・タイムズなどは、世界で急成長を実現している「上位10カ国のうち7カ国はアフリカの国々だ」「新規投資の機会をつかんでいるのは中国だ」などと指摘しつつ、オバマ大統領の思惑通りに事は運ばないだろうという趣旨の論評を加えている。
 オバマ大統領は7月24日からケニアおよびエチオピアに合計6日間滞在した。1期目の2009年にはガーナに20時間立ち寄っただけであったのと比べると、はるかに長く本格的な訪問であった。
 アフリカ諸国はかつてのように援助を受けるだけでなく、投資の対象国として重要になっている。今回の訪問を前にオバマ大統領もアフリカへの投資増大を語っていた。これを機会に米国とアフリカとの関係が前進することを期待する声もあるが、米国の投資が本当にアフリカに流れ込むか、半信半疑の人もあるそうだ。

 アフリカにはすでに中国が猛烈な勢いで進出しているからである。コロンビア大学のHoward French准教授は”China’s Second Continent”という本を出版している。アフリカは「第2の中国大陸」というわけであり、過去10~15年間に中国の勢力が増大し、米国の影響力は後退したと指摘している。
 アフリカでは、日本人は多くても一カ国に数百人が滞在している程度であるが、中国人は万の台である。旧宗主国の英国やフランスと比較しても中国はけた違いに多い。飛行場に降り立つと空港ターミナルへ向かうバスの運転手が中国人なので驚かされることも珍しくないそうだ。そもそもアフリカ大陸は巨大であるが、人口は少ない。資源開発に中国が投資しても、雇える労働者は少ない。このことも中国人が進出する一つの理由である。
 今や、アフリカ各都市に中国が建てた高層ビルが立ち並び、その中で中国商人が商売をしている。交通網も中国が建設している。有名なMombasa-Nairobi鉄道は中国人の手で改修中であり、将来は完全に中国標準になるのではないかと言われている。中国モデルがアフリカのいたるところで広まっている。

 オバマ大統領のアフリカ訪問と相前後して、中国はジブチと1・85億ドルの経済協力協定を結んだ。ジブチは紅海とアデン湾に面する要衝の地で、米国は基地を置いている。海賊対策のため派遣される自衛隊の拠点もジブチである。ジブチは米国のテロ対策の拠点であり、4500人の兵員を配し、イェーメンとソマリアでのドローン活動もそこから行っている。
 その隣接地へ中国が進出してくることに米軍は神経をとがらせ、基地の機能に悪影響が出る恐れがあるとも言っている。米軍の状況も気持ちも想像に難くないが、資源確保に躍起となり、そのために資金も労働力も大量に投入してくる中国パワーは難敵である。米中の角逐は南シナ海からインド洋、さらにはアフリカにまで広がっている。

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