平和外交研究所

中国

2021.03.31

海警法の何が問題か

海警法と中国の海洋戦略について一文をザページに寄稿しました。
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2021.03.26

新疆ウイグル自治区での人権侵害

 2021年3月22日、欧州連合(EU)と米国、英国、カナダは、中国の新疆ウイグル自治区においてはなはだしい人権侵害が行われていることを理由に制裁を発動した。

 30年余り前の天安門事件以来の制裁である。今回の制裁は新疆ウイグル自治区における人権侵害が直接の理由であるが、それだけでなく、中国が国際的な約束に反して香港を本土化したこと、南シナ海において膨張的行動を行っていること、中国の主張を退けた国際仲裁裁判所の判断を無視したこと、さらには中国が台湾を世界保健機構(WHO)から締め出していることなども米欧諸国は強く問題視していた。チェコやフランスなどの国会議員が中国の反対を押し切って台湾を訪問するのはその表れである。

 英仏独などEUの主要国は、数年前まで中国との関係を積極的に深めてきたが、今や中国に対する方針を大きく転換し始めている。独などは、英仏とは違ってアジア・太平洋地域に直接の利害関係を持たないが、最近、中国は民主主義になれない「異質な国」だとみなすようになり、フリゲート艦をこの地域に派遣することとしている。オランダなどにも類似の動きがあるという。

 欧米諸国が新疆ウイグル自治区で看過できない人権侵害が起こっていると判断したのは次のような理由からである。

〇ウイグル族に対して非人道的な人口抑制策が実施されている。中国政府が全国的に産児制限を緩和する中、自治区では2014~18年に不妊処置が不自然に増えている。(『中国人口・雇用統計年鑑』や『中国衛生健康統計年鑑』の分析結果)。

〇強制収容所内で女性に対して組織的なレイプが行われている。(BBCの報道2月3日。BBCはその後中国国内での放送を禁止された)。

〇公安当局はウイグル族を異常に厳しい監視の下に置いており、すこしでも疑わしい行為があれば、拘束している。(米情報サイト「インターセプト」はこれらのことを示唆するウルムチ市公安局の文書を2021年1月29日に公表した)。

〇住民は些細なことでもイスラム過激主義と結びつけられる。国旗掲揚式での態度が悪いと「反政府分子」とみなされる。国内旅行を計画した人物も「怪しい」とされる。また、大量の食料を購入した人物は「テロの準備をしているか可能性がある」とされる。自宅玄関よりも頻繁に裏口を使用すると「隠れて行動している」とされ、通常よりも多くの電気やガスを使用すれば「何か企んでいる」と疑われる。餃子店の包丁が規制どおりに鎖で繋がれていなかったので要警戒と報告されたこともある。

〇海外から帰国した人物、あるいは海外にいる親族や友人とコンタクトした人物は危険人物とみなされ、監視、さらには拘束の対象となる。また、海外在住のウイグル族の微信の利用も監視している。

〇外国に滞在しているウイグル族は中国大使館の保護を受けられず、パスポートの更新などもなかなか認められないなどひどい待遇を受けている。


 常識的には、こんなことが本当に行われているのかと疑いたくなるようなことも含まれている。中国政府は人権侵害はないと言い張っているが、新疆自治区と外国との往来や通信が完全にコントロールされているわけではない。写真とともに情報が流出していることは否めない。日本で放映されたビデオ映像にも、多数のウイグル族が整列させられ、中国共産党をたたえる歌を歌っていたが、手錠でつながれたままであったことが映っていた。

 日本として、ウイグル問題についてどのような姿勢で臨むべきか。新疆ウイグル自治区は地理的にあまりに離れている。日本に在住しているウイグル族は少数であり、日本人のイスラムに対する関心は高くないが、すでに大規模かつ深刻な人権侵害が起こっていることを示す証拠はかなり出てきている。米欧諸国が根拠なく中国を非難しているとは考えられない。

 『西日本新聞』はウイグルでの人権状況に強い関心を抱き、独自の取材に基づいて実証的な情勢分析や評論を行っている。例えば2月4日付の記事を読まれることをお勧めしたい。上記の強制的人口抑制策に関する分析は同新聞によるものである。

 日本政府の対応に中国政府は不満を漏らしているが、日本としては、ただちに制裁に加わるのは困難だとしても、新疆ウイグル自治区で大規模で深刻な問題が起こっている可能性があるという認識は維持し、必要に応じ繰り返し表明すべきである。

 また、現地での国際調査について、王毅外相はいつでもオープンだと述べたが、まだ実現していない。日本はこの調査が実現するよう各国と共に努めるべきである。
2021.03.24

仏議員団の台湾訪問

 盧沙野・駐仏大使は、フランスのリシャール元国防相が率いる上院議員団が台湾を訪問するのは「一つの中国」に反するとしてさる2月、リシャール氏に抗議し、抗議文を発表した。
 訪台を計画しているのは、上院議員約20人が参加する「台湾交流・研究グループ」。関係者によると、訪台は今夏の予定。グループ代表のリシャール議員は社会党出身で国防相などを務めた。現在は、マクロン大統領の与党「共和国前進」に属している。
 
 これに関し、仏外務省は3月17日、「フランスの国会議員は、自由に訪問先や会談計画を決められる」として、いったんは不介入の方針を示した。
 しかし、中国外交の研究者アントワーヌ・ボンダズ氏が自身のツイッターで、フランスの上院議員団の台湾訪問計画に抗議する中国大使館を批判したことをきっかけに両国間の緊張は高まった。

 中国大使館は2月19日、大使館のアカウントでボンダズ氏のツイートを引用しながら「ごろつき」と書き込み、さらに「我々を『戦狼(せんろう)』と人が呼ぶのなら、それは研究者やマスコミという『狂ったハイエナ』が多すぎるからだろう」などと攻撃したのだ。
また訪台を計画中の上院議員に対しては、中国が対仏制裁に出る可能性があると示唆したという。

 これは公の立場にある中国大使館としてあまりにも過激な言動である。フランスのルドリアン外相は22日、ツイッターで「フランスにおける中国大使館の発言や、選挙で選ばれた欧州の当局者や研究者、外交官に対する措置は許容できない」と批判し、盧沙野・駐仏大使を呼び出して抗議した。

 最近、中国とEU諸国と間でもめ事が増えており、盧大使は2020年4月にも、新型コロナウイルスを巡り中国大使館が自国の対応を擁護し、西側諸国の対応を批判する投稿を行ったことを受けて仏外務省に呼び出されていた。

 昨年8~9月、チェコの上院議員団が台湾を訪問した際も中国側は強く反発し、当時、欧州歴訪中だった中国の王毅外相が「高い代償を払わせる」と報復を示唆したことがあった。

 中国がEU諸国と対立するのは、台湾・香港問題と新疆ウイグル自治区での人権侵害問題の二つが主要な原因である。ウイグル問題については3月22日、EUと英国、米国、カナダが中国政府当局者に対する制裁を発動し、これに反発した中国は先頭を切ったEUに対し直ちに対抗措置を取った。

 また、中国と米国の間でも激しい摩擦が生じていることは周知のとおりである。トランプ政権時代、米国は中国と対立したが、EUとも関係はよくなかった。バイデン政権は中国に対してはやはり厳しい姿勢であるが、またその一方で、EUとの関係を修復している。中国は米国およびEUの双方と対立する形になってしまったのだ。

 中国が米欧から制裁を受けたこと自体は過大に評価すべきでない。初めて制裁措置を受けたのは1989年の天安門事件の際であり、今や中国はその頃とは比較にならない強大な国に成長しており、制裁措置の影響は限定的であろう。また、中国はロシアとの友好関係を再確認するなど、反米欧保守勢力の結集も試みている。世界を見渡すと、民主化と人権問題に関し胸を張れる国の数は少数であり、中国を支持する国はかなりの数に上るはずであり、その意味では中国の立場は弱くない。しかし、中国の「わが道を行く」式の外交がはたして適切か、中国自身にとっても不利益となるのではないかと思われてならない。

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