平和外交研究所

中国

2023.04.18

バチカンを締め上げる(?)中国

 中国のバチカンに対する強硬姿勢が目立っている。最近、バチカンの同意を得ないで上海の教区に新しい司教を任命した。

 バチカンは司教任命権を巡って1951年に中国と断交し、欧州で唯一、台湾と外交関係を持つ。バチカンは、カトリックの司教は教皇が任命するとの立場であるが、中国はこれを嫌い、独自に司教を任命し、バチカンが任命した司教を認めなかったので、バチカンと対立してきた。そのため中国内のカトリック教徒はバチカンの下にある派と、中国政府に忠誠を誓う派に分裂していた。

 2018年、暫定合意が成立した背景には中国側にも、またバチカンの側にも事情があった。中国の習近平政権は2期目になるのに際して、宗教面での統制を以前にもまして強化し、2017年9月には、旧「宗教事務条例」を修正して新条例を制定した。これは、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、実際の監督を強化したものであった。妥協が成立するとうわさが出たのは、2018年の2月1日に新条例が施行されたからだとも言われていた。
 
 中国政府はその後態度を硬化させた。同年4月3日に発表された「中国の宗教政策に関する白書」の中では「宗教の中国化を堅持する」と異例の、反宗教的ともとれる言及をした。
また、「外国勢力が宗教を利用して中国に浸透するのを防御する」「カトリックとプロテスタントに基づき、植民地主義、帝国主義によって中国人民が長きにわたって統制・利用されてきた」「中国の宗教に関与し、はなはだしきは中国の政権と社会主義制度の転覆をはかるのに中国政府は決然と反対し法に基づき処理する」など、かねてからの主張ではあるが、共産主義歴史観をあらためて記載した。
 
 一方、バチカン側では、妥協に賛成する人たちもいたが、あくまで反対の人もおり、意見統一は容易でなかった。反対派の主張は、中国政府に限らず、昔から各国の政府が司教の任命権を教皇から奪おうとするのにバチカンは戦い、多くの人が犠牲になってきた、そのカトリックの伝統と原則に反しているということであった。

 しかし、2013年に就任した教皇フランシスコは中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。その背景には、中国内に約1000万人のカトリック信者いる(推定)という事実があった。教皇の積極姿勢を支持する人たちは、これだけの数のカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりは一定の関係を作ったほうが彼らを保護することになるという考えだったと言う。

 2018年、結ばれた暫定合意の内容は発表されていないが、バチカンは「中国政府の同意を条件として司教を任命する」ことにする一方、「中国政府が任命した司教をバチカンは認める」ことになったとも言われていた。暫定合意は20年10月に2年間延長され、さらに22年10月、再度延長された。

 ところが、中国政府はバチカンに対して強い姿勢を取り始めた。このことと中国共産党全国代表大会において習近平氏が総書記に留任することが決定したことと関係があるか。わたくしはあると考えている。

 11月、中国政府は江西省の補佐司教を任命した。バチカン側は合意に違反するとして「遺憾の意」を表明した。そして4月の一方的な上海司教の任命である。バチカンは、江蘇省海門の司教を上海教区に配置替えしたとの中国の決定を「数日前に」通知され、4日の中国メディアの報道で正式な就任を知ったという。バチカンの報道官は「現時点で何も言うことはない」とコメントした(共同2023年4月5日)。

 司教の任命と並行して、教会が相次いで取り壊された。煙を上げ、崩れ落ちる様子がネット上で閲覧できる。場所は浙江省、江西省、湖南省などであり、市の政府は信者らと一切交渉することなく、住宅の建設のためとして一方的に解体した。聖書が焼却されることもあったといわれている。

 なぜ中国政府はこのように強硬な態度を取り始めたのか。中国では近年キリスト教徒が増加しており、中国共産党の幹部クラス党員やその家族の間にもキリスト教入信が急増しているともいわれている。ブリタニカ国際年鑑の最新データによると中国のキリスト教徒は人口の7-7.5%で9100-9750万人程度とされている。もっと多いとする見方もある。ただし、この数字はキリスト教徒全体の数字である。カトリック教徒については約1千万人という数字を5年前に引用したが、それが増加しているか不明である。

 もう一つの疑問は、台湾との外交関係を断とうとしないバチカンに圧力を加えようとしているのではないかということである。台湾について習近平政権は党大会で「武力行使をしないとの約束はしない」と強硬策をちらつかせながら、来年の台湾における総統選挙で国民党に勝たせることを目標に、統一戦線工作を強化している。外交面では去る3月、中米のホンジュラスと国交を樹立するなど攻勢を強めており、その結果台湾と外交関係を維持する国は13か国となり、バチカンはそのなかでもっとも影響力が強い。習近平政権にとって台湾の統一は最大の念願であり、バチカンはその妨げになっているとみている可能性がある。

2023.03.23

習近平主席のウクライナ問題についての考え

 中国の習近平主席は3月20日からロシアを訪問。21日プーチン大統領と会談し、共同声明が発表された。

 ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。

 共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。

 習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。

 しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。

 一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。

 習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。

 中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。

 そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。

 ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。

 米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。

 中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。

 また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。

2023.03.14

台湾に対する中国の新方針

 台湾に対する中国の態度ががらりと変わった。3月5日に本年の全人代(全国人民代表大会 日本の国会に相当する)が開催し、恒例の政府活動報告は台湾について「平和統一への道を歩む」とした。さらに「両岸(中台)の経済と文化の交流、協力を促進し、台湾同胞の福祉増進のための制度と政策を充実させる」や「台湾同胞は血がつながっている」との言葉も加えた。

 いうまでもなく台湾は中国にとって最大の未解決問題であり、例年強い言葉で統一の実現を目指す決意と姿勢を示してきた。しかし今回の報告では4年ぶりに「平和」の文字を復活させた。また、その他の引用文言を併せて考えると、今年の報告は異例に融和的になった。

 習氏は昨年10月の中国共産党大会のころから台湾政策の手直しを考えていた可能性がある。政治活動報告において、台湾問題について「平和的統一に最大限努力する」と述べつつも、「武力行使の放棄は決して約束しない」と強調した。これは強気の発言であり、武力行使に近づいたととる見方が多かったが、それ以前から習近平主席は従来からの方針に満足していなかったらしい。2017年の党大会では、「一つの中国」に関する「92年合意」に4回言及したが、2022年はわずか1回で、しかも、習氏はこの部分を読み飛ばした。

 なお、全人代では李克強首相が「政府活動報告」を行い、習近平主席が党代表大会で行ったのは「政治活動報告」であったが、台湾に関してはいずれも習近平政権の考えを表明したものと考えてよいだろう。

 習近平政権は過去2期、つまり10年間にわたって反腐敗運動などでは実績を上げてきた。問題がないわけではないらしいが、習氏の声望は高まり、昨年の党大会で総書記の地位を、また今年の全人代では国家主席の地位を異例に長く続けることとなったが、台湾問題だけはなにも進展しなかった。これでは長期独裁体制として画竜点睛を欠く。推測だが、習氏としては3期目の政権が発足する今、思い切った手を打っていかなければならないと切迫した気持ちになったのではないかと思われる。

 具体的には、次のような考えではないか。
 第1に、台湾に対し中国は平和的に統一する方針であることを徹底的に訴える。従来から使ってきた武力統一を辞さないこと、台湾との間の「92年合意」を基礎とすることなどの威嚇的言辞は解消するのではないが、できる限り持ち出さないこととし、平和攻勢で台湾人を引き寄せる。これなら台湾人の支持を得ることが不可能でなくなる。そして来年の台湾総統選挙で国民党の候補者を勝利させる。

 中国にとって、台湾色が強い民進党は独立を画策する危険な勢力である。一方国民党はもともと大陸から出た勢力であり、台湾では現在野党になっているが、これまでも共産党と接触・交流してきた。

 2022年11月、台湾で行われた統一地方選で民進党は惨敗し、蔡英文(ツァイ インウェン)総統は結果を受け、党主席(党首)を辞任した。中国にとって国民党と正式の対話を実現する可能性が出てきたのである。もっとも、国民党は、今回の統一地方選に勝利したものの、対中政策は主要な争点になっておらず、次期総統選で同じ結果を得られるか不明だといわれているが、中国としては何とか国民党に勝ってもらいたいのである。

 第2に、この方針を用いても国民党を勝たせることができなければ、武力による統一を含め改めて検討する。平和的統一の試みを第一段階とすれば、これは第二段階となる。

 台湾人を引き寄せることはいわゆる「統一戦線工作」であり、それを担う全国政治協商会議の主席に王滬寧(ワンフーニン)氏をつける。政治協商会議は共産党政権が成立する以前から存在した、共産党と非共産党諸勢力が協力する枠組みであり、共産党と国民党が協力すれば平和的に統一することが可能になると考えている。

 王氏は学者出身で、江沢民、胡錦濤、習近平3代の政権で理論的な面から政権を支え、中国では「三代帝師」(3代の皇帝の知恵袋)と呼ばれる傑出した人物であり、党大会で7人の政治局常務委員に抜擢された。また王氏は共産党の側で台湾政策を統括する党中央対台工作指導小組の副組長にも就くといわれている。

 なお、中国軍は対台湾新方針を支持しているか。中国の軍はかねてから台湾問題について強硬な姿勢で臨んできており、台湾周辺の海空域で演習を続けている。習政権としては、必ずしも軍と同じ考えではないようだが、国内対策(治安維持など)の観点からも、軍の考えを無視できない。

 一方、軍が強硬策に出ると米国との関係が悪化する。実際、軍が台湾海峡で活動を活発化させると米軍は刺激され、対応を強化する。台湾に対する軍事援助を強化する。さらに、米議会でも中国軍の動きへの警戒が強まる。バイデン政権は、米中関係が悪化するなかでも、偶発的な軍事衝突に発展しないよう、中国側との意思疎通は続けたいとの考えを持っているが、中国としては米国を刺激することはほどほどにしておかなければならない。中国軍にしてもこのような政治的枠組みは変えないほうが得策と考えていると思われる。 

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