平和外交研究所

中国

2023.04.19

中国国防相のロシア訪問

 中国の李尚福国務委員兼国防相は4月16日から19日までロシアを訪問した。ロシア側との間でどのような会談が行われ、また合意されたか。特に、中国はロシアに対し武器・弾薬の供与に合意したか。信頼できる情報は乏しいが、注目すべき点が二、三ある。

 ロシア側の歓待ぶりは異例であった。プーチン大統領は李国防相がモスクワに到着したその日にクレムリンで会談した。ショイグ・ロシア国防相が同席した。しかもプーチン大統領にとって中国の国防相は2段階くらい格下である。プーチン大統領は異常なほど気を使っていた。

 プーチン大統領は李国防相だけを歓待したのではない。さる2月には王毅外務委員が訪ロした際も同様に対応・歓待した。

 3月20~22日には習近平国家主席がロシアを訪問した。この時も、中国がロシアに武器などを供与するのではないかと注目されたが、その合意はなかったらしい。中ロ両国はウクライナに一方的に対話を迫ったにとどまった。

 それから1か月もたたないうちに李国防相がロシアを訪問したのである。王毅国務委員、習近平主席、それに今回の李尚福国防相と、中国外交のトップスリーが相次いで訪ロしたのであり、中国側の行動も異例であった。

 この事実をどう読むべきか。中国がロシアに武器等供与を決定したからでない。事実は逆であって、中国は武器・弾薬は供与しないという立場を維持しているからこそ、ロシアに気を使っているのではないか。ロシアとの軍事協力はこれからも重視し、継続していく。合同軍事演習も行う。これらであればウクライナを支援する各国を過度に刺激しないで済む。両国はクレムリンでの会談で話し合ったであろう。軍事技術についての協力も進めていくことにしたのではないか。

 中国の立場は2月24日に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」であり、習近平主席の訪ロの際も変わっておらず、また李国防相の訪ロにおいても変わっていなかったことが読み取れる。その要旨を念のため再掲しておこう。
(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。
(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。
(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。
(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。
(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。
(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。
(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。
(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。
(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。
(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。
(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。

 「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」は中国の隠れ蓑として使われるかもしれないが、ロシアとの駆け引きなどにおいても役立つであろう。

 一方、ロシアとして武器・弾薬の供与を中国に求めているならば、中国側にロシアに来させたのは賢明でなかった。もっとも中露間でどのようなやり取りがあったか我々には分からない。ロシア側から「中国へ行く、受け入れてほしい」と要請したが、中国はことわり、「こちらか行く」として相次ぐ訪ロになったのかもしれない。中国としてはロシアが100%満足する回答を与えることはできないからである。

 なお、米国は中国製の武器・弾薬が一部すでにロシアにわたっており、今後もさらに供与される可能性があると認識していることが最近の情報漏洩の中で伝えられている。だが、我々が承知している限り、米国の見解も明確でないところがあり、中国は大規模な武器・弾薬の供与を決断するに至っていないと考えているのではないか。

 以上の解釈には推測が混じるが、今後もこれまでの経緯を踏まえつつ中ロ関係、とくに武器・弾薬の供与問題を見ていく必要がある。
2023.04.18

バチカンを締め上げる(?)中国

 中国のバチカンに対する強硬姿勢が目立っている。最近、バチカンの同意を得ないで上海の教区に新しい司教を任命した。

 バチカンは司教任命権を巡って1951年に中国と断交し、欧州で唯一、台湾と外交関係を持つ。バチカンは、カトリックの司教は教皇が任命するとの立場であるが、中国はこれを嫌い、独自に司教を任命し、バチカンが任命した司教を認めなかったので、バチカンと対立してきた。そのため中国内のカトリック教徒はバチカンの下にある派と、中国政府に忠誠を誓う派に分裂していた。

 2018年、暫定合意が成立した背景には中国側にも、またバチカンの側にも事情があった。中国の習近平政権は2期目になるのに際して、宗教面での統制を以前にもまして強化し、2017年9月には、旧「宗教事務条例」を修正して新条例を制定した。これは、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、実際の監督を強化したものであった。妥協が成立するとうわさが出たのは、2018年の2月1日に新条例が施行されたからだとも言われていた。
 
 中国政府はその後態度を硬化させた。同年4月3日に発表された「中国の宗教政策に関する白書」の中では「宗教の中国化を堅持する」と異例の、反宗教的ともとれる言及をした。
また、「外国勢力が宗教を利用して中国に浸透するのを防御する」「カトリックとプロテスタントに基づき、植民地主義、帝国主義によって中国人民が長きにわたって統制・利用されてきた」「中国の宗教に関与し、はなはだしきは中国の政権と社会主義制度の転覆をはかるのに中国政府は決然と反対し法に基づき処理する」など、かねてからの主張ではあるが、共産主義歴史観をあらためて記載した。
 
 一方、バチカン側では、妥協に賛成する人たちもいたが、あくまで反対の人もおり、意見統一は容易でなかった。反対派の主張は、中国政府に限らず、昔から各国の政府が司教の任命権を教皇から奪おうとするのにバチカンは戦い、多くの人が犠牲になってきた、そのカトリックの伝統と原則に反しているということであった。

 しかし、2013年に就任した教皇フランシスコは中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。その背景には、中国内に約1000万人のカトリック信者いる(推定)という事実があった。教皇の積極姿勢を支持する人たちは、これだけの数のカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりは一定の関係を作ったほうが彼らを保護することになるという考えだったと言う。

 2018年、結ばれた暫定合意の内容は発表されていないが、バチカンは「中国政府の同意を条件として司教を任命する」ことにする一方、「中国政府が任命した司教をバチカンは認める」ことになったとも言われていた。暫定合意は20年10月に2年間延長され、さらに22年10月、再度延長された。

 ところが、中国政府はバチカンに対して強い姿勢を取り始めた。このことと中国共産党全国代表大会において習近平氏が総書記に留任することが決定したことと関係があるか。わたくしはあると考えている。

 11月、中国政府は江西省の補佐司教を任命した。バチカン側は合意に違反するとして「遺憾の意」を表明した。そして4月の一方的な上海司教の任命である。バチカンは、江蘇省海門の司教を上海教区に配置替えしたとの中国の決定を「数日前に」通知され、4日の中国メディアの報道で正式な就任を知ったという。バチカンの報道官は「現時点で何も言うことはない」とコメントした(共同2023年4月5日)。

 司教の任命と並行して、教会が相次いで取り壊された。煙を上げ、崩れ落ちる様子がネット上で閲覧できる。場所は浙江省、江西省、湖南省などであり、市の政府は信者らと一切交渉することなく、住宅の建設のためとして一方的に解体した。聖書が焼却されることもあったといわれている。

 なぜ中国政府はこのように強硬な態度を取り始めたのか。中国では近年キリスト教徒が増加しており、中国共産党の幹部クラス党員やその家族の間にもキリスト教入信が急増しているともいわれている。ブリタニカ国際年鑑の最新データによると中国のキリスト教徒は人口の7-7.5%で9100-9750万人程度とされている。もっと多いとする見方もある。ただし、この数字はキリスト教徒全体の数字である。カトリック教徒については約1千万人という数字を5年前に引用したが、それが増加しているか不明である。

 もう一つの疑問は、台湾との外交関係を断とうとしないバチカンに圧力を加えようとしているのではないかということである。台湾について習近平政権は党大会で「武力行使をしないとの約束はしない」と強硬策をちらつかせながら、来年の台湾における総統選挙で国民党に勝たせることを目標に、統一戦線工作を強化している。外交面では去る3月、中米のホンジュラスと国交を樹立するなど攻勢を強めており、その結果台湾と外交関係を維持する国は13か国となり、バチカンはそのなかでもっとも影響力が強い。習近平政権にとって台湾の統一は最大の念願であり、バチカンはその妨げになっているとみている可能性がある。

2023.03.23

習近平主席のウクライナ問題についての考え

 中国の習近平主席は3月20日からロシアを訪問。21日プーチン大統領と会談し、共同声明が発表された。

 ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。

 共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。

 習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。

 しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。

 一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。

 習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。

 中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。

 そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。

 ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。

 米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。

 中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。

 また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。

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