平和外交研究所

中国

2016.10.30

習近平主席をなぜ「核心」と位置付けたのか

 習近平政権は来年の第19回中国共産党大会で第2期目に入ることが決定される。さる10月24~27日に開催された6中全会(第18期中国共産党第6回中央委員会全体会議)はその最終準備であったが、習近平主席が中国共産党の現状に不満であることが垣間見えてきた。
 今次会議では、中央と地方の指導体制が大幅に一新されることが確実となった。党員の心構えを定めた二つの規則が採択された。他にもいくつか決定されたが、なかでも、習近平総書記を「核心」と位置づけたことが注目された。今後は「習近平を核心とする党中央」などという表現が使われるそうだ。
 「核心」と位置付けたのは習近平の権威を高めるためだが、なぜわざわざそんなことをしたのかよくわからない。
 習近平は「総書記」としてすでに中国共産党のトップだ。中国共産党の歴史を見ると、「総書記」という地位は置かれないときもあった。また、置かれていても党規約で規定されたり、されなかったりすることもあった。したがって、過去においては一言では言えない面があったが、現在は、中国のトップ7の中でも「総書記」の地位は抜きんでており、ナンバーワンである「総書記」とそれ以外の指導者の地位とは質的に違っていると言えるだろう。
 にもかかわらず、「総書記」に加えて「核心」という位置づけをすることにどれほどの意味があるのか。「総書記」はナンバーワンであっても絶対的な権威でないと言うのなら、「核心」も似たようなものだ。五十歩百歩だと思う。

 かつて、「核心」と位置付けられた指導者として毛沢東、鄧小平、江沢民がおり、習近平は彼らと肩を並べるほど高い地位に就いたのだという趣旨の説明をよく聞く。そのこと自体は誤りでないだろうが、毛沢東は「核心」とされたので傑出した指導者となったのではなく、抗日戦争を戦いながら国民党政権と競い、ついには事実上の勝利を獲得したので絶大の権力と権威を持つに至ったのだ。
 鄧小平も「核心」と呼ばれたが、実際にはそう言われることは少なかった。それはともかくとして、鄧小平が傑出した指導者となったのは、革命戦争に参加したことに加え、極めて有能だったからで、「核心」と位置付けられて押し上げられたのではなかった。
 江沢民は「核心」とみなされた点では毛沢東や鄧小平と同様であったとしても、指導者としての権威は比較にならないくらい低いままであった。つまり、「核心」という位置づけには平均的な指導者を特別の地位に押し上げる力はなかったのだ。
 習近平の場合はなぜ「核心」と言い始めたか。文字の意味から見れば、習近平の指導力を強化し、バラバラになりがちな党内を一束にするという気持ちがうかがわれる。
 習近平は就任以来、多くの特別指導機関を作った。「小組」と呼ばれるが、実態は既存の官僚機構では不十分なので新しく作った機構であり、その権力は「小組」という名称とは裏腹に絶大だ。悪名高い文化大革命を指導したのも「小組」であった。そして習近平はすべての新設小組の長となった。
 そして、習近平は「腐敗取締り」と「言論統制」の2本の鞭を使って、既存のマニュアルでは動かない巨大官僚機構を叱咤し、活を入れ、動かそうとしてきた。習近平の積極的な取り組みは実績を上げたが、反発も強くなっただろう。先般の退役軍人によるデモなどは氷山の一角だと思う。
 したがって、習近平の権威をさらに高め、共産党を習近平中心に結集させることは現実的な必要性があるが、「核心」とすると習近平に同意しない勢力があることを示唆する恐れがある。従来中国共産党が内部矛盾を外へさらけ出すときは、特定の人物を批判する場合に限られており、それ以外は「すべてうまく行っている」という姿勢をつらぬいてきた。そう考えれば、「核心」と位置付けることを手放しで喜べないはずだ。
 ここから先は推測になるが、習近平は既存の党・政の官僚機構に不満であり、前述のように新しい手法を積極的に使ってきたのは、既存の組織があまりにも機能しないからで、新しい体制づくりに腐心しているように思われる。改革開放以来30年あまりが経過し、経済は目覚ましく成長したが、現在の共産党の指導体制は曲がり角に来ているのかもしれない。「総書記」も旧来の共産党の秩序の一環であり、新しい手法で改革を積極的に実行していくのにぴったり来ないと考えたのではないか。
 仮説にすぎないが、長い時間をかけて検証していくべきことと思う。

2016.10.29

(短評)ドゥテルテ大統領訪中のフォローアップ

 フィリピンの排他的経済水域内にあるスカボロー礁で中国の艦船がフィリピンの漁船を妨害している問題について、今回のドゥテルテ大統領の訪中の効果がどのように表れるか注目されていたところ、10月28日、フィリピンのロレンザーナ国防相は、中国船が3日前から、つまり同大統領が中国訪問を終えた4日後から、姿を消していることを公表した。これはまさにドゥテルテ大統領訪中の効果であり、中国側がフィリピン側と交わした約束を実行していることを示すことだ。

 しかし、実情は複雑なようだ。28日付の多維新聞(米国にある中国語新聞)は、ドゥテルテ大統領に同行したフィリピンの議員(中国の表記では「羅可」)の説明としてつぎのような交渉経緯を伝えている。
 「今回の協議で中国側は、中国の漁民がスカボロー礁で漁業に従事することを「許可する」という文言が入った文書に双方が署名することを求め、フィリピン側はこれに回答しなかった。合意は公開されていない。正式に署名もされていない。フィリピン側はもちろん中国が「許可」することを受け入れられない。これは今回の仲裁判決に違反することだ。」

 中国が「許可」することになれば、権利は中国側にあり、フィリピン側はいわば「恩恵」として魚を取らせてもらうことになる。合意文書の文言については現在も中比双方で協議が行われているそうだが、フィリピン側がどこまで中国の圧力をかわせるかを試す試金石になりそうだ。
 協議が終わっても、南シナ海問題は引き続き注目が必要と思う
2016.10.24

(短評)台湾の脱原発方針決定

 台湾の政府は10月20日、2025年までに原発をゼロにすることを決定した。そのために台湾の電気事業法の改正が必要だが、与党民進党が多数を占める立法院では年内にも可決する可能性が高いそうだ。台湾で脱原発を求める声が強くなったのは福島原発の事故からだ。
 蔡英文総統は脱原発を公約に大統領選を戦ったが、脱原発を実際に実行するのは台湾経済にとって大きな負担となる。台湾だけでないが、経済状況は決してよくない。エネルギーの安定供給が重要であることは日本などと変わらないはずだ。その中での決定であり、反対論は当然強い。
 しかも、蔡英文総統は中国との関係で厳しい世論にさらされている。もっとも、この点で声高に蔡英文総統を批判しているのは中国と、台湾内の新中国派であり、全体の状況は違うかもしれないが、中国との関係は台湾にとって鬼門であり総統として精力を注がなければならないことに変わりはない。
 そのようなときに脱原発という新たな難題を背負い込むわけである。公約とは言え、どうしてそんなことが可能か不思議な気もするが、賢明な判断を果断に下しているようにも思える。ともかく今回の決定は、台湾がどのような国家であるかを知るためにも、また、蔡英文総統の指導力を測るためにも実に興味深い。
 蔡英文総統は政治の観点から論じられることが多いが、経済についても並々ならぬ関心を抱いている。『蔡英文 新時代の台湾へ』という自叙伝は3分の1が経済問題にあてられている。経済といっても大企業ではなく、中小企業を重視しており、女性らしい細やかさで企業や工場を観察し、論じている。蔡英文総統が経済を軽視しているとはとても思えない。。
 
 福島原発事故以来、かなりの年月が経ち、わが国では安全を確保する手立てができているような感じがあるが、肝心のところはあまり変わっていないと思う。とくに、事故は人間のミスで起こることと、地震は、研究が進んでいるが、分からないことがまだ多いことだ。放射能で我々の子孫を幾世代にもわたって苦しめる危険がある原発は完全にやめるべきだという気持ちは拭い去れない。

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