平和外交研究所

中国

2016.08.06

(短評)習近平主席の南シナ海問題に関する率直な発言?

 香港紙『明報』8月4日付は、「中国南海網」と称するサイト(3日に初めて開かれた)が習近平主席のつぎのような発言を報道したと伝えている。どこまで正確な報道か保証の限りでないが、習近平個人の考えがよくしめされている可能性もある。

 「習近平はある内部の会議で、「南シナ海の問題については、今我々が動かなければ、将来ただ歴史資料が残るだけになる(将来就只剰下一堆歴史資料)。言っても役に立たない(説也没用了)。我々が行動を起こせば、現在の状態、争いになっている状態を維持できる」と発言した。また、中共政治局会議で検討が行われたのちに、「真の大国は問題を恐れない。問題の中から利益を勝ち取ることができる」とも述べた。」

 習近平の発言は日常会話的な言葉で語られているので、その意味は必ずしも明確でないが、他国と紛争のある島嶼であっても行動を起こすことが重要であることを強調しているのは明らかだ。要するに既成事実を積み上げることを重視しているのであり、傲慢な発言だ。「言っても役に立たない」とは「後でいくら主張しても役に立たない」という意味だろう。
 習近平の発言全体は伝えられていない恐れもあるが、明報によって報道された発言には、国際法の観点も、関係国との話し合いによる平和的な解決の考えも完全に欠如している。スプラトリー諸島の埋め立てはまさにこの習近平発言をそのまま実行したように思われる。
2016.08.05

毛沢東記念堂の移転

 毛沢東の遺体が安置されている毛沢東記念堂を天安門広場から毛沢東の生地である湖南省湘潭県韶山村に移転することについて、8月2日付の『多維新聞』(米国に本拠がある中国語新聞)が香港紙の情報をもとに報道している。

○決定案は王岐山が提出し、中共組織部長の趙楽際と副首相の劉延東が副署した。
○去る6月下旬の中共政治局会議で決定された。習近平も賛成した。
○25名の政治局員中23名が賛成し、2名は棄権した。
○毛沢東記念堂を天安門広場から移す提案は以前にもあった。今年の全人代(国会に相当)の際にも提案があった。
○河南省にあった強大な毛沢東像が撤去された際(2015年末?2016年初?)、非毛沢東化の始まりだという議論が起こったが、4年前の中共第17期(胡錦濤時代)七中全会の際にも、「毛沢東」とは言及されなかったが非毛沢東化の議論が起こっていた。

 この多維新聞の報道は、毛沢東記念堂の移転は「個人崇拝」を廃止することが目的だと感想を加えているが、「非毛沢東化」であれ、「非個人崇拝化」であれ、毛沢東の位置づけが変わるのは不可避だろう。毛沢東は歴史上大きな貢献をしたが、もはや共産主義中国の最高の指導者ではなくなり、政治の中心には不要であり、生地とはいえ、一地方に祭っておけばよいということになるのではないか。
そのようなことをあえてしたのは現在の一党独裁制下の官僚的支配体制にとって毛沢東思想は邪魔であり、また、同思想の順守を重視する人たちからの批判を事前に封殺するためだと思われる。具体的には、毛沢東が重視した大衆路線、農民、イデオロギーなどはますます退けられ、経済発展、共産党の指導などが重視されることになるのだろう。
 習近平主席は中国の大国化や経済発展を重視する一方、折に触れ「左派」的だといわれてきた。王岐山を派遣して腐敗の摘発につとめていることなどにもその傾向が表れており、毛沢東とその思想を掲げておくことは習近平にとって今後も有用ではないかと思われるが、今回の記念堂移転はそれとは逆の意味がある。うがちすぎた見方かもしれないが、現在の中国では毛沢東的な主張の復活を恐れざるを得ない緊張した政治状況が生じているのかもしれない。
 多維新聞が「習近平も賛成した」というのは、単に事実を述べたのか、それとも「左派」的なところがある習近平は反対する可能性があったと思われていたためか、気になるところだ。
 ともかく即断は禁物であり、中国の政治状況についてはより長い時間をかけ、またそのほかの事情との整合性などを見ていく必要がある。
 なお、王岐山が毛沢東記念堂の撤去を提案したのはなぜか。同人は腐敗摘発の実務責任者であり、今回の提案をするどんな理由があるのか、今のところ不明だ。
2016.08.03

仲裁裁判後の南シナ海問題と中国

 7月12日に南シナ海の国際仲裁裁判の判決が公表されて以降の動きである。

 モンゴルで開催されていたアジア欧州会議(ASEM)の閉幕(16日)に際して発表された議長声明では、「海洋の安全保障について国際法に基づいた紛争解決が重要」とする文言が盛り込まれた。この会議の裏ではさまざまな駆け引きが行われ、多くの国は仲裁裁判の判決には拘束力があるという趣旨を主張したのに対し、中国はそれに反対したと見られている。議長声明は、中国を名指しこそしなかったが、国際法の原則は明確に記載している。

 ラオスで開催されたASEAN外相会議の際には日米や中国との会合も行われる。今回の会議では中国は東南アジア諸国に中国を支持するよう強く働きかけ、カンボジアとラオスは中国寄りの態度を取った。一方、仲裁裁判の当事国であったフィリピンやベトナムなどは、判決は拘束力があり、受け入れるべきだとする趣旨を記載するよう主張し、最後まで意見が分かれたが、結局、7月25日に採択された共同声明では中国を名指しすることは避けたが、「国際法の順守の重要性を確認した」と明記したので日米などの主張は最低限確保された。

 フィリピンは判決が出る以前から中国による強い圧力を受けており、また、ドゥテルテ新大統領の基本的な姿勢が明確でなかったため、仲裁裁判の判決に対してどのような態度を取るか注目されていたが、フィリピンのヤサイ外相は19日、判決を無視して二国間協議に応じるよう求めた中国の提案を拒否した。
 さらに、ドゥテルテ大統領は、ASEANの共同声明と同じ25日、就任後初めての施政方針演説で、「我々は仲裁裁判の判決を強く支持し尊重する。(判決は)紛争の平和的解決に向けた努力に大きく貢献する」と述べた。同大統領の発言は明確であり、今後の南シナ海問題の扱いにおいてフィリピンの重要な指針となるだろう。

 オバマ米大統領は、8月1日付のシンガポールのストレーツ・タイムズ紙の書面インタビューで、仲裁裁判所の判決について「明白に法的に拘束される」として「判決は尊重されるべきだ」と述べた。ケリー国務長官は種々の機会に同趣旨のことを述べていたが、オバマ大統領の発言は初めてであった。

 安倍首相はASEMの際(15日)、フィリピンのヤサイ外相、ベトナムのグエン・スアン・フック首相と個別に会談し、仲裁裁判所判決を中国は受け入れるべきだとの認識で一致した。安倍首相はメルケル独首相との会談では、「仲裁裁判の判断は法的拘束力を有するものであり、当事国が仲裁裁判所の判断に従う必要がある」と述べていた。

 一方、中国はますますかたくなな対応を見せている。王毅外相はASEMやASEANの会議の際に各国と個別の会談を行い、懸命に中国への支持を求めた。
7月16日、北京で開催された「世界平和フォーラム」で孫建国副参謀長は「高額の訴訟費用は背後で裁判を操る者が出している。これが茶番でないと言うなら一体何なのか」と非難し、そのうえで、「軍は能力を高め、やむをえない状況になれば、国の主権と権益を守るために最後の決定的な働きを果たす」と中国軍は行動に出る可能性があることをほのめかした。
 さらに、7月末には、南シナ海で9月にロシアと合同軍事演習を行うと発表した。仲裁裁判の判決が出る前にも演習を行ったが、中国軍は力を誇示しているのだ。
 このような強気一点張りの対応について、比較的国際感覚がある中国人は、内向きの姿勢であるとコメントしている。中国人の威勢の良い発言は国内向きであることはたしかだが、それだけで話は終わらない。仲裁裁判は中国の期待するように過去の終わったことにはならず、今後も各国にとって指針となり、引用され続けるだろう。仲裁裁判の結果が中国の内政にどのような影響を及ぼすか、じっくりと観察していく必要がある。

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