中国
2017.08.29
習近平総書記が今次党大会で再任が承認されることは確実視されている。あと5年、中国のトップとして君臨するのである。李克強政治局常務委員(首相)も再任される見込みだ。
トップ7のうち残りの5人の常務委員は、党の70歳定年のルールに従い引退する。党大会時に69歳になる王岐山はそのうちの一人でありやはり引退するはずだが、反腐敗運動を指導して実績を上げ、習近平総書記からも高く評価されているので例外的に常務委員として残るのではないかと噂されてきた。
しかし、王岐山の最近の動静に関する公式の報道ぶりからして、結局引退するとの観測が強まっている。かりに、王岐山を例外扱いすれば、習近平総書記が日頃唱えている「法治」をみずから曲げることになるが、そのような問題が起こることはなくなったということである。
なお、王岐山については、現在米国に逃亡している富豪、郭文貴が、王岐山の親族による金融がらみのスキャンダルを暴露していることが関係しているとも言われているが、真相は分からない。
反腐敗運動の関係では、現在も取り締まりが継続している。最近では、同運動の大元締めである規律検査委員会が国務院財政部に設置している規律検査組の組長である莫建成が審査の対象となった。規律検査委員会は全国で猛威を振るい恐れられているが、その一方で、取り締まりの責任者が取り締まりの対象になるのである。中共中央にとっては相変わらずの悩みの種であろう。
それはともかく、新しい政治局常務委員になるのはだれか。つまり、トップ3から7にだれがなるかは北戴河会議を経てほぼ固まっているという。習近平総書記は5年後の第20回党大会で引退するので、その後継者にだれがなるか。今回の党大会で発表されるトップ7の序列から判明すると考えてよい。
その候補として一躍躍り出てきたのが、さる7月中旬、重慶市書記(同市のナンバーワン)に就任した陳敏爾である。この人物は、習近平が浙江省の書記であったときに認められたという。そして、習近平は今回、陳敏爾を総書記の後継者として選んだと最近の報道が伝えた。
重慶市は北京、天津、上海各市とならぶ四大直轄市であり、これらと広東省、新疆ウイグル自治区の指導者だけが地方から中央の高位につく資格があるとされている。重慶市はそれほど重要な都市なのである。陳敏爾の前任の孫政才書記は次世代のリーダーの一人と目されていた。しかし、同人は北戴河会議前に失脚し、陳敏爾に取って代わられた。さらに孫の前任の薄熙来もまさに中央の要職に就く直前であったが逮捕・訴追された。現在収監中である。
陳敏爾は、報道が正しければ、今週の党大会でおそらくナンバー3の地位に就くのだろう。これは本人のこれまでの経歴からして抜擢だと見られている。習近平の覚えはよいが、はたして中国のナンバーワンになれるか、不透明である。
一方、数年前から習近平の次の指導者として評判の高かった胡春華は、陳敏爾を選んだ習氏の意図を察知して「後継者となる気持ちはない」という上申書を党中央に提出したという。これは事実か確認できないが、胡春華は共青団(共産主義青年団)派で、胡錦涛に近い。風向きをいち早く読んで手を打った可能性はあろう。
習近平は今次党大会で単に再選されるだけでなく、これまでの統治、党や軍の改革を通じて権力を一身に集め、また、「核心」と呼ばれる特別の指導者となったことがあらためて承認される。さらに、習近平が行った諸講話は重要な指導思想と位置付けられるとも言われている。
習近平政権の第2期目は、第1期目とあまり変わりそうにない。習近平が築き上げた、独裁的とも揶揄される厳しいコントロール体制が変わることはないだろうからである。
しかし、第20回党大会以後はどうなるか。複雑なことを簡単に推測するのは控えなければならないが、習近平は陳敏爾を通じて事実上の権力を維持したいのだとも言われている。しかし、その通りになるかよくわからない。習近平の前前任の江沢民も退任後上海閥を通じて影響力を維持しようとしたとさかんに言われた。
それよりもっと深刻な問題は、習近平が作り上げた体制が長きにわたって維持しうるかである。この大問題の帰趨を占うにはあまりにも不確定要因が多いが、今回の党大会ではその手掛かりとなることが、わずかかもしれないが、垣間見えるのではないか。
中国共産党第19回全国代表大会-中枢の人事
毎年夏、北京近郊の北戴河に指導者が集まり、重要問題について非公式に意見交換を行う。事実上の決定を行うこともある。今年の北戴河会議は、秋に開催される中国共産党第19回全国代表大会の予備会議の性格を兼ねていたと見てよい。習近平総書記が今次党大会で再任が承認されることは確実視されている。あと5年、中国のトップとして君臨するのである。李克強政治局常務委員(首相)も再任される見込みだ。
トップ7のうち残りの5人の常務委員は、党の70歳定年のルールに従い引退する。党大会時に69歳になる王岐山はそのうちの一人でありやはり引退するはずだが、反腐敗運動を指導して実績を上げ、習近平総書記からも高く評価されているので例外的に常務委員として残るのではないかと噂されてきた。
しかし、王岐山の最近の動静に関する公式の報道ぶりからして、結局引退するとの観測が強まっている。かりに、王岐山を例外扱いすれば、習近平総書記が日頃唱えている「法治」をみずから曲げることになるが、そのような問題が起こることはなくなったということである。
なお、王岐山については、現在米国に逃亡している富豪、郭文貴が、王岐山の親族による金融がらみのスキャンダルを暴露していることが関係しているとも言われているが、真相は分からない。
反腐敗運動の関係では、現在も取り締まりが継続している。最近では、同運動の大元締めである規律検査委員会が国務院財政部に設置している規律検査組の組長である莫建成が審査の対象となった。規律検査委員会は全国で猛威を振るい恐れられているが、その一方で、取り締まりの責任者が取り締まりの対象になるのである。中共中央にとっては相変わらずの悩みの種であろう。
それはともかく、新しい政治局常務委員になるのはだれか。つまり、トップ3から7にだれがなるかは北戴河会議を経てほぼ固まっているという。習近平総書記は5年後の第20回党大会で引退するので、その後継者にだれがなるか。今回の党大会で発表されるトップ7の序列から判明すると考えてよい。
その候補として一躍躍り出てきたのが、さる7月中旬、重慶市書記(同市のナンバーワン)に就任した陳敏爾である。この人物は、習近平が浙江省の書記であったときに認められたという。そして、習近平は今回、陳敏爾を総書記の後継者として選んだと最近の報道が伝えた。
重慶市は北京、天津、上海各市とならぶ四大直轄市であり、これらと広東省、新疆ウイグル自治区の指導者だけが地方から中央の高位につく資格があるとされている。重慶市はそれほど重要な都市なのである。陳敏爾の前任の孫政才書記は次世代のリーダーの一人と目されていた。しかし、同人は北戴河会議前に失脚し、陳敏爾に取って代わられた。さらに孫の前任の薄熙来もまさに中央の要職に就く直前であったが逮捕・訴追された。現在収監中である。
陳敏爾は、報道が正しければ、今週の党大会でおそらくナンバー3の地位に就くのだろう。これは本人のこれまでの経歴からして抜擢だと見られている。習近平の覚えはよいが、はたして中国のナンバーワンになれるか、不透明である。
一方、数年前から習近平の次の指導者として評判の高かった胡春華は、陳敏爾を選んだ習氏の意図を察知して「後継者となる気持ちはない」という上申書を党中央に提出したという。これは事実か確認できないが、胡春華は共青団(共産主義青年団)派で、胡錦涛に近い。風向きをいち早く読んで手を打った可能性はあろう。
習近平は今次党大会で単に再選されるだけでなく、これまでの統治、党や軍の改革を通じて権力を一身に集め、また、「核心」と呼ばれる特別の指導者となったことがあらためて承認される。さらに、習近平が行った諸講話は重要な指導思想と位置付けられるとも言われている。
習近平政権の第2期目は、第1期目とあまり変わりそうにない。習近平が築き上げた、独裁的とも揶揄される厳しいコントロール体制が変わることはないだろうからである。
しかし、第20回党大会以後はどうなるか。複雑なことを簡単に推測するのは控えなければならないが、習近平は陳敏爾を通じて事実上の権力を維持したいのだとも言われている。しかし、その通りになるかよくわからない。習近平の前前任の江沢民も退任後上海閥を通じて影響力を維持しようとしたとさかんに言われた。
それよりもっと深刻な問題は、習近平が作り上げた体制が長きにわたって維持しうるかである。この大問題の帰趨を占うにはあまりにも不確定要因が多いが、今回の党大会ではその手掛かりとなることが、わずかかもしれないが、垣間見えるのではないか。
2017.08.24
米国と中国の立場は大きく異なっている。米国は、国連安保理の決議を忠実に実行すれば北朝鮮問題は解決するという考えであり、中国は、それでは北朝鮮の安全は確保されない、したがってまた核・ミサイル問題も解決できないという考えである。
日本として米国と同じ立場に立つのは自然だが、北朝鮮問題が解決しない、核・ミサイル問題も解決しないというのであれば単純に米国と同じ立場に立てばよいとは言えなくなる。
北朝鮮問題を論じる場合つねに悩まされることだが、今回は中国の側から見ればどう見えるかという視点に立って分析を試みた。
「東洋経済オンライン」→「米朝チキンレースを静観する中国の深謀遠慮」にアクセスしてご覧いただきたい。
中国にとっての北朝鮮問題
中国にとって北朝鮮問題とはなにか、米国や日本の強い働きかけに本当に応じる用意があるのか、などに関する一文を東洋経済オンラインに寄稿した。米国と中国の立場は大きく異なっている。米国は、国連安保理の決議を忠実に実行すれば北朝鮮問題は解決するという考えであり、中国は、それでは北朝鮮の安全は確保されない、したがってまた核・ミサイル問題も解決できないという考えである。
日本として米国と同じ立場に立つのは自然だが、北朝鮮問題が解決しない、核・ミサイル問題も解決しないというのであれば単純に米国と同じ立場に立てばよいとは言えなくなる。
北朝鮮問題を論じる場合つねに悩まされることだが、今回は中国の側から見ればどう見えるかという視点に立って分析を試みた。
「東洋経済オンライン」→「米朝チキンレースを静観する中国の深謀遠慮」にアクセスしてご覧いただきたい。
2017.08.22
「一帯一路」構想は2013年に習近平主席が打ち出したもので、中国と欧州を結ぶ陸上及び海上のルート(シルクロード)を中心に輸送インフラを整備し、沿線国での投資を活発化させることにより約70カ国にまたがる経済圏を建設することを目指している。
「一帯一路」と同じく中国の提唱により2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は「一帯一路」とペアであり、同構想を実現する手段となっている。
今年の5月には、プーチン・ロシア大統領、エルドアン・トルコ大統領、東南アジア諸国の首脳なども出席する大会議が開催された。日本からは二階自民党幹事長が参加した。
今回報道されたのは、時間をさかのぼるが、2015年12月会議を主催した国防大学の議事録であり、「国防大や国防省、軍総参謀部(当時)の幹部、対外投資にかかわる銀行や石油業界関係者ら約20人が発言。国防大の研究者2人は、中国海軍のインド洋海域展開には12か所の港など「補給基地」が必要との分析を示し、国有海運会社「中国遠洋運輸」など中国企業に「商用名目で他国の港の使用権を獲得させ、海軍の停泊、補給地点とすべきだ」と主張した」ことなどが記録されているという。非常に参考になる文献である。
2017年5月の国際会議の後に当研究所のHPに掲載したコメントのさわりの部分を再度掲げておく。
「「一帯一路」は、中国が鉄道、道路、パイプラインなどの建設をこれまでの各国別協力から多数の国との協力事業として拡大するものであり、構想の発表からわずか4年でこのような一大国際会議の開催にまでこぎつけられたのは、中国が戦略的に持てる資源を集中的に投入したからであり、中国の新たな成功例だと言えるだろう。
一方、「一帯一路」も中国主導で進めたいという意図は見え透いていた。中国は各国の意見を聞かないのではなく、各国の参加を求めるし、意見も聞く。しかし、それはあくまで中国主導の妨げにならない範囲のことであり、極端に言えば、各国は中国主導に花を添えているのに過ぎない。
このようなやりかたは「中華思想」的であり、また、「冊封」、つまり中国が天であり各国はこれに従属するという清朝以前の体制と本質的には変わらないのではないか。
たとえば、貿易に関する議論において結論となる文書の草案が主催者たる中国側から提示されたが、ほとんど議論をする時間的な余裕がないのに「修正できない」と言われたので、EUの一部諸国は対応できず、最終文書に同意しなかった。中国が各国の意見に本当に耳を傾け、良い意見は採用する用意があるならもっと違った対応になっただろう。今回の会議が終了するまでに一定の結論を出さなければならない、それに異論を唱えることは許さないとするのは中国側の都合に過ぎない。
「一帯一路」についてはもっと根本的な疑問がある。すなわち、習近平主席は2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であり、「一帯一路」戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べていた。この中国と周辺諸国が運命共同体であるということは、協力しあうという範囲をはるかに超えているが、「一帯一路」構想の推進によりそこまで盛り上げていくというのが中国の考えなのである。その運命共同体の中心は当然中国なのであろう。やはり「中華思想」的な発想なのではないか。
また、そもそも中国がBRICs銀行とは別にAIIBを設立したのは、前者ではブラジル、ロシア、インドおよび中国は平等の立場にあり、中国の主導にならないからであった.中国はどうしても中国主導の開発銀行を作りたかったのである。
中国が中国風に振舞っただけでは今次会議は成功しなかったかもしれない。しかし、中国は巨大な資金を提供して会議に実を注入した。インフラ整備に使うシルクロード基金へ1千億元(約1兆6400億円)増資、参加国・地域へ600億元の援助を供与などである。
さらに、中国は今後5年で「一帯一路」の沿線国家・地区から2兆ドル(約226兆円)の商品を輸入するとも表明した。
これらの寛大なオファーはもちろん各国から歓迎された。しかし、一方で、各国の意思を軽視しておいて、他方で、恩恵を示して中国に引き付けようとするのは冊封体制と何ら変わりないではないか。
各国は今次会議にどのような姿勢で臨んだか。二、三の点が注目された。
米国は日本と同様AIIBに参加していないので「一帯一路」についても警戒的だと見られていたが、今回の会議にはマット・ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を代表として派遣した。また、北京の米大使館は「一帯一路工作チーム」をつくって協力する方針だそうだ。これらは、去る4月のトランプ・習会談で合意された「100日計画」に基づいて実施されたことである。
一方、中国は6月にワシントン郊外で開催される投資サミット(Select USA 投資サミット。第4回目だが、トランプ政権下で初めて)に参加することに合意した。つまり、今次「一帯一路」会議への米国の出席は、米国投資会議への中国の参加とディールになっているのだ。米国の投資会議は中国の「一帯一路」会議ほど盛大なおぜん立てになっていないかもしれないが、両方とも投資を呼び込むための国際会議である。
インドが今次「一帯一路」会議に参加しなかったことも目立っていた。その海上ルート(「一路」)がインドに脅威となっているためである。つまり、インドはBRICs銀行のように、一方では中国と協力しつつ、海上では中国の行動を警戒しているのである。」
一帯一路2015年12月会議
中国が提唱する「一帯一路」について2015年12月に開催された会議の模様が明らかになったと報道されている(読売新聞8月21日付)。「一帯一路」構想は2013年に習近平主席が打ち出したもので、中国と欧州を結ぶ陸上及び海上のルート(シルクロード)を中心に輸送インフラを整備し、沿線国での投資を活発化させることにより約70カ国にまたがる経済圏を建設することを目指している。
「一帯一路」と同じく中国の提唱により2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は「一帯一路」とペアであり、同構想を実現する手段となっている。
今年の5月には、プーチン・ロシア大統領、エルドアン・トルコ大統領、東南アジア諸国の首脳なども出席する大会議が開催された。日本からは二階自民党幹事長が参加した。
今回報道されたのは、時間をさかのぼるが、2015年12月会議を主催した国防大学の議事録であり、「国防大や国防省、軍総参謀部(当時)の幹部、対外投資にかかわる銀行や石油業界関係者ら約20人が発言。国防大の研究者2人は、中国海軍のインド洋海域展開には12か所の港など「補給基地」が必要との分析を示し、国有海運会社「中国遠洋運輸」など中国企業に「商用名目で他国の港の使用権を獲得させ、海軍の停泊、補給地点とすべきだ」と主張した」ことなどが記録されているという。非常に参考になる文献である。
2017年5月の国際会議の後に当研究所のHPに掲載したコメントのさわりの部分を再度掲げておく。
「「一帯一路」は、中国が鉄道、道路、パイプラインなどの建設をこれまでの各国別協力から多数の国との協力事業として拡大するものであり、構想の発表からわずか4年でこのような一大国際会議の開催にまでこぎつけられたのは、中国が戦略的に持てる資源を集中的に投入したからであり、中国の新たな成功例だと言えるだろう。
一方、「一帯一路」も中国主導で進めたいという意図は見え透いていた。中国は各国の意見を聞かないのではなく、各国の参加を求めるし、意見も聞く。しかし、それはあくまで中国主導の妨げにならない範囲のことであり、極端に言えば、各国は中国主導に花を添えているのに過ぎない。
このようなやりかたは「中華思想」的であり、また、「冊封」、つまり中国が天であり各国はこれに従属するという清朝以前の体制と本質的には変わらないのではないか。
たとえば、貿易に関する議論において結論となる文書の草案が主催者たる中国側から提示されたが、ほとんど議論をする時間的な余裕がないのに「修正できない」と言われたので、EUの一部諸国は対応できず、最終文書に同意しなかった。中国が各国の意見に本当に耳を傾け、良い意見は採用する用意があるならもっと違った対応になっただろう。今回の会議が終了するまでに一定の結論を出さなければならない、それに異論を唱えることは許さないとするのは中国側の都合に過ぎない。
「一帯一路」についてはもっと根本的な疑問がある。すなわち、習近平主席は2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であり、「一帯一路」戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べていた。この中国と周辺諸国が運命共同体であるということは、協力しあうという範囲をはるかに超えているが、「一帯一路」構想の推進によりそこまで盛り上げていくというのが中国の考えなのである。その運命共同体の中心は当然中国なのであろう。やはり「中華思想」的な発想なのではないか。
また、そもそも中国がBRICs銀行とは別にAIIBを設立したのは、前者ではブラジル、ロシア、インドおよび中国は平等の立場にあり、中国の主導にならないからであった.中国はどうしても中国主導の開発銀行を作りたかったのである。
中国が中国風に振舞っただけでは今次会議は成功しなかったかもしれない。しかし、中国は巨大な資金を提供して会議に実を注入した。インフラ整備に使うシルクロード基金へ1千億元(約1兆6400億円)増資、参加国・地域へ600億元の援助を供与などである。
さらに、中国は今後5年で「一帯一路」の沿線国家・地区から2兆ドル(約226兆円)の商品を輸入するとも表明した。
これらの寛大なオファーはもちろん各国から歓迎された。しかし、一方で、各国の意思を軽視しておいて、他方で、恩恵を示して中国に引き付けようとするのは冊封体制と何ら変わりないではないか。
各国は今次会議にどのような姿勢で臨んだか。二、三の点が注目された。
米国は日本と同様AIIBに参加していないので「一帯一路」についても警戒的だと見られていたが、今回の会議にはマット・ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を代表として派遣した。また、北京の米大使館は「一帯一路工作チーム」をつくって協力する方針だそうだ。これらは、去る4月のトランプ・習会談で合意された「100日計画」に基づいて実施されたことである。
一方、中国は6月にワシントン郊外で開催される投資サミット(Select USA 投資サミット。第4回目だが、トランプ政権下で初めて)に参加することに合意した。つまり、今次「一帯一路」会議への米国の出席は、米国投資会議への中国の参加とディールになっているのだ。米国の投資会議は中国の「一帯一路」会議ほど盛大なおぜん立てになっていないかもしれないが、両方とも投資を呼び込むための国際会議である。
インドが今次「一帯一路」会議に参加しなかったことも目立っていた。その海上ルート(「一路」)がインドに脅威となっているためである。つまり、インドはBRICs銀行のように、一方では中国と協力しつつ、海上では中国の行動を警戒しているのである。」
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