オピニオン
2017.01.16
以下に紹介する「サーチナ」の1月13日の記事は経済的合理性に関するものである。言葉遣いは少しだけ手直しさせていただいた。
なお、「サーチナ」はもともと「中国情報局」として設立され、後に改名され現在のサイト名になった。中国では「新秦」の名で通っている。このサイトを運営するのは同名の日本法人であるが、中国との関係は深い。「中国の時事問題や中国経済情報を中心に、アジア各国のニュースを配信するニュースサイト」という説明もある。これで間違いないが、さらに一言付け加えると、このサイトの記事は日中双方の観点を反映するものが多いので参考になる。
「日本企業による対中投資が減少しているが、中国メディアの「東方頭条」が10日付で掲載した記事は、日本企業が中国から撤退することや、投資を減少させることは「ゴマを拾ってスイカを捨てる」、つまりそれほど価値のないもののために大きな価値のあるものを失うことになる「誤った選択」であると主張した。
記事は、仮にすべての日本企業が中国から撤退した場合、中国が被る損失は極めて甚大であると指摘、政府は490億元(8086億円)もの税収を失ううえに、数百万人が解雇されることになると指摘、政府は失業者の支援のために莫大な規模の資金を捻出する必要が生じると説明した。
一方で、日本企業は中国から一気に撤退すれば、製品の生産コストの増加は免れず、日本の輸出にも深刻な影響が生じると説明。したがって日本政府は日本企業を「注意深く、中国から撤退させたいと考えている」と主張、日本企業による中国撤退の動きが割とゆっくりなのはそのためであると論じた。
しかし記事は、日本企業の中国撤退は間違いなく「ゴマを拾ってスイカを捨てる」行為であると指摘。中国の国内総生産(GDP)は2010年に日本を超え、さらにその後の3年間で日本の2倍になったが、これは中国の成長と日本経済の急激な衰退を示すものであるとし、それゆえに日本経済が成長するには「中国経済の成長に依存する必要がある」と主張した。
つまり記事が説明する「ゴマを拾う」行為とは、日本企業の撤退により中国経済にダメージを与えることであり、また「スイカを捨てる」とは中国撤退により日本経済自身が被る大きな損失を意味している。しかし日本企業の中国撤退には当然政治的な意図はなく、むしろ現地の賃金コスト上昇などが関係している。中国で生産することのメリットが失われつつある今、中国撤退を選ぶ日本企業が増えているのはビジネスとしては至極当然の動きだろう。」
以上が「サーチナ」の記事であり、その中で引用されている「東方頭条」は中国のサイトであり、日本に対する関心が高く、日本の長所、日本と中国の違いをかなり率直に紹介している。
この記事で「東方頭条」は日本の企業に合理的な経済活動を求めているが、日本企業が「ゴマを拾ってスイカを捨てる」たとえ話になると政治論になっている。
一方、「サーチナ」は最後まで経済合理性を重視している。ただし、日本企業が「ゴマを拾う」ことについては「サーチナ」とは別の解釈があると思うが、それはこの記事の本質的部分でないので詳述しない。
ともかく、日中間で経済的に合理的なことを探究するのは有益だと思う。
日中関係の改善と経済的合理性
初めに、本稿の背景として一言述べておくのだが、「日本と中国では制度・体制が違いすぎるため両国関係を改善するのは容易でない。しかし、経済面では両国とも合理的に、冷静に行動できるはずだ。経済活動は合理的でなければ持続できない。経済合理性は両国関係を改善するのに太い柱となる」ということをかねてから講演などで述べており、これには双方から積極的に反応していただいている。以下に紹介する「サーチナ」の1月13日の記事は経済的合理性に関するものである。言葉遣いは少しだけ手直しさせていただいた。
なお、「サーチナ」はもともと「中国情報局」として設立され、後に改名され現在のサイト名になった。中国では「新秦」の名で通っている。このサイトを運営するのは同名の日本法人であるが、中国との関係は深い。「中国の時事問題や中国経済情報を中心に、アジア各国のニュースを配信するニュースサイト」という説明もある。これで間違いないが、さらに一言付け加えると、このサイトの記事は日中双方の観点を反映するものが多いので参考になる。
「日本企業による対中投資が減少しているが、中国メディアの「東方頭条」が10日付で掲載した記事は、日本企業が中国から撤退することや、投資を減少させることは「ゴマを拾ってスイカを捨てる」、つまりそれほど価値のないもののために大きな価値のあるものを失うことになる「誤った選択」であると主張した。
記事は、仮にすべての日本企業が中国から撤退した場合、中国が被る損失は極めて甚大であると指摘、政府は490億元(8086億円)もの税収を失ううえに、数百万人が解雇されることになると指摘、政府は失業者の支援のために莫大な規模の資金を捻出する必要が生じると説明した。
一方で、日本企業は中国から一気に撤退すれば、製品の生産コストの増加は免れず、日本の輸出にも深刻な影響が生じると説明。したがって日本政府は日本企業を「注意深く、中国から撤退させたいと考えている」と主張、日本企業による中国撤退の動きが割とゆっくりなのはそのためであると論じた。
しかし記事は、日本企業の中国撤退は間違いなく「ゴマを拾ってスイカを捨てる」行為であると指摘。中国の国内総生産(GDP)は2010年に日本を超え、さらにその後の3年間で日本の2倍になったが、これは中国の成長と日本経済の急激な衰退を示すものであるとし、それゆえに日本経済が成長するには「中国経済の成長に依存する必要がある」と主張した。
つまり記事が説明する「ゴマを拾う」行為とは、日本企業の撤退により中国経済にダメージを与えることであり、また「スイカを捨てる」とは中国撤退により日本経済自身が被る大きな損失を意味している。しかし日本企業の中国撤退には当然政治的な意図はなく、むしろ現地の賃金コスト上昇などが関係している。中国で生産することのメリットが失われつつある今、中国撤退を選ぶ日本企業が増えているのはビジネスとしては至極当然の動きだろう。」
以上が「サーチナ」の記事であり、その中で引用されている「東方頭条」は中国のサイトであり、日本に対する関心が高く、日本の長所、日本と中国の違いをかなり率直に紹介している。
この記事で「東方頭条」は日本の企業に合理的な経済活動を求めているが、日本企業が「ゴマを拾ってスイカを捨てる」たとえ話になると政治論になっている。
一方、「サーチナ」は最後まで経済合理性を重視している。ただし、日本企業が「ゴマを拾う」ことについては「サーチナ」とは別の解釈があると思うが、それはこの記事の本質的部分でないので詳述しない。
ともかく、日中間で経済的に合理的なことを探究するのは有益だと思う。
2017.01.05
このガイドラインは「各級政府・公務員が信用を失ったことを記録するシステム」を整備せよと言っている。たとえば、法令違反を犯し、信用を失ったため判決、行政処罰、規律処分、問責処分などを受けたことなどを「政務失信記録」に記載すべきだというのだ。
また、「新官不理旧賬」という問題があると指摘している。「新任の官吏は前任のツケを払わない」という意味で、全国にはびこっている悪質な問題なので6文字で分かりやすく表現したのであろう。たとえば、地方で土地を再開発して商業施設を建設する事業で政府は農民とさまざまな契約、協議書を結ぶが、部局が変わったとか、担当者が変わったという理由で簡単に破棄したり、無視したりしているのだ。農民にとってはたまらない問題だ。
信頼の欠如はどこの国でも問題となりうるが、中国ではその程度がすさまじい。国家、政府、公務員に対する人民の信頼がないだけでなく、国家機関同士、人民の間でも信頼が欠如している。そのため法秩序にも信頼がなく、法の順守よりも蓄財を優先する。中国人自身昔からそのような悪弊を認識していた。孔子は、「民の信頼を失えば国は立ちいかない。信頼は軍備や食料よりも重要だ」と2500年も前に指摘していた。習近平主席が反腐敗運動に力を入れるのは、現在でも腐敗が蔓延し、中国がむしばまれているからだ。
2016年10月下旬に開催された六中全会、つまり第18期中国共産党第6回中央委員会全体会議で中央委員は197名中132名、中央委員候補は151名中120名が王岐山を次期党全国代表大会(19全大会)で例外的に政治局常務委員として留任させる嘆願書に署名したそうだ(12月28日付の『多維新聞』は香港の雑誌による報道としている)。王岐山は習近平の下にあって反腐敗運動を実際に指揮した人物であり、今後の反腐敗運動の継続のため欠くことができないというわけだ。
同人は1948年生まれで、党大会の時点では69歳になる。中国の70歳定年制では67歳までは再任が可能だが、68歳以上は再任不可となっており、この規則に従えば、王岐山は党大会で引退することになるのだが、例外的に再任を認める嘆願書である。この嘆願に参加した人の数が多いだけでなく、宋平(革命戦争に参加した。周恩来の秘書も務めた)、朱鎔基(元首相)、遅浩田(元総参謀長)、呉儀(元副首相)らの元老も含まれていた。このようなことは極めて異例であり、六中全会は「留王狂潮」、つまり「王岐山を留任させる狂騒」だったとも言われている。
一方、中国共産党は、2016年の初頭から検討してきた「国家監察委員会」を2018年3月に新設することにした。すべての公務員、つまり党員でない者も対象に腐敗行為を取り締まるのが目的だ。
これまで習近平・王岐山チームは「中央規律検査委員会」と「巡視組」によって反腐敗運動を展開してきた。その厳しさは天下にとどろいており、取り締まりの実績は上がっていたと見られていたが、さらにこのような新機構を設置するのは必要だからだろう。つまり、これまで大々的に取り締まりを展開してきたが、それでも不十分なのだ。あらためて中国における腐敗のひどさ、そして信頼のなさを思い知らされる。
習近平体制は今年の秋に開催される前述の党大会で第2期目に入り、さらに5年間中国を指導する。反腐敗運動は引き続き最重要問題として取り組むことがはっきりしてきた。腐敗を取り締まり、信頼を築くのに努めることは健全な政治だが、新反腐敗体制によってその効果が上がるか。中国共産党による上からの指導によって信頼を築くことができるか、根本的な疑問は消えない。
反腐敗運動と信頼の構築は第2期習近平政権でも重要課題
年の瀬も押し迫った12月30日、中国の国務院は「政務誠信建設の強化に関する指導意見」を公布した。「政治において誠意と信用を高めることについてのガイドライン」という意味だが、「政治に誠意も信用もない」ということが前提になっていると考えればよりわかりやすい。それは言い過ぎだ、中国に失礼だ、日本でも「政治に誠意も信用もあるか」と問えば、「ある」と胸を張って言える人はそう多くないという感じもするが、では、「中国の政治には誠意も信用もあるが、それをさらに高めよう」というのがこの国務院のガイドラインの趣旨だと言えるか。とても言えない。やはり中国の実情は、「政治に誠意も信用もない」に近いようだ。このガイドラインは「各級政府・公務員が信用を失ったことを記録するシステム」を整備せよと言っている。たとえば、法令違反を犯し、信用を失ったため判決、行政処罰、規律処分、問責処分などを受けたことなどを「政務失信記録」に記載すべきだというのだ。
また、「新官不理旧賬」という問題があると指摘している。「新任の官吏は前任のツケを払わない」という意味で、全国にはびこっている悪質な問題なので6文字で分かりやすく表現したのであろう。たとえば、地方で土地を再開発して商業施設を建設する事業で政府は農民とさまざまな契約、協議書を結ぶが、部局が変わったとか、担当者が変わったという理由で簡単に破棄したり、無視したりしているのだ。農民にとってはたまらない問題だ。
信頼の欠如はどこの国でも問題となりうるが、中国ではその程度がすさまじい。国家、政府、公務員に対する人民の信頼がないだけでなく、国家機関同士、人民の間でも信頼が欠如している。そのため法秩序にも信頼がなく、法の順守よりも蓄財を優先する。中国人自身昔からそのような悪弊を認識していた。孔子は、「民の信頼を失えば国は立ちいかない。信頼は軍備や食料よりも重要だ」と2500年も前に指摘していた。習近平主席が反腐敗運動に力を入れるのは、現在でも腐敗が蔓延し、中国がむしばまれているからだ。
2016年10月下旬に開催された六中全会、つまり第18期中国共産党第6回中央委員会全体会議で中央委員は197名中132名、中央委員候補は151名中120名が王岐山を次期党全国代表大会(19全大会)で例外的に政治局常務委員として留任させる嘆願書に署名したそうだ(12月28日付の『多維新聞』は香港の雑誌による報道としている)。王岐山は習近平の下にあって反腐敗運動を実際に指揮した人物であり、今後の反腐敗運動の継続のため欠くことができないというわけだ。
同人は1948年生まれで、党大会の時点では69歳になる。中国の70歳定年制では67歳までは再任が可能だが、68歳以上は再任不可となっており、この規則に従えば、王岐山は党大会で引退することになるのだが、例外的に再任を認める嘆願書である。この嘆願に参加した人の数が多いだけでなく、宋平(革命戦争に参加した。周恩来の秘書も務めた)、朱鎔基(元首相)、遅浩田(元総参謀長)、呉儀(元副首相)らの元老も含まれていた。このようなことは極めて異例であり、六中全会は「留王狂潮」、つまり「王岐山を留任させる狂騒」だったとも言われている。
一方、中国共産党は、2016年の初頭から検討してきた「国家監察委員会」を2018年3月に新設することにした。すべての公務員、つまり党員でない者も対象に腐敗行為を取り締まるのが目的だ。
これまで習近平・王岐山チームは「中央規律検査委員会」と「巡視組」によって反腐敗運動を展開してきた。その厳しさは天下にとどろいており、取り締まりの実績は上がっていたと見られていたが、さらにこのような新機構を設置するのは必要だからだろう。つまり、これまで大々的に取り締まりを展開してきたが、それでも不十分なのだ。あらためて中国における腐敗のひどさ、そして信頼のなさを思い知らされる。
習近平体制は今年の秋に開催される前述の党大会で第2期目に入り、さらに5年間中国を指導する。反腐敗運動は引き続き最重要問題として取り組むことがはっきりしてきた。腐敗を取り締まり、信頼を築くのに努めることは健全な政治だが、新反腐敗体制によってその効果が上がるか。中国共産党による上からの指導によって信頼を築くことができるか、根本的な疑問は消えない。
2016.12.24
一つには、日米関係と比較すると分かりやすい。選挙期間中、トランプ氏は米国が貿易面で不利をこうむっていると主張し、日本、中国、メキシコなど諸国との関係を是正したい考えを示した。日本と中国が為替レートの操作をしていると非難したのもその一環だった。
トランプ氏は、さらに、日本との安保条約についても不満を述べ、米国は日本を防衛することになっているのに、日本が負担している義務は少なすぎるなどと発言したため、一時、新政権は日本より中国との関係を重視し、中国は漁夫の利を得るのではないかという見方も出たこともあった。
しかし、今やそのような見方は完全になくなっている。大統領選挙からまだ2カ月もたっていないが、米国にとって日本との同盟関係が重要であることはトランプ氏の耳にかなり入ったのだろう。為替については、最近円安になったのは日本が操作したためでなく、米国の金利引き上げが原因であることはだれの目にも明らかだ。もっとも、日本との間では、TPPのように立場が異なる問題もあり、日本として懸念が解消したわけではないが、トランプ氏が直接日本を問題視する発言をすることはなくなっている。
一方、中国との関係ではこの短い期間に、トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談、トランプ氏の「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」という発言、それに海洋調査している米国の潜水機を中国艦艇が強引に持ち去る事件などが立て続けに発生した。
台湾との関係および「一つの中国」は中国にとって優先度の高い「核心問題」であり、従来の米政府の方針を逸脱するトランプ氏の言動に中国が強く刺激され、抗議したのは当然であった。
しかし、トランプ氏は蔡英文総統との電話も、一つの中国に対する発言も許容範囲内だと判断したのだろう。その判断の当否は別として、すくなくともこれらの出来事には新政権の対中姿勢が表れている感じがする。
中国の艦艇が米国の潜水機を持ち去ったのは、最近のトランプ氏の問題発言を咎め、けん制する気持ちがあったのかもしれないが、米国にとっては著しく挑発的であり、米国の対中認識をいっそう悪化させた。
そんななか、米国防次官代行のブライアン・マケオン(Brian McKeon)が新政権の防衛政策に関して記した覚書が話題になっている。このメモは米国にとっての優先課題として過激派組織IS、サイバー攻撃などをあげつつ、長らく米国の安全保障上の最大問題であったロシアに言及していないからである。トランプ氏が選挙期間中何回もプーチン大統領を称賛し、また、国務長官にロシア通でプーチン大統領と親しいティラーソン氏を指名したことは周知であるが、それらに加えこのメモが現れたのだ。
総じて、トランプ氏の言動には米国とロシアとの関係が改善される兆しがみられる一方、中国との関係では不協和音がすでに出始めている。実際の政策にどのように反映されるかもう少し状況を見る必要があるが、物事を単純に切って捨てるトランプ新大統領の米国と強権的でかつ大国志向の習近平主席の中国は今後角を突き合わせることが多くなるのではないか。
(短評)トランプ新政権の対中姿勢
トランプ新政権の発足前だが、米中関係はどうなるか、かなりはっきりしてきた。一つには、日米関係と比較すると分かりやすい。選挙期間中、トランプ氏は米国が貿易面で不利をこうむっていると主張し、日本、中国、メキシコなど諸国との関係を是正したい考えを示した。日本と中国が為替レートの操作をしていると非難したのもその一環だった。
トランプ氏は、さらに、日本との安保条約についても不満を述べ、米国は日本を防衛することになっているのに、日本が負担している義務は少なすぎるなどと発言したため、一時、新政権は日本より中国との関係を重視し、中国は漁夫の利を得るのではないかという見方も出たこともあった。
しかし、今やそのような見方は完全になくなっている。大統領選挙からまだ2カ月もたっていないが、米国にとって日本との同盟関係が重要であることはトランプ氏の耳にかなり入ったのだろう。為替については、最近円安になったのは日本が操作したためでなく、米国の金利引き上げが原因であることはだれの目にも明らかだ。もっとも、日本との間では、TPPのように立場が異なる問題もあり、日本として懸念が解消したわけではないが、トランプ氏が直接日本を問題視する発言をすることはなくなっている。
一方、中国との関係ではこの短い期間に、トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談、トランプ氏の「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」という発言、それに海洋調査している米国の潜水機を中国艦艇が強引に持ち去る事件などが立て続けに発生した。
台湾との関係および「一つの中国」は中国にとって優先度の高い「核心問題」であり、従来の米政府の方針を逸脱するトランプ氏の言動に中国が強く刺激され、抗議したのは当然であった。
しかし、トランプ氏は蔡英文総統との電話も、一つの中国に対する発言も許容範囲内だと判断したのだろう。その判断の当否は別として、すくなくともこれらの出来事には新政権の対中姿勢が表れている感じがする。
中国の艦艇が米国の潜水機を持ち去ったのは、最近のトランプ氏の問題発言を咎め、けん制する気持ちがあったのかもしれないが、米国にとっては著しく挑発的であり、米国の対中認識をいっそう悪化させた。
そんななか、米国防次官代行のブライアン・マケオン(Brian McKeon)が新政権の防衛政策に関して記した覚書が話題になっている。このメモは米国にとっての優先課題として過激派組織IS、サイバー攻撃などをあげつつ、長らく米国の安全保障上の最大問題であったロシアに言及していないからである。トランプ氏が選挙期間中何回もプーチン大統領を称賛し、また、国務長官にロシア通でプーチン大統領と親しいティラーソン氏を指名したことは周知であるが、それらに加えこのメモが現れたのだ。
総じて、トランプ氏の言動には米国とロシアとの関係が改善される兆しがみられる一方、中国との関係では不協和音がすでに出始めている。実際の政策にどのように反映されるかもう少し状況を見る必要があるが、物事を単純に切って捨てるトランプ新大統領の米国と強権的でかつ大国志向の習近平主席の中国は今後角を突き合わせることが多くなるのではないか。
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