平和外交研究所

オピニオン

2016.12.24

(短評)トランプ新政権の対中姿勢

 トランプ新政権の発足前だが、米中関係はどうなるか、かなりはっきりしてきた。
 一つには、日米関係と比較すると分かりやすい。選挙期間中、トランプ氏は米国が貿易面で不利をこうむっていると主張し、日本、中国、メキシコなど諸国との関係を是正したい考えを示した。日本と中国が為替レートの操作をしていると非難したのもその一環だった。
 トランプ氏は、さらに、日本との安保条約についても不満を述べ、米国は日本を防衛することになっているのに、日本が負担している義務は少なすぎるなどと発言したため、一時、新政権は日本より中国との関係を重視し、中国は漁夫の利を得るのではないかという見方も出たこともあった。
 しかし、今やそのような見方は完全になくなっている。大統領選挙からまだ2カ月もたっていないが、米国にとって日本との同盟関係が重要であることはトランプ氏の耳にかなり入ったのだろう。為替については、最近円安になったのは日本が操作したためでなく、米国の金利引き上げが原因であることはだれの目にも明らかだ。もっとも、日本との間では、TPPのように立場が異なる問題もあり、日本として懸念が解消したわけではないが、トランプ氏が直接日本を問題視する発言をすることはなくなっている。

 一方、中国との関係ではこの短い期間に、トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談、トランプ氏の「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」という発言、それに海洋調査している米国の潜水機を中国艦艇が強引に持ち去る事件などが立て続けに発生した。
 台湾との関係および「一つの中国」は中国にとって優先度の高い「核心問題」であり、従来の米政府の方針を逸脱するトランプ氏の言動に中国が強く刺激され、抗議したのは当然であった。
 しかし、トランプ氏は蔡英文総統との電話も、一つの中国に対する発言も許容範囲内だと判断したのだろう。その判断の当否は別として、すくなくともこれらの出来事には新政権の対中姿勢が表れている感じがする。
 中国の艦艇が米国の潜水機を持ち去ったのは、最近のトランプ氏の問題発言を咎め、けん制する気持ちがあったのかもしれないが、米国にとっては著しく挑発的であり、米国の対中認識をいっそう悪化させた。
 
そんななか、米国防次官代行のブライアン・マケオン(Brian McKeon)が新政権の防衛政策に関して記した覚書が話題になっている。このメモは米国にとっての優先課題として過激派組織IS、サイバー攻撃などをあげつつ、長らく米国の安全保障上の最大問題であったロシアに言及していないからである。トランプ氏が選挙期間中何回もプーチン大統領を称賛し、また、国務長官にロシア通でプーチン大統領と親しいティラーソン氏を指名したことは周知であるが、それらに加えこのメモが現れたのだ。

 総じて、トランプ氏の言動には米国とロシアとの関係が改善される兆しがみられる一方、中国との関係では不協和音がすでに出始めている。実際の政策にどのように反映されるかもう少し状況を見る必要があるが、物事を単純に切って捨てるトランプ新大統領の米国と強権的でかつ大国志向の習近平主席の中国は今後角を突き合わせることが多くなるのではないか。
2016.12.13

(短文)中国とイランの関係強化

 イランが最近中国との関係を強化していることは、米国と中国との関係にさらなる影を落とすだろう。米国に本拠がある中国語の『多維新聞』12月8日付はイラン・中国関係について要旨次のように論評している。

○中国とイランの年次外相会議の初会合が12月5日、イランで開催され、中国からは王毅外相が出席した。中国の中東外交強化の一歩である。
○2016年の初頭、習近平国家主席はイランを訪問し、両国は戦略的パートナーシップを結んだ。それ以来中国・イラン関係は飛躍的に発展し、11月14日には、中国の常万全国防相がテヘランで軍事協力協定に署名した。両国は合同軍事演習を行うことになっている。イランのTasnim通信社によれば、イランと中国は防衛協力協定を結ぶ計画もあるそうだ。そうなると両国は準同盟関係になり、イランが第三国から脅威を受けると中国はイランに兵力を派遣できるようになる。
○イランは中国の中東進出にとって戦略的要地であり、中国はイランを通じて中東に対する影響力を増している。
○中国とイランの経済貿易関係は増大しており、中国はイラン原油の最大輸入国であり、イランは中国の農産品の大口輸入国である。
○トランプ次期大統領はイランと6カ国の核合意を一方的に破棄すると言っているが、王毅外相は今次会談後の記者会見で、「イラン核合意が関係国内で生じた情勢の変化に影響されてはならない」と述べたのは、トランプ氏がイラン合意を覆すと言っていることに対する警告だ。
○トランプ氏は、タカ派を重用している。また、米議会は12月1日にイランに対する制裁を10年延長した。トランプ氏がイランの核合意を覆すことはイランと中東に脅威となる。トランプ氏は核合意を子供の遊びのように扱っている。
2016.12.08

(短評)安倍首相の真珠湾訪問

 安倍首相が真珠湾を訪問するのはよいことだと思う。日米関係をさらに前進させ、また、米国内に今も残る日本との戦争の記憶を薄め、わだかまりを解くのに資するからだ。
 しかし、本件については単純に片づけられない面がある。
 第1に、真珠湾訪問の発表は唐突だったと言われているが、準備はその前から進められてきたはずだ。真珠湾攻撃の12月8日(米国時間は7日)より前に発表したいと米側が希望していたことや、安倍首相がペルーでの立ち話で真珠湾を訪問することをオバマ大統領に伝えたこともそれまでに話が進んでいたことを裏付けている。初めてであれば、そのように大事なことを立ち話で伝えることはしない。
 第2に、オバマ大統領の広島訪問の際、日本の首相も真珠湾を訪問するのがよいという意見が一部にあったが、その時は、広島と真珠湾を並べるべきでないと思った。広島は原爆の投下地であり、犠牲になったのは即死およびそれに近い死者だけで14万人であり、その大多数は市民であった。
 一方、真珠湾で犠牲になった人は軍人が主であった。これほど異なる対象を並べてみるのはおかしいと思ったのだ。
しかし、両方とも戦争の犠牲であり、片方は慰霊の対象だが他方はそうでないとするのがはたして適切か。真珠湾攻撃は、米側においてどのような人為的操作があったにせよ、日本の責任であり、かつ、今でも米国人が重視しているかぎり、日本の首相が犠牲者を追悼するのはよいことだと思う。
 第3に、真珠湾を訪問するなら、他の場所、他の国も訪問すべきだという議論がある。その気持ちは分からないではないが、この種のことについては「平等」な扱いにあまり重きを置くべきでない。慰霊訪問の条件が整ったところから実行していくのがよく、その結果一種の不平等が生じてもやむを得ないと思う。
 中国では、安倍首相が真珠湾を訪問するなら南京にも来るべきだという意見が出ているが、それも条件が整えば検討すべきだ。しかし、今の日中関係を見るとそのような条件は、残念ながらなさそうだ。日中関係は日本が悪くしたのではない。日中両方に責任がある。

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