オピニオン
2017.08.01
ホワイトハウスの中枢が問題だ。肝心かなめの首席補佐官は、ラインス・プリーバス氏からジョン・ケリー氏に交替した。広報部長に任命されたばかりのアンソニー・スカラムッチ氏はわずか10日で辞任した。報道官はショーン・スパイサー氏からサラ・ハッカビー・サンダース氏に交替した。
人事の混乱は今に始まったことでなく、政権が発足して以来続いていた。国家安全保障担当の補佐官であったマイケル・フリン氏は1カ月しかもたなかったし、トランプ大統領の厚い信頼を得ていたスティーブン・バノン氏は国家安全保障会議のメンバーから外された。
今後は、セッションズ司法長官の辞任の可能性が取りざたされており、さらには、ティラーソン国務長官も年末まで持つか疑問だとうわさされている。
もっとも、トランプ大統領は議会や地方ではまだかなりの支持を得て持ちこたえているが、日本を含め普通の国の感覚では政権全体が液状化しつつあるように見える。
対外面の状況も非常に厳しくなっている。北朝鮮は米国の足元を見透かしてICBMの発射実験を行ったのではないかと前回のHPでは記したが、ロシアも最近、米国に挑戦的な姿勢を見せるようになっている。
ロシアは、北朝鮮による初めてのICBM実験(7月4日)後、安保理で米国作成の決議案に反対したのに引き続き、28日の第2回発射実験については、実験自体は批判しつつ、米国は北朝鮮の核・ミサイル開発の責任を「ロシアと中国に押しつけようとしている」と反発した。さらに、ロシアは日米韓に矛先を向け、これら3国は「軍事的な活動を強めている」と非難し、また、韓国へのTHAADの配備についても反対を繰り返した(31日)。
時間的には前後するが、ロシアのプーチン大統領は30日、米国の外交官ら755人を追放する方針を明らかにした。米議会で可決されたロシアへの制裁強化法案にトランプ大統領が署名すると発表したことへの報復だと言われているが、オバマ政権以来の経緯も見ておく必要がある。
オバマ前大統領が米大統領選への介入を理由に制裁としてロシア外交官35人を国外退去処分とし、米国内2カ所のロシア関連施設の使用禁止を決めたのは昨年12月であった。
トランプ大統領はロシアとの関係を改善する強い意欲を見せていたが、実際にはなかなか前進できなかった。7月初めのG20の際、プーチン氏はトランプ米大統領と2回にわたる異例の長時間会談を行った。この時、プーチン氏はこれらの措置の撤回を求めたが受け入れられなかったという。
そして、米国がロシアに対する制裁を強化したことが引き金となって、ロシアは強く反撃することを決めたのであるが、その背景には、トランプ政権が非常に不安定な状況に陥っていることへの考慮も働いていたのではないか。
北朝鮮によるICBMの発射実験は米中関係にも暗い影を落とした。トランプ大統領は29日、得意のツイッターで「中国に非常に失望」「中国は北朝鮮について口だけで、我々のために何もしていない」などと発信した。これまでトランプ大統領は北朝鮮問題に関する中国の姿勢を積極的に評価しつつ、さらなる圧力の強化を求めてきた。しかし、第2回目のICBM実験により、それまでの建設的な姿勢はぷっつりと切れ、正面から中国批判を始めたのだ。
中国はこれに対し31日、「中国が原因となって北朝鮮の核問題が生じているのではない。関係各国はこの点に関し正しく理解する必要がある。国際社会は解決に向けた中国の取り組みを広く認識している」などと反論した(ロイター7月31日)。米国の強い批判にくらべ穏健な反応である。推測にすぎないが、中国としてもトランプ政権の足元を見つつ、売り言葉に買い言葉でなく冷静に対応する方が中国に有利に働くと判断しているのではないかと思われる。
混迷を深めるトランプ政権
「混迷するトランプ政権」と題する一文を本HPにアップしたのは7月29日であったが、それから1週間もたたない間に事態はさらに悪化した。ホワイトハウスの中枢が問題だ。肝心かなめの首席補佐官は、ラインス・プリーバス氏からジョン・ケリー氏に交替した。広報部長に任命されたばかりのアンソニー・スカラムッチ氏はわずか10日で辞任した。報道官はショーン・スパイサー氏からサラ・ハッカビー・サンダース氏に交替した。
人事の混乱は今に始まったことでなく、政権が発足して以来続いていた。国家安全保障担当の補佐官であったマイケル・フリン氏は1カ月しかもたなかったし、トランプ大統領の厚い信頼を得ていたスティーブン・バノン氏は国家安全保障会議のメンバーから外された。
今後は、セッションズ司法長官の辞任の可能性が取りざたされており、さらには、ティラーソン国務長官も年末まで持つか疑問だとうわさされている。
もっとも、トランプ大統領は議会や地方ではまだかなりの支持を得て持ちこたえているが、日本を含め普通の国の感覚では政権全体が液状化しつつあるように見える。
対外面の状況も非常に厳しくなっている。北朝鮮は米国の足元を見透かしてICBMの発射実験を行ったのではないかと前回のHPでは記したが、ロシアも最近、米国に挑戦的な姿勢を見せるようになっている。
ロシアは、北朝鮮による初めてのICBM実験(7月4日)後、安保理で米国作成の決議案に反対したのに引き続き、28日の第2回発射実験については、実験自体は批判しつつ、米国は北朝鮮の核・ミサイル開発の責任を「ロシアと中国に押しつけようとしている」と反発した。さらに、ロシアは日米韓に矛先を向け、これら3国は「軍事的な活動を強めている」と非難し、また、韓国へのTHAADの配備についても反対を繰り返した(31日)。
時間的には前後するが、ロシアのプーチン大統領は30日、米国の外交官ら755人を追放する方針を明らかにした。米議会で可決されたロシアへの制裁強化法案にトランプ大統領が署名すると発表したことへの報復だと言われているが、オバマ政権以来の経緯も見ておく必要がある。
オバマ前大統領が米大統領選への介入を理由に制裁としてロシア外交官35人を国外退去処分とし、米国内2カ所のロシア関連施設の使用禁止を決めたのは昨年12月であった。
トランプ大統領はロシアとの関係を改善する強い意欲を見せていたが、実際にはなかなか前進できなかった。7月初めのG20の際、プーチン氏はトランプ米大統領と2回にわたる異例の長時間会談を行った。この時、プーチン氏はこれらの措置の撤回を求めたが受け入れられなかったという。
そして、米国がロシアに対する制裁を強化したことが引き金となって、ロシアは強く反撃することを決めたのであるが、その背景には、トランプ政権が非常に不安定な状況に陥っていることへの考慮も働いていたのではないか。
北朝鮮によるICBMの発射実験は米中関係にも暗い影を落とした。トランプ大統領は29日、得意のツイッターで「中国に非常に失望」「中国は北朝鮮について口だけで、我々のために何もしていない」などと発信した。これまでトランプ大統領は北朝鮮問題に関する中国の姿勢を積極的に評価しつつ、さらなる圧力の強化を求めてきた。しかし、第2回目のICBM実験により、それまでの建設的な姿勢はぷっつりと切れ、正面から中国批判を始めたのだ。
中国はこれに対し31日、「中国が原因となって北朝鮮の核問題が生じているのではない。関係各国はこの点に関し正しく理解する必要がある。国際社会は解決に向けた中国の取り組みを広く認識している」などと反論した(ロイター7月31日)。米国の強い批判にくらべ穏健な反応である。推測にすぎないが、中国としてもトランプ政権の足元を見つつ、売り言葉に買い言葉でなく冷静に対応する方が中国に有利に働くと判断しているのではないかと思われる。
2017.07.21
中国共産党の序列から見れば孫政才よりハイレベルの人物が汚職を理由に逮捕・訴追されている。たとえば、周永康は元政治局常務委員、つまりトップ9の一人であった。孫政才は平の政治局員、つまりトップ25の一人に過ぎない。
しかし、孫政才はバリバリの現役であり、2022年に習近平主席が退任(その前に今秋開かれる共産党第19回全国代表大会で再任されることが前提であるが、それはほぼ確実視されている)した後に中国共産党のナンバー1か2に昇格する可能性が高いと目されていた。いわゆる「第6世代」のホープだったのだ。
孫政才は北京で開かれた金融工作会議に出席している間に突然拉致されたという。同人は、党中央が拉致の準備をしていたことを知らずに重慶市の書記としてふるまっていたのだ。
中国でも法を犯せば、訴追され、裁判にかけられる。一定の手続きがあるが、政治性の強い場合、逮捕されればまず間違いなく有罪となる。おそらく今回もそうなるだろう。裁判が行われても、それは形式的なことに過ぎない。
おなぜこのように強引な措置が取られるのか。党中央が特定の指導者について排除すると判断せざるをえなかった例は中国共産党の歴史上いくらもあり、決して珍しいことでない。その場合、共産党体制を不安定化させないよう必要な措置が取られる。これは組織防衛の観点からはある意味、当然なのであろう。孫政才のような現役の重要人物の場合は排除の影響がそれだけ大きくなるので、当局としては周到な準備をしたうえで一気呵成に案件の処理を行おうとした。今回、同人の解任と同時に新書記、陳敏爾の就任を発表したのもその一環であり、今回の措置が最終的なものであることを示す狙いがあったと思われる。
劉暁波の場合も孫政才と共通する面がある。当局は劉暁波が共産党体制を不安定化させる危険があると判断したから投獄したのであり、また、死亡後、一気呵成に遺骨の処理まで進めてしまおうとしたのも、民主化を求める運動に利用されたくないからであった。
共産党政権は、必要であれば人権の制約も辞さない。とくに習近平主席は国家の安全、すなわち共産党体制の安定を重視し、そのため、言論の統制、反腐敗運動、国家安全関連法の整備など各種の統制措置を最大限強化してきた。孫悟空の緊箍児よろしく、暴れだして共産党体制に危険が及びそうになると締め付けておとなしくさせるわけである。この習近平体制は有効に機能しており、5年に1回の中国共産党全国代表大会は、予定通り今秋に開催されそうだ。
しかし、このような手法が中国のためになるのか。孫政才の場合も劉暁波の場合も反対意見はあまり出ていないように見える。しかし、それは、習近平政権がパワーで反対意見を封じ込んでいるからだ。
習近平政権は力づくで押さえつけるだけでなく、経済成長にも成功し、それによって人民の不満は緩和されている。膨大な数の中国人が豊かな生活を謳歌しているのは事実である。
しかし、大多数の人は心の底ではおびえているのではないか。孫政才と劉暁波に対する当局の対応は、共産党体制の闇の深さをあらためてうかがわせる機会になった。
孫政才重慶市書記の解任
7月15日、中国共産党は重慶市(北京、上海とならぶ直轄市)のナンバーワン、孫政才書記の解任を発表した。中国共産党の序列から見れば孫政才よりハイレベルの人物が汚職を理由に逮捕・訴追されている。たとえば、周永康は元政治局常務委員、つまりトップ9の一人であった。孫政才は平の政治局員、つまりトップ25の一人に過ぎない。
しかし、孫政才はバリバリの現役であり、2022年に習近平主席が退任(その前に今秋開かれる共産党第19回全国代表大会で再任されることが前提であるが、それはほぼ確実視されている)した後に中国共産党のナンバー1か2に昇格する可能性が高いと目されていた。いわゆる「第6世代」のホープだったのだ。
孫政才は北京で開かれた金融工作会議に出席している間に突然拉致されたという。同人は、党中央が拉致の準備をしていたことを知らずに重慶市の書記としてふるまっていたのだ。
中国でも法を犯せば、訴追され、裁判にかけられる。一定の手続きがあるが、政治性の強い場合、逮捕されればまず間違いなく有罪となる。おそらく今回もそうなるだろう。裁判が行われても、それは形式的なことに過ぎない。
おなぜこのように強引な措置が取られるのか。党中央が特定の指導者について排除すると判断せざるをえなかった例は中国共産党の歴史上いくらもあり、決して珍しいことでない。その場合、共産党体制を不安定化させないよう必要な措置が取られる。これは組織防衛の観点からはある意味、当然なのであろう。孫政才のような現役の重要人物の場合は排除の影響がそれだけ大きくなるので、当局としては周到な準備をしたうえで一気呵成に案件の処理を行おうとした。今回、同人の解任と同時に新書記、陳敏爾の就任を発表したのもその一環であり、今回の措置が最終的なものであることを示す狙いがあったと思われる。
劉暁波の場合も孫政才と共通する面がある。当局は劉暁波が共産党体制を不安定化させる危険があると判断したから投獄したのであり、また、死亡後、一気呵成に遺骨の処理まで進めてしまおうとしたのも、民主化を求める運動に利用されたくないからであった。
共産党政権は、必要であれば人権の制約も辞さない。とくに習近平主席は国家の安全、すなわち共産党体制の安定を重視し、そのため、言論の統制、反腐敗運動、国家安全関連法の整備など各種の統制措置を最大限強化してきた。孫悟空の緊箍児よろしく、暴れだして共産党体制に危険が及びそうになると締め付けておとなしくさせるわけである。この習近平体制は有効に機能しており、5年に1回の中国共産党全国代表大会は、予定通り今秋に開催されそうだ。
しかし、このような手法が中国のためになるのか。孫政才の場合も劉暁波の場合も反対意見はあまり出ていないように見える。しかし、それは、習近平政権がパワーで反対意見を封じ込んでいるからだ。
習近平政権は力づくで押さえつけるだけでなく、経済成長にも成功し、それによって人民の不満は緩和されている。膨大な数の中国人が豊かな生活を謳歌しているのは事実である。
しかし、大多数の人は心の底ではおびえているのではないか。孫政才と劉暁波に対する当局の対応は、共産党体制の闇の深さをあらためてうかがわせる機会になった。
2017.07.14
当時と比べ、現在の言論統制ははるかに厳しくなっている。
同憲章は、一言で言えば、中国共産党の一党独裁を終わらせ、三権分立の民主的な国家建設を目指すものである。以下に、同宣言の要約を掲げておく。
(現状認識-憲章の前文の一部)
「中国政府は1997年、1998年の2回にわたって重要な国際人権宣言に署名し、全国人民代表会議で2004年、「人権を尊重し、保障する」という文言を憲法に加える改憲が承認され、今年更に「国家人権行動計画」を制定・推進することが承認された。しかし、これらの政治的な進歩も今のところ大部分は文字上だけのものにとどまっている。法律あって法治無く、憲法あって憲政無く、というのが誰の目にもはっきりとした政治の現実である。為政者集団はなお権威主義的な統治を堅持・継続し、政治変革を拒んでいる。官界は腐敗し、法治が妨げられ、人権が軽視され、道徳が失われ、社会が両極に分化し、経済は奇形的に発展し、自然環境と文化環境が著しく破壊され、公民の自由・財産と幸福を追求する権利が制度化された保障を得られず、各種の社会矛盾が絶えることなく積み重なり、不満が膨らみ続け、特に官民の対立と群衆事件が激増し、破滅的な制御不能の趨勢に陥っている。現行体制の立ち遅れぶりはもはや改めないでは済まない段階に至っている。」
(基本理念―憲章の第二の要点)
自由、人権、平等、共和、民主および憲政を実現する。
共和とは、「みなで共に治め、平和に共生する」ということであり、分権によるパワーバランス、利益のバランスということであり、多様な利益・コスト、異なる社会集団、多元な文化と信仰の追求の集まりである。
民主とは、(1)政権の合法性は人民に由来し、政治権力は人民を源とする。(2)政治・統治は人民の選択を経て行われる。(3)公民は正真正銘の選挙権を有し、各級政府・自治体の主要な官員は定期的な選挙戦を通じて生み出されなければならない。(4)多数派の決定を尊重し、同時に少数派の基本的人権を保護する。などが含まれる。
憲政とは、憲法のもとで法律に従った政治を行うこと。
(具体的主張―憲章の第三から抜粋)
1. 憲法改正:自由、人権、平等、共和、民主、憲政の価値理念に基づいて憲法を改正し、現行憲法にある主権在民の原則と合致しない条文を削除する。
2. 分権とチェック・アンド・バランス:分権とチェック・アンド・バランスの現代的政府を樹立し、立法・司法・行政の三権分立を保障する。法に基づく行政と責任ある政府の原則を確立し、行政権力の過度な膨張を防止する。政府は納税者に対し責任を負う。中央と地方との間に分権とチェック・アンド・バランスの制度を打ち立て、中央は憲法による明確な制限の下で権力を与えられ、地方は存分に自治を実行する。
3. 民主的な立法:各級立法機関は直接選挙によって選出され、公平・正義の原則に則り、民主的な立法を実行する。
4. 司法の独立:司法にはいかなる干渉も禁止される。司法の独立と公正を確保する。憲法裁判所を設け、違憲審査制度を打ち立てる。国家の法治を損なう共産党の政法委員会を早期に廃止し、公共機関の私物化を禁止する。
5. 公共機関の公共性:軍隊の国家化(注 中国の人民解放軍は伝統的に「共産党の軍」として位置付けられている)を実現し、軍人は憲法と国家に忠誠を尽くさなければならない。共産党組織は軍隊から退かなければならない。軍隊の職業化をレベルアップしなければならない。警察も含め、全ての公務員は政治的中立を維持しなければならない。公務員は党派の別なく平等に採用しなければならない。
6. 人権の保障:人権委員会を設立し、政府による公権濫用・人権侵犯を防止し、とりわけ公民の人身の自由を保障する。いかなる人も不法な逮捕、拘禁、召喚、審問、処罰を受けない。「労働教養制度(注 裁判などの手続きを経ることなく最長4年まで拘禁可能な制度)」を廃止する。
7. 公職選挙:民主的な選挙制度を全面的に推し進め、一人一票の平等な選挙権を確立させる。各級行政首長の直接選挙を制度化して一歩一歩推し進める。
8. 都市部と農村部の平等:現行の都市部・農村部の二元戸籍制度を廃止し、公民が一律に平等な制度を確立する。公民の自由移動の権利を保障する。
9. 結社の自由:公民の結社の自由を保障し、現行の社団登記の審査・許可制を届出制に改める。結党の禁止を解除し、憲法と法律によって政党行為の規範を定め、一党による事実上の独裁を解消し、政党活動の自由と公平な競争の原則を確立し、政党政治の正常化と法制化を実現する。
10. 集会の自由:平和的な集会、行進、デモ及び自由の表現は、憲法が規定する公民の基本的自由であり、政権政党や政府から不法な干渉や違憲の制限を受けてはならない。
11. 言論の自由:言論の自由・出版の自由・学問の自由を確立し、公民の情報を知る権利と監督権を保障する。「新聞法」と「出版法」を制定し、報道に対する制限を解除する。現行「刑法」中の”国家政権転覆扇動罪”の条文を削除する。言論を理由に罪を科してはならない。
12. 宗教の自由:宗教の自由と信仰の自由を保障し、政教分離を実行する。宗教・信仰の活動に政府は介入してはならない。宗教の自由を制限若しくは剥奪する行政法規、行政定款、地方条例を審査並びに撤廃する。行政立法によって宗教活動を管理することを禁止する。宗教団体(宗教活動の場を含む)が登記を経て初めて合法的な地位を獲得する従前の許可制度を廃止し、いかなる審査も伴わない届出制に代える。
13. 公民教育:一党独裁に奉仕させる政治教育及び政治試験を廃止し、普遍的価値と公民の権利を基本とする公民教育を推進し、公民意識を確立させ、社会に奉仕する公民の美徳を唱道する。
14. 財産の保護:私有財産の権利を確立・保護し、自由で開放された市場経済制度を実行し、創業の自由を保障し、行政による独占を解消する。国有資産管理委員会を設立し、財産権改革を合法的に順序だてて展開し、財産権の帰属先と責任者を明確にする。新土地運動を展開し、土地の私有化を推進し、公民、とりわけ農民の土地所有権を保護する。
15. 財政・税制改革:民主的な財政を確立し、納税者の権利を保障する。権利と責任が明確な公共財政制度を打ち立て、各級政府・自治体に合理的で有効な財産分権体系を打ち立てる。税率の低減、税制の簡素化、公平な税負担のため租税制度の大改革を行う。行政部門は民意の同意を経ずに随意に課税してはならない。財産権改革を通じて、多元的な市場と競争メカニズムを導入する。金融への参入のハードルを下げ、民間金融の発展のために必要な条件を創造し、金融体系を活性化する。
16. 社会保障:国民全体をカバーする社会保障制度を打ち立て、教育・医療・養老及び就業等において国民に最も基本的な保障を与える。
17. 環境保護:生態環境を保護し、持続可能な発展を提唱する。このため国家及び各級機関の責任を明確化する。民間団体が環境保護に参加・監督することを奨励する。
18. 連邦共和制:香港・マカオの自由制度を維持する。台湾については、自由・民主の前提の下で、平等な立場での交渉と協力的な対話により海峡両岸の和解計画を追求する。各民族の共同繁栄の道筋と制度設計を模索し、民主・憲政のシステムの下、中華連邦共和国を樹立する。
19. 正義の転換:政治運動において迫害を受けた人及びその家族に対し、名誉を回復し、国家賠償を行う。全ての政治犯、「良心の囚人(中国語では良心犯。英语ではPrisoner of conscience, POC。思想上の理由でとらわれた人)」、信仰を理由に罪を着せられた人を釈放する。真相調査委員会を設立し、歴代の事件の真相を明らかにし、責任を整理し、正義を実現し、社会の和解を追求する。
(結びー憲章の「結び」から抜粋)
政治の民主化はこれ以上先延ばしできない。このため、我々は勇敢なる実践という公民精神に基づき、「08憲章」を公布する。我々は、同様の危機感・責任感・使命感を抱いている全ての中国公民が、政府と民間の区別なく、身分を問わず、小異を残して大同に就き、積極的に公民運動に参与して、中国社会の偉大な変革を共に推し進め、一日も早く自由・民主・憲政の国家を打ち立て、国民が100余年の間粘り強く抱き続けてきた夢を実現することを希望する。
劉暁波の死亡と「08憲章」
ノーベル平和賞を受賞した中国の著作家、劉暁波は収監中に病を患い治療を受けていたが、7月13日、死亡した。劉氏は、世界人権宣言60周年の機に、2008年12月10日付でインターネット上でいわゆる「08憲章」を発表した代表者であり、またそのことが原因で投獄された。当時と比べ、現在の言論統制ははるかに厳しくなっている。
同憲章は、一言で言えば、中国共産党の一党独裁を終わらせ、三権分立の民主的な国家建設を目指すものである。以下に、同宣言の要約を掲げておく。
(現状認識-憲章の前文の一部)
「中国政府は1997年、1998年の2回にわたって重要な国際人権宣言に署名し、全国人民代表会議で2004年、「人権を尊重し、保障する」という文言を憲法に加える改憲が承認され、今年更に「国家人権行動計画」を制定・推進することが承認された。しかし、これらの政治的な進歩も今のところ大部分は文字上だけのものにとどまっている。法律あって法治無く、憲法あって憲政無く、というのが誰の目にもはっきりとした政治の現実である。為政者集団はなお権威主義的な統治を堅持・継続し、政治変革を拒んでいる。官界は腐敗し、法治が妨げられ、人権が軽視され、道徳が失われ、社会が両極に分化し、経済は奇形的に発展し、自然環境と文化環境が著しく破壊され、公民の自由・財産と幸福を追求する権利が制度化された保障を得られず、各種の社会矛盾が絶えることなく積み重なり、不満が膨らみ続け、特に官民の対立と群衆事件が激増し、破滅的な制御不能の趨勢に陥っている。現行体制の立ち遅れぶりはもはや改めないでは済まない段階に至っている。」
(基本理念―憲章の第二の要点)
自由、人権、平等、共和、民主および憲政を実現する。
共和とは、「みなで共に治め、平和に共生する」ということであり、分権によるパワーバランス、利益のバランスということであり、多様な利益・コスト、異なる社会集団、多元な文化と信仰の追求の集まりである。
民主とは、(1)政権の合法性は人民に由来し、政治権力は人民を源とする。(2)政治・統治は人民の選択を経て行われる。(3)公民は正真正銘の選挙権を有し、各級政府・自治体の主要な官員は定期的な選挙戦を通じて生み出されなければならない。(4)多数派の決定を尊重し、同時に少数派の基本的人権を保護する。などが含まれる。
憲政とは、憲法のもとで法律に従った政治を行うこと。
(具体的主張―憲章の第三から抜粋)
1. 憲法改正:自由、人権、平等、共和、民主、憲政の価値理念に基づいて憲法を改正し、現行憲法にある主権在民の原則と合致しない条文を削除する。
2. 分権とチェック・アンド・バランス:分権とチェック・アンド・バランスの現代的政府を樹立し、立法・司法・行政の三権分立を保障する。法に基づく行政と責任ある政府の原則を確立し、行政権力の過度な膨張を防止する。政府は納税者に対し責任を負う。中央と地方との間に分権とチェック・アンド・バランスの制度を打ち立て、中央は憲法による明確な制限の下で権力を与えられ、地方は存分に自治を実行する。
3. 民主的な立法:各級立法機関は直接選挙によって選出され、公平・正義の原則に則り、民主的な立法を実行する。
4. 司法の独立:司法にはいかなる干渉も禁止される。司法の独立と公正を確保する。憲法裁判所を設け、違憲審査制度を打ち立てる。国家の法治を損なう共産党の政法委員会を早期に廃止し、公共機関の私物化を禁止する。
5. 公共機関の公共性:軍隊の国家化(注 中国の人民解放軍は伝統的に「共産党の軍」として位置付けられている)を実現し、軍人は憲法と国家に忠誠を尽くさなければならない。共産党組織は軍隊から退かなければならない。軍隊の職業化をレベルアップしなければならない。警察も含め、全ての公務員は政治的中立を維持しなければならない。公務員は党派の別なく平等に採用しなければならない。
6. 人権の保障:人権委員会を設立し、政府による公権濫用・人権侵犯を防止し、とりわけ公民の人身の自由を保障する。いかなる人も不法な逮捕、拘禁、召喚、審問、処罰を受けない。「労働教養制度(注 裁判などの手続きを経ることなく最長4年まで拘禁可能な制度)」を廃止する。
7. 公職選挙:民主的な選挙制度を全面的に推し進め、一人一票の平等な選挙権を確立させる。各級行政首長の直接選挙を制度化して一歩一歩推し進める。
8. 都市部と農村部の平等:現行の都市部・農村部の二元戸籍制度を廃止し、公民が一律に平等な制度を確立する。公民の自由移動の権利を保障する。
9. 結社の自由:公民の結社の自由を保障し、現行の社団登記の審査・許可制を届出制に改める。結党の禁止を解除し、憲法と法律によって政党行為の規範を定め、一党による事実上の独裁を解消し、政党活動の自由と公平な競争の原則を確立し、政党政治の正常化と法制化を実現する。
10. 集会の自由:平和的な集会、行進、デモ及び自由の表現は、憲法が規定する公民の基本的自由であり、政権政党や政府から不法な干渉や違憲の制限を受けてはならない。
11. 言論の自由:言論の自由・出版の自由・学問の自由を確立し、公民の情報を知る権利と監督権を保障する。「新聞法」と「出版法」を制定し、報道に対する制限を解除する。現行「刑法」中の”国家政権転覆扇動罪”の条文を削除する。言論を理由に罪を科してはならない。
12. 宗教の自由:宗教の自由と信仰の自由を保障し、政教分離を実行する。宗教・信仰の活動に政府は介入してはならない。宗教の自由を制限若しくは剥奪する行政法規、行政定款、地方条例を審査並びに撤廃する。行政立法によって宗教活動を管理することを禁止する。宗教団体(宗教活動の場を含む)が登記を経て初めて合法的な地位を獲得する従前の許可制度を廃止し、いかなる審査も伴わない届出制に代える。
13. 公民教育:一党独裁に奉仕させる政治教育及び政治試験を廃止し、普遍的価値と公民の権利を基本とする公民教育を推進し、公民意識を確立させ、社会に奉仕する公民の美徳を唱道する。
14. 財産の保護:私有財産の権利を確立・保護し、自由で開放された市場経済制度を実行し、創業の自由を保障し、行政による独占を解消する。国有資産管理委員会を設立し、財産権改革を合法的に順序だてて展開し、財産権の帰属先と責任者を明確にする。新土地運動を展開し、土地の私有化を推進し、公民、とりわけ農民の土地所有権を保護する。
15. 財政・税制改革:民主的な財政を確立し、納税者の権利を保障する。権利と責任が明確な公共財政制度を打ち立て、各級政府・自治体に合理的で有効な財産分権体系を打ち立てる。税率の低減、税制の簡素化、公平な税負担のため租税制度の大改革を行う。行政部門は民意の同意を経ずに随意に課税してはならない。財産権改革を通じて、多元的な市場と競争メカニズムを導入する。金融への参入のハードルを下げ、民間金融の発展のために必要な条件を創造し、金融体系を活性化する。
16. 社会保障:国民全体をカバーする社会保障制度を打ち立て、教育・医療・養老及び就業等において国民に最も基本的な保障を与える。
17. 環境保護:生態環境を保護し、持続可能な発展を提唱する。このため国家及び各級機関の責任を明確化する。民間団体が環境保護に参加・監督することを奨励する。
18. 連邦共和制:香港・マカオの自由制度を維持する。台湾については、自由・民主の前提の下で、平等な立場での交渉と協力的な対話により海峡両岸の和解計画を追求する。各民族の共同繁栄の道筋と制度設計を模索し、民主・憲政のシステムの下、中華連邦共和国を樹立する。
19. 正義の転換:政治運動において迫害を受けた人及びその家族に対し、名誉を回復し、国家賠償を行う。全ての政治犯、「良心の囚人(中国語では良心犯。英语ではPrisoner of conscience, POC。思想上の理由でとらわれた人)」、信仰を理由に罪を着せられた人を釈放する。真相調査委員会を設立し、歴代の事件の真相を明らかにし、責任を整理し、正義を実現し、社会の和解を追求する。
(結びー憲章の「結び」から抜粋)
政治の民主化はこれ以上先延ばしできない。このため、我々は勇敢なる実践という公民精神に基づき、「08憲章」を公布する。我々は、同様の危機感・責任感・使命感を抱いている全ての中国公民が、政府と民間の区別なく、身分を問わず、小異を残して大同に就き、積極的に公民運動に参与して、中国社会の偉大な変革を共に推し進め、一日も早く自由・民主・憲政の国家を打ち立て、国民が100余年の間粘り強く抱き続けてきた夢を実現することを希望する。
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