平和外交研究所

中国

2014.08.27

イスラム国での中国の評判

約2ヵ月前のブログで、「最近、イスラム教徒の間には中国が敵だという声が強くなっているという指摘もある」と書いたが、この文章は遠慮し過ぎであった。香港の『鳳凰週刊』は8月9日、「ISIS、数年後に新疆ウイグルの占領を計画、中国を『復讐ランキング』首位に」と題した記事を掲載し、それを12日の新華社日本語版が転載している。
ISISは言わずと知れた「イスラム国」であり、イラク政府はもちろん米国にとっても頭の痛い問題となっている。英国出身の戦士が米国人記者を処刑し、その模様をインターネットに流すというおぞましい行為が行なわれているのもイスラム国である。
鳳凰テレビは日本ではフェニックス・テレビとして知られている。香港を拠点としているが、海外で中国の代弁をしっかりやっている。先日中国機が米軍機に異常接近したので米国防省の記者会見で米側が中国機による危険行為を指摘すると、同テレビの記者は逆に、米国は中国に対してスパイ行為をしているではないかと食って掛かったことがあった。前置きが長くなったが、『鳳凰週刊』はつぎのように記している。

「史上初のイスラム国家のテロ組織ではないものの、アフガンにイスラム国を実現させるというタリバンの目標に対し、ISISの目標はもっと壮大で、カリフの伝統を主張している。イスラム世界の歴史において、カリフはムハンマド・イブン=アブドゥッラーフの継承者。全世界のムスリムで首領として崇められている。
ISISは数年後に西アジア、北アフリカ、スペイン、中央アジア、インドから中国・新疆ウイグル自治区までを占領する計画を立てている。「中国、インド、パキスタン、ソマリア、アラビア半島、コーカサス、モロッコ、エジプト、イラク、インドネシア、アフガン、フィリピン、シーア派イラク、パキスタン、チュニジア、リビア、アルジェリア。東洋でも西洋でもムスリムの権利が強制的に剥奪されている。中央アフリカとミャンマーの苦難は氷山の一角。われわれは復讐しなければならない!」と表明、その筆頭に中国を挙げている。
バグダッドでの声明では何度も中国と新疆ウイグル自治区に言及し、中国政府の新疆政策を非難。中国のムスリムに対し、全世界のムスリムのように自分たちに忠誠を尽くすよう呼び掛けている。」

イスラム国は米軍の爆撃に激しく反発しているが、これを見ると、米国だけが突出してイスラム国の敵になっているのではなさそうである。

2014.08.26

習近平主席のモンゴル訪問

習近平主席が8月21~22日、中国の元首として11年ぶりにモンゴルを訪問した。数カ国の歴訪でなく、1カ国だけの訪問は韓国に次いで2番目だそうだ。どれほど意味があるか分からないが、中国の新聞ではそのように報道されている。習近平主席は訪問中エルベグドルジ大統領から公私にわたって歓待を受け、また「両国間で全面的戦略パートナーシップ関係を構築・発展させる共同宣言」に署名するなど中蒙間の友好増進がプレーアップされている。中国側が熱意を示すのは少数民族対策との関連もありそうである。

8月24日付の『多維新聞』(米国に本拠地があり、中国の国内新聞とはちがって政府の管理下にない)は次のようなコメントをしている。
「中国政府は、両国間の関係が全面的戦略パートナーシップに格上げされることになったことを強調しているが、善隣友好協力とか中国のインフラを利用すればよいというのは中国側から持ちかけたことであり、モンゴルは中国側の過剰な熱意に警戒している。」
「ボイス・オブ・ロシアによれば、2002年から2013年に両国間の貿易は3・24億ドルから60億ドル強に増加し、今や中国はモンゴルの対外貿易の51%を占めている。エルベグドルジ大統領は習近平主席の来訪の前に、モンゴルの安全の観点から一つの国がモンゴルの対外貿易に占める割合は3分の1を超えるべきでないと言っていた。北京もそのようなモンゴル側の懸念は知っていただろうが、それが新しい矛盾にはならないと思っていたのかもしれない。」
「モンゴル人の中国に対する警戒心は歴史的に形成されてきた。(中略)中国政府に近い学者のなかには、相対的なモンゴル歴史観を持つ者がいる。300年に近い元の支配の間に中華民族との一体化が進み、モンゴルは大中国の領域の端で繁栄・発展してきたとさえ言う者がいる。中蒙間の認識の違いは両国の指導者間の信頼関係を阻害したが、双方が経済面で協力するのを妨げなかった。時には石炭に関するトラブルのような問題が起きたことはあった。それは、2013年、モンゴルが中国铝业公司(中国アルミニウム)に対して返済を拒否し、それに対抗して中国側は石炭を購入しないとしたことである。」
「モンゴル訪問の前より、習近平主席は経済関係でモンゴルをひきつけることは非現実的であることを認識しており、そのため今後の両国間では政治的安定を図ることが重要と考え、エルベグドルジ大統領に対し、中国としては第1に政治的安定のためモンゴルと協力したく、第2に実務関係を進展させたいと述べたことにそのような姿勢が現れていたとする見方もある。」

2014.08.23

巨大な中国の人口

○中国人の海外旅行者数は2013年がのべ9819万人、2014年はかなり増加しており、1億1500万人を突破すると中国国家旅游局の邵琪偉局長が語った。米国への旅行者は2008年の256万人から急速に伸びており、2013年は405万人に増えた。ただし米国の統計ではもっと少なく、2013年の中国人の訪米は180万人強であるが、増加傾向は変わらない。米国商務部では、2017年には訪米する外国人旅行者の中で中国人が最も多くなると予測している(新華網2014年6月30日)。
日本人の海外旅行者数は2013年が1750万人だったので、単純に比較すると中国人の海外旅行者数の5・6分の1である。

○2014年5月27日、ロスアンジェルスで7千人の中国人旅行者が一緒に写真撮影し、国歌と「昇起五星紅旗」を合唱した。旅行中の数字であったが、1人平均1万元を消費していた。これは普通の旅行客の4倍であった(新華網5月29日)。
多数の観光客が来て、おおらかにカネを落としていくのは米国にとって歓迎すべきことであろうが、7千人が集まって中国の国家を歌うのを米国人はどのように受け止めただろうか。反発したり、眉をひそめる人が多数いても不思議でない。
新華社はどのような気持でこれを報道したのかも気になる。

○観光客とは比べ物にならない小さい数であるが、中国人妊婦が米国で出産することも注目されている。これは全体の数はまだ小さいとしても、特定の場所で集中的に起こっており、現地では目につくのはもちろんである。時々報道もされている。これは新華社でなく、日本などのメディアである。なぜ旅費などを払ってそうするか。一つは米国籍の取得であり、また、米国では医療水準が高く安心して出産できるからであると言われている。
この問題は危険水域に入りかけているようである。2013年に米国で出産する中国人妊婦は2万人に達すると人民日報系の経済紙『国際金融報』が書いている(『朝日新聞』8月23日)。地元住民は、妊婦のためのホテルに反対する運動を起こしており、「福祉へのただ乗り」とも言っている。

○米国は裕福な中国人が米国で投資をして移民することを可能にする道を開いている。1990年に時限立法で制定された投資移民制度であり、100万ドル(約1億円)、失業率の高い地域では50万ドルを投資し、米国人10人を雇うなどの条件を満たせば、投資家にビザが、ゆくゆくは永住権が与えられる。2015年まで延長され、恒久化されるとの観測もある。外国人投資家を受け入れるために受け皿として「地域センター」が全米で300以上つくられている。オークランドでは設立から約2年半で2700万ドル(約27億円)の投資を集めた。99%が中国からだという(これも上記『朝日新聞』)。
このような投資をするのは子弟の教育が目的であると答える人が多い。教育の関係では、ハーバード大学など一流大学でも中国人留学生が顕著に増えており、彼らが集まる時はこれが米国かと思われるような雰囲気になるそうだ。「ハーバード大学はまるで中国共産党幹部を養成するための分校になっている」と言われることもある。

このような出来事にはいくつか注目すべき点がある。
○個別のケースを見ると、中国人が米国で出産することであれ、米国で国家を歌うことであれ何も非難されることはないが、あまりにも数が多く、また特定の場所に集中して起こるので摩擦や反発が生じている。
○中国の人口があまりにも多いことが根本的な問題であり、世界がグローバル化し、行き来が自由になったので問題が起こりやすくなっている。
○中国が目覚ましい経済発展をし、その結果裕福な中国人が多くなった。いわゆる富も権力も得ている中国人は1%くらいと比率は少ないが、絶対数は1千万人以上である。海外へ旅行に行ける人の数はその何倍にも上るのであろう。
○人口だけであれば、インドも超大国であるが、中国は共産党の一党独裁体制の下にあり、それに対する幻滅感、不信感が海外への逃避傾向の一因となっている。
○中国の規模、とくに人口が大きいことの意味を米国人もよく認識していないのではないか。
○各国も中国も、このような中国の巨大さの持つ意味をよく認識し、お互いにコントロールしつつ中国人と各国の人たちとの交流を漸進的に増やしていくのが健全な道ではないか。

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