平和外交研究所

中国

2014.08.10

鄧小平生誕110周年と左右の争い

凌志军の著書『变化1990——2002年中国实录』を『多維新聞』(8月8日付)がその歴史欄で取り上げ、冒頭次のように書いている。今年の8月22日は鄧小平の生誕110周年に当たるので特に書いたのであろうが、現在の習近平政権をめぐる状況を知るのに役立つ。なお、この書物は2003年に出版されたものであり、多維新聞の記事はその価値を示す結果にもなっている。

「改革開放から今日に至るまで、中国での左右の争いは水と火のように繰り返されてきた。1992年、鄧小平は南巡講話で左派に猛烈な一撃を加え、改革に公然と反対する左派はつぶれガタガタになった。しかし、左翼的思想は中共内部で牢固な勢力を維持し、右の改革派は今でも党内の主流になれていない。凌志军のこの著書は鄧小平が逝去する前後、左派が巻き返し、改革に反対し、2千万の人を反体制者に仕立て上げようとしたことを指摘している。江沢民は中央党校での「五二九」講話(1997年)で左派に反撃し、改革の道の上にある障害を取り払うべきだと指摘した。」

「五二九」講話は全部で約2万字であったが、新華社が発表したのはその4分の1程度であり、報道されたものよりもっと明確に左派批判を行なっていた(紅潮網2012年8月27日)そうである。全文が発表されなかったのは左派の抵抗があったからであることが示唆されているように思われる。さらに、江沢民の処遇についても隠された意味があるのか気になるところである。

なお、拙文「習近平政権の基本方針」『習近平政権の言論統制』(蒼蒼社2014年)は、改革開放の開始から南巡講話までの左右の争いの中で鄧小平が果たした役割を論じており、凌志军の記述につながる形になっている。手前味噌であるがご参考まで。

2014.08.09

中国雑記(コンゴでのダム建設に関する米中協力など)

○中国の在韓国大使館の高官と武官がそれぞれ外交通商部と国防部を訪れ、韓国がフィリピンに対する武器の供与を中止するよう要求した。かれらは強硬で、もし韓国がどうしても予定通り供与するなら中韓の首脳会談に影響すると言った(8月4日付の韓国の『週刊東亜』の記事を6日付『多維新聞』が報道)
○中国は2013年から米国に対して、コンゴ民主共和国で120億ドルのInga-3ダム建設に協力しようと持ちかけていた。前代未聞の話であり、中国はアフリカへの進出について各国の非難をかわすための戦略の一環として米国と協力しようと言い始めた可能性がある。さる7月の戦略経済対話ではその話に勢いがついてきた(gathered momentum)。
このダムについては何年も前から話があり、決着がついていなかったが、建設されれば世界最大の水力発電ダムになる可能性がある。世界銀行は最近、プロジェクトの評価を始めた。ワシントンで最近開催された米・アフリカ首脳会議では、アフリカにおける発電力の強化が主要議題の一つであり、コンゴのダム建設は同会議のフォローアプとして検討される。(Financial Times 8月5日By Geoff Dyer )

2014.08.05

中国の中東和平5項目提案

王毅外交部長は8月3日、シュクリ・エジプト外相と会談した後の記者会見で、中東和平に関する5項目の和平提案を説明したと同日の新華社電が伝えている。提案の内容は次の通りである。
① イスラエルとパレスチナは即時に停戦し、空襲、地上の軍事行動、ミサイルの発射等すべてを停止すべきである。武力を乱用し、市民を殺傷する行為は認められない。力を持って力を抑える(以暴制暴)ことを止めるべきである。
② 中国はエジプトなど諸国が提出した停戦案を支持する。イスラエルもパレスチナも武力で一方の要求を実現しようとすることを放棄し、責任を持って交渉し、双方の安全を実現し、またそのために必要な保障体制を設立するべきである。その過程において、イスラエルはガザ地区の封鎖を解除し、拘留しているパレスチナ人を解放すべきである。同時に、イスラエルの合理的な安全への懸念を重視すべきである。
③ イスラエルとパレスチナの衝突の起源はパレスチナ問題が長期にわたって解決できないところにある。中国は一貫してパレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利を支持している。イスラエルとパレスチナの双方は和平交渉を揺るぎのない戦略的選択とし、おたがいに善意を示し、和平交渉をできるだけ早期に再開すべきである。和平交渉においては面と向き合って行なわなければならず、反対方向に走ってはならない。
④ イスラエルとパレスチナの衝突は国際の平和と安全に関わる。安保理は衝突を回避するのに責任を負い、コンセンサス作りに努め、その機能を発揮しなければならない。国際社会はおたがいに協力し、和平を推進する力を形成しなければならない。
⑤ パレスチナ、とくにガザ地区の人道問題に関わる状況を重視し、その有効な解決を図らなければならない。国際社会は適時に必要な援助と支持を与えるべきである。中国は、ガザの人々に150万ドルの緊急人道援助をキャッシュで行なう。中国紅十字回も人道援助を行なう。

7月21日に「平和外交研究」で紹介したが、中国はイスラエルおよびパレスチとの関係を積極的に進めており、2014年に入って3回特使を派遣した。王毅外交部長のエジプト訪問はそれに続く外交攻勢である。
米国がこの中国の姿勢をどのように見ているか、興味をそそられる。イスラエル・パレスチナ問題が困難であるのは言うまでもなく、米国でさえ難渋しているのに中国として何ができるか、中国自身楽観的になれないはずであるが、中国としては新疆ウイグルの問題などに関連してイスラム原理主義者の動向に神経をとがらせている現在、中東外交の幅を広げる必要性を感じているものと思わる。また、中東問題で圧倒的な影響力を持つ米国の動向を横目で見ながらの外交攻勢であろう。
おりしも、『大公報』紙は4日、ケリー米国務長官がイスラエル側と交渉する一方で中東の他の諸国の指導者と電話で協議するのをイスラエルと「さらに1カ国」の情報機関に盗聴されていたことを報道し、米・イスラエル関係が緊張する可能性があるとコメントしたドイツの週刊誌スピーゲルの記事を紹介している。ケリー長官は協議を行なうためこれまで10回以上イスラエルを訪問しているが、うまく行っていないというのはほぼ常識になっており、大公報に限らず中国系の新聞はかなり綿密に米国の動向を報道している。
大公報の報道の直後(おなじ4日)に、ハマスとイスラエルはともに3日間の停戦を受け入れると発表した。今後本格的な停戦交渉に入るそうだ。

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