平和外交研究所

中国

2014.10.01

香港の行政長官選挙に関するデモ

2017年に実施される香港の行政長官選挙について、これまでのように1200人の「選挙委員」の中から推薦を受けて候補が選ばれ、選挙はその選挙委員が行なうという方式をあらため、「選挙は18歳以上のすべての香港市民が行なう。しかし、候補は1200人の「指名委員会」の半数超の同意により選ばれる」という新方式を中国の全国人民代表大会常務委員会が決定したことに香港の住民が強く反発している。住民から見れば、形式的には普通選挙となるが、候補者は中国政府が認めたものしかなれない仕組みになっているからである。
民主化を求める人たちは、9月28日に反対デモを組織し、香港の中心部の占拠を始めた。これに対し香港政庁はデモを認めないので、民主派は梁振英長官の辞任と新選挙案の撤回を改めて求めたが、政庁側との対立は解けず、警察側は一部学生を逮捕し、催涙弾を使用した。デモ隊はこれを避けるため雨傘で防ごうとしたので「雨傘革命」と呼ばれるようになった。大規模なデモの影響は銀行などにも及び、企業や店舗の休業が相次ぎ、香港の株価は急落した。また、市民生活にもデモの影響が及んでいる。
香港の住民が中国政府と激しく対立するのは1989年の天安門事件以来であるが、その際は中国政府が武力で学生デモを鎮圧しようとして流血事態となったことが原因で香港の学生が立ち上がった。今回はそのようなことではなく、民主化要求を中国が無視したことが主たる原因である。

台湾が香港のデモに強い関心を抱いているのは当然である。行政院長(首相)の江宜樺は、重大な安全保障問題について議論する「国家安全会議」を開催した。また、馬英九総統は29日、「香港市民が(行政長官選で)普通選挙を求めることは完全に理解できるし、支持する」と語りつつ、香港市民には理性的な行動を、中国政府には「香港の民衆の声に耳を傾け、平和的で慎重な態度で対処するよう」呼びかけた。
台湾ではさる3月、馬政権の中国への過度の接近を警戒する学生らが立法院を占拠する「ひまわり学生運動」が起きたばかりである。
台湾紙は社説などで、習近平の強硬姿勢に代表される中国の対応を厳しく批判し、「香港の行政長官の権力は民意でなく、中国政府から与えられている。習近平は9月22日、李嘉誠等香港富豪の代表に、また26日には台湾の統派団体(統一支持派)代表にそれぞれ会い、「平和的統一、一国ニ制」を強調していたが、習近平の言っていることを台湾人が信用できるわけがない。現在の中国は50年香港の現状を変えないという、鄧小平がサッチャーと交わした約束に背いている。中国のこのような信頼を裏切る行為は国際世論も認めないだろう」などと論評している。
台湾紙の中には、さらに進んで、中国共産党内には習近平よりもっと強硬な者がいるようだが、習近平は香港に武力を使えないだろう、などと述べているものもある。

中国は、香港のデモが大陸へ波及することを懸念しているであろうが、香港に対して妥協することは考えられない。そうすれば、台湾や新疆ウイグルやさらには国内の民主派を勇気づけることになるからであり、中国政府としては強面で臨むしかないと思われる。しかし、断続的に起こる新疆ウイグルでの暴動ないし騒動、またその背景にあるイスラム勢との対立は時間がたっても静まらないのではないか。むしろボデーブローのようにじわじわと効いてくるのではないかと思われる。
おりしも、香港では、新選挙方針を支持するグループがデモを始めており、新たな混乱要因が起こっている。このデモは中国政府にとって都合がよいどころか、そもそも香港政庁側の仕組んだことかもしれないが、中長期的に見れば中国に有利に展開するか疑問である。

2014.09.20

中国の利益集団

「利益集团:全面深化改革の最大の利益集团:全面深化改革の最大の障害」と題する記事が9月18日、共識網の中国欄に掲載されたが、すぐに削除された。それを高橋博氏が「胡耀邦史料信息網」に転載されているのを発見した。削除されるだけの内容である。

○11期3中全会(改革開放政策を決定した)以来、中国は「天地を覆すほどの(翻天覆地的)」変化を遂げたが、改革開放によって人が利益をむさぼる問題も発生した。今日、改革に抵抗しようとするさまざまな利益集団が現れたこのこともその一つである。
○中国の政治体制の下では人民が主であり、経済制度においては公有制の社会主義国家と人民の根本利益は一致するはずであるが、利益集団が跋扈しており、そのような理想とはかけ離れた状況になっている。
○三大利益集団がある。腐敗官僚を代表とする「権貴利益集団」、腐敗官僚が掌握する国家独占企業を代表とする「独占利益集団」および不動産業や資源関係の企業を代表とする「不動産・資源利益集団」である。主体別にみると、七大利益集団がある。強力な政府の官僚、地方政府の官僚、国有企業のハイレベル管理者、多国籍企業とその代理人、不動産開発業者、民営企業と民営資本家および利益集団に依存している学者・専門家である。
○中国の全面的深化改革を妨げる最大の障害は利益集団である。改革は利益の再調整に他ならない。利益集団の固有の領域に介入するので強力な抵抗に遭う。必死になって改革に抵抗する利益集団は手段を択ばない。
○現在異なる分野の利益集団が連合して改革に抵抗している。その実態は一般人の予想をはるかに越えている。利益集団が一つだけならば怖くないが、連合して抵抗するので怖い。
○現在、全面的深化改革の円滑な実施が妨げられているだけでなく、30年間の改革の成果をもほとんど破壊しそうになっている。

2014.09.03

中国の権力派閥

『多維新聞』9月1日付は、中国の権力派閥について次のように論じている。

今日の中国では、習近平を始めとする「太子党」と李克強をかしらとする共産主義青年団の系統(共青団派)が中央と地方の権力を握っている。経験豊富な官僚が再び重視され、過去二十年間政界で重きをなしていた石油系統の者、地方閥の官吏は、反腐敗運動のなかで、あるいは年齢が理由で続々と失脚している。地方閥の者が政治勢力を形成する傾向は中国の政治が現代化に向かって進む中で姿を消しつつある。毛沢東が「団結派」であったならば、習近平は「派閥破壊派」であり、中国は「無党無派」時代に入りつつある。

1989年から2012年の共産党第18回全国代表大会までは、中国の政界は「太子党」「共青団派」および「上海閥」の3大派閥によって動かされてきた。同大会はそのような観点の分析が最高潮に達した時であり、9人から7人に減少した政治局常務委員についてもそのような分析が行なわれた。習近平はもとより、張徳江(人民代表大会委員長)は建国の功労者であった高級軍人張志毅の子、兪正声の父母はともに建国の功労者、王岐山は姚依林元副総理の女婿であり、党大会の頃、「太子党」は中央を牛耳り、「共青団派」は地方を支配した、などと言われた。

しかし、「太子党」を政治結社のように考えるのは妥当でない。統一された政治綱領も主張もない。いずれも出身がよいということだけであるが、これらの人は政治権力の安定を支えている。彼らを結び付けるのは、共産党の赤い国の色が変色しない保証であり、彼らこそが中国を建設し、親の世代からの功績を引き継ぐことができる。

「共青団派」は党内の幹部が若年化していることを表している。第18回党大会以降を見れば、李克強は首相に、元党組織部長の李源朝は国家副主席に、湖南省委員会書記の周強成は最高検察院院長に、広東省委員会の書記であった汪洋は国務院副総理になるなど「共青団派」が枢要な地位についているのは事実であり、そのため胡錦濤以下の「共青団派」が巻き返したなどと言われた。中央の幹部が若返っているのは時代のせいであるが、李克強が彼らを率いて習近平に忠誠を誓えば、習近平もそれに応えるであろうし、そうなると「太子党」と「共青団派」が協力してどのように中国を動かすかということが中国政治の注目点となろう。

一方、「上海閥」「山東閥」「山西閥」という言い方は現在も存在している。しかし、現在山西には反腐敗の大々的取り締まりが始まっている。上海、山東、河北の出身者はまだ多いが、習近平政権の下でこれら「地方閥」が生き残る空間は次第に縮小している。

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