オピニオン
2015.05.20
クリントン前国務長官もアセアン地域フォーラム(ARF)などで南シナ海の問題を取り上げ、楊外相と激しくぶつかる場面もあった。中国は2000年代の中ごろから南シナ海や東シナ海などに対する領有権主張を強め、これらを中国の「核心的利益」として他国に認めるよう要求し、2009年5月には、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張する文書を国連に提出した経緯がある。
ケリー長官は今次会談で、「中国の南シナ海での埋め立ての速度と範囲について懸念している」ことを伝えたと記者会見で述べている。「速度と範囲について懸念している」とは妙な感じがする表現であり、「速度と範囲」に問題がなければ埋め立て工事を認める趣旨かと尋ねたいところだが、実際にケリー長官が会談でどう発言したかよく分からないので、この説明にはこだわらないこととしよう。
これに対し王毅外相は、埋め立ては「中国の主権の範囲内だ」と主張した。「中国のこの立場は岩のように固い」という趣旨の発言をしたとも報道されている。言葉はともかく、ケリー長官の指摘には一切応じなかったのであろう。もっとも、この王毅外相の発言はとくに新味があるわけでない。2011年に発表された領土問題などに関する白書は、中国の核心的利益を「断固として擁護する」と述べていた。
領土に関する紛争は国際司法裁判所、あるいは国際仲裁裁判所で解決を求めるべきだというのが米国の立場である。フィリピンも同じ考えで、すでに提訴しており、中国は応じない状況が続いている。ベトナムも仲裁裁判での解決を求めることを検討していると伝えられている。
一方、中国は国際司法裁判も仲裁裁判も拒否し、当事国との話し合いで解決するとの一点張りである。王毅外相もケリー長官に同じことを言っている。話し合いによる方が中国の影響力を行使しやすいと考えているのであろう
習近平主席は、両国間の意見の違いによって関係が妨げられないようにしなければならないと述べたのは結構なことであるが、「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とも発言した。この発言には、①太平洋は現在全域が米国の影響下にある、②中国はそのような現状には不満であり、米国と2カ国で太平洋の勢力範囲を分けたいという意味が込められている。これは中国の戦略的劣勢を意識しつつ、大国化の願望を表したものであるが、日本を無視している驚くべき表明である。もっとも、これも初めてではないが、習近平主席がケリー長官にそう述べたことは記憶にとどめておくべきであろう。
なお、安倍首相の訪米前に、米中の軍人同士でも南シナ海の問題についてやり取りがあり、中国側が米国や日本の関連動向を強く意識していることは5月7日に当HPにアップした「南シナ海でのロシアと中国の不一致」で指摘した。その中でも触れたが、米軍は艦船と航空機を埋立現場近くに派遣している可能性がある。ケリー長官訪中の一背景である。
ケリー米国務長官の訪中‐南シナ海の波は高い
ケリー米国務長官は5月16~17日、訪中し、王毅外相と会談したほか、習近平主席、李克強首相、范長竜中央軍事委員会副主席(制服組のトップ)などとも会談した。米中両国間の諸問題について話し合ったと発表されているが、南シナ海が最大の問題であったことは間違いない。中国は最近南シナ海の南沙諸島で大規模な埋め立て工事を行ない、周辺諸国のみならず日米両国も憂慮していた。クリントン前国務長官もアセアン地域フォーラム(ARF)などで南シナ海の問題を取り上げ、楊外相と激しくぶつかる場面もあった。中国は2000年代の中ごろから南シナ海や東シナ海などに対する領有権主張を強め、これらを中国の「核心的利益」として他国に認めるよう要求し、2009年5月には、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張する文書を国連に提出した経緯がある。
ケリー長官は今次会談で、「中国の南シナ海での埋め立ての速度と範囲について懸念している」ことを伝えたと記者会見で述べている。「速度と範囲について懸念している」とは妙な感じがする表現であり、「速度と範囲」に問題がなければ埋め立て工事を認める趣旨かと尋ねたいところだが、実際にケリー長官が会談でどう発言したかよく分からないので、この説明にはこだわらないこととしよう。
これに対し王毅外相は、埋め立ては「中国の主権の範囲内だ」と主張した。「中国のこの立場は岩のように固い」という趣旨の発言をしたとも報道されている。言葉はともかく、ケリー長官の指摘には一切応じなかったのであろう。もっとも、この王毅外相の発言はとくに新味があるわけでない。2011年に発表された領土問題などに関する白書は、中国の核心的利益を「断固として擁護する」と述べていた。
領土に関する紛争は国際司法裁判所、あるいは国際仲裁裁判所で解決を求めるべきだというのが米国の立場である。フィリピンも同じ考えで、すでに提訴しており、中国は応じない状況が続いている。ベトナムも仲裁裁判での解決を求めることを検討していると伝えられている。
一方、中国は国際司法裁判も仲裁裁判も拒否し、当事国との話し合いで解決するとの一点張りである。王毅外相もケリー長官に同じことを言っている。話し合いによる方が中国の影響力を行使しやすいと考えているのであろう
習近平主席は、両国間の意見の違いによって関係が妨げられないようにしなければならないと述べたのは結構なことであるが、「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とも発言した。この発言には、①太平洋は現在全域が米国の影響下にある、②中国はそのような現状には不満であり、米国と2カ国で太平洋の勢力範囲を分けたいという意味が込められている。これは中国の戦略的劣勢を意識しつつ、大国化の願望を表したものであるが、日本を無視している驚くべき表明である。もっとも、これも初めてではないが、習近平主席がケリー長官にそう述べたことは記憶にとどめておくべきであろう。
なお、安倍首相の訪米前に、米中の軍人同士でも南シナ海の問題についてやり取りがあり、中国側が米国や日本の関連動向を強く意識していることは5月7日に当HPにアップした「南シナ海でのロシアと中国の不一致」で指摘した。その中でも触れたが、米軍は艦船と航空機を埋立現場近くに派遣している可能性がある。ケリー長官訪中の一背景である。
2015.05.19
しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
(短文)中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?
5月9日のモスクワでの対独戦勝記念行事に出席するのに先立って、習近平主席は、「毛沢東の長男、毛岸英は白ロシアの第1方面軍戦車隊の指導員として転戦し、ベルリンに攻め込んだ」という趣旨を含む一文を、7日発行のロシア誌『Российская Газета(中国名は俄羅斯報)』に寄稿した。しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
2015.05.13
以下は、5月11日にTHE PAGEに掲載されたものである。
「中国の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」設立準備の関連で、「一帯一路」構想に注目が集まっています。
「一帯」とは、中国から中央アジアさらには西アジアにつながる地域で「シルクロード経済ベルト」とも呼ばれています。東南アジアと南アジアも含まれると見ておいたほうがよいでしょう。この地域では、中国と中央アジア諸国、パキスタン、アフガニスタン、イラクなどとの協力関係が顕著に進展しており、また、海洋政策を巡って対立するインドとの関係改善も始まり、昨年9月には中国の習近平主席がインドを訪問し、またインドのモディ首相も近々(5月中旬)中国を訪問する予定です。
「一路」は中国から南シナ海、インド洋、アラビア海を経て地中海に至る海上交通ルートのことで、「海上のシルクロード」あるいは「真珠の首飾り」とも呼ばれています。中国から中央アジアを経て欧州へ通じる古代の「シルクロード」を海上でイメージしたものでしょう。
この関係ではミャンマー、スリランカ、パキスタン、さらにはギリシャなどの重要港湾の機能を向上させ、中国の船舶が自由に利用できる体制作りが行われています。
中国が「一帯一路」を語り始めたのは2013年の秋であり、この構想と相前後して「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が始まり、「一帯一路」とAIIBはペアの形で進められてきました。
AIIBについては2015年末までに設立するという目標が掲げられている一方、「一帯一路」にはそのような期限設定はありませんが、中国政府は張高麗政治局常務委員兼国務院副総理の下に指導小組(我が国の関係省庁会議のようなもの)を設置し、AIIBと同様猛烈な勢いで推進しています。どちらの構想についても考えが固まっていない面があるようですが、中国と周辺の諸国でインフラ建設を急ぎ、貿易をさらに振興しようとしていることは明らかです。また、このような構想を通じて人民元の国際的流通にも役立たせたいという狙いも込められているものと思われます。
習近平主席は、先のバンドン会議(アジア・アフリカ会議)60周年記念式典の際に、安倍首相を含む各国首脳に対し「一帯一路」構想が国際社会の支持を受けていると強調するなど首脳自らがそのアピールに懸命です。安倍首相はこれに対し「「一帯一路」については,今後どのように具体化されるか注目している」と応じました(外務省資料)。
中国が「一帯一路」構想を掲げる意図は何でしょうか。
実は、この構想は既存の二国間・多国間協力を基礎に、さらに広範囲の地域協力を総合的に進めるものであり、特定の目標達成を目指すのではなく、同構想の推進を通じて中国を中心とする広範な地域の一体性を高めるところにその狙いがあるようです。習近平主席は去る3月のボアオ・アジア・フォーラムで、中国と周辺の諸国が「運命共同体」の意識を樹立することを強調し、「一帯一路」はそのための重要な牽引力であるとまで発言したと報道されました(シンガポールの聯合早報網2015年04月13日付)。
「一帯一路」、とくに「一路」は直接的には海上交通網の整備、すなわちオイルルートの確保や港湾の整備およびそれに付随する投資が主たる内容ですが、海上交通は安全保障と密接に関連しており、南シナ海、インド洋などの海上安全保障への影響も大きいでしょう。「一帯一路」の「一路」は、太平洋、インド洋から地中海などへも進出し、同時に米国の影響力を減殺することを目論む中国の海洋大国化戦略の一部であると言って過言でないと思われます。
またこれは表で語られることではありませんが、中国が「一帯一路」やAIIB構想の大風呂敷を広げた背景には、経済成長がひところのような勢いでなくなっていることや、内陸部と沿岸部などの経済格差が増大しているため強い経済刺激策を必要としているという事情や、中国の大国化への願望とそれを実現するための、いわば日本の列島改造計画の国際版とでも呼ぶべき大胆な思惑が見え隠れしているように感じられます。
しかしながら、「一帯一路」はあまりにも急速に計画が進められたためでしょうが、検討は十分でなく、走りながら対策を考えているような感じがあります。
今年の2月初めに開かれた国務院の会議で、「一帯」は順調であるが、「一路」については障害が生じていることが指摘されました。具体的には、スリランカ、ギリシャなどでの政権交代が原因で中国との関係推進にブレーキがかかっています。これらの問題は中国だけの努力では解決できないことなので、中国にとっては頭の痛いところです。
流動的な側面が少なくないので今後について明確な見通しを立てることは困難ですが、「一帯一路」、とくに「一路」上の重要拠点ごとに状況の違いが大きくなり、中国は「一帯一路」という総合的な取り組みを実現させるよりも個別の問題の対応に追われる恐れがあります。
このような現状にかんがみると、「一帯一路」が国際社会の支持を受けているというのは宣伝的傾向の強い働きかけであると言わざるをえません。
AIIBの設立準備に57カ国もの国が参加したことは注目すべきことですが、前述したような中国の全体的戦略を各国がどの程度理解しているか疑問です。東南アジア諸国は南シナ海での中国の行動の危険性を肌で感じているでしょうが、政治的な影響力を考慮すれば表立って反対することは困難だという事情があります。
またインドは、かねてから中国の軍用艦船の通航に神経をとがらせており、スリランカやパキスタンの中国への協力強化を強く警戒しています。
日米韓、さらに欧州諸国などは直接「一路」上に位置しているのではありませんが、海上交通を含め海上の安全保障には強い関心があります。日本が、中国の「一帯一路」への支持を呼びかけるのに対し、AIIBに対するのと同様慎重な姿勢で対応しているのは適切だと思われます。」
中国の「一帯一路」構想、狙いや背景
5月13日の新華網は、「「シルクロード経済ベルト」および「21世紀の海上シルクロード」の建設(以下「一帯一路」)は、党中央と国務院が世界情勢の深刻な変化に基づき、国内および国際の二つの大局について統一的に計画を立てるために打ち出した重要な戦略構想であり、その意義は重大である。「一帯一路」をめぐって世論の中には誤った認識が不断に生まれ、伝達拡散されており、注意し、是正しなければならない」とする論評を掲げた。中国は神経質になっているようだ。以下は、5月11日にTHE PAGEに掲載されたものである。
「中国の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」設立準備の関連で、「一帯一路」構想に注目が集まっています。
「一帯」とは、中国から中央アジアさらには西アジアにつながる地域で「シルクロード経済ベルト」とも呼ばれています。東南アジアと南アジアも含まれると見ておいたほうがよいでしょう。この地域では、中国と中央アジア諸国、パキスタン、アフガニスタン、イラクなどとの協力関係が顕著に進展しており、また、海洋政策を巡って対立するインドとの関係改善も始まり、昨年9月には中国の習近平主席がインドを訪問し、またインドのモディ首相も近々(5月中旬)中国を訪問する予定です。
「一路」は中国から南シナ海、インド洋、アラビア海を経て地中海に至る海上交通ルートのことで、「海上のシルクロード」あるいは「真珠の首飾り」とも呼ばれています。中国から中央アジアを経て欧州へ通じる古代の「シルクロード」を海上でイメージしたものでしょう。
この関係ではミャンマー、スリランカ、パキスタン、さらにはギリシャなどの重要港湾の機能を向上させ、中国の船舶が自由に利用できる体制作りが行われています。
中国が「一帯一路」を語り始めたのは2013年の秋であり、この構想と相前後して「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が始まり、「一帯一路」とAIIBはペアの形で進められてきました。
AIIBについては2015年末までに設立するという目標が掲げられている一方、「一帯一路」にはそのような期限設定はありませんが、中国政府は張高麗政治局常務委員兼国務院副総理の下に指導小組(我が国の関係省庁会議のようなもの)を設置し、AIIBと同様猛烈な勢いで推進しています。どちらの構想についても考えが固まっていない面があるようですが、中国と周辺の諸国でインフラ建設を急ぎ、貿易をさらに振興しようとしていることは明らかです。また、このような構想を通じて人民元の国際的流通にも役立たせたいという狙いも込められているものと思われます。
習近平主席は、先のバンドン会議(アジア・アフリカ会議)60周年記念式典の際に、安倍首相を含む各国首脳に対し「一帯一路」構想が国際社会の支持を受けていると強調するなど首脳自らがそのアピールに懸命です。安倍首相はこれに対し「「一帯一路」については,今後どのように具体化されるか注目している」と応じました(外務省資料)。
中国が「一帯一路」構想を掲げる意図は何でしょうか。
実は、この構想は既存の二国間・多国間協力を基礎に、さらに広範囲の地域協力を総合的に進めるものであり、特定の目標達成を目指すのではなく、同構想の推進を通じて中国を中心とする広範な地域の一体性を高めるところにその狙いがあるようです。習近平主席は去る3月のボアオ・アジア・フォーラムで、中国と周辺の諸国が「運命共同体」の意識を樹立することを強調し、「一帯一路」はそのための重要な牽引力であるとまで発言したと報道されました(シンガポールの聯合早報網2015年04月13日付)。
「一帯一路」、とくに「一路」は直接的には海上交通網の整備、すなわちオイルルートの確保や港湾の整備およびそれに付随する投資が主たる内容ですが、海上交通は安全保障と密接に関連しており、南シナ海、インド洋などの海上安全保障への影響も大きいでしょう。「一帯一路」の「一路」は、太平洋、インド洋から地中海などへも進出し、同時に米国の影響力を減殺することを目論む中国の海洋大国化戦略の一部であると言って過言でないと思われます。
またこれは表で語られることではありませんが、中国が「一帯一路」やAIIB構想の大風呂敷を広げた背景には、経済成長がひところのような勢いでなくなっていることや、内陸部と沿岸部などの経済格差が増大しているため強い経済刺激策を必要としているという事情や、中国の大国化への願望とそれを実現するための、いわば日本の列島改造計画の国際版とでも呼ぶべき大胆な思惑が見え隠れしているように感じられます。
しかしながら、「一帯一路」はあまりにも急速に計画が進められたためでしょうが、検討は十分でなく、走りながら対策を考えているような感じがあります。
今年の2月初めに開かれた国務院の会議で、「一帯」は順調であるが、「一路」については障害が生じていることが指摘されました。具体的には、スリランカ、ギリシャなどでの政権交代が原因で中国との関係推進にブレーキがかかっています。これらの問題は中国だけの努力では解決できないことなので、中国にとっては頭の痛いところです。
流動的な側面が少なくないので今後について明確な見通しを立てることは困難ですが、「一帯一路」、とくに「一路」上の重要拠点ごとに状況の違いが大きくなり、中国は「一帯一路」という総合的な取り組みを実現させるよりも個別の問題の対応に追われる恐れがあります。
このような現状にかんがみると、「一帯一路」が国際社会の支持を受けているというのは宣伝的傾向の強い働きかけであると言わざるをえません。
AIIBの設立準備に57カ国もの国が参加したことは注目すべきことですが、前述したような中国の全体的戦略を各国がどの程度理解しているか疑問です。東南アジア諸国は南シナ海での中国の行動の危険性を肌で感じているでしょうが、政治的な影響力を考慮すれば表立って反対することは困難だという事情があります。
またインドは、かねてから中国の軍用艦船の通航に神経をとがらせており、スリランカやパキスタンの中国への協力強化を強く警戒しています。
日米韓、さらに欧州諸国などは直接「一路」上に位置しているのではありませんが、海上交通を含め海上の安全保障には強い関心があります。日本が、中国の「一帯一路」への支持を呼びかけるのに対し、AIIBに対するのと同様慎重な姿勢で対応しているのは適切だと思われます。」
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