中国
2015.01.11
ともかく、中国ではこのような問題に関係する議論が時折表に出てきた。今年も間違いなく何回か出てくるであろう。その第1号というわけでもないが、今年初めて気づいた心配論を紹介しておく。中国軍の機関紙『解放軍報』の新年の辞である。
新年の辞は、軍に課せられた任務・責任は重く、思想工作をよく行いながら国防を強化し、 軍隊を改革しなければならないと、もっともではあるがありきたりのことから始めて、次のように述べている。
「我が国を取り巻く情勢は総じて穏やか(穏定)であるが、危険も積み重なり(風険呈累積態勢)、安全を左右する変数は増えている。いくつかの(一些)西側の国は我が国に対して「花革命」の策動を強めており(注 アラブの春として知られている民主化を求める革命を中国ではそのように呼んでいる。「顔色革命」あるいは「ジャスミン革命」とも言う)、インターネット上で「文化冷戦」と「政治変革の基因(政治転基因)」のプロセス(工程)を強化し、わが軍の兵士を腑抜けの人間にしようとしており(抜根去魂)、軍隊を党の指導の旗印の下から引きずり出そうとしている。意識形態(注 イデオロギーのこと)と政治的安全の領域に対する挑戦はかなり厳しい(注 要するにイデオロギーと政治が激しく攻撃されていると言っているのである)。全軍の兵士は危険意識、使命感をしっかりと高め、党中央、中央軍事委員会及び習近平主席の言うことによく従い、新しい世代の革命軍人としての歴史的使命を勇敢に担っていかなければならない。」
これは人民解放軍兵士に対する呼びかけであり、鼓舞するために大げさに誇張した表現が随所に使われているのはこの種の文章として何ら不思議でない。新年の辞を語る方も、それを聞く兵士の側もこのような議論は誇張だと知りながら語り、また、聞いている。しかし、このような議論は、中国では荒唐無稽でなく、一定程度現実味がある。まったく荒唐無稽であればどれほど叱咤激励しても逆効果になるだけである。つまり、西側諸国が中国に対して危険なことを試みているというのは、半ば本当に思っていることなのである。そのように考えるのは、現体制がいつまで続くか、心配しているからではないか。
なお蛇足になるが、この機会に中国軍兵士の紀律維持について一言言っておきたい。中国軍は外国に知られていないせいか、兵士は強者ぞろいで戦闘精神は旺盛だという印象が強いが、人民解放軍の中には演習の際にイヤホンで音楽を聴いている若い兵士がいるそうである。また、2012年、中国の誇る空母「遼寧」が就航した際に作られた内部規則には艦内で男女の兵士が同室することを厳しく制限する一文が入っていた。軍当局は、米国の空母にならって規則を作ったと説明したが、この一文は必要ないのにただお手本の米艦の規則にあったからそのまま残したのか。私はそう思わない。必要があったからであろう。
中国の兵士が演習中にDVDで西側の音楽を聞くようになったのは、外国が中国の兵士を腑抜けにしようと工作した結果でないことは明らかである。解放軍報がどのような主張を展開しようと、中国軍内でも兵士の紀律をいかに維持するか、必ずしも簡単でないようだ。
やはり体制維持が心配か
昨年も何回か取り上げたが、中国にあって日本にないことの一つが、現体制を維持できるかという心配である。日本に何ら心配の種がないというのでは決してなく、将来の日本は今より状況が悪くなるのではないか、国の借金は返せなくなるのではないか、というような心配はあるが、日本の民主的な政治体制がなくなることを心配している人は、いてもまれであろう。しかし、中国では現体制が将来も続いていくか、国家の指導者も国民も心配している。国民の中には続かないことを期待している人もあるようである。ともかく、中国ではこのような問題に関係する議論が時折表に出てきた。今年も間違いなく何回か出てくるであろう。その第1号というわけでもないが、今年初めて気づいた心配論を紹介しておく。中国軍の機関紙『解放軍報』の新年の辞である。
新年の辞は、軍に課せられた任務・責任は重く、思想工作をよく行いながら国防を強化し、 軍隊を改革しなければならないと、もっともではあるがありきたりのことから始めて、次のように述べている。
「我が国を取り巻く情勢は総じて穏やか(穏定)であるが、危険も積み重なり(風険呈累積態勢)、安全を左右する変数は増えている。いくつかの(一些)西側の国は我が国に対して「花革命」の策動を強めており(注 アラブの春として知られている民主化を求める革命を中国ではそのように呼んでいる。「顔色革命」あるいは「ジャスミン革命」とも言う)、インターネット上で「文化冷戦」と「政治変革の基因(政治転基因)」のプロセス(工程)を強化し、わが軍の兵士を腑抜けの人間にしようとしており(抜根去魂)、軍隊を党の指導の旗印の下から引きずり出そうとしている。意識形態(注 イデオロギーのこと)と政治的安全の領域に対する挑戦はかなり厳しい(注 要するにイデオロギーと政治が激しく攻撃されていると言っているのである)。全軍の兵士は危険意識、使命感をしっかりと高め、党中央、中央軍事委員会及び習近平主席の言うことによく従い、新しい世代の革命軍人としての歴史的使命を勇敢に担っていかなければならない。」
これは人民解放軍兵士に対する呼びかけであり、鼓舞するために大げさに誇張した表現が随所に使われているのはこの種の文章として何ら不思議でない。新年の辞を語る方も、それを聞く兵士の側もこのような議論は誇張だと知りながら語り、また、聞いている。しかし、このような議論は、中国では荒唐無稽でなく、一定程度現実味がある。まったく荒唐無稽であればどれほど叱咤激励しても逆効果になるだけである。つまり、西側諸国が中国に対して危険なことを試みているというのは、半ば本当に思っていることなのである。そのように考えるのは、現体制がいつまで続くか、心配しているからではないか。
なお蛇足になるが、この機会に中国軍兵士の紀律維持について一言言っておきたい。中国軍は外国に知られていないせいか、兵士は強者ぞろいで戦闘精神は旺盛だという印象が強いが、人民解放軍の中には演習の際にイヤホンで音楽を聴いている若い兵士がいるそうである。また、2012年、中国の誇る空母「遼寧」が就航した際に作られた内部規則には艦内で男女の兵士が同室することを厳しく制限する一文が入っていた。軍当局は、米国の空母にならって規則を作ったと説明したが、この一文は必要ないのにただお手本の米艦の規則にあったからそのまま残したのか。私はそう思わない。必要があったからであろう。
中国の兵士が演習中にDVDで西側の音楽を聞くようになったのは、外国が中国の兵士を腑抜けにしようと工作した結果でないことは明らかである。解放軍報がどのような主張を展開しようと、中国軍内でも兵士の紀律をいかに維持するか、必ずしも簡単でないようだ。
2015.01.08
雙橡園(Twin Oaks)は、米国が中華民国と外交関係を維持していた時代の中華民国大使の公邸である。もちろんワシントン特別区内にある。
1979年1月に米国は中華人民共和国と国交を樹立することとなり、そのことを察知した中華民国大使館は、米国の親台湾議員の協力を得て、雙橡園(Twin Oaks)はじめ大使館事務所、武官駐在所など中華民国所有の財産をいったん民間に売却して中華人民共和国政府に強制的に引き渡されるのを防ぎ、その後台湾があらためて買い戻して米国の遺跡として国務省に登録した経緯がある。現在は台北経済文化代表処が台湾の国慶節祝賀会などに利用している。ちなみに、日本にあった「中華民国」の大使館などはすべて中華人民共和国に引き渡された。
元旦の祝賀会で台湾の沈呂巡代表は「中華民国は主権国家であり、外交官として何事をするにも米国にお伺いを立てるということはできない。米台関係は健康な、バランスの取れた関係である。今回の旗の掲揚は内部のことであり、米国政府には事前通報しなかった」などと発言したと台湾の新聞で報道されている。台湾の記者が青天白日旗の掲揚のことを総統府(台湾の内閣、つまり総統)は知っていたかと尋ねたのに対し、沈呂巡代表は「総統府と私の考えはちょっと違っている(隔了一個層級)」と答えたそうだ。
しかし、米中国交樹立に伴い、米国は中華人民共和国政府を承認し、またその旗、いわゆる五星紅旗を認め、青天白日旗は認めないこととした。その立場は今も変わっていない。雙橡園で元旦に青天白日旗を掲揚するのは政治問題になりうる。はたせるかな、中国は米国に対し抗議した。米国政府もこの旗の掲揚は認めないとし、国務省のサキ報道官は「米国政府は事前に知らされていなかった。このような儀式は米国の政策と一致しないし、その儀式に米国政府からは誰も出席していない」と説明した。
それで一件落着となりそうなものであるが、沈呂巡代表はその後も「米国の声明をよく読んでほしい。台湾を批判してはいない」などと強弁している。米国に派遣される台湾の代表はもっとも成功した外交官であるはずだが、それにしては、沈呂巡代表の言動は不可解なくらい思い込みが激しく、また米中台間の微妙な関係に対する配慮を欠くものである。
米台関係は民進党政権時代に落ち込み、馬英九総統になってから関係が改善され、台北経済文化代表処は活動を活発化させてきた。2011年にやはり雙橡園で双十節(台湾の国慶節)レセプションを再開したのは一つのステップであった。今回の青天白日旗掲揚については、総統府は違った考えであったが、沈呂巡代表はその延長線で見ており、大丈夫だと踏んでいたのかもしれない。しかし、それは明らかに判断ミスであったと思われる。
青天白日旗の掲揚
台湾の在米国代表処(台北経済文化代表処)が元旦に、台湾の所有する雙橡園(Twin Oaks)で36年ぶりに青天白日旗(「中華民国」の国旗)を掲揚したため、米中間でちょっとした問題となった。雙橡園(Twin Oaks)は、米国が中華民国と外交関係を維持していた時代の中華民国大使の公邸である。もちろんワシントン特別区内にある。
1979年1月に米国は中華人民共和国と国交を樹立することとなり、そのことを察知した中華民国大使館は、米国の親台湾議員の協力を得て、雙橡園(Twin Oaks)はじめ大使館事務所、武官駐在所など中華民国所有の財産をいったん民間に売却して中華人民共和国政府に強制的に引き渡されるのを防ぎ、その後台湾があらためて買い戻して米国の遺跡として国務省に登録した経緯がある。現在は台北経済文化代表処が台湾の国慶節祝賀会などに利用している。ちなみに、日本にあった「中華民国」の大使館などはすべて中華人民共和国に引き渡された。
元旦の祝賀会で台湾の沈呂巡代表は「中華民国は主権国家であり、外交官として何事をするにも米国にお伺いを立てるということはできない。米台関係は健康な、バランスの取れた関係である。今回の旗の掲揚は内部のことであり、米国政府には事前通報しなかった」などと発言したと台湾の新聞で報道されている。台湾の記者が青天白日旗の掲揚のことを総統府(台湾の内閣、つまり総統)は知っていたかと尋ねたのに対し、沈呂巡代表は「総統府と私の考えはちょっと違っている(隔了一個層級)」と答えたそうだ。
しかし、米中国交樹立に伴い、米国は中華人民共和国政府を承認し、またその旗、いわゆる五星紅旗を認め、青天白日旗は認めないこととした。その立場は今も変わっていない。雙橡園で元旦に青天白日旗を掲揚するのは政治問題になりうる。はたせるかな、中国は米国に対し抗議した。米国政府もこの旗の掲揚は認めないとし、国務省のサキ報道官は「米国政府は事前に知らされていなかった。このような儀式は米国の政策と一致しないし、その儀式に米国政府からは誰も出席していない」と説明した。
それで一件落着となりそうなものであるが、沈呂巡代表はその後も「米国の声明をよく読んでほしい。台湾を批判してはいない」などと強弁している。米国に派遣される台湾の代表はもっとも成功した外交官であるはずだが、それにしては、沈呂巡代表の言動は不可解なくらい思い込みが激しく、また米中台間の微妙な関係に対する配慮を欠くものである。
米台関係は民進党政権時代に落ち込み、馬英九総統になってから関係が改善され、台北経済文化代表処は活動を活発化させてきた。2011年にやはり雙橡園で双十節(台湾の国慶節)レセプションを再開したのは一つのステップであった。今回の青天白日旗掲揚については、総統府は違った考えであったが、沈呂巡代表はその延長線で見ており、大丈夫だと踏んでいたのかもしれない。しかし、それは明らかに判断ミスであったと思われる。
2015.01.07
従来より当研究所では、反腐敗運動について次官級以上のレベルの動きを観察することとしているが、検挙あるいは調査される件数は膨大であり、カバーしきれない重要ケースが多々あると思われる。
汚職は単純な刑事事件でなく、権力闘争と関係があることが多い。すべてのケースが政治と絡んでいるわけではないだろうが、関係があるのではないかという問題意識で見ていくことは欠かせない視点であると思われる。
関連の諸報道をまとめた。
習近平政権は反腐敗運動で大きな成果を上げている。象徴的なのが周永康元政治局常務委員、徐才厚前軍事委員会副主席および令計画元中央弁公庁主任の処分(ホームページに12月9日および26日にアップした)である。
この他、江蘇省委書記の羅志軍 南京市委書記楊衛沢などが失脚した模様であり、去就不明である。
腐敗に関連して、「秘書閥」「石油閥」「山西閥」があるとも言われている。秘書は派閥を構成することはないが、大物の秘書になると権力に近くなり利権にも影響力を行使できるので令計画や蒋潔敏国有資産監督管理委員会主任(周永康の子分格)などをまとめて「秘書閥」と呼んでいる。令計画は「秘書閥」と「山西閥」の頭であり、蒋潔敏は「秘書閥」兼「石油閥」となる。
なお、派閥としては共産主義青年団の「団派」が最大である。令計画はこの派にも属する。
ハイレベルの摘発とも関連して大幅な人事異動が行われた。最も注目されたのは前天津市委員会書記の孫春蘭が令計画の後任として中央弁公庁の主任となったことである。宣伝部系統では、副部長の雒树刚が文化部長に、同じく副部長の蔡名照は新華社社長に就任した。
一方、シンガポールの『联合早报』は12月31日、習近平は家族会議を開き姉の習安安とその夫呉龍が経営する会社「新邮通讯」を解散させたと報道した。この会社のことは過去に何回か噂に上っていたと言われている。この記事「習近平、親族企業を反腐敗で粛清」を書いた陳傑は「中央人民广播电台评论员(つまり中央ラジオ局評論員)」兼中国法政大学法制新聞研究中心の研究員であり、『联合早报』は中国政府寄りの新聞である。この記事は中国が承認している可能性が高い、承認していなければこんな記事はかけないと「加国三人網」は1月5日に報道している。
習近平の反腐敗運動は大きな成果を上げているというのは一般的な見方であるが、当局が調査をすることについては、当然であるが種々の問題があるらしい。ハルピン市西駅(西客站)の駅前地区城市管理行政执法局(「城管」は市内の取り締まりをする部局で、しばしば暴力的な行動に出るので公安より怖いと恐れられている)は同市に来る予定の13人の検査官を写真付きで紹介し、彼らが来るとすぐに通報せよという通知を関係部局に発したことが発覚した。このような事前通報はハルピンに限らずいたるところで行われており、抜き打ち検査は非常に困難になっている。中国では検査チームを迎えることを「迎検」、抜き打ち検査を「暗訪」と言うが、本当の「暗訪」は難しいということである。習近平政権は反腐敗運動で顕著な実績を上げているにしても、現場ではこのようなことが起こっている。摘発を行なう中央規律検査委員会はどのように対処しているのか気になる問題である。(報道内容は1月6日付『新京報』によった)
腐敗の摘発は外交部まで及んでおり、部長助理(日本の外務審議官にあたる)の張昆生が年明け早々に罷免された。外交部で初めてのことである。外交部には利権と結びつきやすい下部機関がなく、汚職は少ないと見られていた。張昆生は現在57歳。外交部一筋であり、江沢民の訪米に同行したり、在米大使館に勤務したりした米国通である。出身地は山西省なので令計画らの「西山会所(山西省出身者のグループ)」と関係があったとも言われているが、山西は籍だけで、実際に育ったのは雲南省なので山西グループとは関係なさそうである。
中国民主建国会広東市委員会の勝桑副主席に対する調査が始められた。この党はいわゆる民主諸党派の一つであり、勝桑は共産党員でないが、共産党の機関である中央規律検査委員会の調査を受けているのである。
習近平は軍においても大規模な人事異動を断行している。
徐才厚中央軍事委員会副主席と郭伯雄元同委副主席についてはすでに処分を決定していた。その影響で徐才厚の下にあった東北軍と郭伯雄の西北軍の関係者は冷や飯を食わされている。これと対照的に調子がよいのは東南軍であり、南京軍区の元副司令員宋普选は北京軍区の張仕波に代わって司令官となった。張仕波は北京軍区の歴史で最も短い任期となった。他にも南京軍区系統の軍人が出世している。駐閩部隊(福建省の対面に駐屯)の三十一集團軍関係ではかつて三十一軍の長であった王寧が副総参謀長から武装警察の司令官に栄転した。前司令官の王建平は副総参謀長になった。
なお、指揮系統の強化のため、総参謀部は海、空、第二砲兵(ミサイル部隊)などから優秀な人材を集めている。また逆に、総参謀部から副総参謀長が大軍区の司令官になる例も少なくない(大公網1月6日)。
反腐敗運動の進展と大規模人事異動
年末から年始にかけ中国では反腐敗運動と党軍の大規模な人事異動が大きな話題になった。従来より当研究所では、反腐敗運動について次官級以上のレベルの動きを観察することとしているが、検挙あるいは調査される件数は膨大であり、カバーしきれない重要ケースが多々あると思われる。
汚職は単純な刑事事件でなく、権力闘争と関係があることが多い。すべてのケースが政治と絡んでいるわけではないだろうが、関係があるのではないかという問題意識で見ていくことは欠かせない視点であると思われる。
関連の諸報道をまとめた。
習近平政権は反腐敗運動で大きな成果を上げている。象徴的なのが周永康元政治局常務委員、徐才厚前軍事委員会副主席および令計画元中央弁公庁主任の処分(ホームページに12月9日および26日にアップした)である。
この他、江蘇省委書記の羅志軍 南京市委書記楊衛沢などが失脚した模様であり、去就不明である。
腐敗に関連して、「秘書閥」「石油閥」「山西閥」があるとも言われている。秘書は派閥を構成することはないが、大物の秘書になると権力に近くなり利権にも影響力を行使できるので令計画や蒋潔敏国有資産監督管理委員会主任(周永康の子分格)などをまとめて「秘書閥」と呼んでいる。令計画は「秘書閥」と「山西閥」の頭であり、蒋潔敏は「秘書閥」兼「石油閥」となる。
なお、派閥としては共産主義青年団の「団派」が最大である。令計画はこの派にも属する。
ハイレベルの摘発とも関連して大幅な人事異動が行われた。最も注目されたのは前天津市委員会書記の孫春蘭が令計画の後任として中央弁公庁の主任となったことである。宣伝部系統では、副部長の雒树刚が文化部長に、同じく副部長の蔡名照は新華社社長に就任した。
一方、シンガポールの『联合早报』は12月31日、習近平は家族会議を開き姉の習安安とその夫呉龍が経営する会社「新邮通讯」を解散させたと報道した。この会社のことは過去に何回か噂に上っていたと言われている。この記事「習近平、親族企業を反腐敗で粛清」を書いた陳傑は「中央人民广播电台评论员(つまり中央ラジオ局評論員)」兼中国法政大学法制新聞研究中心の研究員であり、『联合早报』は中国政府寄りの新聞である。この記事は中国が承認している可能性が高い、承認していなければこんな記事はかけないと「加国三人網」は1月5日に報道している。
習近平の反腐敗運動は大きな成果を上げているというのは一般的な見方であるが、当局が調査をすることについては、当然であるが種々の問題があるらしい。ハルピン市西駅(西客站)の駅前地区城市管理行政执法局(「城管」は市内の取り締まりをする部局で、しばしば暴力的な行動に出るので公安より怖いと恐れられている)は同市に来る予定の13人の検査官を写真付きで紹介し、彼らが来るとすぐに通報せよという通知を関係部局に発したことが発覚した。このような事前通報はハルピンに限らずいたるところで行われており、抜き打ち検査は非常に困難になっている。中国では検査チームを迎えることを「迎検」、抜き打ち検査を「暗訪」と言うが、本当の「暗訪」は難しいということである。習近平政権は反腐敗運動で顕著な実績を上げているにしても、現場ではこのようなことが起こっている。摘発を行なう中央規律検査委員会はどのように対処しているのか気になる問題である。(報道内容は1月6日付『新京報』によった)
腐敗の摘発は外交部まで及んでおり、部長助理(日本の外務審議官にあたる)の張昆生が年明け早々に罷免された。外交部で初めてのことである。外交部には利権と結びつきやすい下部機関がなく、汚職は少ないと見られていた。張昆生は現在57歳。外交部一筋であり、江沢民の訪米に同行したり、在米大使館に勤務したりした米国通である。出身地は山西省なので令計画らの「西山会所(山西省出身者のグループ)」と関係があったとも言われているが、山西は籍だけで、実際に育ったのは雲南省なので山西グループとは関係なさそうである。
中国民主建国会広東市委員会の勝桑副主席に対する調査が始められた。この党はいわゆる民主諸党派の一つであり、勝桑は共産党員でないが、共産党の機関である中央規律検査委員会の調査を受けているのである。
習近平は軍においても大規模な人事異動を断行している。
徐才厚中央軍事委員会副主席と郭伯雄元同委副主席についてはすでに処分を決定していた。その影響で徐才厚の下にあった東北軍と郭伯雄の西北軍の関係者は冷や飯を食わされている。これと対照的に調子がよいのは東南軍であり、南京軍区の元副司令員宋普选は北京軍区の張仕波に代わって司令官となった。張仕波は北京軍区の歴史で最も短い任期となった。他にも南京軍区系統の軍人が出世している。駐閩部隊(福建省の対面に駐屯)の三十一集團軍関係ではかつて三十一軍の長であった王寧が副総参謀長から武装警察の司令官に栄転した。前司令官の王建平は副総参謀長になった。
なお、指揮系統の強化のため、総参謀部は海、空、第二砲兵(ミサイル部隊)などから優秀な人材を集めている。また逆に、総参謀部から副総参謀長が大軍区の司令官になる例も少なくない(大公網1月6日)。
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