中国
2015.05.22
この会談内容を香港の東網(東方日報傘下のサイト)がどのように入手したのか分からないが、独立評論員の郭大眼の記事としてつぎのように報道しており、香港や多維新聞など海外に拠点がある新聞が転載している。
「フクヤマは、法律の精神源は宗教にあり、宗派間の衝突から一定の相互監督作用が生まれ、最後に神が真理を判定する唯一の基準となり、統治する力となった、だから法律(神)の前で人は平等である、法の支配、司法の政府からの独立はこのようにして実現された、としつつ、王岐山に対して、中国で法の支配、司法の独立を実現できるかと尋ねた。
率直な王岐山は「不可能。司法は絶対に党の指導下になければならない。これは中国の特色である。憲法は書いたもの(文件)である。人が書いたものに過ぎない。大統領、国会、さらに憲法があり、憲法は神聖でなければならないが、神ではない。公衆の法である。中国の皇帝は神であり、天子と呼ばれた。日本には天皇があり、英国には女王があり、ともに立憲君主である。米国とは異なる。」と答えた。
(このやり取りについて、郭大眼は、党の指導の優位性をこれほど明確に述べているものはないとしつつ、司法が党の統制下にある状況において、反腐敗運動はいかにして最終的勝利を勝ち取ることができるか、と疑問を呈し)王岐山は、「とくによい考えはない。長期にわたって党の自己監督、自浄の圧力を強める、これらは始まりに過ぎないことを我々は認識している、自己監督は医者が自分で手術するみたいなものだ、ネット上にはシベリアのある外科医が自分の虫様突起を取り除いた話が出ている、これだけである。自分で新しくすること、自浄は大変困難だ」と語った。」
習近平と王岐山は反腐敗運動を誰よりも強力に推進しているように見えるが、共産党の指導がすべてに優先することは彼らにとっても至上命題である。したがって、この王岐山の説明は内容的には何も新味はなく、当たり前のことを再確認したに過ぎない。
このように考えれば、この会談、またそれを報道したこの記事にどれほどの価値があるか疑問に思えるが、そもそもの問題は、「党の指導」が優先するか、「司法の独立」を認めるべきか、を議論すること自体にあるのではないか。2014年10月の四中全会(共産党第四回中央委員会全体会議)では主要議題として「法の支配の強化」を掲げ、その後、習近平主席は盛んに「法の支配」を唱えているが、表面だけ取り繕っているに過ぎないのではないか。答えが決まっていることを議論し、あるいは主要議題として取り上げているからである。
中国に司法の独立はない―王岐山とF.フクヤマとの会談
4月23日、反腐敗運動の司令官である(習近平は最高司令官)王岐山政治局常務委員は訪中したF.フクヤマ(政治学者)および青木昌彦(経済学者)と会談した。この会談内容を香港の東網(東方日報傘下のサイト)がどのように入手したのか分からないが、独立評論員の郭大眼の記事としてつぎのように報道しており、香港や多維新聞など海外に拠点がある新聞が転載している。
「フクヤマは、法律の精神源は宗教にあり、宗派間の衝突から一定の相互監督作用が生まれ、最後に神が真理を判定する唯一の基準となり、統治する力となった、だから法律(神)の前で人は平等である、法の支配、司法の政府からの独立はこのようにして実現された、としつつ、王岐山に対して、中国で法の支配、司法の独立を実現できるかと尋ねた。
率直な王岐山は「不可能。司法は絶対に党の指導下になければならない。これは中国の特色である。憲法は書いたもの(文件)である。人が書いたものに過ぎない。大統領、国会、さらに憲法があり、憲法は神聖でなければならないが、神ではない。公衆の法である。中国の皇帝は神であり、天子と呼ばれた。日本には天皇があり、英国には女王があり、ともに立憲君主である。米国とは異なる。」と答えた。
(このやり取りについて、郭大眼は、党の指導の優位性をこれほど明確に述べているものはないとしつつ、司法が党の統制下にある状況において、反腐敗運動はいかにして最終的勝利を勝ち取ることができるか、と疑問を呈し)王岐山は、「とくによい考えはない。長期にわたって党の自己監督、自浄の圧力を強める、これらは始まりに過ぎないことを我々は認識している、自己監督は医者が自分で手術するみたいなものだ、ネット上にはシベリアのある外科医が自分の虫様突起を取り除いた話が出ている、これだけである。自分で新しくすること、自浄は大変困難だ」と語った。」
習近平と王岐山は反腐敗運動を誰よりも強力に推進しているように見えるが、共産党の指導がすべてに優先することは彼らにとっても至上命題である。したがって、この王岐山の説明は内容的には何も新味はなく、当たり前のことを再確認したに過ぎない。
このように考えれば、この会談、またそれを報道したこの記事にどれほどの価値があるか疑問に思えるが、そもそもの問題は、「党の指導」が優先するか、「司法の独立」を認めるべきか、を議論すること自体にあるのではないか。2014年10月の四中全会(共産党第四回中央委員会全体会議)では主要議題として「法の支配の強化」を掲げ、その後、習近平主席は盛んに「法の支配」を唱えているが、表面だけ取り繕っているに過ぎないのではないか。答えが決まっていることを議論し、あるいは主要議題として取り上げているからである。
2015.05.20
クリントン前国務長官もアセアン地域フォーラム(ARF)などで南シナ海の問題を取り上げ、楊外相と激しくぶつかる場面もあった。中国は2000年代の中ごろから南シナ海や東シナ海などに対する領有権主張を強め、これらを中国の「核心的利益」として他国に認めるよう要求し、2009年5月には、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張する文書を国連に提出した経緯がある。
ケリー長官は今次会談で、「中国の南シナ海での埋め立ての速度と範囲について懸念している」ことを伝えたと記者会見で述べている。「速度と範囲について懸念している」とは妙な感じがする表現であり、「速度と範囲」に問題がなければ埋め立て工事を認める趣旨かと尋ねたいところだが、実際にケリー長官が会談でどう発言したかよく分からないので、この説明にはこだわらないこととしよう。
これに対し王毅外相は、埋め立ては「中国の主権の範囲内だ」と主張した。「中国のこの立場は岩のように固い」という趣旨の発言をしたとも報道されている。言葉はともかく、ケリー長官の指摘には一切応じなかったのであろう。もっとも、この王毅外相の発言はとくに新味があるわけでない。2011年に発表された領土問題などに関する白書は、中国の核心的利益を「断固として擁護する」と述べていた。
領土に関する紛争は国際司法裁判所、あるいは国際仲裁裁判所で解決を求めるべきだというのが米国の立場である。フィリピンも同じ考えで、すでに提訴しており、中国は応じない状況が続いている。ベトナムも仲裁裁判での解決を求めることを検討していると伝えられている。
一方、中国は国際司法裁判も仲裁裁判も拒否し、当事国との話し合いで解決するとの一点張りである。王毅外相もケリー長官に同じことを言っている。話し合いによる方が中国の影響力を行使しやすいと考えているのであろう
習近平主席は、両国間の意見の違いによって関係が妨げられないようにしなければならないと述べたのは結構なことであるが、「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とも発言した。この発言には、①太平洋は現在全域が米国の影響下にある、②中国はそのような現状には不満であり、米国と2カ国で太平洋の勢力範囲を分けたいという意味が込められている。これは中国の戦略的劣勢を意識しつつ、大国化の願望を表したものであるが、日本を無視している驚くべき表明である。もっとも、これも初めてではないが、習近平主席がケリー長官にそう述べたことは記憶にとどめておくべきであろう。
なお、安倍首相の訪米前に、米中の軍人同士でも南シナ海の問題についてやり取りがあり、中国側が米国や日本の関連動向を強く意識していることは5月7日に当HPにアップした「南シナ海でのロシアと中国の不一致」で指摘した。その中でも触れたが、米軍は艦船と航空機を埋立現場近くに派遣している可能性がある。ケリー長官訪中の一背景である。
ケリー米国務長官の訪中‐南シナ海の波は高い
ケリー米国務長官は5月16~17日、訪中し、王毅外相と会談したほか、習近平主席、李克強首相、范長竜中央軍事委員会副主席(制服組のトップ)などとも会談した。米中両国間の諸問題について話し合ったと発表されているが、南シナ海が最大の問題であったことは間違いない。中国は最近南シナ海の南沙諸島で大規模な埋め立て工事を行ない、周辺諸国のみならず日米両国も憂慮していた。クリントン前国務長官もアセアン地域フォーラム(ARF)などで南シナ海の問題を取り上げ、楊外相と激しくぶつかる場面もあった。中国は2000年代の中ごろから南シナ海や東シナ海などに対する領有権主張を強め、これらを中国の「核心的利益」として他国に認めるよう要求し、2009年5月には、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張する文書を国連に提出した経緯がある。
ケリー長官は今次会談で、「中国の南シナ海での埋め立ての速度と範囲について懸念している」ことを伝えたと記者会見で述べている。「速度と範囲について懸念している」とは妙な感じがする表現であり、「速度と範囲」に問題がなければ埋め立て工事を認める趣旨かと尋ねたいところだが、実際にケリー長官が会談でどう発言したかよく分からないので、この説明にはこだわらないこととしよう。
これに対し王毅外相は、埋め立ては「中国の主権の範囲内だ」と主張した。「中国のこの立場は岩のように固い」という趣旨の発言をしたとも報道されている。言葉はともかく、ケリー長官の指摘には一切応じなかったのであろう。もっとも、この王毅外相の発言はとくに新味があるわけでない。2011年に発表された領土問題などに関する白書は、中国の核心的利益を「断固として擁護する」と述べていた。
領土に関する紛争は国際司法裁判所、あるいは国際仲裁裁判所で解決を求めるべきだというのが米国の立場である。フィリピンも同じ考えで、すでに提訴しており、中国は応じない状況が続いている。ベトナムも仲裁裁判での解決を求めることを検討していると伝えられている。
一方、中国は国際司法裁判も仲裁裁判も拒否し、当事国との話し合いで解決するとの一点張りである。王毅外相もケリー長官に同じことを言っている。話し合いによる方が中国の影響力を行使しやすいと考えているのであろう
習近平主席は、両国間の意見の違いによって関係が妨げられないようにしなければならないと述べたのは結構なことであるが、「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とも発言した。この発言には、①太平洋は現在全域が米国の影響下にある、②中国はそのような現状には不満であり、米国と2カ国で太平洋の勢力範囲を分けたいという意味が込められている。これは中国の戦略的劣勢を意識しつつ、大国化の願望を表したものであるが、日本を無視している驚くべき表明である。もっとも、これも初めてではないが、習近平主席がケリー長官にそう述べたことは記憶にとどめておくべきであろう。
なお、安倍首相の訪米前に、米中の軍人同士でも南シナ海の問題についてやり取りがあり、中国側が米国や日本の関連動向を強く意識していることは5月7日に当HPにアップした「南シナ海でのロシアと中国の不一致」で指摘した。その中でも触れたが、米軍は艦船と航空機を埋立現場近くに派遣している可能性がある。ケリー長官訪中の一背景である。
2015.05.19
しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
(短文)中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?
5月9日のモスクワでの対独戦勝記念行事に出席するのに先立って、習近平主席は、「毛沢東の長男、毛岸英は白ロシアの第1方面軍戦車隊の指導員として転戦し、ベルリンに攻め込んだ」という趣旨を含む一文を、7日発行のロシア誌『Российская Газета(中国名は俄羅斯報)』に寄稿した。しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
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