平和外交研究所

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2016.01.27

(短文)3Dプリントで大量に製造できるドローンの危険性

 ドローンの危険性について、当研究所は、個別の問題だが、特に注意しており、これまでに数回記事を掲載してきた(「ドローン 平和外交研究所」で検索が可能)。

「アトランティック・メディア」傘下の安全保障・軍事サイト、Defense One(1月19日付)はドローンに関するT.X. Hammesの記事を掲載している。

「民間でのドローン製造は種類、性能、用途ともに急速に進んでいる。兵器ではないが、即製爆発装置(improvised explosive devices IEDと略称される。たとえば火炎瓶などもその一種)として米軍を攻撃するのに使用されるようになるだろう。商品として販売されているので誰でも入手できるという恐ろしさがある。
 ドローンは車両、駐機中の飛行機、燃料庫、弾薬庫を正確に攻撃できる。
 米海軍は、水中で使え、5年間補給なしで行動できるドローンを研究している。これを使えば、機雷や魚雷を敷設、発射できるようになる。
 今や1600キロも離れた地点を攻撃できるドローンが作られている。

 ドローンの強みは価格が安いことにある。現在市場で売られているものは1機10万ドルだが、価格は急速に下がっている。
 もちろん、F-35のような高性能兵器は重要だ。現在開発中のシステムが完成すれば能力は飛躍的に向上するだろう。しかし、敵は、空中でF-35と戦うことはせず、駐機中のF-35をドローンで破壊しようとするのではないか。

 ドローンは大量に作られる。数年前から3Dプリントでドローンを1日で製造できるようになっている。それより何十倍も早く製造する方法が研究されている。高性能のドローン・プリンターが10基あれば1日に1000機製造することも不可能でない。
 もし1日1000機のドローンが作れたら、そのうち500機が飛行不能になっても構わない。あと500残っている。さらにそのうち300が撃墜されてもまだ200あるる。これで駐機中のF-35数機を攻撃できる。あるいは、レーダー・システム、燃料保管場所などを攻撃できる。
 兵器の性能は向上しているが、ますます高価になり、米軍が調達できる数は少なくなる。空軍の主要爆撃機B-52もその例で、元の計画よりはるかに少ない数しか購入できなかった。」

2016.01.18

(短評)イランの核開発問題の解決

 イランと米欧などとの核合意が履行され、イランに対する各国の制裁の解除が実現した。核合意が成立したのは昨年の7月、制裁解除の発表はこの1月16日であるが、イランによる核開発に関する交渉は2002年から始まっていたので14年かかっており、さらにイランがそのような計画を始める原因は1979年のイラン革命から発生していたので、今回の合意は37年間続いてきた問題に終止符を打つ意味がある。

 ただし、米国とイランとの間の問題がすべて解決したわけではなく、米国はテロ支援を理由に課している制裁を今後も継続するし、弾道ミサイルの開発関連では、今回の発表の翌日に追加制裁を課しているので、米国とイランとの関係が正常化したとは言えない。
 また、米国の内外にイランに対する根強い不信感が残っている。イスラエルはその代表格だ。
 米国内でも今回の制裁解除に対する批判の声が上がっており、大統領選挙の共和党候補の中にも露骨にイラン批判を続ける者がいる。国際原子力機関(IAEA)が昨年12月にイランの合意履行状況に問題はないとする報告をした後でも懐疑論はやまなかった。

 たしかに核開発に関する合意履行の実現は両国関係全体の中では部分的であるが、そうであっても今回発表された合意履行の持つ意義は計り知れない。
 最大の効果(の一つ)は石油供給のさらなる増加であり、イランが石油市場に復帰してくると日本を含めグローバルに影響が出てくる。日本はかつてイラン石油の主要輸入国であった。制裁がかかっている間に日本はイランで多くを失ったが、今後は回復に努めるだろう。
 
 米国とイランとの信頼関係が回復すれば、これも重要な進展となる。イランがISやその他のテロ対策の関係で米欧に協力すれば、大きな効果が期待される。さらに、米国によるイスラエル支持と穏健派アラブ諸国との協力を柱に成立していた中東のパワーバランスは、米国とイランとの間に信頼関係がなかったことと表裏一体の関係にあったが、これが根本的に変わってくる可能性がある。
 よいことばかりでない。イランの核開発問題が収束に向かいつつあるとき、イランとサウジアラビアの対立が再燃した。米国としてはこれまではサウジが頼りであり、これからはイランの協力も期待できそうになったが、肝心の両大国が仲たがいを始め(再開し)たのだ。
 
 しかし、今回の発表は長年のもつれを解きほぐす可能性を持つものであり、オバマ大統領が「歴史的な進展だ」と歓迎する声明を発表したこともうなずける。
 何事についても過度に単純な反応は禁物だが、かつてブッシュ米大統領が言った「悪の枢軸」のうち、イラクはすでに過去のこととなり、イランについても解決が見えてきた。残るは北朝鮮である。すくなくとも中東での負担が軽くなれば、米国が北朝鮮との関係に本気で取り組む余地が出てくるのではないか。オバマ大統領が言った「歴史的な進展」とは中東のことであろうが、米国のアジア政策、とくに北朝鮮政策が中東と関連していたのは事実であろう。

2016.01.13

「永世中立国」スイス憲法にみる安全保障と日本の平和憲法

 年の初め。スイスの憲法と比較しつつ、日本の新安全保障法制を改めて見てみました。THE PAGEに1月11日アップされたものです。 

「スイス憲法における軍隊の規定
 スイスの憲法は、民兵によって構成される軍隊を持つこと(第58条)、すべてのスイス人は兵役の義務を負うこと(つまり徴兵制、第59条)などを定めています。
 スイスと日本はともに平和に徹することを国是としており、スイスの「永世中立」は、日本国憲法が第9条で日本が「国際紛争」に巻き込まれることを厳禁していることと対比できます。
 実は、スイス憲法には「中立」とはどこにも書いてありません。古い話ですが、1815年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの新秩序を決定したウィーン体制においてスイスの中立が周辺の諸国との条約において規定されたのです。
 そうなったのは、スイスが当時軍事強国であり、スイスと同盟した国が軍事的に優位に立ち、そうなるとヨーロッパが不安定になるので、スイスを中立にしておくのがよいと考えられたのです。また、スイスとしても中立は望むところだったので各国の考えを受け入れました。

 第二次大戦後の日本を取り巻く国際環境は違っており、アジアの周辺国の間には日本の立場についてスイスのような合意はありませんでした。
 日本は、安全の確保のためには国連に依拠するのがよいと考えましたが、国連は拒否権のために重要な問題について決定できませんでした。これでは日本を防衛できません。そのため、1951年、日本が連合国と平和条約を締結した際に米国と安全保障条約を結び、1957年には、国連が機能するに至るまで日米安保条約に依拠することとするという「国防の基本方針」を定めました。これは現在も有効です。
 日本国憲法と日米安保条約の間に矛盾はないか、「国際紛争に巻き込まれない」ことと米国に依拠することの間に矛盾はないかいう問題はこの時から発生しました。

スイスでは2013年に徴兵制廃止をめぐって国民投票が行われたが否決
 スイスは徴兵制を維持している珍しい国ですが、宗教上などの理由から撤廃すべきだという意見は以前からあり、国民投票が行われ、否決されたこともありました。2013年には、徴兵制は現実離れしている、国費の無駄遣いだなどという理由で再び国民投票が行われましたが、やはり維持すべきだという結論になりました。

日本では昨年、集団的自衛権の行使を認める安保法制をめぐり議論噴出
 日本では、2014年、それまで認められなかった集団的自衛権の行使を認めるべきだという考えの下に安全保障関連法案が提出されました。「自衛」は本来自国を防衛することが目的ですが、集団的自衛の場合、一定の要件を満たせば他国の防衛のために自衛隊が出動することになります。そのため、改正法案は憲法違反であるという考えが多数の憲法学者及び国民から出ましたが、結局、改正法案は国会で承認され、成立しました。
 日本が自衛力を持ったのは1954年からです。「自衛」は憲法の禁ずる「国際紛争」ではないので、自衛隊を持つことは憲法と矛盾しないと判断されました。
 日米安保条約も日本を防衛することのみが内容となりました。米国に日本を守る義務を負わせる一方、日本は米国を守る義務はないのは条約として異例ですが、日本の憲法の下ではやむをえないことでした。

 今度は安保法制の改正により集団的自衛権の行使も認められることになり、他の国が武力攻撃された場合でも自衛隊を派遣することが可能になりました。要件は非常に厳格ですが、それでも日本国憲法の厳禁する「国際紛争に巻き込まれる」ことにならないかが問題となりえます。
 とくにその危険が大きいのが、武力攻撃・存立危機事態法の「存立危機事態」と、新しい国際支援法による多国籍軍への自衛隊の派遣です。後者は、2003年のイラク戦争の際に、憲法に触れないよう特別法で活動範囲を「非戦闘地域」に限るなどして自衛隊を派遣した例がありますが、一般に「多国籍軍」と呼ばれる場合は平和維持活動と異なり、紛争は終わっていません。そこへ自衛隊を派遣することは、憲法の「国際紛争に巻き込まれてはならない」という定めに反する危険が大きいと思います。

 ともに平和を国是としているが、徴兵制を維持して自国軍で安全保障をまかなおうとするスイスと日本では、安保環境も法制度も違っている。
 日本の場合は、スイスのように周辺諸国の間でコンセンサスがないだけに安全保障の在り方は複雑になりますが、日本国憲法が厳禁する「国際紛争に巻き込まれること」は日本の国是であり、これを揺るがせないよう努めるべきでしょう。安保条約に依拠して自衛する、あるいは国際貢献をするのは問題ありませんが、この一線を越えてはなりません。
 自衛隊による米軍への協力や多国籍軍への参加の可能性が増大してきた現在、日本国憲法、日米安保条約および改正安保法制の関係を明確にしておく必要があります。

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