オピニオン
2016.03.24
核セキュリティに関する国際的取り組みを継続すべきである(提言)
2016年3月23日
平和外交研究所代表 美根慶樹
環境安全学研究所代表 氏田博士
核セキュリティ・サミット(NSS)は、オバマ大統領が2009年、プラハ(チェコ)において,核テロが地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威との認識のもとに提唱したものであり、その目的は、テロリストによる核物質や核の利用施設への脅威をいかに防ぐかについてトップレベルで議論し、国内的・国際的な対策を強化していくことにある。
今回のサミットは第4回で、最後の会合と言われている。
テロの脅威は各国においても、また国際的にも対策の強化が図られており、これまで国内の法制、国際条約、取り締まりの強化のための訓練、教育、情報交換、危険な状況の識別(原発、核物質の運送、国境など)、国際原子力機関や各国の関係機関の役割(保障措置や計量管理)、財政的・人的貢献などが講じられ、あるいは強化されており、総じて、テロ対策はかなり前進していると言える。
NSSは、これら技術的な性格が強いテロ対策の強化について各国の首脳が自ら関心を持って関わるのを可能にしてきた。第3回のハーグ会合では、首脳自らがシミュレーションに参加した。
しかし、核の安全対策はまだ十分でない。とくにテロ以外の原因で起こる核の事故とそれへの対処についても、福島第一原発事故以来さらに認識が高まってきているように、国際的に検討を進め取り組みを強化することが必要である。
これまでにさまざまな事故、あるいは事故につながる問題が起こっている。順不同だが、少なからぬ原発が活断層の上に建設されている。事故処理に携わる職員が放射線量を測定する計器を携行しない。核物質の取り扱いを定めたマニュアルを無視して作業する。事故報告が隠蔽される。監督官庁や原発の安全性を検討する責任がある原子力安全委員会でさえも十分に機能していない恐れがある。
中でも大きな問題は、放射性廃棄物の処理場がないこと、将来にわたっても見つけられる見通しが立たないことだ。
福島原発の事故処理においてもさまざまな問題が発生している。汚染水の海中への漏えいは何とか食い止められると言われているが、はたしてそうか。
テロの脅威および事故で発生する脅威の双方を通じて問題となるのが人間の能力の限界である。テロはそこを狙って攻撃する。具体的には人間そして組織の脆弱性を利用して、ある行動へと誘導する心理学において「承諾誘導」呼ばれる手法なども含まれる。それには、「返報性」、「コミットメントと一貫性」、「社会的証明」、「好意」、「権威」、「希少性」の6 種類のテクニックがあると指摘されている。事故もまた、最近は組織事故と呼ばれるように、人と組織の問題が原因となって発生している。
今回の核セキュリティ・サミットは最後だそうだが、核の安全に関する国際的な取り組みを継続・強化することは次の2つの理由から必要である。
第1は、以上に述べてきた核の事故と人間の脆弱性について国際的な取り組みを強化する必要があるからだ。
第2の理由は、核セキュリティの検討であれば、NPT(核兵器不拡散条約)に参加していない核保有国(インド、パキスタン、イスラエル)も参加可能になり、NPTの限界をカバーできるからである。
核を人間が利用するようになって以来、各国が重視したことは核軍備競争から、平和利用、核不拡散、核の抑止力と変化・拡大してきた。今後はこれらに加えて核の安全が国際社会の目指すべきこととなるのではないか。
核セキュリティに関する国際的取り組みを継続すべきである
核セキュリティ・サミットが3月31日~4月1日、ワシントンで開催される。これに関連して、昨23日、外務省の相川軍縮不拡散・科学部長に環境安全学研究所の氏田代表と平和外交研究所の美根代表の連名で提言を提出した。核セキュリティに関する国際的取り組みを継続すべきである(提言)
2016年3月23日
平和外交研究所代表 美根慶樹
環境安全学研究所代表 氏田博士
核セキュリティ・サミット(NSS)は、オバマ大統領が2009年、プラハ(チェコ)において,核テロが地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威との認識のもとに提唱したものであり、その目的は、テロリストによる核物質や核の利用施設への脅威をいかに防ぐかについてトップレベルで議論し、国内的・国際的な対策を強化していくことにある。
今回のサミットは第4回で、最後の会合と言われている。
テロの脅威は各国においても、また国際的にも対策の強化が図られており、これまで国内の法制、国際条約、取り締まりの強化のための訓練、教育、情報交換、危険な状況の識別(原発、核物質の運送、国境など)、国際原子力機関や各国の関係機関の役割(保障措置や計量管理)、財政的・人的貢献などが講じられ、あるいは強化されており、総じて、テロ対策はかなり前進していると言える。
NSSは、これら技術的な性格が強いテロ対策の強化について各国の首脳が自ら関心を持って関わるのを可能にしてきた。第3回のハーグ会合では、首脳自らがシミュレーションに参加した。
しかし、核の安全対策はまだ十分でない。とくにテロ以外の原因で起こる核の事故とそれへの対処についても、福島第一原発事故以来さらに認識が高まってきているように、国際的に検討を進め取り組みを強化することが必要である。
これまでにさまざまな事故、あるいは事故につながる問題が起こっている。順不同だが、少なからぬ原発が活断層の上に建設されている。事故処理に携わる職員が放射線量を測定する計器を携行しない。核物質の取り扱いを定めたマニュアルを無視して作業する。事故報告が隠蔽される。監督官庁や原発の安全性を検討する責任がある原子力安全委員会でさえも十分に機能していない恐れがある。
中でも大きな問題は、放射性廃棄物の処理場がないこと、将来にわたっても見つけられる見通しが立たないことだ。
福島原発の事故処理においてもさまざまな問題が発生している。汚染水の海中への漏えいは何とか食い止められると言われているが、はたしてそうか。
テロの脅威および事故で発生する脅威の双方を通じて問題となるのが人間の能力の限界である。テロはそこを狙って攻撃する。具体的には人間そして組織の脆弱性を利用して、ある行動へと誘導する心理学において「承諾誘導」呼ばれる手法なども含まれる。それには、「返報性」、「コミットメントと一貫性」、「社会的証明」、「好意」、「権威」、「希少性」の6 種類のテクニックがあると指摘されている。事故もまた、最近は組織事故と呼ばれるように、人と組織の問題が原因となって発生している。
今回の核セキュリティ・サミットは最後だそうだが、核の安全に関する国際的な取り組みを継続・強化することは次の2つの理由から必要である。
第1は、以上に述べてきた核の事故と人間の脆弱性について国際的な取り組みを強化する必要があるからだ。
第2の理由は、核セキュリティの検討であれば、NPT(核兵器不拡散条約)に参加していない核保有国(インド、パキスタン、イスラエル)も参加可能になり、NPTの限界をカバーできるからである。
核を人間が利用するようになって以来、各国が重視したことは核軍備競争から、平和利用、核不拡散、核の抑止力と変化・拡大してきた。今後はこれらに加えて核の安全が国際社会の目指すべきこととなるのではないか。
2016.03.22
この法律案は、2015年6月12日、古屋圭司議員らにより衆議院に提出され、さらに原発や防衛省なども防護の対象とする修正案が泉健太議員らによって提出された。最初の提案も修正提案も重要なものだ。
法律の正式名称は「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」である。
防護の対象は、国会、首相官邸、外国の大使館、それに原発など「原子力事業所」とその周囲おおむね300メートルの地域である。
これら地域は厳しい監視の下に置かれ、例えばその上空ではドローンを飛ばすことはできなくなった。
危険なドローンが防護施設内に侵入してきた場合、どうしても必要であればそのドローンを破壊することも可能になっている。同法第8条2項の「対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、同項の小型無人機の飛行の妨害又は破損その他の必要な措置をとることができる。」という規定であり、テロ攻撃の場合は、瞬時に判断し危険を防がなければならないので重要な規定だ。
共産党と社民党はこの法案に反対した。委員会での質問で塩川鉄也議員は、「飛行による危険や被害の内容を問わず、規制対象が不明瞭な「小型無人機」を飛ばしただけで直ちに懲役刑をふくむ刑罰を科すことは「刑罰法規としての合理性を欠く」と述べている。
ドローン規制は過剰にならないようにしなければならないのは当然だ。理想論を言えば、さらに議論が深められ、全党一致で承認されればよかったとも思われるが、主要国サミットが間近になっているのでそうも言っておれなかったのかもしれない。しかし、それならなぜ参議院で長い間継続審議となったのかという疑問もわいてくる。
ともかくドローンの規制法が成立したのは一歩前進だ。しかし、このような規制でテロ攻撃を防げるか、疑問が残る。この法律は、たいして早くない速度のドローンを警察官が発見するとそれを操縦している者に対して規制対象から離れるよう指示することなどを定めている。そのように丁寧に対応することは必要だろうが、仮定の話として高速のドローンにより爆発物が運ばれたら、とてもそのようなことをする時間的余裕はない。必要なら破壊できるといっても、その判断は瞬時に行う必要がある。
かつて、都内の某所から発射されたロケット弾が東宮御所近くに落下したことがあった。これは30年も前のことである。操縦可能なドローンの危険性はその比でない。
一方、規制を強くすると国民生活への影響が大きくなるのは問題だが、規制法ができたからと言って安心するのは早すぎる。
ドローンの規制に関する法律はできたが
首相官邸など重要施設を無人飛行機(ドローン)による攻撃から守るための規正法は3月17日、ようやく成立した。「ようやく」というのは、この法律案が衆議院で承認され参議院に送られた後、8カ月余り結論が出なかったからだ(継続審議になっていた)。参議院で修正・承認されたのが今年の3月16日、翌日に衆議院で可決され成立した。この法律案は、2015年6月12日、古屋圭司議員らにより衆議院に提出され、さらに原発や防衛省なども防護の対象とする修正案が泉健太議員らによって提出された。最初の提案も修正提案も重要なものだ。
法律の正式名称は「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」である。
防護の対象は、国会、首相官邸、外国の大使館、それに原発など「原子力事業所」とその周囲おおむね300メートルの地域である。
これら地域は厳しい監視の下に置かれ、例えばその上空ではドローンを飛ばすことはできなくなった。
危険なドローンが防護施設内に侵入してきた場合、どうしても必要であればそのドローンを破壊することも可能になっている。同法第8条2項の「対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、同項の小型無人機の飛行の妨害又は破損その他の必要な措置をとることができる。」という規定であり、テロ攻撃の場合は、瞬時に判断し危険を防がなければならないので重要な規定だ。
共産党と社民党はこの法案に反対した。委員会での質問で塩川鉄也議員は、「飛行による危険や被害の内容を問わず、規制対象が不明瞭な「小型無人機」を飛ばしただけで直ちに懲役刑をふくむ刑罰を科すことは「刑罰法規としての合理性を欠く」と述べている。
ドローン規制は過剰にならないようにしなければならないのは当然だ。理想論を言えば、さらに議論が深められ、全党一致で承認されればよかったとも思われるが、主要国サミットが間近になっているのでそうも言っておれなかったのかもしれない。しかし、それならなぜ参議院で長い間継続審議となったのかという疑問もわいてくる。
ともかくドローンの規制法が成立したのは一歩前進だ。しかし、このような規制でテロ攻撃を防げるか、疑問が残る。この法律は、たいして早くない速度のドローンを警察官が発見するとそれを操縦している者に対して規制対象から離れるよう指示することなどを定めている。そのように丁寧に対応することは必要だろうが、仮定の話として高速のドローンにより爆発物が運ばれたら、とてもそのようなことをする時間的余裕はない。必要なら破壊できるといっても、その判断は瞬時に行う必要がある。
かつて、都内の某所から発射されたロケット弾が東宮御所近くに落下したことがあった。これは30年も前のことである。操縦可能なドローンの危険性はその比でない。
一方、規制を強くすると国民生活への影響が大きくなるのは問題だが、規制法ができたからと言って安心するのは早すぎる。
2016.03.09
政府と県が鋭く対立し、きわめて危険な状態が回避されたことは喜ばしい。政府は「辺野古への移転が唯一の選択肢である」という立場を変えたのではないと言っているが、いかなる解決が可能か、今後の話し合いに期待したい。
以前から言っていることだが、普天間飛行場の辺野古への移設問題については複雑な経緯があり、歴代の政府、防衛省や外務省、米軍が智慧を絞って出した結論について軽々に物を言うべきでないのはもちろんだが、辺野古への移設に関してすべてのことを知っていなければ発言できないということでもないはずだ。
あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れもある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
最善の策は、沖縄以外で米軍基地を受け入れることができる地方を探求することだ。政府と米国は辺野古移設しか解決の方法はないと言うが、他の場所を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。全国どこにも米軍基地を受け入れるところがないとは思えない。
しかし、沖縄以外で引き受ける地方がどうしてもでてこない場合のことも考えておかなければならない。その場合は、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るほうがダメージは少ないと思う。
この住民移転案はすでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の考えなどさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移設より住民移転のほうが痛みは少ない。政治的立場の違いを超えて合意を形成できる案だと考える。
米国は日本政府と同様「辺野古しかない」という立場を表明しているが、普天間に残ることになる案は受け入れ可能だと思う。
(短評)辺野古の工事が中断された
3月4日、日本政府と沖縄県は、普天間基地の辺野古移設のための工事に関し福岡高裁沖縄支部が提示した和解案を受け入れ、工事はひとまず中断された。政府と県が鋭く対立し、きわめて危険な状態が回避されたことは喜ばしい。政府は「辺野古への移転が唯一の選択肢である」という立場を変えたのではないと言っているが、いかなる解決が可能か、今後の話し合いに期待したい。
以前から言っていることだが、普天間飛行場の辺野古への移設問題については複雑な経緯があり、歴代の政府、防衛省や外務省、米軍が智慧を絞って出した結論について軽々に物を言うべきでないのはもちろんだが、辺野古への移設に関してすべてのことを知っていなければ発言できないということでもないはずだ。
あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れもある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
最善の策は、沖縄以外で米軍基地を受け入れることができる地方を探求することだ。政府と米国は辺野古移設しか解決の方法はないと言うが、他の場所を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。全国どこにも米軍基地を受け入れるところがないとは思えない。
しかし、沖縄以外で引き受ける地方がどうしてもでてこない場合のことも考えておかなければならない。その場合は、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るほうがダメージは少ないと思う。
この住民移転案はすでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の考えなどさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移設より住民移転のほうが痛みは少ない。政治的立場の違いを超えて合意を形成できる案だと考える。
米国は日本政府と同様「辺野古しかない」という立場を表明しているが、普天間に残ることになる案は受け入れ可能だと思う。
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