平和外交研究所

オピニオン

2017.02.13

米新政権として初の日米首脳会談

 安倍首相とトランプ大統領の会談に関する評価をザ・ページに寄稿しました。以下の通りです。
なお、その中では触れていませんが、北朝鮮によるミサイル発射について両首脳は特別の記者会見でそろって抗議・非難しました。その時にも思ったのですが、トランプ大統領は安倍首相のいうことは何でも聞くという方針ではないかと思われます。そうであれば、米国として北朝鮮政策を見直すよう日本からアドバイスする絶好の機会です。

「2月10日、安倍首相はトランプ大統領と初めての首脳会談を行いました。トランプ大統領は今回の首脳会談でどのような出方を見せるか、懸念を持って見守っていた人は少なくなかったでしょう。
 
しかし、安倍首相と会談したトランプ大統領は、一言で言えば、我々日本人が心に描く理想的な大統領であり、今回は日本に対する無理な要求はしませんでした。

両首脳の会談は約40分間でした。その後に約1時間のワーキングランチがありましたが、重要な話し合いは40分の間に行われたはずです。かりに両首脳が同じ長さの発言をしたならば、各20分、しかも通訳がつきますから一人の発言時間はそれぞれ10分強でした。この持ち時間で話せることは最重要問題だけで、しかも原則的なことしか説明できないでしょう。外務省は会談の概要(以下単に「概要」)を発表していますが、おそらく会談のほとんどすべてがそれに含まれていると思います。

今次会談終了後両首脳は共同記者会見を行いました。さらに日米両国の共同声明も発表されました。共同会見はどの首脳会談でも行われますが、共同声明が発表されるのは時と場合によりまちまちです。傾向としては重要な会談では共同声明が発表されることが多いでしょう。

今回の共同声明の内容はこれから述べるように申し分のないものですが、いちじるしく官僚的であり、細かいことも含んでいます。両首脳はもちろんその内容を承知し、了承しているでしょうが、彼ら自身の議論を反映しているか疑問です。それより「概要」の方が実際の会談内容と雰囲気をよく表していると思います。

会談の内容については、まず経済面では、安倍首相は日本企業の米国における投資や雇用の創出について実情をよく説明しました。このことは「概要」にも共同声明にも明確に反映されています。一方、トランプ大統領は日本企業が米国の雇用を奪っていることなどの持論を封印しました。

また、安倍首相が米国へ向け出発する前、日本企業による米国での投資と雇用創出に関するパッケージ案を持参するとのうわさが流れたことがあり、米国でも期待感が生まれていましたが、パッケージ案の提示はなかったようです。両首脳が合意した「麻生副総理とペンス副大統領の下での経済対話」で今後協議が行われていくものと思われます。

政治・安全保障面では、両首脳は東シナ海・南シナ海での拡張的行動や北朝鮮による核・ミサイルの開発を取り上げて議論し、「懸念を共有」しました。また、両首脳は日米安保条約と在日米軍の役割を再確認しました。

尖閣諸島については安保条約が適用されることをとくに確認し、また「同諸島に対する 日本の施政を損なおうとするいかなる一方的行動にも反対する(共同声明)」ことが合意されました。

今回の首脳会談は日本側の主張をほぼ全面的に受け入れたと見てよいでしょうが、米国、特にトランプ大統領が日本と関係をどう見ているか、どのような期待を抱いているかにも注意が必要です。

トランプ大統領がかねてからの持論を封印したことは繰り返しませんが、同大統領にとって重要なことは、国内外から批判を受けて孤立気味になっている中で、「馬が合う」安倍首相をひきつけ日本を米国の最良の味方にすることだったと思います。首脳会談が終わってからなお2日間、ゴルフや会食で共に過ごすことは前代未聞ですが、トランプ大統領はかねてからゴルフ場で親しくなることを重視しており、今回の接待はまさにトランプ氏らしいものです。

これに対し、安倍首相が積極的に応えることは当然とも考えられますが、トランプ大統領はあまりにも予測困難です。移民制限の大統領令など米国内でトランプ氏の政策に強く批判、反対する人が多いことも問題ですが、対外面の問題もあります。トランプ大統領は、日本に異例の好意的姿勢をみせつつ、中国の習近平主席に書簡を送り、また電話でも会談し、中国が問題視していた「一つの中国」に縛られないという発言も封印しました。トランプ大統領は全般的に中国に非常に批判的ですが、日本と中国とのバランスにも気配りをしています。

経済面では、今後の成り行きいかんではトランプ氏の持論が表面に出てきて貿易などで譲歩を迫ってくる可能性があります。麻生副首相とペンス副大統領の話し合いを建設的に進めることが必要です。

安倍首相とトランプ大統領は初めて会ってから短い時間ですが、ハグを繰り返し、また長い握手をするなどどの国の首脳も真似できない親密な関係を築いたようです。しかし、最初がよすぎるとそれを維持していくのは大変だということもあります。安倍首相が強烈な個性のトランプ大統領との間で、今後も積極的かつ慎重に日米関係を発展させていくことが期待されます。
2017.02.06

中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず

 習近平主席は軍に対しても反腐敗運動を鋭意進めてきた。中央軍事委員会の副主席(軍のトップにある数人)であった徐才厚および郭伯雄を摘発し、前者は獄中で死亡、後者は無期懲役となった。
 以前、軍内の反腐敗運動が進まない原因であった軍の規律検査委員会を王岐山の中央規律検査委員会の直接の指揮下に置き、サボれないようにした。
 また、同じく軍内の反腐敗運動に消極的であった人民解放軍総政治部(総参謀部などと並ぶ4つの「総部」の一つであり、軍と党を結ぶ役割を果たしていた)を他の3つの「総部」とともに解消し、中央軍事委員会に「政治工作部」を置いた。これは2015年11月末のことである。
(当研究所HP2015年12月15日「(短文)中国軍の改革」を参照願いたい。)
 
 この機構改革から1年余りが経過したが、軍内の反腐敗運動はその後も順調でないらしい。米国に本拠がある『多維新聞』などは次のような状況を報道している。

 「徐才厚および郭伯雄の問題が片付き、習近平の3年越しの軍改革は全面勝利を収めたと見られているが、解放軍内では、2人の摘発は物事の始まりで、習近平は人民解放軍を作り替えようとしているのではないかと恐れられている。
 2015年末の軍改革工作会議はもっと早く開催される予定であったが、問題があるという理由で延期されていた。習近平はそのことに強く不満で、「誰が改革に反対しているのだ。反対なら辞職せよ」と一喝したと言われている。この一事を見ても軍の改革が容易でないことがわかる。
 2016年8月、大胆に意見を言うので有名な国防大学の劉亜洲政治委員の演説原稿がネットで流れた。そのなかで劉は「この十年、我々の軍はどうなった? 軍は一大市場になったではないか。我々の前にあるのは戦場ではない。市場だ。しかも売り場である。すべてのものに値段がついている。軍はこけおどし(一滩烂泥)に成り下がっている」と言っている。
 軍はこのように骨の髄まで腐りきっているので改革が必要なのだ。解放軍の魂を作り替えなければならない。
 2016年末から17年にかけ、軍内で将官級の人事異動が頻繁に行われたのは、習近平による改革の一環である。」


2017.02.01

トランプ氏と「一つの中国」

 トランプ氏は大統領就任以前から「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」「一つの中国に関する原則も交渉対象となる」(それぞれ1月11日のFOXテレビ、13日の米紙ウォールストリート・ジャーナル)などと述べて物議をかもしている。この際、「一つの中国」原則を確かめておこう。昨年12月24日の「(短評)トランプ新政権の対中姿勢」と併せてご覧いただきたい。

 まず「中国」「中華人民共和国」「台湾」を区別する必要がある。とくに、「中国」と「中華人民共和国」は同じ意味で使われることが多いのでその区別は重要だ。さらにこれらのほか、「中華民国」もあるが、特に断らない限り「中華民国」と「台湾」を区別せず、単に「台湾」と呼ぶこととする。

 「一つの中国」というが「中国」という名称の国はない。現在ないだけでなく、太古の昔からなかった。一方、「中華人民共和国」は実在する国家だ。以前の「清」「明」「唐」なども実在する国家であった。
 では「中国」はまったく存在しないかと言えば、それは微妙な問題で、「中華人民共和国」政府は、存在するという立場であり、その立場に立って「中華人民共和国」も「台湾」も「中国」に属すると主張している。しかし現実には、大陸は「中華人民共和国」が支配し、台湾島は「中華民国」が支配しているので、主張でなく目標に過ぎない。そこで「中華人民共和国」は「一つの中国」を標榜して、「台湾」を「中華人民共和国」のもとで統一したい、つまり、「中国」イコール「中華人民共和国」イコール「中国大陸プラス台湾島」にしたいのだ。

 実は、「台湾」すなわち「中華民国」もかつては「一つの中国」の立場であり、「中国」イコール「中華民国」イコール「中国大陸プラス台湾島」とすることを目標にしていた。
 しかし、現在はそのような主張をしなくなっている。それは、「中華人民共和国」バージョンの「一つの中国」に乗り換えたからでない。「中華民国」バージョンの「一つの中国」の目標、すなわち、「台湾」が中国大陸を征服することなどありえず、政策目標として掲げるべきでないと考えるようなったからだ。

 現在、蔡英文総統は「一つの中国」問題について極めて慎重な態度であり、賛成、あるいは反対と旗幟鮮明にすることを避けている。その説明は、大胆に分かりやすくすれば、「一つの中国について台湾内部にコンセンサスがない現状では、政府として特定の立場に立つべきでない。民主的にコンセンサスが形成されるのを待つ」という考えだと思う。
 これに対し「中華人民共和国」は、蔡英文総統がそのように態度をあいまいにしているのは腹の中で「台湾独立」を企んでいるからだとみなして激しく非難している。

 トランプ氏は米国政府の立場を変更したか否か。日本と米国はそれぞれ1972年と79年に「中華人民共和国」と国交を樹立した。その時から「一つの中国」は問題であったが、日本は「一つの中国」を認めるとは言わなかった。米国は、「中華人民共和国がそのように主張していることに異論を唱えない」と表明するにとどめた。日米両国とも「一つの中国」は意味不明であり、また、一部は明らかに現実でないのでそれを正しいと認めなかったのだと思う。
 トランプ氏の「一つの中国の原則に縛られない」との発言は従来の米政府の説明と感じが違っており、中国は反発しているが、米国が立場を変えたとは単純に断定できない面がある。解釈問題だ。
 また、トランプ氏は「一つの中国原則も交渉の対象となる」とも言っているが、中国は交渉の対象にしないだろう。
 そう考えると、トランプ発言自体はさほど深刻な問題になると思えないが、米新政権の中国政策、とくに台湾の扱いは注意が必要だ。


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