平和外交研究所

中国

2017.03.08

(短文)中国の全国人民代表大会(議会)と国内の不満

 中国では現在、全人代(全国人民代表大会 議会のこと)が開かれている。米国に拠点がある『多維新聞』は次のように報道している。

 「李克強首相は恒例の「政府工作報告(政府活動報告)」の中で民衆の不満に言及し、特に極度の貧困の解消を強調し、「現在の五か年計画に従い2020年に「小康社会」、つまり「いくらかゆとりのある社会」を実現するには、まだ4335万人もいる年収3千元(約49000円)以下の人達に対して貧困対策を講じられるかがカギである」と述べ、注目されている。
 政府の計画では、山間地帯の貧困住民1000万人のうち今年は340万人を他の地域へ移住させることになっているが、受け入れる地域は負担に耐えられるか新しい問題が発生している。移住民の住居は規模や外観などをできるだけ変えないように作られているが、彼らが住んでいた元の住まいとは大きく異なることが多く、不満が出ている。
 一方、移住先にとっては重い経済負担となり、治安問題も発生している。
 李克強報告で明らかにされたのは氷山の一角である。民衆の不満は必ずしも貧困にあるのではない。腐敗、社会資源分配の極度の不公平、経済発展の数字を盲目的に追求すること、過剰生産、環境悪化、経済成長の低下による心理的不安、大規模失業などである。」

 『多維新聞』はさらに、「全人代で、中国の大企業のトップクラスで年収1元の人が少なくないこと、アリババの馬雲もその一人であることが報告された。これらの人は企業を支えるために自己を犠牲にしているなどと言って擁護する人もいるが、実態は租税回避である」とコメントしている。

2017.02.27

中国の仕打ちに怒りをあらわにした北朝鮮

 中国は2月18日、本年度の北朝鮮産石炭輸入を暫定的に停止すると発表した。石炭は北朝鮮にとっては貴重な外貨収入源であり、この輸出ができなくなると経済全体に影響が及ぶ。
 北朝鮮は23日、朝鮮中央通信論評という形で激しく反発した。中国の名指しはせず、「『親善的な隣国』だと言っている周辺国」としたものの、内容的には明確な、しかも強い感情がほとばしり出た中国非難であった。

 同論評は、「朝鮮(北朝鮮)が12日に成功させた「北極星2号」型地対地中距離弾道ミサイルについて、国際社会は朝鮮の核打撃能力が高度に達していることを認識したのに、その国は「初級段階の核技術に過ぎない、今回の実験でもっとも損をするのは挑戦だ」などと言った」とも批判した(読みやすくするため直訳しなかった部分がある)。つまり、先日行ったミサイルの発射実験について国際社会は技術力の高さを認めたのに、中国だけは「初級段階だ」とけなしたと言っているのである。この「初級段階云々」のコメントは具体的に中国のだれが言ったのか不明だ。
 また、同論評は、「何かというとすぐに国連の制裁決議は民生活動には影響を与えないと言うが、実際には敵対勢力と結託して朝鮮を打倒しようとしている。対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じた」と非難した。経済制裁によって北朝鮮が深刻な影響を受けることを、事実上にせよ、初めて認めたケースだと思われる。

 中国が石炭輸入を停止したのは、北朝鮮が2月12日にミサイルの発射実験を行ったことが直接的なきっかけである。
 その翌日に起こった金正男の暗殺は関係しているか。今まで何回ミサイル実験が行われても中国がこれほどまでに厳しい措置をとることはなかったので、今回はさらなる事情が加わったと見るべきであろう。金正男はマカオを中心に生活しており、中国との関係が深かったのは事実だ。しかし、今回の事件については、明確でないこと、確認できないことがあまりにも多すぎるので、現段階では何とも言えない。
 それより気になるのは、中国は米新政権から北朝鮮への働きかけを強化するよう強い要請を受けていたことである。北朝鮮は今回の論評の表題で中国のことを「卑しい」と非難しているのだが、中国は北朝鮮に厳しい態度を取ることにより米国の歓心を買おうとした、つまり北朝鮮を米国に売り渡そうとしたと見ている可能性がある。

 一方、ミサイルの発射実験以降の北朝鮮の状況をどう見るべきか。北朝鮮のイメージがますます悪化したことは否めないが、イメージ悪化の原因となったことを金正恩委員長がすべて直接指示したかは不明だ。次のような状況があるからだ。
 第1に、金正男を殺害することが北朝鮮にとってどれほどの意味があったのか。同氏は権力の中枢からすでに離れており、金正恩の地位を脅かす存在ではなかったはずだ。事件発生後に、亡命政権を樹立しようとする人たちにかつがれる可能性があったという説が出ているが、それを裏付ける根拠はあまりにも乏しい。
 第2に、久しく待望してきた米国との対話の開始に向けて予備的な接触が始まっていた(始まろうとしていた?)。そのようなときに国際社会から強く非難される人道問題を起こすかという疑問がある。

 北朝鮮は閉鎖的で、状況は不透明だ。乏しい材料を膨らまし、推測に推測を重ねるようなことは差し控えるべきであるが、このようにちぐはぐな状況は金正恩委員長が国政のすべてを牛耳っているのではない可能性を示唆しているのかもしれない。
2017.02.20

(短文)中国の安全を確保しなければならない?

 2月17日、中国で「国家安全工作座談会」が開かれた。座談会が1回開かれたことに何の意味があるのかと疑問に思われる読者も少なくないだろうが、これは重要な会議だったと思う。
 中国では、「座談会」と言っても日本語とは語感がかなり違っており、政治的に重要な問題が議論され、新しい方針が示されることもある。日本では、政府の指導者、たとえば首相が主催する「座談会」などまずないだろう。
 また、日本では座談会と言えば「文芸座談会」的なことが想像されるが、中国では「国家の安全」について座談会が開かれる。

 「国家の安全」とは具体的にどういう意味か。中国はなぜ今、このような会議を開いたのか。日本で国家の安全に関する会議が開かれるのは北朝鮮による核・ミサイルの実験ぐらいであるが、中国の今回の座談会はさる2月12日のミサイル実験について協議することが目的ではなかったと思う。北朝鮮への言及はなかったようだし、そもそも、中国は北朝鮮の核・ミサイルの実験を嫌っていても、脅威に思っていない。

 南シナ海問題は開催理由の一つだったかもしれないが、それについてもとくにとくに手掛かりはない。
 習近平主席は「国家安全委員会主席」の肩書で今次座談会に出席し、会議を主催し、講話を行った。そのなかで、習近平主席は「国際秩序の大変革」「世界の多極化」「グローバル化」などに言及し、また、「国際社会をリードして公正合理的な世界の新秩序を作り上げなければならない」などとも言っているが、講話の背景として述べている印象である。
 座談会には習近平主席、李克強首相のほか、公安部長の郭声琨、新疆维ウイグル自治区党委員会書記(同自治区のナンバーワン)の陳全国などが出席した。外交部からは同部党委員会書記の張業遂次官が出席した。
 新疆自治区からは「安全工作」つまり、安全確保のために自治区政府が行った業務を報告した。
 范長龍中央軍事委員会副主席は他の部門からの出席者と同列に紹介されているだけである。南シナ海問題が主要テーマであれば、そのような扱いにならないと思う。
 
 今回の座談会の趣旨は、国内の安全について意見交換し、また習近平から注意を促し、かつ檄を飛ばすことにあったとみられる。
 習近平主席は安全工作をしっかりとするように指示しているのだが、その中で「国際情勢がどのように変化しようと」とか、「心を乱されず、自信をもって、粘り強く」とか、「踏み越えてはならない線についてしっかりとした考えをもって」などと気になる発言もしている。これらが具体的にどのような状況や方針を指しているのか明らかでないが、習近平主席が現在の治安状況に懸念を抱き、関係部門の対応に満足していないことが示されている。
 さらに言えば、テロ攻撃や民主化運動の激化を警戒しているのであろう。中国政府は人権派と言われる人たちに対する締め付けを緩めていない。強化している面もある。
 今回の座談会で話し合われたことは国内の各種の不満、民主化運動、テロ攻撃などとともに今後も注目していくべきだと思う。

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