平和外交研究所

中国

2017.04.15

中国軍における「有償業務」の廃止

 中国軍における反腐敗運動について当研究所は数回論評してきた。最近では2月6日に「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」を掲載し、軍における反腐敗運動として様々なことが行われたが、習近平主席は不満であり、「軍は骨の髄まで腐りきっているので改革が必要だ。解放軍の魂を作り替えなければならない」とまで言う人もいることを紹介した。以下は軍改革のフォローアップである。

 中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
 具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
 「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
 「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
 「幼児教育」? 一体何事か。

 中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。

 習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
 残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
 
2017.04.14

トランプ大統領と中国

 北朝鮮は第6回目の核やミサイルの実験を強行するか、もしそうすれば米国は先制攻撃するか。今世界の注目はこの点に絞られている感があるが、米国が先制攻撃する可能性は低いことを4月13日、当研究所HPの「トランプ大統領は北朝鮮攻撃を決断するか」で書いた。
 
 この問題をめぐる米国と中国の関係は複雑だし、それによく変わる。トランプ大統領は4月6~7日に習近平主席と会談したが、記者会見も発表も行われなかった。合意したことが少なかったからだろうが、12日、トランプ大統領はFOXニュースの番組「FOXニュース・ビジネス」のインタビューでシリア攻撃について習近平国家主席に対し説明した時、習氏は次のような反応だったという(翌日の『ハッフィントン・ポスト』報道による。読みやすくするため若干手を加えた)。
「習氏は10秒くらい何も言わなかったが、通訳を通じて『もう1度言ってほしい』と聞き返してきた。それから習氏は『小さな子供や赤ん坊にまで化学兵器を使う残忍な人には、ミサイルを発射しても大丈夫だ』と言った。習氏は怒らなかった。大丈夫だった。」
 
 このほか、両者の会談では、トランプ氏から中国が一層努力すべきだと説得したのは間違いない。しかし、これだけであれば何十回と試みたことの繰り返しに過ぎないが、トランプ氏はさらに、「私は中国の習近平主席に説明した。中国が北朝鮮問題を解決するなら、米国との通商交渉ははるかによいものとなると」言っていた。これは11日のツイッターで述べたことであり、この発言はいかにもトランプ氏らしい。「カネで釣ろうとしている」とも解される恐れのある発言だが。

 一方、習氏は、中国の影響力には限界がある、話し合いで解決することが必要だと述べたのだろう。米側からの求めで両氏が12日、再び電話会談した際、やはり「習近平主席は平和的な方法で問題を解決すべきだ」と述べたと中国外務省が説明している。習氏は同じ姿勢だったのだ。
 トランプ氏が電話したのは、空母と攻撃能力が高い潜水艦を朝鮮半島に派遣したことを伝えるためだったと言われている。米国の本気度を示そうという気持ちもあったと思われる。

 以上は、米中関係がこれまでとあまり変化がないことを示しているが、進展しつつあることを示唆することも出てきた。
 12日、安保理はシリアで化学兵器が使われた疑惑について、同国政府に調査への協力を求める決議案の採決を行った。ロシアが拒否権を行使して廃案となったが、中国は棄権した。
 翌日、スパイサー大統領報道官は記者会見で「 China’s abstention is a significant win for the President. He went down and had discussions with President Xi and I think you all saw that, heard his remarks about how he walked through. It really shows the success of the trip, first and foremost.」と述べた。トランプ大統領が習近平主席に働きかけたので中国は「ノー」でなく「棄権」にとどめたというのだろう。
 トランプ大統領自身も、「12日の一連の会見やインタビューで、習近平主席との「絆」に言及した」(12日、ロイター電)。「習近平国家主席は適切に行動しようとしている。(中国に向かった北朝鮮の石炭貨物船が引き返したとし)中国が懸命に努力しようとしている」と評価した(『朝日新聞』14日付)。
 また、就任前から繰り返し中国批判を180度転換させ、中国を為替操作国には認定しないとの意向を示した(12日、『ウォールストリート・ジャーナル』)。
 
 中国は米国に対し一定の配慮はしているだろうが、トランプ大統領は変わり身が早く、予測困難であり、基本的にはこれからも警戒し続けるだろう。
 同時に、「一つの中国」問題で中国側が断固とした姿勢でトランプ大統領を変えさせたことから、トランプ大統領は意外とくみしやすいという見方が中国にあるようだ。分からないでもないが、中国の指導者がそこまで自信を持てるようになっているとは思えない。
 ともかく、そのような可能性も含めて米中関係を見ていく必要がありそうだ。

2017.04.10

トランプ・習会談と貿易合意

 米中首脳会談についての感想である。
 
 まず、トランプ大統領の「初めての直接会談で米中関係は大きく前進した」という評価を額面通り受け取る気持ちにはなれない。
 北朝鮮問題は、基本的にはこれまで何十回と繰り返してきたやり取りの繰り返しだったようだ。
 「すべての選択肢がテーブルの上にある」「中国がしないなら米国だけで行動する」などの発言は軍事行動を示唆しているとして注目されているが、20数年前に米国が検討した軍事行動の是非と今は何が違うか。20年前、北朝鮮は核を持っていなかった。今、軍事行動はその時よりももっと困難ではないか。
 ともかく、片言隻句をとらえて想像をたくましくするようなことでは実態は分からないし、いたずらに混乱するだけだ。
発言する方も問題だ。ほんとうに確信があってのことか。トランプ政権に見られがちなレトリック/口先だけに過ぎないのではないか。
 
 政治・安全保障面での最大の問題である東シナ海・南シナ海問題については、トランプ氏は中国が国際規範を守ること、南シナ海を軍事拠点化しないとの習近平主席の発言を守ることを求め、また、米国は「自由の航行作戦」を強化する方針であることを伝えた。
 これに対する中国側の発言は公表されていない。この問題について前進があったとは思えないが、オバマ・習会談の時のように公の場で双方がまったく違う見解を主張しあうことを避けたのは特に中国として賢明な対処であった。
 
 一方、中国側の発表としては新華社通信の報道があるが、「両首脳は深く、友好的に、長時間会談し、新たなスタート地点から中米関係を発展させることに合意した」と言っているだけで、この報道も今次会談の政治・安全保障面の成果を伝えているとは思えない。もっとも、中国は今回の会談が決定される前からトランプ大統領の出方を強く警戒しており、いかにして会談を失敗させないかを目標としていた。新華社報道は中国側としてその目標は達成されたと認識していることを示している。

 今次会談の成果は貿易不均衡を是正するために「100日計画(100-day plan)」を作成する合意である。その内容はこれから詰めることとなるが、米国に拠点がある『多維新聞』は、中国は金融と牛肉の輸入に関し国内市場を開放する案を考慮していると報道している。また、トランプ大統領は米国の鉄鋼輸入に関する行政命令を発出する考えであり、その内容はとくに中国に厳しいものとなるとの観測を米政府への取材結果に基づき報道してい

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