平和外交研究所

中国

2014.05.01

習近平の少数民族対策

4月30日、新疆ウイグル自治区のウルムチ南駅で爆発事件が発生し、数十名の死傷者が出た。無差別に人を攻撃するテロは世界のどこで起きようと憎むべきことであるが、この事件には少数民族問題が絡んでいる。同自治区ではウイグル族と漢族の対立が過去何回も起こっていたところ、2009年からまた対立が激化し、死傷者を出す衝突事件が続いてきた。2013年10月には、中国共産党の重要会議(第18期3中全会)の開催を間近にして天安門前広場で車両が突っ込むという一大事件が起こり、今年の3月には雲南省昆明で無差別殺傷事件が発生した。
これらの事件は中国政府にとって頭の痛い問題であり、対策を強化しようとするのは当然であるが、習近平政権の対応にはいくつかの特徴がある。
第1に、中国政府は、これらの事件を「テロ」として発表し、「少数民族問題」という側面は目立たないように努めている。実際には少数民族の間に不満が鬱積しており、時には政府に対して反抗することがあるのは常識であるが、中国政府は、そのような問題は深刻でないというふりをしようとしているのではないか。また、無差別攻撃事件を起こすテロは不幸なことに世界のいたるところで問題となっており、中国で起こっている事件はそのような世界的な現象と同じであり、中国だけが特別なのではないと強調しようとしているのではないか。
第2に、少数民族居住地域で不満が爆発する事件が起こると、政府は再発を防止するためと称して、監視とコントロールを強化し、はなはだしい場合には(これが少なくないようだが)正当な手続きを経ないで、したがってまた人権侵害を冒してまで関係者を拘束し、あるいは反抗の拠点となりそうな施設を封鎖したり、破壊したりしている。
第3に、宗教が絡むことが多い。新疆ウイグル自治区の場合はイスラム教のモスクが当局による弾圧の対象となっている。また、政府の意のままにならないキリスト教徒に圧力を加え、完成直前まで建築が進んでいる教会を取り壊すことも辞さない。中国には政府に協力的、すなわち政府の意のままになるキリスト教徒もいるが、政府に反抗しがちなキリスト教徒は少数民族と類似の立場にある。
第4に、習近平政権は、言論の自由を認めず強い統制を加えている。民主化要求などが暴発しないよう、早い段階から芽を摘んでおくためであり、一種の早期対応体制を敷いているのである。少数民族に対しても同様の発想で、つまり、早い段階から強い措置で対応する方針のようである。今回の事件においても、爆発現場の状況を伝えるインターネットは次々に消されている。
第5に、習近平政権の対応には一種の危うさを感じる。取り締まりと弾圧を強化するだけで、国民の不満を吸収・コントロールできるか。ウルムチで爆発事件が起こったのは、習近平が同地の視察を行なっていた間に発生した。習近平はかねてから新疆自治区の状況と指導者に不満であり(3月9日のブログ参照)、今回周到な準備をし、また民族問題担当の政治局常務委員俞正声と軍人のトップである范長龍中央軍事員会副主席を帯同し、前線を視察などしたのは新疆ウイグル自治区での統治を抜本的に改善しようとしたためであろう。
このような姿勢はいかにも習近平らしい対処ぶりである。
第6に、習近平はウルムチの視察中、「赤い遺伝子を官僚と兵士の血管に埋め込み、代々受け継がれていくようにしなければならない」と語っている(『多維新聞』4月29日付)。この言葉は、共産党の支配を強めなければならないことを強調しようとしているのであろうが、現在の官僚や兵士にはそれが足りないことを暗示しているようにも聞こえる。

2014.04.23

台湾の南シナ海に対する主権主張

南シナ海の「牛の舌(南シナ海の全域、中国語では九段線)」に対し中国は主権を主張しており、その関係でやはり南シナ海の島礁に対し主権を主張する東南アジア諸国との間で争いが生じており、また、そのために中国と米国との間でも意見の不一致が生じているのは周知のことである。
米国政府は、このような領土主権に関する争いは平和的な話し合いで解決すべきであるという立場を従来から堅持しているが、米国にはこの問題に台湾をかませるべきでないかという意見が研究者の間にあり、今回のオバマ大統領の4カ国訪問に際しても、米国は台湾に南シナ海にたいする立場をあらためてはっきりさせるのがよい。そうすることによって中台間にくさびを打ち込むことができる、と言われているそうである。

台湾の南シナ海に対する立場は「主権は台湾にある。争いは棚上げする。平和互恵。共同開発」ということである。馬英九総統は一貫してこの立場を貫いており、台湾国防部の夏立言副部長も4月初め米国で台湾の立場はまったく変わらないと答えつつ、この問題について台湾を引き込むことは地域全体にとって有益でないと述べていた。

米中の間にある台湾にとってこれは非常に複雑、困難な問題である。中国は南シナ海と同時に台湾も自国の領土であると主張しており、両者は一体の戦略である。一方、台湾は、米国が台湾を防衛することを絶対的に必要としており、中国と同じ戦略はとれない。にもかかわらず南シナ海に対して中国と同様主権を主張することは、自己に都合のよいことだけを主張するものであり、それは許されない。
上記の米国の研究者は、このような台湾の主張が矛盾している面を突き、台湾は中国に対して台湾の立場は異なることを示すべきであり、その結果中台間の関係が悪化してもむしろそれは歓迎すべきことであるという考えである。
(4月22日付の『多維新聞』の記事に、若干の解説を加えた。)

2014.04.20

習近平の人事構想か

中国雑記として記載したほうがよいかもしれないが、一つのトピックとして、4月18日付『多維新聞』の報道を紹介する。

「習近平が最高指導者となって以来、自分に近い人物を抜擢していることは周知のことである。しかるにロイター社は7人の消息通の話として、習近平は今後数年間に200名近い浙江省の優れた人材を抜擢し、中央政府の要職につける計画であると報じており、注目を集めている。確認されていないことであり、可能性は低いと見るべきかもしれないが、多維新聞はこの報道より先に、習近平は行政、組織(人事)、党建設、経済、宣伝などキーポストに、多数の「よく知っている人」を起用していることを報じていた。そのなかには、大学の同窓生である陳希(党中央組織部常務副部長 つまり同部のナンバー2)、中学時代から旧知の劉鶴(国家発展改革委員会副主任、中国経済の立て直しを託されているキーマン)、かつての部下であった何毅亭(中央党校常務副校長、同校のナンバー2)、李書磊(福建省委員会の宣伝部長)なども含まれている。しかしさらに多いのが、習近平が河北、福建、浙江、上海で勤務していた時の同僚、将官、近親であり、なかでも多いのが浙江である。なぜ浙江省の官吏が異彩を放っているかであるが、浙江省は習近平の施政の実験場という特殊な地位にあるからである。」

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