平和外交研究所

中国

2014.07.09

習近平の内外の強硬姿勢

何気ない発言に真実を垣間見ることがある。北京外国語大学の喬木助教授は7月8日まで休暇を取って来日し、杉並区長選挙、調布市長選挙などを視察した。大学ではメディア論を教えつつ、米国、エジプト、台湾などで選挙の視察をし、今回初めて日本に来たそうだ。自らも全国人民代表大会の選挙に出て、共産党推薦の候補に僅差で敗れた経験もあり、いわゆる新公民運動の活動家である。この人が、「中国でも普通選挙が15年後に実現すると信じている。10年後と言っていたが、習近平政権となってから5年延ばした」と言っている(『朝日新聞』7月9日付)。習近平政権は中国の民主化を5年間遅らせたというわけであり、その特徴をよく表していると思う。
習近平は前任の誰よりも腐敗撲滅に力を入れている。6月30日には長らくうわさに上っていた徐才厚元中央軍事委員会副主任について汚職の罪で処罰し、党籍をはく奪する決定を政治局会議で決定した。中央軍事委員会副主任は軍のナンバー2(一人ではないが)であり、習近平政権の下で汚職の罪で摘発された者のなかで最高の権力者であったとみてよい。周永康元政治局常務委員の処分が決定されるとさらにハイレベルの摘発となるが、これはまだ最終段階になっていないらしい。
習近平は軍内においても汚職追及の手を緩めていない。また、習近平は「軍事改革小組」の主任に就任するなど、何でも自分が長となって実行するという姿勢を軍に対しても見せている。習近平は中央軍事委員会の主任であるから形式的にはすでにナンバーワンになっているのだが、実際の権力をも掌握しようとしているのである。
一方、習近平は、民主化運動はさらに容赦なく弾圧しており、活動家、言論人を投獄している。今年の5月に私の編著で『習近平政権の言論統制』を出版したが、その後も言論弾圧が続いているので、続編が必要かと思っている。
習近平主席は最近韓国を訪問し、朴槿恵大統領とともに歴史問題などで日本に対し厳しい態度を見せた。帰国後まもなく7・7記念日、すなわち日中戦争勃発の記念日に北京郊外の「抗日戦争記念館」で、「日本の侵略者の野蛮な侵略に対し、全国の人々が命を省みず、偉大な闘争に身を投じた。今も少数の者が歴史の事実を無視しようとしているが、歴史をねじ曲げようとする者を中国と各国の人民は決して認めない」などと強調し、中国の抗日戦争を「世界反ファシズム戦争の東の主戦場」と位置づけた。
習近平は最近自らの著作を出版しており、そのなかで、「私は中国の近代史をいつも読んでいる。立ち遅れ、打ちのめされる悲惨な情景を思うと胸が張り裂ける」と述べている。これは日清戦争で敗北した時のことを言っているのだが、中国が近代化を達成し、世界第2の経済大国となり、政治的にも世界中から注目されるようになっている現在でもそのようなことを口にする状況にあるのである。これは習近平に限ったことでなく、多くの中国人に共通の感情である。だからこそ、7・7記念日に生物兵器の人体実験を行なった731(石井)部隊の記事が複数写真入りで出たり、また一方では、「日本はまだ多くの分野で世界一だ」という記事も出るのであろう。
ともかく、習近平が対日政策面で強硬な態度を取っているのは歴史の影響があるからであるが、それだけではなく、内政で民主化を許さないと強硬姿勢を取っていることとも関連があると思われる。習近平は、現体制を維持できるかについて実は心の奥底で自信を持てないのではないか。喬木氏も「言論封じは党の自信のなさの表れ」と喝破している。

2014.07.04

日中間の緊急連絡体制

THEPAGE(7月1日)に掲載された一文。

「最近、中国機が日本の自衛隊機に異常接近する事例が相次いで起こっています。また中国海軍艦艇による海上自衛隊の護衛艦に対する大胆な行動も起こっています。このようなことは日中間の問題にとどまらず、東アジアの平和と安全にとっても懸念すべき問題です。
日中両国は不測の事態が起きないよう努めなければなりません。また、発生してしまった場合には事件の拡大を防止し、迅速に鎮静化させることが必要です。このために両国間に緊急連絡体制、つまりホットラインを設置することが検討されています。
日中間では、事件もさることながら民間航空機事故、自然災害、環境などの面で協力しなければならないことが増えており、そのためにも緊急連絡体制の早期構築が望まれます。
日中両政府間では2007年、安倍首相と来日した温家宝中国首相との間で、中国国防部長の訪日や艦艇の相互訪問の早期実施、海上における両国間の連絡体制設置について議論していくことなどが合意されました。さらに、2011年7月の防衛次官級協議で緊急連絡体制を早期に構築することで意見が一致しました。その頃まで両国間の話し合いは順調だったのですが、翌年、尖閣諸島の関係などで日中関係が悪化し、連絡体制の設置についての話し合いも中断してしまいました。
21世紀の今日、国家間の戦争が起こる危険は少なくなっていますが、誤解により偶発的に紛争が起こる危険があります。緊急連絡体制は、事件が起こった場合に、相手国政府の意図を早く確認するのに役立ちます。また、事件の事後処理においてもおたがいに状況や処理方針を確認しあうことは重要です。
中断している日中間の協議を復活しなければなりません。日本側はいつでもこの協議を再開したい考えであり、たとえば2014年5月末にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)でも、小野寺防衛大臣は中国側の代表に対し早期設置に向けた協議の再開・促進を呼びかけました。また、安倍首相はこの会議で「危険な遭遇を歓迎しない。交わすべきは言葉です」と発言しました。
これに対し中国側は、今は話し合いを進める状況にないと言っていますが、関係のよくない時にこそ緊急連絡体制が必要であるというのが日本側の考えです。
 冷戦中に米軍とソ連軍との間で何回も起こった衝突や対立は、その後両国間に協定ができて状況は改善されたと言われています。これ以外の国でも偶発的に起こった事件の拡大を防ぐ手立てが講じられています。日本と中国との間でも、危険の発生を未然に防止し、事件が起きても拡大しないよう協議するメカニズムの構築が待たれます。」

2014.07.01

中国機の異常接近問題

THEPAGEに6月27日掲載されたもの。

「最近、中国のスホイ27型戦闘機が日本の自衛隊機に異常接近する事件が立て続けに発生しました。最初は5月24日、場所は東シナ海の日中中間線付近でした。中国機は自衛隊機から30~50メートルくらいの距離まで接近してきたので非常に危険な状態になりました。第2回目は、6月11日。場所は前回と同様東シナ海です。
日本側は、外交ルートを通じて中国側に対し、危険な行為について抗議するとともに不測の事態を回避するよう求めました。
 これに対し中国側は、中国機の方からではなく、日本の自衛隊機が接近してきたと主張しています。日本側では2回とも写真を撮っており、公表しました。中国側も第2回目の時は、現場で撮影したとする写真を公表しました。しかしながら静止写真でははたしてどちらから接近したか決め手にならないので、日本側では飛行中にビデオ撮影ができるよう準備を進めています。
中国機の異常接近の背景に、2013年11月、中国による「東シナ海防空識別区」の設定がありました。飛んでくる飛行機が無害であることを確かめるための識別圏設定は日本も含め国際的に広く行われていますが、中国が設定した識別圏はかなりの範囲にわたって日本の識別圏と重なっており、そうなると識別に混乱が生じ、また、民間の航空機に余計な負担をかける恐れがあります。しかも中国が設定した空域は,日本の領土である尖閣諸島の領空があたかも「中国の領空」であるかのごとき表示をしています。
日本政府は中国政府に強い懸念を表明し、その撤回を求めましたが、中国側は聞き入れない状態が続いていました。
艦艇同士の間でも問題が発生しています。2013年1月、同じ東シナ海海上で中国海軍の艦艇が海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に搭載の哨戒ヘリコプターに向け射撃用のレーダーを照射する事件が起こりました。これは実弾の発射ではありませんが、狙いをつけるのに等しい危険な行為です。中国国防部はそのような事実はないと否定していますが、中国艦の艦長が独断で行なった可能性があります。
これらの事件は悪化している日中関係を反映しているものと思われます。2012年9月、日本政府は不要な摩擦を避けるため尖閣諸島を国有化したのに対し、中国側がこれを不服として反発しました。前述した事件はすべてそれ以降に発生しています。
しかし、日本との間だけでなく、中国は他国に対しても強硬な行動を取っています。2001年には中国の戦闘機が米軍機に接触して墜落し、パイロットが死亡するという事件が起きました。米国の艦船が中国の官憲から妨害を受ける事件も起きています。
中国はフィリピンやベトナムとも南シナ海における島嶼の帰属と資源の開発をめぐって対立しており、ベトナムに対しては軍艦を派遣しています。
中国は、かつて帝国主義の侵略を受けて海洋への進出が遅れたという認識の下に、海洋大国になる国家戦略をたてています。これが根本的な問題であり、中国は東シナ海や南シナ海などで、国際法違反になるおそれを顧みず、領土主張を強め、また資源確保のために大胆な行動を取っており、その結果近隣諸国と摩擦を起こしています。これに対し日本をはじめ各国は国際法にしたがって対処し、東アジアの平和維持と安定のため粘り強く中国を説得し、事態の拡大を防止し、鎮静化を図ることが必要です。」

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