平和外交研究所

中国

2014.06.15

素顔の中国人①

「哈日族と抗日ドラマ」をテーマとした青樹明子氏の講演を聞いた。同氏は約17年間中国に居住し、北京師範大学、北京語言大学などで中国語を学んだ後1998年から2001年まで中国国際放送局に勤務した。
「哈日族」とは日本のアニメ、コスプレ、Jポップなど日本の現代文化を愛好する人たちのことで、もともと台湾の社会現象から生まれた言葉であったが中国へも波及し、今では中国にも「哈日族」がいるのである。
彼女の講演ではつぎの諸点が印象的であった。

○青樹氏は中国における豊かな経験をつうじて、共産党の支配体制の維持や金儲けに忙しい中国人でなく、日本人とも、またおそらく世界のどの国の人たちとも共通の感覚を持ち、また、日本の文化に対して興味を抱けばその気持ちを率直に表明できる若者と知りあった。我々は何らかの職業の関係で中国に滞在するのが普通であり、目の前に現れてくる中国人は多かれ少なかれ色がついており、自然な姿をさらけ出すことはまず期待できないが、ラジオ放送を通じて知り合った中国人は飾らない、素顔の人たちであり、彼女の体験はそれだけに貴重である。
○中国人は実は日本に好意を抱いている。もっとも、このことについてはいくつかの注釈が必要である。
まず、年代によって状況は違っている。日本に対し好意を持つ中国人は若者、とくに20歳以下が多い。世代別の調査によると、15-20歳代は12.3%が日本を好むが、21-30歳代になるとその3分の1くらいに激減する。
それはともかく、15-20歳代が日本を最も好む割合は他のどの国と比べても高く、日本の次ぎはフランス、米国、韓国となっている。
この傾向は学生の専攻科目選択においても同じことである。すなわち、過去5年間、大学を受験する学生の志望者が多かったのが英語、次いでコンピュータ、ITビジネス、その次に日本語であった。英語が一番なのは自然な結果なのであろう。コンピュータとITの次に日本語が来るのは意外な気持さえするが、受験生は「好み」で専攻を選ぶ傾向がかなり強いからだそうだ。専攻を選ぶ基準として「就職」と答えた者は意外に少なく(25.2%)、40.1%が「好み」で選ぶと答えている。
○中国にはこのような飾らない人たちがいることを感じている日本人は、中国で生活体験のあるなしにかかわらず、少なくないであろう。しかし、青樹氏の場合は完全にメークを洗い落とした中国人と接触することができた。それは、彼女が日本語で語りかけるのに耳を傾けるというラジオ放送の空間で初めて現れてきたことなのであろう。若者に限らないが、インターネットを通じて初めて知り合う人がいる。何の前提条件もなく、また、脅威を感じることのない状況で知り合うことができるのはインターネットもラジオ放送も共通なのかもしれない。しかもラジオの場合はインターネットのような不確かさが少ない。彼女の場合は中国当局から保証をえながら、当局がともすれば隠したがる素顔の中国人を知ることができたのである。
○青樹氏は知り合った人たちと北京郊外の抗日記念館に行こうと誘った時のことを話してくれた。数人いたが、どの中国人も行ったことはなかった。このこと自体ちょっとした発見であったが、これから行こうと誘ったら、なかに自分は行きたくないと断った人がいたそうであり、これは驚きであったらしい。
これはどういう事情なのか。もう少し聞きたかったが、他の質問に忙しく聞きそびれてしまった。ひょっとして、その人は共産党政権がすることなど全く信用していないのではないか。それはありうることだと思われる。

2014.06.04

天安門事件記念日

本日は天安門事件25周年記念日。中国政府はこの日を迎えるのに神経をとがらせ、デモが発生しないよう厳戒態勢を敷いている。外国人が関連の報道をするのをあまりに厳しく規制するので悶着も起こっている。中国人記者は政府によって厳しいコントロール下に置かれており、問題を起こすような状況でないようだ。
さる5月4日、中国は北京大学で5・4運動記念(95周年)行事を行なった。これは中国共産党にとってきわめて重要な記念日であり大々的に祝賀したかったが、1ヵ月後に、同党として祝いたくない天安門事件記念日を控えていたので、警戒態勢を敷き緊張した雰囲気のなかで記念行事を行った。民主化運動を恐れその芽を早期に摘んでしまおうとする習近平政権の面目躍如であった。
しかし、天安門事件の再評価を求める声は強い。25年前天安門広場で多数の死傷者を出してまでデモを武力鎮圧したことを正当化した当時の評価を変え、民主化運動を進めたいという気持ちは学生を中心に中国人の間で再び強くなっている。
しかし習近平政権は天安門事件の再評価を認めようとしない。学生による自由な行動を許すと民主化運動に火が付き収拾できなくなると恐れているからである。5・4運動は、第1次大戦後の秩序を確立したベルサイユ体制が、中国を侵略した日本の帝国主義的行動を認めたことに学生が抗議して起こしたものであり、中国民衆の政治的不満から中国共産党が生まれた。同党は今日事実上一党独裁を確立しているが、学生の運動はやはり恐れているのである。

5・4運動記念日と6・4天安門事件記念日のあいだで、中国の大国化がもたらす弊害を示す出来事が起こった。5月27日、ロスアンジェルスで7千人の中国人旅行者が押し寄せ、一緒に写真撮影した。これだけの規模の写真撮影は稀有というより前代未聞かもしれないが、そのこと自体はまだしも、彼らは国歌と「昇起五星紅旗」を合唱した。これは想像を絶することである。米国人はどのような目で見たのだろうか。かりに同じことが日本で起こればわれわれはどのような気持ちになるか想像に難くない。
さらに、この7千人の旅行者は、旅行はまだ終わっていないが、1人平均1万元、普通の旅行客の4倍をすでに消費したそうである。これは中国の国営通信社、新華社が29日に伝えていることである。
中国共産党は5・4運動から天安門事件までの95年間に、体制変革を求める立場から体制変革を恐れる立場に変わり、その間、中国人は米国有数の大都市の住民の耳目を驚かす、裕福で、気前がよく、さらにそれをひけらかすのを恥じない国民になったのだろうか。7千人は中国の人口からすれば、微々たる比率であり、これをもって中国人を一般化できないのは当然である。しかし、そのようにわずかな比率の中国人であっても、他の国では圧倒的に巨大なグループとなりうる。

2014.05.19

中国の土地問題②

現在の土地住宅制度は多くの問題を惹起しており、中国経済は非常に大きな危険にさらされている。

第一に、我々は農民の搾取と、住宅を購入するのに精いっぱいの人たちに対する税金で都市化を進めている。国民党は台湾へ移って以降土地改革を行ない、地主の土地を強制収用し、農民に与えた。農民は後に、土地を売買すること、賃貸に出すことが可能となり、政府は税を徴収した。価格上昇が100%の場合40%、200%なら50%などと税を賦課したが、一定程度農民に残したので、農民は手元に残った資金で企業を立ち上げることができた。台湾には多くの中小企業があるが、こうして形成された土地資本の基礎の上で企業を設立した。また、農民は金があるなら都市で住宅を購入することもできた。

中国の都市には年若い農民が3億人いるが、多くは高等学校(高中)を卒業後直ちに農村から出てきており、農村には帰れない。45歳以上の農民は30年後、40年後には寿命となる。結局、農村の住居は誰も住まなくなり、農村は衰え、消滅する。過去20年間ですでに100万の農村が消滅した。今後20年に、さらに100ないし200万がなくなると見られている。現在都市に滞在している3億人の農民のなかで自己の住居をもっているものはごく少数であり、大部分は工場の寝床、「城中村(都市の中の村)」、地下室、鳩小屋のようなところで暮らしている。今後20年、30年にさらに3億人が都市に流入するだろうが、住むところはない。一方、5年前、あるいは10年前に1平米5千元で購入した住宅が、平米5万元に値上がりしても税は取られない。政府は財を持つ者はそのままにしておいて貧しい人から税を徴収している。

政府はいつまでも土地を売り続けることはできない。都市化はいずれ終る。たとえば、ある都市に対し、中央は30平方キロの土地処分を許可したとする。5年間に、書記や市長は15平方キロを売り出した。次の5年間に次の書記や市長が15平方キロを譲渡した。全部処分したところで、中央はそれ以上の土地処分は許可しないだろう。どうなるか。
企業にとっても深刻な問題がある。50年の使用権を購入して起業したとする。50年後、その企業は貸与手続きを再び行い、一定額を納めなければならない。最初に購入した時は3万元、あるいは5万元であったものは20年もたつと大変値上がりしているであろう。そのとき購入費を負担できなければどうなるか。

土地使用の期限が切れると国有に戻るというのが法律だが、巨大な政治的・社会的危険がある。70年後 本来政府は人民のために奉仕するはずである。住居費が高騰すれば政府は貯蓄から経費を払って賄うべきである。もし、低下しすぎていれば政府は儲けている農民から貯蓄を取り上げればよい。これが農民を保護することになる。現在政府がしていることはその正反対である。価格が高騰していると飢餓売却をする。土地の価格が入札しても目標価格に達しなければ、政府は土地を渡さない。農民の土地は保護するのでなく、略奪している。

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