平和外交研究所

中国

2014.07.01

中国機の異常接近問題

THEPAGEに6月27日掲載されたもの。

「最近、中国のスホイ27型戦闘機が日本の自衛隊機に異常接近する事件が立て続けに発生しました。最初は5月24日、場所は東シナ海の日中中間線付近でした。中国機は自衛隊機から30~50メートルくらいの距離まで接近してきたので非常に危険な状態になりました。第2回目は、6月11日。場所は前回と同様東シナ海です。
日本側は、外交ルートを通じて中国側に対し、危険な行為について抗議するとともに不測の事態を回避するよう求めました。
 これに対し中国側は、中国機の方からではなく、日本の自衛隊機が接近してきたと主張しています。日本側では2回とも写真を撮っており、公表しました。中国側も第2回目の時は、現場で撮影したとする写真を公表しました。しかしながら静止写真でははたしてどちらから接近したか決め手にならないので、日本側では飛行中にビデオ撮影ができるよう準備を進めています。
中国機の異常接近の背景に、2013年11月、中国による「東シナ海防空識別区」の設定がありました。飛んでくる飛行機が無害であることを確かめるための識別圏設定は日本も含め国際的に広く行われていますが、中国が設定した識別圏はかなりの範囲にわたって日本の識別圏と重なっており、そうなると識別に混乱が生じ、また、民間の航空機に余計な負担をかける恐れがあります。しかも中国が設定した空域は,日本の領土である尖閣諸島の領空があたかも「中国の領空」であるかのごとき表示をしています。
日本政府は中国政府に強い懸念を表明し、その撤回を求めましたが、中国側は聞き入れない状態が続いていました。
艦艇同士の間でも問題が発生しています。2013年1月、同じ東シナ海海上で中国海軍の艦艇が海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に搭載の哨戒ヘリコプターに向け射撃用のレーダーを照射する事件が起こりました。これは実弾の発射ではありませんが、狙いをつけるのに等しい危険な行為です。中国国防部はそのような事実はないと否定していますが、中国艦の艦長が独断で行なった可能性があります。
これらの事件は悪化している日中関係を反映しているものと思われます。2012年9月、日本政府は不要な摩擦を避けるため尖閣諸島を国有化したのに対し、中国側がこれを不服として反発しました。前述した事件はすべてそれ以降に発生しています。
しかし、日本との間だけでなく、中国は他国に対しても強硬な行動を取っています。2001年には中国の戦闘機が米軍機に接触して墜落し、パイロットが死亡するという事件が起きました。米国の艦船が中国の官憲から妨害を受ける事件も起きています。
中国はフィリピンやベトナムとも南シナ海における島嶼の帰属と資源の開発をめぐって対立しており、ベトナムに対しては軍艦を派遣しています。
中国は、かつて帝国主義の侵略を受けて海洋への進出が遅れたという認識の下に、海洋大国になる国家戦略をたてています。これが根本的な問題であり、中国は東シナ海や南シナ海などで、国際法違反になるおそれを顧みず、領土主張を強め、また資源確保のために大胆な行動を取っており、その結果近隣諸国と摩擦を起こしています。これに対し日本をはじめ各国は国際法にしたがって対処し、東アジアの平和維持と安定のため粘り強く中国を説得し、事態の拡大を防止し、鎮静化を図ることが必要です。」

2014.06.28

張志軍国務院台湾事務弁公室主任の台湾訪問

中国の張志軍国務院台湾事務弁公室主任(閣僚)が6月25日から4日間、台湾を訪問し、台湾側のカウンターパート王郁琦行政院大陸委員会主任と会談した。ハードなスケジュールであったが、2009年の台風で大打撃を受けた高雄市の小林村を訪問し、被災者を慰問するなど両岸の友好関係増進に努めた。なかでも高雄市の陳菊市長(民進党)との会談は注目された。
しかし、台湾では民衆から敵意も見せつけられた。27日の聯合報は、26日夜、張志軍が2時間半にわたって10人の学者から意見を聞いたことを報道している。
淡江大学の王高成教授は、中国は中華民国が存在している事実を直視すべきである、もし中国が相変わらず「一つの中国」にこだわり、中華民国の身分(注 地位という意味か)問題に対応しなければ、また、「一つの中国」の原則からさらに進んで「両岸は一つの国に属する」というならば、台湾人民の「疑慮(原文通り)」を引き起こすだろうと発言した。
ある学者(氏名は表示せず)は台湾の国際組織への加盟問題に言及し、「私の娘は、台湾はなぜ国連に入れないのと言い、中国共産党を嫌悪している」と発言した。
これに対し張志軍は次のように答えたそうである。
「国家の地位(定位)、両岸の地位(身分)、国際空間などの問題は直ちに回答できず、大陸に持ち帰って検討したい」「台湾が、中華民国の地位(定位)、国際空間問題、軍事脅威問題などを含め中国との政治的協議を拒否しているために問題が未解決になっている。」

学者の娘の発言がどの程度台湾人全体の気持ちを表しているか、一般論としては取り上げることすらはばかられるが、中国が台湾の国際機関への加入を妨げていることはかねてから台湾人の間に広く共有されている認識であり(当然のことであるが)、張志軍は今回の訪問中にこれ以外にも同様のことを聞いた可能性がある。

2003年、中国で発生したSARSは台湾にも波及し、数十名(73人とも言われている)の死者を出した。その際、台湾が世界保健機関(WHO)に加盟していなかったために情報の伝達や対応が遅れたことが指摘され、台湾のWHO加盟運動が燃え上がり、6年後の2009年、ようやく台湾はWHOの会議にオブザーバーとして出席することとなった経緯がある。その際の台湾の表記は「Chinese Taipei(中華台北)」とすることで妥協が図られた。
2014.06.26

ブレアー提督の中国観

米国の前アジア太平洋軍司令官、デニス・ブレアー氏は、「中国はcontaining itself」と評している(加藤洋一名の記事『朝日新聞』6月26日付)。これを日本語に訳せば「自ら孤立を招いている」に近いが、ちょっと違う。containには「各国が中国を包囲して封じ込める」という意味合いがあるが、「自ら孤立を招く」には「封じ込める」という感じはないからである。ブレアー氏は、少し解説すれば、「中国は、各国が中国を封じ込めるように自らしている」ということである。中国封じ込めは第二次大戦後の米戦略の要点であった。少なくとも1970年代初頭の中国との和解までは米国の基本方針であった。これに中国は強く反発していたのは当然である。中国にとっては、「米国が日本や各国をけしかけて中国の封じ込めを図っている」からであった。
ブレアー氏はこの経緯を踏まえつつ、今は中国が米国に代わって「中国を封じ込めている」というわけである。その説明としてブレアー氏は、中国がアグレッシブであること、そのため中国以外の各国が連帯を強める結果となっていること、また、中国はただ自国だけの利益の確保に専念していることをあげている。現在の中国、海洋大国になることをひたすら求めている中国、東シナ海および南シナ海で「相手のものは自分のもの、自分のものは自分のもの」的な態度を取っている中国の特徴をよくとらえている。
また、ブレアー氏は「中国の拡張主義には限界upper limitがある」とも述べている。これも面白い評である。とくに中国は、軍事衝突を起こせば経済面で受ける損失が大きすぎて堪えられないからであるという指摘も正しい。
しかるに、そうであるならば、中国はなぜそこまで各国を刺激し、連帯を強めさせる前に自己抑制をしないのかという問いを発せずにはおられないが、そうなると中国軍の横暴、さらには現体制維持という共産党にとっての究極の問題にまで議論しなければならないかもしれない。

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