平和外交研究所

中国

2014.07.04

日中間の緊急連絡体制

THEPAGE(7月1日)に掲載された一文。

「最近、中国機が日本の自衛隊機に異常接近する事例が相次いで起こっています。また中国海軍艦艇による海上自衛隊の護衛艦に対する大胆な行動も起こっています。このようなことは日中間の問題にとどまらず、東アジアの平和と安全にとっても懸念すべき問題です。
日中両国は不測の事態が起きないよう努めなければなりません。また、発生してしまった場合には事件の拡大を防止し、迅速に鎮静化させることが必要です。このために両国間に緊急連絡体制、つまりホットラインを設置することが検討されています。
日中間では、事件もさることながら民間航空機事故、自然災害、環境などの面で協力しなければならないことが増えており、そのためにも緊急連絡体制の早期構築が望まれます。
日中両政府間では2007年、安倍首相と来日した温家宝中国首相との間で、中国国防部長の訪日や艦艇の相互訪問の早期実施、海上における両国間の連絡体制設置について議論していくことなどが合意されました。さらに、2011年7月の防衛次官級協議で緊急連絡体制を早期に構築することで意見が一致しました。その頃まで両国間の話し合いは順調だったのですが、翌年、尖閣諸島の関係などで日中関係が悪化し、連絡体制の設置についての話し合いも中断してしまいました。
21世紀の今日、国家間の戦争が起こる危険は少なくなっていますが、誤解により偶発的に紛争が起こる危険があります。緊急連絡体制は、事件が起こった場合に、相手国政府の意図を早く確認するのに役立ちます。また、事件の事後処理においてもおたがいに状況や処理方針を確認しあうことは重要です。
中断している日中間の協議を復活しなければなりません。日本側はいつでもこの協議を再開したい考えであり、たとえば2014年5月末にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)でも、小野寺防衛大臣は中国側の代表に対し早期設置に向けた協議の再開・促進を呼びかけました。また、安倍首相はこの会議で「危険な遭遇を歓迎しない。交わすべきは言葉です」と発言しました。
これに対し中国側は、今は話し合いを進める状況にないと言っていますが、関係のよくない時にこそ緊急連絡体制が必要であるというのが日本側の考えです。
 冷戦中に米軍とソ連軍との間で何回も起こった衝突や対立は、その後両国間に協定ができて状況は改善されたと言われています。これ以外の国でも偶発的に起こった事件の拡大を防ぐ手立てが講じられています。日本と中国との間でも、危険の発生を未然に防止し、事件が起きても拡大しないよう協議するメカニズムの構築が待たれます。」

2014.07.01

中国機の異常接近問題

THEPAGEに6月27日掲載されたもの。

「最近、中国のスホイ27型戦闘機が日本の自衛隊機に異常接近する事件が立て続けに発生しました。最初は5月24日、場所は東シナ海の日中中間線付近でした。中国機は自衛隊機から30~50メートルくらいの距離まで接近してきたので非常に危険な状態になりました。第2回目は、6月11日。場所は前回と同様東シナ海です。
日本側は、外交ルートを通じて中国側に対し、危険な行為について抗議するとともに不測の事態を回避するよう求めました。
 これに対し中国側は、中国機の方からではなく、日本の自衛隊機が接近してきたと主張しています。日本側では2回とも写真を撮っており、公表しました。中国側も第2回目の時は、現場で撮影したとする写真を公表しました。しかしながら静止写真でははたしてどちらから接近したか決め手にならないので、日本側では飛行中にビデオ撮影ができるよう準備を進めています。
中国機の異常接近の背景に、2013年11月、中国による「東シナ海防空識別区」の設定がありました。飛んでくる飛行機が無害であることを確かめるための識別圏設定は日本も含め国際的に広く行われていますが、中国が設定した識別圏はかなりの範囲にわたって日本の識別圏と重なっており、そうなると識別に混乱が生じ、また、民間の航空機に余計な負担をかける恐れがあります。しかも中国が設定した空域は,日本の領土である尖閣諸島の領空があたかも「中国の領空」であるかのごとき表示をしています。
日本政府は中国政府に強い懸念を表明し、その撤回を求めましたが、中国側は聞き入れない状態が続いていました。
艦艇同士の間でも問題が発生しています。2013年1月、同じ東シナ海海上で中国海軍の艦艇が海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に搭載の哨戒ヘリコプターに向け射撃用のレーダーを照射する事件が起こりました。これは実弾の発射ではありませんが、狙いをつけるのに等しい危険な行為です。中国国防部はそのような事実はないと否定していますが、中国艦の艦長が独断で行なった可能性があります。
これらの事件は悪化している日中関係を反映しているものと思われます。2012年9月、日本政府は不要な摩擦を避けるため尖閣諸島を国有化したのに対し、中国側がこれを不服として反発しました。前述した事件はすべてそれ以降に発生しています。
しかし、日本との間だけでなく、中国は他国に対しても強硬な行動を取っています。2001年には中国の戦闘機が米軍機に接触して墜落し、パイロットが死亡するという事件が起きました。米国の艦船が中国の官憲から妨害を受ける事件も起きています。
中国はフィリピンやベトナムとも南シナ海における島嶼の帰属と資源の開発をめぐって対立しており、ベトナムに対しては軍艦を派遣しています。
中国は、かつて帝国主義の侵略を受けて海洋への進出が遅れたという認識の下に、海洋大国になる国家戦略をたてています。これが根本的な問題であり、中国は東シナ海や南シナ海などで、国際法違反になるおそれを顧みず、領土主張を強め、また資源確保のために大胆な行動を取っており、その結果近隣諸国と摩擦を起こしています。これに対し日本をはじめ各国は国際法にしたがって対処し、東アジアの平和維持と安定のため粘り強く中国を説得し、事態の拡大を防止し、鎮静化を図ることが必要です。」

2014.06.28

張志軍国務院台湾事務弁公室主任の台湾訪問

中国の張志軍国務院台湾事務弁公室主任(閣僚)が6月25日から4日間、台湾を訪問し、台湾側のカウンターパート王郁琦行政院大陸委員会主任と会談した。ハードなスケジュールであったが、2009年の台風で大打撃を受けた高雄市の小林村を訪問し、被災者を慰問するなど両岸の友好関係増進に努めた。なかでも高雄市の陳菊市長(民進党)との会談は注目された。
しかし、台湾では民衆から敵意も見せつけられた。27日の聯合報は、26日夜、張志軍が2時間半にわたって10人の学者から意見を聞いたことを報道している。
淡江大学の王高成教授は、中国は中華民国が存在している事実を直視すべきである、もし中国が相変わらず「一つの中国」にこだわり、中華民国の身分(注 地位という意味か)問題に対応しなければ、また、「一つの中国」の原則からさらに進んで「両岸は一つの国に属する」というならば、台湾人民の「疑慮(原文通り)」を引き起こすだろうと発言した。
ある学者(氏名は表示せず)は台湾の国際組織への加盟問題に言及し、「私の娘は、台湾はなぜ国連に入れないのと言い、中国共産党を嫌悪している」と発言した。
これに対し張志軍は次のように答えたそうである。
「国家の地位(定位)、両岸の地位(身分)、国際空間などの問題は直ちに回答できず、大陸に持ち帰って検討したい」「台湾が、中華民国の地位(定位)、国際空間問題、軍事脅威問題などを含め中国との政治的協議を拒否しているために問題が未解決になっている。」

学者の娘の発言がどの程度台湾人全体の気持ちを表しているか、一般論としては取り上げることすらはばかられるが、中国が台湾の国際機関への加入を妨げていることはかねてから台湾人の間に広く共有されている認識であり(当然のことであるが)、張志軍は今回の訪問中にこれ以外にも同様のことを聞いた可能性がある。

2003年、中国で発生したSARSは台湾にも波及し、数十名(73人とも言われている)の死者を出した。その際、台湾が世界保健機関(WHO)に加盟していなかったために情報の伝達や対応が遅れたことが指摘され、台湾のWHO加盟運動が燃え上がり、6年後の2009年、ようやく台湾はWHOの会議にオブザーバーとして出席することとなった経緯がある。その際の台湾の表記は「Chinese Taipei(中華台北)」とすることで妥協が図られた。

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