平和外交研究所

中国

2015.02.16

中国による海上シルクロード

 中国は南シナ海からインド洋を経て欧州へ通じる「海上のシルクロード」を建設する構想を打ち上げている。貿易・輸送ルートの建設と、中継点として必要な拠点港湾の整備が主たる内容であり、この構想推進の中核となっている国家発展改革委員会の何立峰副主任は、2月11日、福建省泉州市で開催された「21世紀海上シルクロード国際シンポジウム」で「21世紀海上シルクロードの建設では、中国沿海の港湾から南中国海を経由してインド洋に至り、さらには欧州にまで延伸する輸送の大ルートと中国沿海の港湾から南中国海を経由して南太平洋などの方面に至る輸送の大ルートのスムースな運航に重点を置く。海上ターミナルとなる一連の港湾を共同で建設し、これを土台として、産業、エネルギー・資源、貿易・投資などさまざまな分野での協力を深いレベルで展開し、協力の中味を持続的に充実させていく」と説明している。
 この構想は2013年10月、習近平主席がASEANを訪問した際提案したものであり、内容はまだ固まっていない。そのことはシンポジウムを開いていることにも表れているが、政府の関係部門が検討を進めているところである。
 また、海上に限らず、このルートにつながる地域の経済発展を並行して進めようとする構想も打ち出されている。「一帯一路」と呼ばれており、「一路」が海上シルクロードであり、「一帯」がそれに関連する経済地域である。この構想はもちろん「海上シルクロード」と密接な関係があるが、当面は「一帯一路」と「海上シルクロード」を区別しておく必要があるようだ。前述のシンポジウムでは「海上シルクロード」が議論の対象であったが、次に説明する2月1日に北京で開催された国務院主催の会議では「一帯一路」構想が審議された。

 香港の『大公報』紙(2月2日付)は「一帯一路」会議について次のように報道している。
「 ○「一帯一路」のための指導小組が設置された。
  ○その代表者は張高麗政治局常務委員兼国務院副総理。
  ○「一帯一路」構想の設計者は王滬寧中央政策研究室主任。
  ○汪洋副総理は構想実現の主要責任者であり貿易および商務を担当。
  ○調整役は楊晶国務院秘書長。
  ○外交担当は楊潔篪国務委員。
  ○指導小組の弁公室は国務院の発展改革委員会内に置かれた。
  ○同弁公室の主任は発展改革委員会の何立鋒副主任。

 同会議で、「一帯」は順調であるが、「一路」については障害が生じていることが指摘された。中国と中央アジアおよび西アジアとの関係は順調に進展している。とくに中央アジアについては、ウクライナ問題のためロシアが深刻な経済困難に陥っている関係で中国と中央アジア5カ国との関係が進展している。アフガニスタンでは、中国は「戦果(斩获)」も得ている(注 欧米がアフガニスタンから撤退するのと入れ替えに中国とアフガニスタンとの関係が緊密化したことを指すものと思われる。カルザイ・アフガニスタン前大統領は数回訪中した)。
 しかし、海の方面では、多くの阻害要因が発生している。ギリシャでは中運集団による港湾拡張・私営化計画が新政府によって中止となった。これに先立ち、スリランカでは中国による港湾建設計画が白紙に戻された。さらにミャンマーなどでは中国による投資が妨害を受けている。」

「海上シルクロード」であれ「一帯一路」であれ、中国は非常に積極的に取り組んでおり、資金面では、「海上シルクロード銀行」を設立し、自ら400億ドル出資すると言っている。この銀行は政府出資だけでなく、民間の資本も受け入れる予定である。公的色彩を薄めるため、とも言われているが、要するに中国が中心となって各方面の資金をかき集めようとしているのである。
 中国がこのような構想を打ち上げたのは、海運においても、また国際金融においても米欧に牛耳られていることに不満だからであり、中国が影響力を存分に行使できる仕組みを作るのが理想なのであろう。それはわからないではないが、国家戦略としてそれを実現しようとしており、中国の海洋大国化戦略の一環である。
 経済的、技術的な問題にとどまらず、これらの構想を進めることにより中国の関係諸国に対する政治的な影響力が増大するのは間違いない。昨年11月23日付の台湾紙『旺報』(旺旺グループ 大陸関係の報道が比較的多い)が、「先のAPEC会議の際、中国は南シナ海で反中的姿勢を見せているフィリピンを「海上のシルクロード」構想から外す噂を流し、フィリピンを緊張させた。そのためフィリピンは南シナ海での反中的傾向を緩和するのではないかと見られている。また、フィリピンと同じく反中的傾向が強いベトナムも同様の圧力を受けている」と報道したのは象徴的である。
 これらの構想がどの程度実現していくか、これからは一層注意が必要である。
2015.02.10

中国の体制維持に関する消えない懸念

 日本にはないが中国にある、と言えばちょっと誇張になるかもしれないが、中国では現体制に関わる議論が盛んである。今年になってそのきっかけとなったのは、教育部長袁貴仁の、「教師は西側の価値観を教室に持ち込んではいけない」という発言であった。
 この発言について賛否両論が沸き起こった。袁貴仁の発言を批判する意見は、「硬直的に西側の価値観を排除することはあやまりである。共産主義ももともとは西側の価値観である」と指摘した。
 これに対する批判、つまり袁貴仁を擁護する意見は「自由派の学者や評論家は共産党の指導に対する姿勢に問題がある。折あらば批判しようとしている。思想工作が徹底していないからである」などと論じており、党の代弁機関である新華社、人民日報、環球時報などはこの趣旨の論評を相次いで流している。
 昨年には「普遍的価値」についての論争があった。ある人は「普遍的価値があるはず」と主張し、他の人は「それは西側の考えだ」と反論した。ほとんど同じ内容の論争である。
 袁貴仁の発言をめぐって生じた賛否両論は、「左」と「右」の対立にもなっている。何が「左」で何が「右」か、まともに定義しようとすると面倒なことになるが、米国に本拠を置く中国語の新聞『多維新聞』(人民日報など党の代弁機関とは一線を画している)は、「現在、ブルジョワ自由化の傾向は弱体化しておらず、「右」の勢力は強くなりつつある」「「左」の力は弱まる傾向にあるが、最近復活の兆しも見えている。2012年の薄熙来が一つの契機であった(注 同人は、汚職の問題はさておいて、下級階層を重視した、いわゆる「赤い歌を歌った」ので人気があった。失脚した後も同人のそのような姿勢を支持する声はやまなかった)。また、「烏有之郷」は左派の拠点となって議論を展開した。新華社、人民日報さらに『求是』雑誌などは中央の宣伝のマウスピースになり、自由派に対する攻撃を強めている」と論じている。
 社会科学院の朱継東は「左」の立場から、「教育部長を攻撃する教師や評論家を厳しく罰し、問題の釘を引き抜かなければならない。思想の領域に入り込み、平和的な革命(和平演変)を標榜する一切の言行に決然と攻撃を加えなければならない」と書いた。
 多維新聞が言う、「右」の意見が盛んであることを示すものが、天安門事件の見なおし、再評価を求める声が強くなっていることである。同事件の際、天安門を占拠した学生らは政府の求めに応じなかったので、政府は人民日報を通じて、事件は「動乱」であるとの見解を発表した。軍事力によるデモ隊の排除の前提となり、それを正当化する評価であった。しかし、政府のこのような判断については、行き過ぎであるという考えが事件の収束後もくすぶり続けており、最近自由派の人たちは、表立って天安門事件の際の政府の行動を批判することはできないが、行き過ぎを是正させるためさまざまな議論と展開している。政府はこのことについて常時神経をとがらせていると言っても過言でないだろう。
 西側の価値観に関する論争や、左右の対立は基本的には思想領域の問題であるが、議論はそこで終わることなく「平和的な革命」、つまり、共産党の支配体制を覆す政治的問題にまで及ぶことが少なくない。天安門事件の際、鄧小平が欧米諸国は「平和的な革命」を狙っていると述べて反発したが、それから25年もたち、中国は世界第2の経済大国になったのにそのような猜疑心は消えないのである。
 「平和的革命」は、米欧諸国が認めたことはなく、中国側が一方的に思っているだけである。しかし、中国がそのように解釈したくなることは分からないでもない。
 最近、米国で、’The Twilight of China’s Communist Party(中国共産党のたそがれ)’と題する論文が発表された。米国でもっと経験豊かな中国ウォッチャーが、“I can’t give you a date when it will fall, but China’s Communist Party has entered its endgame.”と著者のMichael Auslinに述べたというものである。この論文の内容にどれほどの信頼性があるか。米国のウォールストリート・ジャーナルやワシントン・ポストは報道したが、日本の新聞は報道していないようである。あるいは報道していても、目立つような記事ではなかったように思われる。
 どちらの報道姿勢がよいかはともかくとして、中国共産党は、やはり欧米には「平和的革命」の考えが根強く存在すると思った可能性がある。
2015.02.05

ロシアにおける中国人労働者

最近、ロシア極東地域で住民に土地を無償で与えるという提案が行われた。プーチン大統領は原則賛成らしい。かなり特殊な提案であるが、ロシアと中国の両方にまたがる問題が背景にある。

富山大学極東地域研究センターの堀江典生教授は、「ロシア極東地域は中国からの経済圧力と人口圧力を脅威とする中国脅威論が盛んに議論されてきた地域である。ロシア極東地域の農地活用において中国との協力に期待を寄せつつも、いざ中国からの投資を呼び込もうとするとある種のブレーキがかかる文脈がこの地域にはある」と指摘している。どのようなブレーキかについては、「ロシア極東地域側の受け止め方は複雑である。中国企業のアムール州進出では化学肥料・農薬の大量投入により農地が傷んだり、アムール州の農業企業で雇われる中国人労働者が不法移民であったりすることが、頻繁にロシアで報道されている。」そして、「アムール州では、農業労働力を外国人労働力、特に中国人労働力に依存していると言われているなか、2013年に中国人農業労働者への外国人労働許可割当をゼロとする思い切った方針を打ち出した。アムール州は、太平洋への出口として良好な港をもつ沿海地方やハバロフスク地方とは異なり、中国にしか国際的な出口がない。それゆえ、中国国境地域と本来強い補完性を労働力においても貿易においてももつアムール州のこうした動きは、進展するロシア極東地域開発において、新たな中国脅威論の火種となる可能性をもつ。ただし、こうした中国人農業労働者の動向を伝える報道は、しっかりとした根拠に基づいたものばかりとは限らず、農業部門に限った中国人農業労働者の就労実態について学術的な分析はまだまだ限られている。」と述べている。
(堀江教授の論文「アムール州にみるロシア極東農業と外国人労働者問題」から抜粋)

 香港の鳳凰台(フェーニックスTV)や米国に本拠を置く多維新聞(それぞれ1月27日、28日)は土地の無償提供のニュースに敏感に反応して、要旨次のように報道した。
○極東地域の土地を無償で提供するという提案は、極東連邦区のトゥルトゥネフ代表によって行われた。この地域の労働力は激しい減少傾向にあるからである。対象となるのはロシア人である。使途に制限はなく、農業、林業、狩猟場あるいはリゾートなど何でもよい。提供される土地の広さは1人につき1ヘクタールである。
○中国人でも極東地域に10年以上居住している者は土地を得る資格がある。10年に満たなければ、土地をロシア人から賃借することができるであろうから、この提案は中国人労働者にとって大きな意味がある。
○極東地域に居住する中国人の数は20万人を超える。さらに多数の中国人労働者がロシア領内に来る可能性がある。2013年、国境を越えてロシアに入境した中国人の数は68・9万人であった。そのうち居住許可を得たのはわずかに1240人であり、この他、8・2万人が労働許可を得た。したがって、入境した中国人の88%は違法移民であったことも問題である。
○中国の国家開発銀行はこの地でのインフラ建設などのために50億米ドルを投資する予定である。
○このような状況からロシアでは警戒心が強まり、現在大議論になっている。土地を得たロシア人が将来中国人に売却する可能性もあり、将来中国人によって主権を奪われる結果になると心配する者もいる。
○しかし、極東地域は中国人労働力に依存せざるをえない。日本や韓国の企業も参入しているが、それだけでは足りない。2012年5月にも、ロシアの経済発展部門は極東沿海地域の数百万ヘクタールの土地を中国人に長期賃貸し、農業の市場化に役立てる方針を発表した経緯がある。

中国に膨大な労働力があることは、かつては必ずしも利点でなかったが、今や中国の力の源泉になっている。そのことが顕著に表れるのがロシアの極東地域である。ロシアの力が弱まっていると即断することはできないが、石油価格の下落やウクライナ問題に加えこのような極東地域の状況を見ていると、「勢いのある中国」と「受け身のロシア」というコントラストになっていると思われてならない。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.